政治学各論

【三権分立とは】権力はいかに独立し監視しあっているのかわかりやすく解説

三権分立とは

三権分立とは、権力が単一の機関に集中することを避けるために、国の権力を「立法権」「行政権」「司法権」に分散させることです。

現在の日本では、三権分立のシステムが当たり前のように機能しています。しかし、三権分立は、18世紀の哲学者モンテスキューが20年の歳月を要して考えついた、国家権力の濫用を妨げ、国民の権利と自由を保障する画期的な方法です。

また、昨今は政権が三権分立を侵害している、という議論もありますが、誤った主張も多く見られるため、まずは基本的な事実から理解することが大事です。

この記事では、

  • 三権分立のシステム
  • 三権分立の国による違い
  • 三権分立誕生、導入の経緯

について詳しく説明します。

気になる点だけでも構いませんので、ぜひ読んでみてください。

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1章:三権分立とは

1章では、三権分立を初学者にわかりやすく概観したいと思います。

1-1: 三権分立の意味

繰り返しになりますが、三権分立とは、

権力が単一の機関に集中することを避けるために、国の権力を「立法権」「行政権」「司法権」に分散させること

です。

そもそも、権力を分散させるのは特定の人物や政党によって、国家権力が独占されないようにするためです。権力を分散させ、それぞれが監視しあい、いずれかの権力が強くなりすぎることを防ぐ仕組みになっているのです。

民主主義と三権分立引用:首相官邸きっず

三権分立という仕組みができる前の社会では、国家の王(君主)がすべての権力を握り、自由に国民から税を取ったり、税を自分の使いたいように使ったり、勝手に戦争を始めたりすることができました。

こうした王(君主)らに対し、「それじゃあ国民に自由がないじゃないか。国家は国民のもので、国家は国民の意思で動かせるようにしなければならない。」という思想から、国民の権利を守るために三権分立という仕組みが生まれたのです。

後に詳しく解説しますが、国家を動かす権力には、

  • ルール(法律)を作る権力=立法権力
  • 作られたルール(法律)をもとに、具体的な運用を行う権力=行政権力
  • 作られたルール(法律)がより上位のルール(憲法)に違反していないか、他の権力(立法権・行政権)や国民がルール違反していないか、等を判断し裁く権力=司法権力

の3つがあり、それぞれに対応した機関が存在します。

日本の場合は、上図に示される通り、立法機関は国会、行政機関は内閣、司法機関は裁判所のことを指します。

以下では、日本の場合の3つの権力についてもう少し詳しく解説していきます。

三権分立と言うと、3つの権力に目が行きがちですが、三権分立のシステムの中で最も大きな役割を果たしているのは「国民」です。

国民はまず、選挙によって国会議員を選ぶことができ、世論の影響力によっては内閣を動かすこともできます。

さらには、国民は最高裁判所の裁判官を国民審査によって監視することができます。いずれの三機関にも国民のチェックが行き届く構造になっており、これによって国民の自由な生活を保障できるようになっているのです。

1-2:三権分立を構成する立法・行政・司法の機関とは

三権分立の基本的な考え方を説明しましたので、次に三権分立を構成する3つの国家機関について、日本の場合で詳しく説明します。

これらの機関が権力抑制・監視しあう具体的な仕組みを知りたい場合は、2章をお読みください。

1-2-1: 立法権(国会)

まず、一つ目の立法権を持つ機関は「国会」です。

簡潔にいえば、国会とは、

  • 日本国憲法で唯一の立法機関、すなわち国のルール(=法律)を作ることができる機関
  • 国家予算を編成できる
  • 国の予算を決める、外国との間に結ばれた条約の承認を行うなど役割をもつ
  • 行政権のトップである、「内閣総理大臣」を任命することができる(議院内閣制の場合)

というものです。

日本の国会は衆議院と参議院の二つで構成されており、立法権の長は衆議院議長と参議院議長とされています。

■国会は国のルールを作ることができる

特に重要な点は、国会が唯一の立法機関、つまりルールを作ることができる機関であるということです。そのため、もし国会を監視したり、国会の行動を抑制する機関がなければ、国のルールを自由に作り、操ることができるということになります。

つまり、国会は非常に大きな権力を持っているのです。

■国会は内閣総理大臣を任命できる(議院内閣制の場合)

また、議院内閣制の国では、国会は「内閣総理大臣を任命できる」という点も重要です(日本は議院内閣制です)。

この後に説明するように、内閣とは具体的な行政サービスを提供することができる、中央官庁(厚生労働省、農林水産省などの省庁)のトップに立ちます。国会は、この行政権のトップである総理大臣を任命できるのですから、行政権力にもある程度の影響力を持つのです。

「それじゃあ国会の力って強すぎないかな?」

と思われたかもしれません。なぜ国会にこれほど強い力があるのでしょうか?

それは、国会は国民が選挙で選んだ国会議員によって成立しているからです。つまり、国会が内閣総理大臣を任命できるのは、国民の声を(間接的に)行政権のトップ選びに反映させるためなのです。

国民を代表するという国会の性質から、国会は「国権の最高機関」と憲法に書かれています。

※ただし大統領制の場合は、国会が大統領(行政権のトップ)を選ぶことはできません。詳しくは3章で説明します。

1-2-2: 行政権(内閣)

行政権を持つ機関が「内閣」です。

内閣は、

  • 国会で選ばれた内閣総理大臣と内閣総理大臣に任命された15,6名ほどからなる国務大臣で構成されている
  • 政策を進めることで、国民に対して行政サービスを提供することができる機関

です。

具体的には、下記の流れで具体的な政策が運用され、行政サービスが国民に提供されることになります。

  • 内閣の会議「閣議」で政策の方針が決定
  • 国務大臣(「厚生労働大臣」のような各機関のトップ)が、自分の省庁に指示を出す
  • 省庁が細かい調整、政策の実施、行政サービスの提供を行う

行政サービスと言うと漠然としていますが、例として道路工事を考えてみてください。

  • 国道の工事は国土交通省が受け持っており、そのトップは国土交通大臣である
  • 閣議で交通インフラの方針が話し合われ、国土交通大臣が国土交通省に指示し、国土交通省が具体的な交通インフラ作りの政策を実施する

他にも警察による治安維持、国民年金や国民健康保険・介護保険制度、自衛隊による防衛、義務教育制度等、自覚はなくてもさまざまな行政サービスを、私たちは享受しているのです。

内閣はこのようなサービスに加えて、国会が制定した法律の執行、諸外国との外交、公務員の取りまとめといった役割があります。その際、内閣を取り仕切るのは国家元首である首相ですので、行政権の長は内閣総理大臣(首相)とされています。

2020年5月、ネット上で、三権分立における「行政」の役割について、首相官邸ウェブサイトに掲載されていた図が通常のものと異なるという批判が巻き起こりました。

首相官邸の三権分立の図首相官邸「内閣制度の概要」の図

(首相官邸「内閣制度の概要」最終閲覧日2020年5月12日)

批判されたのは、内閣→国民という矢印に「行政」と書かれている点であり、通常の図では「国民→内閣」の矢印に「世論」と書かれることが多いことから、このように批判されたのでした。

しかし、好意的に解釈すれば、内閣から国民へ「行政サービスを提供する」という矢印であるとも言えます(これも内閣の役割だからです)。

また、バズフィードジャパンの取材(5月11日配信)によると、こちらの図は1998年から掲載されており、

  • 行政サービスを提供するという意味
  • そもそも政府としての公式の図はない

ということのようです1参考:Yahoo!ニュース「首相官邸サイトで三権分立の矢印、なぜ「内閣」→「国民」?内閣官房に聞いてみた」最終閲覧日2020年5月12日

■国民は世論を通じて行政権に影響を及ぼす

「税金を払っているのだから、国民の声をしっかり行政サービスに反映してほしい」というのは誰もが思っていることだと思います。

内閣は、国民の声を代表する国会によって選ばれた内閣総理大臣が、国務大臣を任命して組閣するものです。そのため、間接的に国民の声が反映される仕組みにはなっています。

「それは建前で、実際には大臣たちが都合の良いように政策を指示してるんだろう?」と不信感を持つ方も多いかもしれません。

確かにその可能性もあるのですが、最初の図にも書かれていたように、内閣に対して国民は世論という形で意見を表明し、政策に反映させることが可能です。

最近では、新型コロナウイルスによる経済的ダメージが深刻であったため、中小企業や個人事業主に対する「持続化給付金」や、すべての人に10万円を支給する「特別定額給付金」のような制度ができました。これは、世論が政策に反映された好例です。

また、大臣たちが利権と絡んで恣意的に政策を行えば、総理大臣は次の選挙で選ばれなくなるリスクもあります。そのため、国民の声を完全に無視して政策ができるわけでもないのです。

とはいえ、それでも内閣が恣意的に政策を実施し、国民の権利を侵害するリスクはあります。

そのため、次に解説する司法権=裁判所が存在するのです。

報道や一般的な議論の中で、よく「政府」が批判されます。この「政府」には広義の意味と狭義の意味があるため、注意が必要です。

  • 広義:立法、行政、司法の3つを合わせた国家権力のすべて
  • 狭義:行政権力(中央官庁(厚生労働省、農林水産省などの省庁)とその上に立つ内閣)

報道やネット上の議論の中等では混同して使われることもありますので、注意して区別しましょう。

1-2-3:  司法権(裁判所)

三つ目の司法権を持つ機関は「裁判所」です。裁判所は、法律違反を裁くことができる機関です。司法権の長は、裁判所の頂点である最高裁判所の長官とされています。

三権分立において、この司法権が独立していることは非常に重要です。なぜならば、

  • 裁判官が法と道徳的感情に従って、法律違反を裁くことが、近代立憲国家の根幹をなすものである
  • そのため、いかなる権力、いかなる人物、いかなる政治的集団からも司法権は干渉を受けてはならない

とされているからです。

近代以前の多くの王政国家や、現在も存在する一部の独裁国家の多くに共通する点として、司法権が独立していないことが挙げられます(たとえば、絶対王政という政治形態)。建前上は三権分立して機関が設立されていても、たとえば北朝鮮にまっとうな司法機関があるとは言えないでしょう。

日本には、最高裁判所を頂点とし、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所があります。裁判の判決に納得がいかない場合は、上級の裁判所に訴えることができます。こうして同じ事件に関して最高三回まで不服申立ができる制度を「三審制」と言います。

また平成21年に始まった裁判員制度により、刑事事件の裁判には国民が参加できるようになり、司法権の存在が我々国民にとってますます身近になりました。

■裁判所は国家権力を監視している

詳しくは2章で説明しますが、裁判所は、

  • ルール(法律)を作る国会(立法権)に対し、憲法に違反していないか審査する
  • 内閣(行政権)が憲法に違反したことをしていないか審査する

という仕組みも持っています。

ここまで説明してきたように、国会、内閣はそれぞれ強い権力を持つため、それらが間違ったことをしないように、この2つの権力から独立して、監視する権力を持っているわけです。



1-2-4:三権分立における「検察」の位置と役割

さて、ここで「検察」の立ち位置、役割についても整理したいと思います。

「検察」とは、刑事事件を起こした人を捜査し、起訴・不起訴の処分をする国家機関です。起訴・不起訴とはつまり「裁判にするかどうか決める」ということで、その判断ができる唯一の機関が検察庁なのです。

したがって、検察は裁判所と同じく、他の権力からは独立していなければなりません。なぜなら、たとえば独裁的な首相が検察とつながりを持ち、

  • 自分を起訴させないようにする→どのような犯罪行為も罪に問われなくなってしまう
  • 気に入らない人に罪をかぶせる→言うことを聞かない人を排除できる

といったことが可能になってしまうからです。

また、誤解されがちですが、検察庁という機関は、「庁」が付くことから分かる通り、中央官庁の一つであり行政権の一部ということになります。検察庁が治安維持という行政サービスを提供していることからも、検察庁が行政権の一部であることが分かると思います。

ただし、実際の機能としては、検察庁は司法の中核的な役割を担うものです。つまり、検察庁は行政権と司法権の両方の権力の一部である、という特徴があります。

したがって、たとえば検察庁が行政権の一部だからと言って、内閣が自由に人事に介入できればそれは問題であり、検察庁は内閣からも独立した立場がなければならないのです。

2020年5月、検察庁法の改正案により

  • 検察官の定年引上げ
  • 役職定年の導入
  • 内閣や法務大臣によって、定年後の勤務延長が可能になる

といった法改正案が問題になりました。

検察庁法の改正により「政権が検察の人事に介入している」「三権分立が揺らぐ」とも主張されました(例えば日弁連が5月11日に発表した声明)。しかし、この議論には、整理する必要を感じましたので、詳しくは3章で解説します。

3つの国家機関の役割について理解できたでしょうか。次に、この3つの機関がどのように権力を抑制・監視しあい、緊張関係を保っているのか解説します。

1章のまとめ
  • 三権分立とは、立法権、行政権、司法権がそれぞれ独立して抑制しあう仕組み
  • 日本の場合、立法権=国会、行政権=内閣、司法権=裁判所
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2章: 三権分立の権力抑制・監視の仕組み

さて、上述したように、三権分立のシステムはお互いが正しい役目を果たしているかチェックできる仕組みです。それでは、それが実際にどのように機能しているのか、日本を例に具体的にみていきましょう。

2-1: 内閣に対する権力抑制・監視の仕組み

まずは、内閣(行政権)に対する、権力抑制・監視の仕組みを見てみましょう。

内閣は国会、裁判所から権力抑制・監視されるため、まずは国会によるものから説明します。

2-1-1:国会→内閣の監視・抑制

国会はまず、内閣総理大臣を指名することができます。これは国会議員の多数決で決まるので、一番国会議員の数が多い政党の党首が総理に指名されることになります。

このように、国会は内閣総理大臣を指名できる、つまり行政のトップも国会の決定で決められるのですが、内閣の行政に対して不満がある場合は、内閣に対して内閣不信任案の決議、国政調査権の行使をすることができます。

  • 内閣不信任案・・・内閣の退陣を求めるもの
  • 国政調査権・・・内閣の行政の透明性を求めること

内閣不信任案とは、国会が内閣に対して「内閣に政治を任せられない」という場合に、内閣に退陣(総辞職)を求めるものです。内閣不信任案が可決されれば、内閣は総辞職するか、もしくは「いや、自分たちは悪くないはず」と衆議院を解散させるか、というどちらかの選択肢を取ることができます。

国政調査権とは、国政について何らかの不信がある場合に、国会が調査し、

  • 証人の出頭、証言
  • 記録の提出

を要求できる権利のことです。

このように、国会は内閣に対して監視する役割と力を持っているのです。

2-1-2:裁判所→内閣の監視・抑制

裁判所は国会に対する監視と同様に、内閣の行政、内閣の出す政令が違憲(憲法に違反)ではないか、違法(法律ではないか)を審査する権利を持ちます。

そもそも、法律を作るのは国会ですが、法律はあくまでルールの体系ですので、具体的な政策を行う上では「政令」を作らなければなりません。「政令」とは、内閣が各省庁に対して出す命令のことで、これがなければ具体的な政策を行えません。

この政令もルールである以上、より上位のルールである憲法や法律との整合性がなければなりません。

そのため、こうした具体的な政策レベルでも法律や憲法に違反がないか、裁判所がチェックする仕組みがあるのです。

また行政事件裁判権といって、個人間の争いではなく、行政が訴えた、または行政側が訴えられた裁判を裁く権利を持ちます。

2-2: 国会に対する権力抑制・監視の仕組み

それでは次に、国会に対する内閣と裁判所による権力抑制・監視の仕組みを、まずは内閣によるものから説明します。

2-2-1:内閣→国会の監視・抑制

内閣は国会に対して「内閣が衆議院を解散できる(解散権)」という仕組みを持っています。

衆議院の解散とは

そもそも、衆議院議員には4年の任期があり、解散されなければ4年間で任期満了し再び選挙で議員が選ばれることになります。そして、衆議院が解散されるというのは、任期満了前に衆議院議員が議員ではなくなる、ということです(※そして、実際には任期満了を待たずに内閣によって解散されることが非常に多いです)。

内閣によって衆議院が解散されるのは、

  1. 内閣が必要だと思ったとき(7条解散)
  2. 内閣不信任決議案が可決された時(69条解散)

の2パターンがあります。

①は、与野党が激しく対立し法案が通せない場合に、衆議院を解散し、総選挙を行うことで国民の意思を改めて問うために行われます。つまり、特定の法案(たとえば郵政民営化)が国会で可決できない。しかし、内閣はこれを通したいし国民の支持も得られる自信がある。このような場合に、解散総選挙を行って国民の意思を問うわけです。

当然、賛成する国民が多ければ、与党が議席を多数獲得し、法案を通せるようになります。

内閣不信任決議案が可決された時の解散とは

しかしながら、内閣の国会に対する監視機能として重要なのは、②の内閣不信任決議案が可決された時に行われる解散です。

内閣不信任決議案とは、

  • 「内閣には政治を任せられない」と考えた、主に野党によって提出される議案
  • この議案が国会で可決されると、内閣は10日以内に衆議院を解散するか、総辞職しなければならない

というものです(もちろん、国会で否決されれば解散(もしくは総辞職)する必要はありません)。

つまり、内閣不信任決議案が可決された時、内閣は「衆議院の解散」or「内閣の総辞職」の選択肢があるのですが、内閣がおとなしく総辞職を選ぶこともあれば、「いや自分たちは間違っていない」と衆議院を解散し、総選挙をすることができるのです。

前述のように、解散総選挙をすればあらためて国民の声を問うことができるため、国民によって政権がジャッジされるということです。

しかし、内閣の支持率が低迷していた場合、与党が選挙で大敗し、内閣が退陣を余儀なくされる時もあります。

2-2-2:裁判所→国会の監視・抑制

裁判所は立法権を持つ国会に対して違憲立法審査権を行使することができます。

違憲立法審査権とは、国会が作った法律がより上位のルールである日本国憲法と照らし合わせて、国会が制定した法律が憲法に違反していないかを調査する権利のことです。

繰り返しになりますが、国会は国家のルール(法律)を作る機関です。そのため、もしも国民の権利を侵害するような法律を作ったり、特定の人・組織を利するような法律を作ることができたら、国民からすればとんでもないことですよね。

裁判所は内閣の行政や法令についても、違法性・違憲性をチェックすることを前述しましたが、国会の作る法律に対しても違憲性をチェックする機能を持っているわけです。

違憲立法審査権が行使され、実際に法律が憲法違反であるとされた「違憲判決」は、最高裁の70年の歴史の中でわずか10と少ないですが、うち5つは2000年代以降であり、それ以前よりも積極的にこの権利が活用されているとも言えます。

近年、「違憲判決」となったものには、「非嫡出子の国籍取得制限規定(2008年)」「非嫡出子の法定相続分規定(2013年)」「女性の再婚禁止期間規定(2015年)」等があります。いずれも、その後新法の成立や法改正が行われました。

2-3: 裁判所に対する権力抑制・監視の仕組み

次に、裁判所に対する国会、内閣による権力抑制・監視の仕組みを、まずは国会によるものから説明します。

2-3-1:国会→裁判所の監視・抑制

国会は、裁判官弾劾裁判所(国会議員が裁く裁判)を設置し

  • 法曹として不適切な行動、言動を行った裁判官を罷免させる(辞めさせる)
  • 辞めさせた裁判官の失った資格を、回復させるかどうかを判断する

という力を持っています。

弾劾裁判所は、衆議院・参議院の合計14名の議員によって構成されており、国会が裁判所に対して一定の力を持つことが分かります。

もし裁判官を辞めさせる仕組みが裁判所内にあれば、公平な判決が期待できず、適切な浄化作用が機能しません。したがって、裁判所の外部である国会が、弾劾裁判によって裁判官を辞めさせる力を持っているのです。

2-3-2:内閣→裁判所の監視・抑制

内閣も裁判所に対して一定の権力を行使する仕組みを持っています。

それが最高裁判所長官の指名、その他の裁判官(最高裁判所の判事(長官に次ぐ地位)14名)の任命をすることができる、という権利です。最高裁判所長官は裁判所のトップのことです。

内閣は最高裁判所長官を「指名」し、天皇が「任命」します。内閣が「任命」できるのは最高裁判所長官以外の裁判官です。

「内閣が最高裁判所長官を指名できるって、大きな力を持ちすぎじゃないの?」

と思われるかもしれませんが、裁判所は内閣に対して行政や法令を審査する力を持っており、権力を均衡させるためにも内閣にこのような力が与えられているのです。

また、逆に言えば、裁判所は内閣による裁判官の指名、任命や国会による弾劾等以外には、影響が及ぼされません。それは、裁判所が司法権として他の権力から独立的でなければならないからです。



2章のまとめ
  • 内閣に対する抑制・監視:国会による内閣不信任案、国政調査権、裁判所による政令の審査
  • 国会に対する抑制・監視:内閣による衆議院の解散権、裁判所の違憲立法審査権
  • 裁判所に対する抑制・監視:国会による裁判官の罷免、内閣による最高裁判所長官の指名
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3章:検察庁法改正案は三権分立を揺るがすのか

すでに多くの解説記事がありますので、ここでは要点のみをまとめたいと思います。

そもそも、検察庁法改正案の問題(2020年5月12日現在)とは、

  • 検察官の定年引上げ
  • 役職定年の導入
  • 内閣や法務大臣によって、定年後の勤務延長が可能になる

という法改正案をめぐる議論です。これが「政府が検察庁の人事に介入できる」もっと過激に言えば「政府が悪いことをしても、検察をコントロールできる」というものとして、厳しく追及されています。

また、親安倍政権(と見られている)の黒川検事長の定年が延長されるものであり、安倍政権が後ろ暗いものを抱えているために、検察を影響化に置くためにこのような法改正がなされている、というような主張も見受けられました。

そこで、この法改正案を事実から整理すると、以下のようになります。

3-1:検察庁法の改正は安倍政権が無理やり進めているのか

実は今回の検察庁法の改正は、国家公務員法の改正という全体から捉えなければなりません。2008年から国家公務員法を改正して、公務員も民間企業のように定年を引き上げ(60歳→65歳)ましょう、という議論が始まりました。

そして、検察官には検察官の法律(検察庁法)があり、検察官も国家公務員の一部ですから、同じように定年を延長するために、検察庁法を改正する必要がありました。こうして議論され、形になり、ようやく調整がついて出てきたのが昨今話題の検察庁法改正法案であるということです。

したがって、法改正については安倍政権が無理やり進めているのではなく、長い時間をかけて進められてきたものと捉えた方が良いでしょう。

ただし、日弁連等が批判しているのは「内閣や法務大臣が認めれば、役職定年や定年を超えて、最長3年まで定年が延長できる」という点です。内閣の判断で検察官の定年を延長できるのであれば、今後恣意的な人事が行われないとは言えないことから、下記のように批判されています。

「内閣ないし法務大臣の裁量により役職延長や勤務延長が行われることにより、不偏不党を貫いた職務遂行が求められる検察の独立性が侵害されることを強く危惧する。」

(参考:日弁連「改めて検察庁法の一部改正に反対する会長声明」(最終閲覧日2020年5月12日)

(2020年5月12日追記)

3-2:黒川検事長の勤務延長について

黒川氏の勤務延長はすでに閣議決定済み(2020年1月31日)のため、法改正と関係なく勤務延長が決まっています。

ただし、国家公務員は勤務延長が可能(条件付き)なのですが、検察官にはこれが適用されないと答弁(1981年)されており、それを解釈変更して適用した点が問題として指摘されています。

3-3:安倍政権は黒川氏を検事総長にしようとしている?

黒川検事長は2020年1月の閣議決定で、半年間の勤務延長が決定されました。黒川氏は現在63歳ですでに定年となっているのですが、2020年8月まで定年が延長されたのです。

まず前提を整理します。

  • 検事長の定年は63歳、検事総長の定年は65歳
  • 黒川氏は勤務延長によって2020年8月が定年となる
  • 現在の検事総長稲田氏は、2021年8月で65歳となる(定年)が、検事総長は2年で退官する慣例があるため、2020年7月に退官する可能性がある

ここまでの事実から分かるように、黒川氏は本来の定年(2020年2月)で退官していれば検事総長になることはできなかったのですが、勤務延長によって、稲田氏が慣例通りに退官すれば、検事総長になる道が開けたのです。

これが、野党やメディアによって「黒川氏を検事総長(検事長の上の立場)にするための安倍政権の介入である」と批判されたのでした。

しかし、以下の点は押さえておくべきです。

  • 黒川氏の勤務延長はゴーン事件等との兼ね合いがあったという説明もある(2020年2月3日森法相)
  • 黒川氏が検事総長になれるかどうかは、稲田氏が慣例通りに退官するかどうかに左右される
  • 検察庁法の改正が実現すると、その施行は令和4年(2022年)の4月1日であるため、黒川氏が検事総長になれるかどうかとは関係がない

特に検察庁法の改正と黒川氏の問題は、切り分けて把握することが大事です。

3-4:三権分立は揺らいでしまうのか

前述の通り、検察庁は行政権の一部ですが、司法の中核的機能を担うため、内閣が検察の人事を自由にできるなら問題です。今回の問題で言えば、検察官には適用されないはずの勤務延長を内閣が解釈変更して適用した、という点は確かに三権分立との関わりで問題です。

このように、問題はあるもののメディアやネット上の議論にはさまざまな誤解が含まれていることも分かります。

今回の問題について言えば、やや複雑な問題であるため、事実を理解してその上で批判すべき点は批判する、という慎重さも大事です。

3章のまとめ
  • 検察庁法改正案は、国家公務員法改正(定年延長のため)に付属するもの
  • 黒川氏の勤務延長はすでに決まっているが、検察庁法改正とは別問題

4章: 日本とアメリカの三権分立の違い

次に、日本とアメリカを例にとって、三権分立システム運用が国によってどう異なるのかを解説します。

4-1: 日本の議院内閣制

結論からいえば、日本の場合は議院内閣制を採用しているので、行政の長である内閣総理大臣は国会議員の中から選ばれ、国会議員としての資格を有します。さらに内閣を構成する国務大臣の大半は国会議員から選ばれます。(→議員内閣制に関してはこちら

つまり、議院内閣制においては三権分立とは言っても、立法府と行政府が完全に分かれているとはいえないのです。

4-2: アメリカの大統領制

一方、アメリカは日本の議院内閣制とは異なり、大統領制が採用されています。(アメリカの立法権は連邦議会、行政権は大統領府、司法権は連邦裁判所にある)

アメリカでは、ニュースでもよく報道されている通り、国民の投票によって大統領を選出します。すなわち連邦議会の議員が必ずしも大統領になることはありません。また、議会の議員を選ぶ連邦議会選挙と大統領選挙は全く別物です。

つまり、大統領制においては、立法府と行政府が完全に分けられているといえます。(→大統領制に関してはこちら

例として、現職のトランプ大統領が挙げられます。彼は連邦議会議員や政府の職員といった経験もないまま大統領になりました。そのほか、大統領制においては議会が任期中の大統領を解任できません。内閣不信任案決議ができる議院内閣制との大きな違いといえます。

4章のまとめ
  • 日本では議院内閣制が、アメリカでは大統領制が採用されている
  • 議院内閣制の場合、行政府と立法府は完全に独立しているとは言えない

5章:三権分立の学術的議論

さて、5章では三権分立という考え方がどのように生まれたのかを、学術的に解説していきます。

5-1: 三権分立に繋がる思想の成立

そもそも、三権分立という考え方は、

フランスの哲学者モンテスキューが著作『法の精神』の中で提唱した概念

です。

当時、フランスは絶対王政が敷かれていて、全て国家の政治は国王の意のままでした。

その中でモンテスキューは隣の国イギリスで導入されている二院制議会(王権を制限し、議会中心の政治)を模範とし、三権分立の考え方を提唱し、間接的にフランス王政を批判したのです。イギリスでの権力分立は、哲学者ロックが考えたものです。

つまり、モンテスキューよりも先にすでにイギリスの哲学者ロックが権力分立の考え方を説いていました。では一体、なぜ三権分立はモンテスキューの考え方とされているのでしょうか?それには、以下のような理由があったからです。

  • ロックの考え方は、立法権(議会)>行政権(国王)という姿勢をとっていた
  • すなわち議会が最高権力をもつとし、議会が行政より優位であると位置付けていた
  • また、司法権は独立したものと位置付けていなかった

しかし、モンテスキューの考え方は、立法権=行政権=司法権でした。つまり、三権に優劣なく、相互に監視する役割を与えたのです。また、立法府や行政府は恣意的な判断をするという恐れから、法による政治的自由を確立するために司法権を独立させました。

こうした考えはロックの権力分立論より普遍的であるとされたため、後世に広く受け入れられていきました。



5-2: 日本における導入の経緯

日本において、三権分立が導入されたのは明治時代の大日本帝国憲法が施行された時でした。この憲法は、日本が近代国家として欧米に遅れを取らないように、ドイツの憲法を参考にし、伊藤博文を中心として起草されたものです。

しかし、大日本帝国憲法では、

  • 全ての統治権を持つ天皇に三権が集中する形が取られたため、天皇を補佐する内閣(行政権)が強い権力を握り、立法や司法の権力が抑制されていた
  • 結果的に、軍部が内閣の座につくと、軍部の暴走を許してしまい悲惨な戦争を起こしてしまった

という歴史を生み出すことになります。

そこで、敗戦後に作られた日本国憲法では、三権の平等を図ることで、三権が相互を抑制できるようにしました。具体的には、以下のような変化がありました。

  • 天皇はあくまで国民の象徴とされた(→天皇制象徴天皇制に関してはこちら)
  • 憲法で国会は国権の最高機関と明記された
  • 内閣には衆議院の解散権が認められた
  • 裁判所には国会や内閣が憲法に違反してないか監視する違憲審査権が与えられた

5-3: 三権分立に関する現代の議論

 最後に、今日の日本ではどのように三権分立が議論されているのか説明していきます。

結論からいえば、近年の参議院憲法調査会では、以下のような問題点が指摘されています。

  • 三権分立のシステムでは、行政権(内閣)が他の二権より強大な権力をもちやすい
  • そのために立法府と司法府が抑制し合うのではなく、協調する関係になっている

実際のところ、法案は内閣によって起草され、与党議員の多い国会で当然のように可決され、司法の場で使われるケースがほとんどです。これでは実質的に内閣が権力を強めるのは致し方ないことだと多くの議員や学者は考えているのです。

そこで近年では、

  • 国会議員が作成する法案の数を増やす(国会の意思を政治により濃く反映する)
  • 現代の政治に合わせて、三権分立に関してより具体的に憲法に明記する

といった解決策が模索されています。

これからさらなる議論が重ねられることに期待しましょう。

5章のまとめ
  • 三権分立という考え方は、フランスの哲学者モンテスキューが著作『法の精神』の中で提唱した概念である
  • 日本において、三権分立が導入されたのは明治時代の大日本帝国憲法が施行された時であった
  • 現代において、三権分立のシステムが行政権(内閣)が他の二権より強大な権力をもちやすいと問題視されている

6章:三権分立について学ぶおすすめ本

三権分立について理解が深まりましたか?

もっと詳しく知りたいという方はこれから紹介する本をぜひ読んでみてください。少し難しいかもしれませんが、もっと深く三権分立について学べるはずです。

オススメ書籍

オススメ度★★★ 川出良枝『貴族の徳、商業の精神:モンテスキューと専制批判の系譜』(東京大学出版会)

モンテスキューがどのような社会に生き、どのような思索と経験から三権分立を提唱したのかが詳しくお分かりいただけると思います。渋沢、クローデル賞を受賞した名著です。

オススメ度★★ 梅川健『大統領が変えるアメリカの三権分立制:署名時声明をめぐる議会との攻防』(東京大学出版会)

三権分立のシステムがアメリカではどのように活きているのか、大統領と議会の攻防を軸に解説している本です。今、アメリカの三権分立制度にどのような変化が起きているのかも合わせて理解できると思います。

その他参考文献

  • 浦部法穂『世界史の中の憲法』(共栄書房)
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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 三権分立とは、権力が単一の機関に集中することを避けるために、国の権力を「立法権」「行政権」「司法権」に分散させることである
  • 三権分立のシステムはお互いが正しい役目を果たしているかチェックできる仕組みがある
  • 現代において、三権分立のシステムが行政権(内閣)が他の二権より強大な権力をもちやすいと問題視されている

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