立法権とは、法規(憲法や法律)を制定する国家の機能のことで、行政権、司法権と並ぶ国家の統治権の一つです。
日本では国会が立法権を持っていますが、立法権は実は統治権の中でも最も重要なものとして位置づけられています。
政治の仕組みを理解する上でとても重要な概念ですので、誰もがよく理解しておく必要があります。
そこで、この記事では
- 立法権の意味
- 日本における立法権
- 三権分立と立法権
- 立法権における学術的な議論
をそれぞれ解説します。
興味のある所から読んでみてください。
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1章:立法権とは
1章では立法権を概説します。2章では三権分立との関係を、3章では学術的な議論を紹介しますので、用途に沿って読み進めてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1: 立法権の意味
まず、「立法」の権力や国の「統治」とは何を意味するのでしょうか?それらは言葉の意味から考えていくと理解しやすいはずです。
国の「統治」とは、国がその一国全体をまとめおさめることです。しかし、国家には通常膨大な数の国民が所属しており、日本であれば1億人以上の国民に平和で安定した暮らしを提供する必要があります。
そのためには、すべての国民が対象になる「法」という客観的なルールを定める必要があります。
法を定めることで、
- 個人や組織の行動を規制することができる
- 国家に対する人民の権利・自由を保障できる
- 国家権力が暴走するのを防ぐ
といったことが可能になるからです。
そして、「立法」は法規(法律など)を定めることを意味します。
- 民主主義国家では、議会での議決を経て法が定められる
- なぜなら、国民主権を掲げる国家であれば、国民から選ばれた議員ら(国家)によって法律が定められる必要があるからである
こうした国民の意見を代表する議会に立法権がある状態を「主権在民の状態」と言います(一方、一部のアフリカ諸国や北朝鮮のように独裁者に立法権が与えられていて、国民に主権がない国が今でも少なからずあります)。
また、立法は法律を定めることですが、その法律が統治に使われます。この観点から、立法は国の統治作用に一つと考えられているのです。
1-1-1: 立法機関
では、日本ではどのような組織が立法を担うのでしょうか?確認となりますが、日本では国会が国家の立法の役割を果たします。
これは日本国憲法で「国会は国権の最高機関であり、唯一の立法機関である」と定められていることから明らかです。立法は国会のみが行えるとする憲法上のこの原則を「国会中心立法の原則」といいます。
しかし、この国会中心立法の原則には、憲法で一部例外が定められています。それは、以下のものです。
- 両議院は院内の規則のみ定める権利がある
- 最高裁判所は裁判所の内部規律のみ定めることができる
つまり、上記の以外の法律・規則は国会で作られます。
また、国会の手続きだけで法律制定が完成するというこの原則は「国会単独立法の原則」といいます。言い換えれば、国会で定められた法律が他の機関の裁可が必要ないということです。
ちなみに、例外的ですが、憲法94条では地方それぞれの法である条例は地方公共団体が制定できると定められています。これを「自主立法権」と呼びます。
1-2: 日本における立法権
さらに具体的にいえば、国会は主に「法律案」と「予算案」を審議することが役割です。それぞれの流れは以下の通りです。
法律案
- 内閣や国会議員が提出した法律案は、国会の審議の中で適切かどうか話し合われ、必要があれば加筆修正される
- 本会議で可決されると正式な法律として制定される
- こうした法律を下に内閣等の行政機関が政策を執行していく
予算案
- 政府が提出した予算案は、国会の予算委員会等で適切にお金が使われるか、明確な使途が示されているか審議する(必要があれば修正を加えていく)
- そして、本会議で可決されると正式な予算案として成立する
さらには、外国との条約承認も国会の重要な役割です。基本的に外国との条約を締結するのは政府(内閣)ですが、その条約が適切であるか審議するのは国会の仕事です。
他にも国会(立法権)の役割はありますが、詳しくは以下の記事を参照ください。
1-3: 国会とは
国会の制度にも触れておきましょう。確認となりますが、日本の国会は二院制で、衆議院と参議院から構成されています。それぞれ以下の特徴をもちます。
衆議院
- 衆議院は衆議院議員465名から構成されていて、議員の任期は4年
- 基本的に4年に一回行われる衆議院議員総選挙で国民の中から選ばれる
- 例外的に内閣が衆議院を解散した場合はその都度、総選挙が行われる
参議院
- 参議院は参議院議員245名から構成されていて、議員の任期は6年
- 参議院には解散はなく、3年に一回行われる参議院議員通常選挙で半数が改選される
- 参議院議員も同じく国民の中から選ばれる
重要なのは、議決の効力や国会の会期延長等で衆議院が参議院よりも有利な点を持っていることです。これを「衆議院の優越」と言います。たとえば、参議院で否決された法案も衆議院で3分の2以上の賛成が得られれば、再可決されるといった優越が挙げられます。
1-3-1: 国会議員とは
国会議員は、憲法43条で「全国民(有権者)を代表する選挙された議員」と定義されています。簡単にいえば、国民の意見を集め、それを国会という場で披露・討論し国政へ反映させるという存在です。
このように、国会議員は国民を代表する特別な身分である以上、ある程度の特権が定められています。主なものとして、
- 不逮捕特権(法律の定める場合を除いては、国会の会期中は原則逮捕されない)
- 免責特権(議院で行った表決や答弁、演説等について院外で責任は原則問われない)
- 歳費特権(法律の定めるところにより、議員は国庫から相当額の歳費を受ける)
があります。
そして、国会議員の役割としては、次のものを挙げることができます。
- 議案発案権や動議提出権の行使
- 成立させたい法案を作成し、それを国会という審議の場に提出すること
- 質問権、質疑権、討論権を持っており、審議の場で発言・答弁する総理や閣僚に対して反論すること
- 本会議での多数決採決等には参加するできる(表決権)
- 立法権とは、法規(憲法や法律)を制定する国家の機能のことで、行政権、司法権と並ぶ国家作用(統治権)の一つである
- 国会は主に「法律案」と「予算案」を審議が役割である
- 日本の国会は二院制で、衆議院と参議院の両議院から構成されている
2章:立法権と三権分立
さて、2章では、三権分立という制度の中で立法権がどのように行政権や司法権と関わっているのかを説明していきます。
まず、三権分立の制度を軽く確認しておきましょう。三権分立とは、
- 国の権力を三つの機関に分散させることで、権力の一極集中を避け、国家が権力を濫用するのを防ぐ働きを指すもの
- すなわち、三機関はそれぞれがお互いを監視し、抑制しあっているもの
です。
つまり、立法権は行政権と司法権を抑制する役割を持つと同時に、行政権と司法権から監視されています。
まず、立法権(国会)は、次のように行政権と司法権を監視・抑制することができます。
- 行政権(内閣)に対しては、内閣総理大臣の指名、国政調査権(内閣の政治が適切に行われているかというチェック)の発動、内閣不信任案の決議をする
- 司法権(裁判所)に対しては、法律の制定と裁判官の弾劾裁判所を設置する
一方、立法権は次のように行政権や司法権から監視・抑制されています。
行政権は(内閣)は、衆議院の解散権を持っている
→これでよって立法権は行政権からの監視・抑制を受けている
司法権(裁判所)は、違憲立法審査権が与えられている
→国会で成立した法律が憲法に違反していないかチェックし、違反していたら法律を無効にできる権利を裁判所は持っている
ただ、日本は議院内閣制という制度をとっているため、立法権は行政権と非常に緊密なつながりを持っていることで知られています。
議院内閣制に関しては、以下の記事を参照ください。
→【議院内閣制とは】イギリス・日本の歴史から大統領制との違いまで解説
たとえば、国会(両議院)で与党が過半数を占めていた場合、政権の意向が国会で批判されることはありません。こうした部分からしばしば、日本の三権分立は二権分立であると揶揄されることもあるのです。
より詳しくは、以下の記事で解説していますので、ぜひ読んでみてください。
→【三権分立とは】権力はいかに独立し監視しあっているのかわかりやすく解説
→【司法権とは】その意味・裁判所や検察との関係をわかりやすく解説
3章:立法権に関する学術的な議論
さて、3章では日本の立法権(国会)の問題点を「ねじれ国会」と「議員立法の不十分性」から解説します。
3-1: ねじれ国会
まず、ねじれ国会とは、
衆議院と参議院でそれぞれ過半数を占める政党が異なる状態のこと
を指します。
つまり、衆議院で与党(政権を担う党)が過半数を取っていて、参議院では野党(政権を担っておらず政権に批判的な党)が過半数を占めていてる状態です。この状態では衆議院の出す結論と参議院の出す結論が異ってしまいます。
しかしねじれ国会でも、衆議院の優越が認められているため、最終的には与党の意見を法律に反映できる場合が多いです。しかし、法律案が正式な法律と認められるのは、以下の場合です。
- 参議院で否決された法案が衆議院で3分の2以上の賛成を得て再度可決される場合
- 参議院で60日間法案の採決が行われなかった場合
政策研究大学院大学教授の竹中治堅によると、ねじれ国会が問題なのはスムーズな立法が行われないだけでなく、政治の停滞を招くと考えるためです2nippon.com 「日本の政策停滞の要因」最終閲覧日2020年7月14日。
加えて竹中は、ねじれ国家になると与野党ともに駆け引きに夢中になってしまうという欠点も指摘しています。すなわち、自分の党の勢力維持や法案可決のために少しでも国会において自分の味方を多く作ろうと、与野党ともに奔走するがちになることです。
その結果、与野党は駆け引きに多大な労力をかけ、本来の仕事である政策論争や法案審議がおろそかになってしまうことが懸念されています。
このねじれ国会は、二院制(立法機関に衆議院と参議院という二つの議論の場がある)に起因しています。したがって、こうしたねじれ国会の批判は、二院制、並びに参議院の存在への否定論につながりました。
たとえば、橋下徹氏率いる「維新の会」は一院制論(参議院廃止論)を打ち出したことで知られています。
一方で、上智大学名誉教授の高見勝利が指摘するように、参議院は理性の府であり、数が支配する衆議院を監視する役割を持ちます3高見勝利『現代日本の議会政と憲法』(岩波書店)。そのため、いまだにねじれ国会や二院制に関する意見は賛否両論あるのが現実です。
3-2: 議員立法の不十分性
国会では前述したように、国会議員から出される法案と内閣から出される法案の二種類を審議するとされています。実際は、国会には与野党という勢力図があるため、与党は主に内閣立法を通して、野党は議員立法を通じて党の意見を法案に反映させようとします。
しかし、野党議員が出す法案はほとんど審議されず、与党に無視されてしまうのが現状です。
2018年での通常国会では立憲民主党は「原発ゼロ基本法案」等の約30本の法案を他の野党とともに提出したものの、多くの法案は審議されませんでした。
2012年の政治情勢を分析した竹中治堅の論考の説明によると、このように野党議員の法案が無視されがちなのは、審議入りする際、与野党の合意が原則必要で、政府(内閣)提出の法案が優先して審議される傾向が強いからです。4nippon.com 「日本の政策停滞の要因」最終閲覧日2020年7月14日。
これに関しては大阪弁護士会や江田五月といった法律家や議員経験者からも、野党議員も少数派で政権メンバーではないにしろ国民の中から選ばれた代表者であるため、国会では野党議員の出す法案も内閣立法と同様に尊重されるべきであると批判が出ています5江田五月「国会議員/ピンとこない「唯一の立法機関」」(最終閲覧日 2020年7月1日)、 大阪弁護士会「議員立法のあり方」(最終閲覧日 2020年7月1日)。
同志社大学教授の谷勝宏は、与野党の対立の中で議員立法の形態が形骸化しており、政府と議員の白熱した議論を誘発するような根本的な立法過程の改革が必要であると指摘しています6谷勝宏 「議員立法と国会改革」 http://www.ppsa.jp/pdf/journal/pdf2000/2000-01-004.pdf (最終閲覧日 2020年7月1日)。こうした多くの批判や指摘からも、政府や与党は何らかの改革を施す必要性に迫られていると言えるでしょう。
- 与野党は駆け引きに多大な労力をかけ、本来の仕事である政策論争や法案審議がおろそかになってしまう
- 野党議員が出す法案はほとんど審議されず、与党に無視されてしまうのが現状
4章:立法権について詳しく学べる本
立法権について理解は深まりましたか?
最後により立法権を詳しく解説している書籍を紹介します。
オススメ度★★★ 大山礼子『日本の国会—審議する立法府へ』(岩波新書)
立法府としての日本の国会の問題点を指摘している名著です。国会での立法の過程が理解でき、その上、政党間駆け引きやねじれ国会といった問題にも着目し、諸外国と立法府との比較や改革の具体案まで提示している盛り沢山の本なので、是非読んでみてください。
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オススメ度★★ 茅野千江子『議員立法の実際- 議員立法はどのように行われてきたのか』(第一法規株式会社)
議員立法(議員が法律案原案を提案する)と内閣立法(内閣が法律案原案を提案する)を対比的に説明して、立法の実態を明らかにしている本です。議員立法の例を多く示してくださっている本ですので、比較的わかりやすく読めると思います。
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一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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などの特典もあります。学術的感性は読書や映画鑑賞などの幅広い経験から鍛えられますので、ぜひお試しください。
まとめ
この記事の内容をまとめます。
- 立法権とは、法規(憲法や法律)を制定する国家の機能のことで、行政権、司法権と並ぶ国家作用(統治権)の一つである
- 立法権は行政権と司法権を抑制する役割を持つと同時に、行政権と司法権から監視もされている
- 日本の立法権(国会)には、「ねじれ国会」と「議員立法の不十分性」といった問題がある
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参考文献
- 江田五月 「国会議員/ピンとこない「唯一の立法機関」」https://www.eda-jp.com/books/giin/43.html (最終閲覧日 2020年7月1日)
- 大阪弁護士会 「議員立法のあり方」https://www.osakaben.or.jp/web/03_speak/iken_backnum/iken890127.php(最終閲覧日 2020年7月1日)
- 朝日新聞デジタル 「国会のあり方って? 森友、加計、解明不十分」https://www.asahi.com/articles/ASL9F6T4YL9FUTFK02K.html (最終閲覧日2020年6月28日)
- 大山礼子『日本の国会—審議する立法府へ』(岩波新書)
- 衆議院公式サイト 「立法情報」http://www.shugiin.go.jp/internet/index.nsf/html/index.htm (最終閲覧日2020年6月28日)
- 参議院公式サイト「国会のしくみと法律ができるまで」https://www.sangiin.go.jp/japanese/kids/html/shikumi/index.html (最終閲覧日2020年6月28日)
- 高見勝利 『現代日本の議会政と憲法』(岩波書店)
- 谷勝宏 「議員立法と国会改革」http://www.ppsa.jp/pdf/journal/pdf2000/2000-01-004.pdf (最終閲覧日 2020年7月1日)
- nippon.com 「日本の政策停滞の要因」https://www.nippon.com/ja/currents/d00038/ (最終閲覧日 2020年7月1日)