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国際問題

【開発途上国とは】定義・人口・支援の具体例をわかりやすく解説

開発途上国とは

開発途上国(Developing countries)とは、国民一人当たりの所得が著しく低く、経済や医療、教育などさまざまな問題を抱えた国のことです。

開発途上国がさまざまな問題を抱えており、先進諸国との格差が問題となっていることは、誰もが知るところです。

しかしこの問題を私たちの世代で解決するためには、開発途上国が具体的にどのような国を指し、どのようにして格差が生まれたのかを知る必要があります。

そこで、この記事では、

  • 開発途上国の定義
  • 開発途上国の現状と課題
  • 開発途上国への支援

について解説していきます。

関心のある所から読み進めてください。

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1章:開発途上国とは

1章では、開発途上国という言葉の意味、現状、そして開発途上国が抱える問題について説明していきます。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:先進国・開発途上国・後発開発途上国の区別

具体的な議論に入る前に、先進国・開発途上国・後発開発途上国の区別を確認しましょう。

1-1-1: 先進国

まず、先進国を定義する世界統一の基準はありません。日本の場合は、内閣府で経済協力開発機構(OECD)に加盟している36カ国を先進国とし、それ以外を開発途上国としています。しかし、これは世界的な基準ではありません。

1-1-2: 開発途上国

一方で、OECDの「援助受取国・地域リスト(DACリスト)」に記載されている国や地域が、一般的に「開発途上国」とされています。

現在、このDACリストに記載されている国・地域は、以下の2つの条件のいずれかに当てはまる国です。

  • 世界銀行が示す基準である「2016年時点の一人当たり国民所得(GNI)が12,235米ドル以下」
  • 国連が定める「後発開発途上国(Least Developed Countries)」の基準(一人当たり国民所得(GNI)、人的資源指数(HAI)、経済脆弱性指数(EVI)で判断)に該当する国

1-1-3: 後発開発途上国

そして、国連の後発開発途上国の基準は、世界銀行の基準を下回ると言われています。

したがって開発途上国の基準は、「一人当たり国民所得(GNI)が12,235米ドル以下であること」といえます。

また、先進国と開発途上国のほかに、「新興国」や「中進国」という名称も聞いたことがあるかもしれません。これについては、開発途上国だった状態から抜け出し、急速な工業化と高い経済成長を実現しつつある国を指します。

かつては日本も新興国と呼ばれた時代があり、近年では1970年から80年代にかけて急激な経済発展を実現させた韓国、台湾、香港、シンガポールがそれにあたります。ちなみに、この当時の韓国、台湾、香港、シンガポールは「NIES(新興工業経済地域)」と呼ばれました。

NIESの特徴は、以下のとおりです。

  • 安価で質の高い労働力を持っていたこと
  • その労働力を使って製品を先進国に輸出することで工業化を実現させたこと
  • 先進国から積極的に直接投資を受け入れ、国内の資本や技術を補うような政策を実施していたこと

最近では、中国やインドの台頭が目覚ましく、新興国が先進国の経済規模を超えてしまうようなケースもあるため、新興国や中進国という言葉はあまり使われなくなってきています。



1-2:現在の開発途上国

現在の開発途上国、つまりDACリストに記載されている国・地域は、GNIの数値によって、さらに4つに分類されます2「DAC List of ODA Recipients Effective for reporting on 2020 flows」(出典:OECD

  • 高中所得国(Upper Middle Income Countries and Territories)…国民一人あたりのGNIが3,956~12,235米ドル
  • 低中所得国(Lower Middle Income Countries and Territories)…国民一人あたりのGNIが1,006~3,955
  • 低所得国(Other Low Income Countries)…国民一人あたりのGNIが1,005以下
  • 後発開発途上国(Least Developed Countries)…国連の分類(ほとんどが国民一人あたりのGNIが1,005以下

それぞれ解説していきます。

1-2-1: 高中所得国

高中所得国に分類される国・地域の数は56あります。その内、アフリカが8カ国、アジアが9カ国、中南米が22カ国、大洋州が8カ国、ヨーロッパが9カ国です。

中国や南アフリカ、ブラジルなど開発途上国を卒業するまであと少しといった国から、フィジーやキューバといった太平洋やカリブ海に浮かぶ小さな島国も多く含まれています。東ヨーロッパの国が多いのも特徴と言えます。

高中所得国のGDPをいくつか見てみましょう。

  • ブラジル…1.869兆USドル
  • トルコ…7714億USドル
  • マレーシア…3586憶USドル
  • ガボン…168.5億USドル
  • フィジー…55.37憶USドル

このように、高中所得国に含まれている国の経済規模はかなり幅広いと言えるでしょう。国土や人口規模や、地域によって大きく状況は異なります。

1-2-2: 低中所得国

次に、低中所得国に分類される国・地域の数は37あります。その内、アフリカが11カ国、アジアが13カ国、中南米が5カ国、大洋州が3カ国、ヨーロッパが5カ国です。

低中所得国は、アジアとアフリカの国・地域が中心です。特にアジアの中では、中央アジアや中東地域の国が多いことも特徴と言えます。

低中所得国のGDPをいくつか見てみましょう。

  • インド…2.719兆USドル
  • ナイジェリア…3973憶USドル
  • ケニア…879.1億USドル
  • ボリビア…402.9憶USドル
  • モンゴル…130.7億USドル

インドは高中所得国よりもGDPが高いですが、人口が多いため、国民一人あたりだと低く、低中所得国に分類されます。

1-2-2: 低所得国・後発開発途上国

最後に、低所得国、後発開発途上国に分類される国は49カ国あります。その内アフリカが34カ国、アジアが10カ国、大洋州が4カ国、中南米が1カ国となっています。

こちらは圧倒的にアフリカの国が多いです。とくにサブサハラアフリカ(サハラ以南)の国が圧倒的に多いのが特徴です。

世界の援助がアフリカに集中している理由、ここからも理解することができます。低所得国、後発開発途上国のGDPをいくつか見てみましょう。

  • アフガニスタン…193.6憶USドル
  • ブルキナファソ…141.2億USドル
  • ルワンダ…95.09憶USドル
  • マラウイ…70.65億USドル
  • ツバル…4259万USドル

アフリカは人口も多いため、人口あたりで計算するとかなり低い値になることは言うまでもありません。
※統計データはすべて2020年現在のものです。



1-3:開発途上国が抱えている問題

では、このように開発途上国と呼ばれる国は、どのような問題を抱えているのでしょうか?ここでは、数多くある問題の中から「貧困」「飢餓」「教育」を見ていきます。

1-3-1: 貧困

世界銀行は貧困を定義するボーダーラインとして「国際貧困ライン」を提示し、1日1.9ドル未満で暮らす人と定義しています。

そして、世界銀行の2015年の調査によると、次の報告されています3「世界の貧困に関するデータ」https://www.worldbank.org/ja/news/feature/2014/01/08/open-data-poverty#:~:text=A5.%20%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E8%B2%A7%E5%9B%B0%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%81%A8,%E3%81%8B%E3%82%89%E8%84%B1%E5%87%BA%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

  • 世界の10%の約7億3600万人が国際貧困ライン以下で暮らす貧困層であること
  • 全世界の貧困層の85%以上がサブサハラアフリカ地域または南アジア地域に集中していること
  • 特に、サブサハラアフリカでは約41%の人々が貧困ライン以下で生活していること

世界銀行は2015年に10%いる全世界の貧困層の割合を、2030年までに3%に減らすことを目標に掲げています。

1-3-2: 飢餓

貧困とともに問題となっているのが飢餓です。国連の2018年の調査によると、2018年には推計8億2000万人が十分な食料を得ることができない飢餓状態であると報告しました4国連「世界の食料安全保障と栄養の現状 報告書」 http://www.fao.org/3/CA1355JA/ca1355ja.pdf

しかもこれは、2017年推計の8億1100万人から上昇しており、これで世界の飢餓人口は3年連続で増加していることになります。

貧困と同様、状況がもっとも厳しいのはアフリカとアジアです。

  • アフリカは飢餓蔓延率が世界で最も高く、東アフリカでは人口の30.8%が栄養不足に苦しんでいる
  • 飢餓人口の最も多い地域はアジアであり、5億人以上が飢餓状態にあると言われている。その多くが南アジアである

国連が2015年に発表した、全世界が取り組む共通の開発目標である「持続可能な開発目標(SDGs)」においても、飢餓をゼロにすることが目標の一つになっています。しかし、現状は依然として厳しい状態が続いています。

1-3-3: 教育

さらには貧困が追い打ちをかけ、教育へのアクセスを難しくさせています。2018年に国連児童基金(UNICEF)が発表した報告書によると、世界で学校に通っていない5歳から17歳の子どもの数は3億300万人にも及びます5国連児童基金HP「A Future Stolen: Young and out of school」報告書より https://data.unicef.org/wp-content/uploads/2018/09/Out-of-school-children-Fact-Sheet-individual-pages.pdf 

さらに、報告書では、以下の点が提示されています。

  • その3分の1以上に相当する1億400万人は、紛争や自然災害が原因である
  • 紛争や自然災害の影響を受ける国に暮らす15歳から17歳の子どもの5人に1人は、これまで一度も学校に通ったことがない。5人に2人は小学校を修了していない

最貧層の子どもが小学校に通えない可能性は、最富裕層の同年齢の子どもと比較して4倍も高いとの報告もあります。

この他にも、病院や医者の不足による医療へのアクセスの低さ、きれいな飲み水を確保できないことによる感染症の蔓延、紛争、内戦などさまざまな課題を今もなお抱えています。

1章のまとめ
  • 開発途上国とは、国民一人当たりの所得が著しく低く、経済や医療、教育などさまざまな問題を抱えた国のことである
  • 開発途上国は、GNIの数値によって、さらに4つに分類される
  • 開発途上国は、「貧困」「飢餓」「教育」などの問題を抱えている
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2章:開発途上国が生まれた理由

さて、2章では、開発途上国がどのように生まれ、なぜ問題となったのかについて簡潔に解説します。

そもそも、現在の開発途上国と呼ばれる国々のほとんどが、かつて先進諸国の植民地、または先進国の資本に国内の経済を依存していた国でした。したがって先進国の要求やニーズに合わせて産業を行ってきた歴史があります。

その多くは、特定の農産物を集中的に生産する「モノカルチャー(単一栽培)」でした。モノカルチャーは、以下のようなメリットとデメリットがあります。

  • メリット・・・栽培する品種を限定できるため、たしかに効率的に栽培できる
  • デメリット・・・一次産品は安価で、天候や自然災害などの影響も多く、安定して十分な利益を得ることが難しい。また、先進国の経済に依存するため、先進国が不況に陥るとたちまち収益が下がる

デメリットの側面が、実際に起こったのは第二次世界大戦後です。終戦をきっかけに、開発途上国は次々と独立を果たしました。しかし、政治的に独立を果たしても経済は依存したままであるため、従属関係は継続することになりました。(→ポストコロニアリズムの議論に関してこちら

さらに、先進国は工業化を進め次々と発展していく一方で、モノカルチャーに依存した経済から脱却するための資金や技術もない開発途上国は、工業化が遅れ、さらに格差が開くことになります。

国際社会においてこの格差問題が初めて言及されたのが、1960年でした。当時のイギリスのロイド銀行会長だったオリバー・フランクスが、先進国と開発途上国の経済格差を「南北問題」と称したことで、国際社会の問題意識が開発途上国に集まることになります。

※南北問題に関しては、こちらの記事を参照ください。→【南北問題とは】意味・原因・現状・対策をわかりやすく解説

その後、国連が「国連開発10年」という開発途上国の経済開発を支援するための戦略を打ち出したことで、先進諸国による開発途上国への援助が本格的に始まりました。しかし、それから、60年以上が経ちますが、いまだに南北問題は解決に至っていないのが現実です。

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3章:開発途上国に対して行われている支援

では、具体的に、開発途上国に対して国際社会はどのような支援を行っているでしょうか?ここでは「国際機関」「日本政府」「NGO」からみていきましょう。

3-1: 国際機関

国連を中心とした各国際機関は、それぞれの専門分野におけるさまざまな支援を行っています。そして、この活動資金は、国連に加盟している先進諸国を中心としたODAの多国間援助によって拠出されています。

たとえば、以下のような機関があります。

  • 国連開発計画(UNDP)
    →貧困の根絶やジェンダーなどの不平等を是正するための国家の仕組みづくり、持続可能な開発を促進するためのクリーンエネルギーの普及などを支援する機関
    →開発途上国の政府に対して政策を提言し、技術支援や資金援助を行っている
  • 世界保健機構(WHO)
    →人々の健康増進を目的に、感染症の対策や予防接種ワクチンの普及、医療へのアクセス改善などに努めている機関
    →これまでにも天然痘の根絶や、新型インフルエンザ、エボラウイルス病などの感染症対策に尽力してきた。最近では、新型コロナウイルスへの対策にも注力している

3-2: 日本政府

政府レベルでの開発途上国支援は、ODAの二国間援助という先進国が開発途上国に直接支援する形態もあります。

日本の二国間援助は、大きく「資金協力」「技術協力」の2つに分けられます。

資金協力では、開発途上国の空港や橋、病院や学校などのインフラ整備のために資金を無償、または有償で提供します。2019年に日本が行った資金援助は、無償資金協力が約1631億円、有償資金協力が約1兆4000億円でした。

また、技術協力では、専門家を派遣したり、青年海外協力隊ボランティアを派遣したりするなどの事業が中心です。2019年の日本の技術協力の予算は3278億円でした。



3-3: NGO

また、国際機関や政府では支援が行き届かないような分野や地域もあります。こういった草の根レベルの支援を行っているのがNGOです。

国際機関や政府では出来ないNGOの支援の特徴は、支援を必要としているところに出向き、迅速に支援をする点です。

国際機関や政府の場合は、どのような支援が必要か調査を行い、事業を計画し、予算が承認され、実行されるまでに時間を要します。

一方で、NGOの場合は自己資金を使って活動を行うため、素早い対応が可能になります。特に、紛争地域の緊急支援や、開発途上国の地方の社会支援に対して、強みを発揮しています。

たとえば、国際NGOのWorld Visionは、開発途上国の子どもの健康や教育の改善のために、きれいな水を得るための支援や栄養不良の子どもに対する支援等、さまざまな事業を行っています。

また、近年では特定地域への支援の経験や知見を持っていることを活かし、国際機関や政府と協働で事業を行うようなNGOも増えてきており、開発途上国支援におけるNGOの役割は大きくなっています。

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4章:開発途上国について学べるおすすめ本

開発途上国について理解できたでしょうか。

今回紹介した内容は、あくまで基本的な情報ですので、さらに深く詳しく知りたいという方は以下の本をご覧ください。

オススメ書籍

オススメ度★★★ 高木保興・河合明宣『途上国を考える』(放送大学教育振興会)

放送大学のテキストですが、開発途上国がどのような問題に直面しているかを網羅的に知りたい方におすすめの一冊です。

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オススメ度★★★ 黒崎卓・栗田匡相『ストーリーで学ぶ開発経済学 — 途上国の暮らしを考える』(有斐閣)

ある架空の開発途上国を舞台にした話から学べる一冊です。小説を読むような感覚で途上国の課題や解決策を学べます。

オススメ度★★ 關谷武司『開発途上国で学ぶ子どもたち』(関西学院大学出版会)

開発途上国の教育の問題について、アカデミックな観点から追求した一冊です。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 開発途上国とは、国民一人当たりの所得が著しく低く、経済や医療、教育などさまざまな問題を抱えた国のことである
  • 開発途上国の多くは、先進諸国の植民地、または先進国の資本に国内の経済を依存していた国であった
  • 開発途上国の支援を「国際機関」「日本政府」「NGO」が行っている

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引用・参考文献