経営学

【シナジー効果とは】意味・リスクから事例までわかりやすく解説

シナジー効果(Synergy effect)とは、事業間の相乗効果のことであり、企業における各事業の関係や企業統合のプラス効果を表す用語です1野村総合研究所(2008)『経営用語の基礎知識(第3版)』ダイヤモンド社 6頁

たとえば、2つの独立した事業を有する企業がそれぞれの事業の価値を算出するうえで、独立した状態ではそれぞれが100の価値であったとしても、統合することで価値の総和が200よりも大きくなる状態を経営学ではシナジー効果が働いていると表現します。

ゆえに、シナジー効果は、特に経営多角化やM&A(企業買収)でよく用いられる論点で、さまざまな学者によってその実効性や有効性が検証されています。

そこで、この記事では、

  • シナジー効果の意味やリスク
  • シナジー効果の事例と批判

をそれぞれ解説します。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:シナジー効果とは

1章ではシナジー効果を「意味」「リスク」から概説します。

※この記事ではシナジー効果を解説しますが、先に「多角化」の記事を読んでもらうと非常にわかりやすいです。

多角化経営とは
【多角化経営とは】メリットやデメリット・事例をわかりやすく解説多角化経営とは、企業が本業に直接的には関連しない事業をおこなうことですが、バブル崩壊後の日本では多角化より本業に集中することが主張されました。多角化経営に関するメリット・デメリットから経営学的な理論に関してはこちらの記事をご覧ください。...

1-1:シナジー効果の意味

最初に、シナジー効果とはどのような概念の理論であるのか、そしてシナジー効果には具体的にどのようなものがあるのかを説明します。

1-1-1:シナジー効果の意味

経営学においてシナジーという概念を生み出し、それを定式化したのがイゴール・アンゾフです。アンゾフは、シナジー効果を「企業の資源から、その部分的なものの総和よりも大きな一種の結合利益を生み出す」2イゴール・アンゾフ『企業戦略論』産業能率短期大学出版部 99頁効果であると定義し、図1のような定式をおこないました。

アンゾフのシナジー効果(定式)図1 アンゾフのシナジー効果(定式)3経営学史学会監修 庭本佳和(2012)『アンソフ』 文眞堂 144頁を参考に著者作成

アンゾフの提唱したシナジー効果の定式では、ROI(投下資本利益率)を算出利益として定め、S(売上)マイナスO(操業費)で求めた利益を、I(投下資本)で割ることによって求めています。

このとき、製品Aのみを製造する専業企業C1において、求められるROIを計算してみると当然シナジー効果は働かないため、SとOとIはただひとつの値に限定され、ROIの値も一意に決まります。

一方で、製品Aのみならず製造工程が類似する製品Bもあわせて製造する多角化企業C2のケースを考えてみると、企業C2には次のような優位性が生まれると考えられます。

  1. 製品Aと共通した生産設備を利用することで、操業費(O)を節約することができる
  2. 製品Aが持つ販売網を利用することで、同じ投資額(I)でより大きな売上(S)をあげることができる

この優位性の存在によって、独立した2つの企業が製品Aと製品Bをそれぞれ製造することで生まれるROIの合計よりも、多角化企業C2のように製品Aと製品Bをあわせて製造したROIの値の方が高くなることがわかります。これがシナジー効果です。

上で説明したアンゾフの「資源や諸経費を共有することで、全体の生産コストを低減させる」という発想は経済学では「範囲の経済性」と呼ばれます。そして、いまでは定説として概念化されているものです。

しかし、この範囲の経済性が経済学の領域で正式に提唱されたのは1970年代に入ってからです。アンゾフがシナジー効果を提唱したのが1965年であることを考慮すると、このシナジー効果という概念がいかに先進的なアイディアであったがうかがえます。

「経営戦略の父」とも呼ばれるアンゾフの議論をまとめた庭本佳和(2012)『アンソフ』(文眞堂)は、彼の理論を理解するために不可欠な書物です。

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1-1-2:シナジー効果の種類

アンゾフは、彼自身が提唱したシナジー効果には「創業(start-up)シナジー」「操業(operating)シナジー」の2つの種類が存在すると述べています。

そして、企業が多角化を検討する際には、この2つのうちのどちらのシナジーを重視すべきかを考えることが必要であると述べています。

  • 創業シナジー・・・多角化初期に生み出されるシナジーであり、①他社に先駆けて、優位性が得られることで金銭的節約が可能であり、②先行する既存企業と対等に競争できるようになるまでに必要な時間が短縮される効果である
  • 操業シナジー・・・多角化後の事業展開で生み出されるシナジーであり、①操業上の費用が低く抑えられ、②その操業を支えるのに必要な投資が少なくて済む効果である

しかし、この2つの分類を理解しただけでは、あくまでシナジーの結果だけを分類できたに過ぎず、多角化によって発生したシナジーが何を起因として生まれたのかを把握することはできません。

そこで、アンゾフはさらに次の4つの分類法を提唱し、企業がもつ潜在的シナジーの存在を明らかにしようとしました。

  1. 販売シナジー・・・共通の販売網や共通のブランドイメージの共有による販売に関するシナジー
  2. 生産シナジー・・・人的資源の共有や、原材料の一括仕入れなどによる生産に関するシナジー
  3. 投資シナジー・・・生産設備の共同利用や類似する研究開発成果の転用など投資に関するシナジー
  4. 経営管理シナジー・・・類似の経営問題に対する経営管理者の能力・スキルの多重利用による経営管理に関するシナジー

これら4分類は経営管理シナジーを除き、アンゾフが提唱したシナジー効果の定式と非常に整合性がとれており、経営者が事前計画としてシナジー効果を含めた事業価値を算出する大きな手助けとなりました。



1-2:シナジー効果のリスク

アンゾフによってシナジー効果には、企業に大きな利益をもたらす効果があることが示されましたが、あらゆる事業や資源を結合することが、必ずしも企業に正の影響のみを与えるとは限りません。

ここでは、事業や資源の結合によって企業に負の影響を及ぼす可能性がある「アナジー効果」「シナジー・バイアス」を紹介します。

1-2-1:アナジー効果

アナジー効果とは、

シナジー効果とは逆に企業における各事業の関係や企業統合のマイナス効果を表す用語

です。

冒頭の例を再度用いると、2つの独立した事業を有する企業がそれぞれの事業の価値を算出するうえで、独立した状態ではそれぞれが100の価値であったとき、統合することで価値の総和が150のように本来の価値よりも低下した状態を経営学ではアナジー効果が働いていると表現します。

アナジー効果は、アンゾフが提唱したシナジーの実現が現実的には難しく、マイナス効果のほうが大きいという認識から生まれた論点です。

ある1つの企業がタイプの異なる複数の事業をもち、本社がそれらの事業を同一の評価基準で評価したり、共通した判断基準で意思決定を下したりする場合、それぞれの現場は混乱し、モチベーションの低下や統制の乱れを生んでしまうリスクがあります。

アンゾフの論点における欠如

  • アンゾフの論点では、シナジー効果がどのように生まれ、どのように分析されるのかに理論の重点が置かれ、アナジー効果については深い議論がなされなかった
  • しかし、実務の現場においては想定し得ない統合のマイナス効果はよく生まれることであり、それらのマイナス効果をどのように回避するのか、また克服するのかという研究はアンゾフのシナジー効果以降に頻繁におこなわれている

1-2-2:シナジー・バイアス

シナジー・バイアスとは、

「シナジー効果を過大過信し、それにかかるコストを過小評価する傾向」4DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部『戦略論1994-1999』ダイヤモンド社 262頁のこと

です。

シナジー・バイアスはA.キャンベルとM.グルードが1998年にハーバードビジネスレビューにおいて紹介した概念です。彼らは経営者のシナジー効果に対する過信に、以下のように警鐘をならしました5DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部『戦略論1994-1999』ダイヤモンド社 263頁

「ほとんどの経営陣は、シナジーに関する見識やコラボレーションを育む適性が自分に備わっているかどうかを省みることもなく、とにかくシナジーを生み出さないといけない」と思い込んでおり、この思い込みは「一部の経営者には強迫観念にまでなっているために、必死にシナジーを追求しようとして、愚かな決定や投資を断行してしまう」

もっともA.キャンベルとM.グルードは、論文内にて「我々が見たところ、ほとんどの大企業において、シナジーは売上げに大いに貢献する可能性を秘めている」6DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部『戦略論1994-1999』ダイヤモンド社 260頁と述べています。

シナジー効果を最大限に発揮するには、「シナジーに対する懐疑的なスタンスを取ることであり、組織のどこに真のシナジーの可能性が埋もれているのかを把握することである」77DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部『戦略論1994-1999』ダイヤモンド社 260頁[/mfn]と強調しています。

1章のまとめ
  • シナジー効果とは、事業間の相乗効果のことであり、企業における各事業の関係や企業統合のプラス効果を表す用語である8野村総合研究所(2008)『経営用語の基礎知識(第3版)』ダイヤモンド社 6頁
  • シナジー効果には、「アナジー効果」と「シナジー・バイアス」というリスクがある

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2章:シナジー効果に関する事例と批判

さて、2章では、アンゾフが提唱したシナジー効果に関する発展的な論説と批判の一部を紹介します。

2-1:伊丹によるダイナミックシナジーの提唱

ダイナミックシナジーとは日本の経営学者の伊丹敬之が提唱したシナジー効果に関する理論であり、「動的な相乗効果」とも呼ばれます。

伊丹はダイナミックシナジーを説明するのに先駆けて、アンゾフの提唱したシナジー効果を「相補効果」「相乗効果」の2つにわけることでシナジー効果の体系の再整理をおこないました。

2-1-1:相補効果

まず。、相補効果とは、

アンゾフが指摘しているような共通の資源や設備を複数の事業で共有することで、コストの低減や資源の有効活用ができる効果のこと

です。

しかし、ここでいう共通の資源や設備とは、基本的にはキャパシティが存在する有形財を指しており、その有効活用には一定の限度があると伊丹は指摘しています。

つまり、アンゾフが主張したシナジーはもともと企業が持っていた余力を使っているだけのことであり、厳密な意味でのシナジー効果ではないと主張しました。

実際に伊丹は、アンゾフがシナジー効果と定義したこの事象をあくまで「1+1で2をつくっている発想である」と指摘しており、いわば足し算的な組み合わせ効果と表現しています。

2-1-2:相乗効果

相乗効果とは、

情報という見えざる資産を2つの事業で共通して利用することで、2つの事業で相乗的に良い効果をもたらすこと

です。

たとえば、繊維メーカーが蓄積した科学技術を使って高度な化学品の分野を新たに手掛ける場合を考えてみてください。

  • 高度な化学品の分野で利用しているのは繊維事業の設備でも人的資源でもなく、技術やノウハウという目に見えず、利用することで減ることもない資源である
  • つまり、化学品の分野は繊維分野の情報という資源に「ただ乗り」して、大きな成果を生み出している

伊丹はこの事象こそが1+1が3になっているような掛け算的な組み合わせ効果であると表現しています。

ここで重要となるのが、ダイナミックシナジーと呼ばれる、動的な相乗効果です。伊丹(2005)は、ダイナミックシナジーを以下のように説明しています9伊丹敬之、加護野忠男(2005)『ゼミナール経営学入門』日本経済新聞社 99頁

一つの情報的資源がある事業がある時点に作り出し、それを別の事業が将来の時点で利用していく、という時間差をもった相乗効果である

このように、従来のシナジー効果に新たに時間軸という発想を持ち込みました。この時間軸こそが「ダイナミック(動的)」と呼ばれる用語の所以です。

たとえば、エプソンの例が挙げられます。

エプソンの例

  • インクジョットプリンターなどで発展しているエプソンは、もともとは時計メーカーであった
  • しかし、時計生産のために蓄積した金属精密繊細加工技術が、インクジェットのヘッドの生産に利用された
  • そして、他社製品より圧倒的に画質の優れたプリンターの開発に成功した

このエピソードは、エプソンが金属精密繊細加工技術という情報資源をダイナミックシナジーとして活用したことが生まれた成功であると考えることができます。



2-2:ポーターによるシナジー効果の批判

企業の競争戦略論の父であるマイケル・E・ポーターは、1996年にハーバードビジネスレビューに掲載された自身の論文内にて、シナジー効果に対して否定的な見解を示しています。

ポーターは、市場空間におけるポジショニングが高い成果をもたらす経営戦略のカギだと主張するポジショニング・ビューという研究のいわば生みの親であり、世界でもっとも有名な経営学者のひとりです。

※詳しくはポーターの競争戦略論を参照してください。

→【ポーターの競争戦略とは】3つの競争戦略を図からわかりやすく解説

ポーターの基本的な主張とは、企業が競争優位と利益を生み出すためには市場内でユニークなポジショニングをおこなうことであり、多角化した自社内においても共有できる資源や情報を持てないほどのオリジナリティが必要であるというものです。

この主張に基づくと、ポジショニング・ビューとシナジー効果はいわばトレードオフの関係性にあり、シナジー効果を追求することはポジショニング・ビューにおける競争優位の喪失に繋がる可能性があるとポーターは指摘しています。

ポーターは、このポジショニング・ビューとシナジー効果のトレードオフをアメリカの大手航空会社2社の戦略の違いを用いて説明しています。

コンチネンタル航空とサウスウエスト航空の比較図2 コンチネンタル航空とサウスウエスト航空の比較10DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部『戦略論1994-1999』(ダイヤモンド社)とマイケル・E・ポーター『戦略の本質』を参考にしながら著者作成

コンチネンタル航空は、サウスウエスト航空が非常にうまくやっているのを見て、ストラドル(相手の手法にまたがる11筆者注釈)することを決めた。同社はフル・サービスの航空会社としてのポジションを維持しながら、サウスウエストを真似て二地間のルートに進出した。

同社はこのサービスを<コンチネンタル・ライト>と名づけた。<コンチネンタル・ライト>では、機内食もファースト・クラスも提供しないが、便数を増やし、運賃を下げ、着陸から離陸までの時間を短くした。他のルートではフル・サービスを維持していたので、引き続き旅行代理店を活用し、種類の異なる機体を使い、手荷物預かりや座席指定などのサービスも提供した1212DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部『戦略論1994-1999』(ダイヤモンド社)221頁。一部、注釈等を筆者改変

コンチネンタル航空の戦略は、成功しているサウスウエスト航空の戦略を真似するようなものであったとしても、自社の持つ資源や設備を最大限に有効活用するという点で、シナジー効果を大きく意識したものであると伺えます。

しかし、コンチネンタル航空は以下のような問題点がありました。

  • <コンチネンタル・ライト>を採用したことで、コンチネンタル航空の搭乗口は想像以上に混雑し、フル・サービスを利用する乗客も、<コンチネンタル・ライト>を利用する乗客からも苦情が相次いだ
  • <コンチネンタル・ライト>のチケットの販売は、他のチケットと同じく旅行代理店を利用していたため、販売に対する手数料も旅行代理店に支払うことになってしまい、コンチネンタル航空の収益を大きく低下させる結果となってしまった

このようにポジショニング・ビューの観点からすると、シナジー効果は必ずしも企業に恩恵ばかりをもたらしてくれるものではなく、むしろ企業の本来の競争優位を阻害するものになりかねないとポーターは主張しています。

2章のまとめ
  • 日本の経営学者である伊丹敬之は「動的な相乗効果」を提示した
  • ポーターはシナジー効果は必ずしも企業に恩恵ばかりをもたらしてくれるものではなく、むしろ企業の本来の競争優位を阻害するものになりかねないと主張した

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3章:シナジー効果に関するおすすめ本

シナジー効果について理解を深めることはできたでしょうか?

この記事で紹介した内容はあくまでもきっかけでしかありません。そのため、以下の書物を参考にして、あなたの学びをより深めていってください。

おすすめ本

庭本佳和『アンソフ』(文眞堂)

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DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部『戦略論1994-1999』(ダイヤモンド社)

今回の記事で触れた「ポーターの競争戦略」と「シナジー・バイアス」に関する論文が掲載されています。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • シナジー効果とは、事業間の相乗効果のことであり、企業における各事業の関係や企業統合のプラス効果を表す用語である13野村総合研究所(2008)『経営用語の基礎知識(第3版)』ダイヤモンド社 6頁
  • シナジー効果には、「アナジー効果」と「シナジー・バイアス」というリスクがある
  • ポーターはシナジー効果は必ずしも企業に恩恵ばかりをもたらしてくれるものではなく、むしろ企業の本来の競争優位を阻害するものになりかねないと主張した