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【多角化経営とは】メリットやデメリット・事例をわかりやすく解説

多角化経営とは

多角化経営とは「企業が事業活動を行って外部に販売する製品分野の全体の多様性を増すこと」1(吉原・佐久間・伊丹・加護野(1981)『日本企業の多角化戦略―経営資源アプローチ』日本経済新聞社, 9頁)です。

事業の柱を従来の本業以外の領域にも広げる多角化経営(もしくは経営の多角化)は、日本では特にバブル期に多くの会社が実践し、逆にその後「選択と集中」の重視から批判されることも出てきました。

また、富士フイルムに代表されるように、経営危機を脱する戦略の一つとして活用されることもありました。

多角化経営にはメリット、デメリットがあるためよく理解することが大事です。

そこで、この記事では、

  • 多角化経営の意味
  • 多角化経営のメリット・デメリット
  • 多角化経営の実践的理論
  • 多角化経営の事例

をそれぞれ解説します。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:多角化経営とは

1章では多角化経営を「意味」「メリット」「デメリット」から概説します。

2章では多角化経営の実践的理論を、3章では多角化経営の事例を紹介しますので、関心にあわせて読み進めてください。

1-1: 多角化経営の意味

まず、冒頭の確認となりますが、

多角化経営とは、「企業が事業活動を行って外部に販売する製品分野の全体の多様性を増すこと」と定義されるもの

です。

この定義では「製品」と限られていますが、一般的には製品、サービスに限定されず広く事業の柱を増やしていくことが多角化経営、もしくは経営の多角化と言われます。

一般的な企業にはその企業の収益の大部分を占める本業が存在します。たとえば、トヨタ自動車であれば、自動車の製造と販売が本業であり、大和ハウス工業であれば、住宅やビルの設計や建築が本業です。

ただ、2020年現在の両社の事業内容を見てみると、

  • トヨタ自動車には、自動車事業のほかに金融事業や住宅事業がある
  • 大和ハウス工業には、建築事業のほかに医療・介護事業やフィットネス事業がある

ことがわかります。

このように企業が、従来の本業に直接的には関連しない事業をおこなうことを「多角化経営」と呼びます。



1-2: 多角化経営のメリット

上述した企業の本業における国内シェアはトップクラスであり、非常に高い収益を誇っています。それにも関わらず、なぜ積極的に本業以外の事業を手掛けるのでしょうか?

結論からいえば、「経済的なメリット」「新事業領域への進出」があるからです。それぞれ解説していきます。

1-2-1: 経済的なメリット

当然ですが多角化経営には経済的なメリットがあるため実施されます。

一般的に企業には収益の中心となる本業があり、その本業の成長を促すために経営者は経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を投資します。投資が成功すれば本業の収益は拡大し、新たな経営資源を得ることができます。

しかし、そうして獲得した経営資源は、常に100%有効活用できているとは限らない場合があります。具体例から説明します。

  • 雪の降る地方でゴルフ場を営んでいる企業があったとして、その企業はよりよいゴルフ場をつくっていくために積極的な投資をしていた
  • しかし、冬になると雪が降ってしまい、ゴルフ場は営業できない。つまり、所有している土地や建物はもちろんのこと、雇用している従業員さえも活用することはできていない
  • そこで、ゴルフ場の経営者は既存の経営資源(土地、建物、従業員など)を活用するために冬はスキー場の運営をはじめた
  • その結果、冬季でも既存の経営資源を使って収益を稼ぐことができた

つまりこれは、冬は営業できず有効活用できていなかった既存の経営資源を、経営の多角化によって有効活用することで、収益を拡大できたということです。

1-2-2: 新事業領域への進出

多角化経営のもう1つのメリットは、本業以外に成長が期待できる新事業領域への進出を試みるためです。本業以外への事業進出を試みる動機には次の2つが考えられます。

  1. 既存事業が停滞するなかで、あらたな成長機会を模索するため
  2. 本業を取り巻く環境変化に対して、リスク分散をおこなうため

①は本業の市場ニーズ自体が低下しており、企業の収益率が低下しているときによくみられる動機です。たとえば、アメリカの大手鉄鋼会社は、1960年代より情報通信、半導体、ライフサイエンスといった様々な業界に進出しました。

①の動機の例

  • 当時のアメリカの鉄鋼業界は、鉄鋼という単一の生産物を扱っている産業性質上、し烈な価格競争が起こった
  • さらに原料となる石油の価格高騰にも見舞われたため、深刻な不況に陥っていた
  • 先の見えない不況に立ち向かうために、多くの鉄鋼会社は鉄鋼業以外の業界への進出を試みた

②は本業がなんらなかの外的リスクにさらされており、そのリスクを避けようとするときによくみられる動機です。たとえば、特定のメーカーの部品のみ製造する自動車部品の下請けメーカーが、ある日突然メーカーからの注文がなくなってしまった場合、経営はく立ち行かなくなってしまいます。

そこで、自動車部品を製造する技術を生かして、一般家庭向けの調理器具などを製造・販売することができれば、自動車部品の注文が来なくなる時に発生するリスクに対応できます。

このように同じ多角化経営であっても、その理由や動機は企業によって異なっています。しかし、本業以外に活路を求めることで、絶えず企業の成長をおこなっていきたいという経営者の願いは常に共通していると言えます。



1-3: 多角化経営のデメリット

一方で、多角化経営がデメリットとなってしまうケースもあります。そのデメリットには「事業失敗のリスクが高い」「利益率の低下や財務リスクの悪化」「企業としてのアイデンティティの低下」があります。

1-3-1: 事業失敗のリスク

当たり前ですが、どんなに有効な経営資源を保持していても、それが事業である限り、常に失敗が付きまといます。

ましてや、多角化とは新しい市場に、新しい製品を投入するという性質上、既存のビジネスを拡大することよりも失敗のリスクは高まります。

余剰資源を活用するためにおこなった多角化という行動自体が最終的には資源を消耗するだけの存在になってしまうことも十分に考えられます。

1-3-2: 利益率の低下や財務リスクの悪化

次に、新規事業である限り、事業を成功させるためには積極的な投資が不可欠になります。

既存の経営資源だけをやり繰りして、大きな成果をあげられるほど簡単なことではありません。場合によっては、資産が負債になってしまうことだってあり得ます。

ゆえに、新規事業に取り組む間は企業の財務的なリスクは相対的に高まることになります。

1-3-3: 企業としてのアイデンティティの低下

また、多角化経営が軌道に乗ったとしてもそこで終わりでありません。もともと多角化の動機には、企業の余剰資源の有効活用や、事業の組み合わせによるシナジー効果(後述)があります。

しかし、これらのメリットを最大限生かすには事業間の連携が欠かせません。ただし、多角化の性質上、既存の事業と新規の事業では取り扱う製品も市場も異なるため、双方の事業における価値観やスタンスがまったく違うものとなってしまう可能性があります。

その結果、企業としてまとまりがなくなってしまい、アイデンティティが低下する事態にもなりかねません。

多角化とは決して企業にとって万能な薬とはなりません。多角化を成功させるためには自らの会社としての強みや弱みをしっかりと分析して、進出する事業をしっかりと検討する必要があります。そして、多角化した事業も放置するのではなく、しっかりと経営資源を分配してコミットメントしていかなければならないのです。

1章のまとめ
  • 多角化経営とは、企業が事業活動を行って外部に販売する製品分野の全体の多様性を増すことである
  • 多角化経営のメリットとして「経済的なメリット」と「新事業領域への進出」がある
  • 多角化経営のデメリットとして「事業失敗のリスクが高い」「利益率の低下や財務リスクの悪化」「企業としてのアイデンティティの低下」がある

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2章:多角化経営の実践的理論

さて、多角化経営をより深く理解するために、2つの理論に触れる必要があります。2章ではそれぞれ解説していきます。

2-1: アンゾフの企業戦略論

経営学者のアンゾフ(1965)は企業が成長を続けていくためには、

製品と市場に注目し、それら製品と市場の4つの組み合わせ、すなわち成長ベクトルに関し、特定環境のもとにある自社にとってどれが有利かを比較検討しなければならない

と指摘しています。(Ansoff, H.I(1957)『Strategies of Diversification』Harvard Business Review vol.35 p113-124を参照)

簡単にいえば、製品または市場が、既存か新規であるかを分類し、その組み合わせに応じて戦略も変える必要があるとしました(図1)。(アンゾフによると、ここで言う「市場」とは「顧客ニーズ」のことを意味する)

多角化経営とは(図1 アンゾフの成長ベクトル)

そして、アンゾフの成長ベクトルは以下のような意味をもちます。

  • 市場浸透・・・現在の製品と現在のニーズとの組み合わせであり、典型的には市場シェア拡大の方向での成長
  • 新製品開発・・・現在のニーズを同様に、あるいはそれ以上に満たすような新製品の開発や追加を通じた成長
  • 新市場開拓・・・現在の製品が満たすであろう新しいニーズを探求することで可能となる成長
  • 多角化・・・製品とニーズの双方で新しいフィールドを開拓し、機械に乗じた成長

(寺本義也・寺崎尚人(2004)『経営戦略論』学文社 p54を参考に一部改変)

アンゾフはこの理論にて、これら4つのベクトルは企業が将来に向かって成長する道筋となることを示しましたが、同時に複数のベクトルを並行して追求できることにも言及しています。

たとえば、既存の製品を市場に積極的に販売しながら、既存の製品を否定するような創造的な商品を開発することも可能であるとしました。



2-2: 範囲の経済、およびシナジー効果

そして、多角化経営の理論として「範囲の経済」があります。

基本的に、範囲の経済とは、

  • 「別々の製品が同じ組織内で生産されることによって生じるコスト削減」の効果を表す(ガース・サローナー, ジョエル・ポドルニー, アンドレア・シェパード (2001)『経営戦略論』東洋経済新報社, 449頁)
  • すなわち、複数の事業を同一の企業が経営する際に、個々の事業を各々の企業で経営するよりも、より経済的な効果が発生しているとき、範囲の経済性が存在している

ことを指します。

アンゾフは範囲の経済について、ある事業で活用しきれていない資源や能力をほかの事業が利用できる場合があり、そのとき当該資源や能力に関して追加投資の必要性が小さくなり、費用の節約がもたらされることを指摘しています。(Anzoff, H.I (1965)『Corporate Strategy』McGraw-Hill,New York p.85)

また、アンゾフは、同様に異なる資源間や異なる活動間の関係から生じる相乗効果にも着目し、これを「シナジー効果」と呼びました。

つまり、

  • 範囲の経済・・・コスト削減と未使用資源の活用に効果をもたらすもの
  • シナジー効果・・・別の事業を営むことによって生まれたあたらしいプラスの効果もの

とされます。

たとえば、夜は居酒屋を営んでいる店舗が昼に同じ店舗内で新しくラーメン屋をはじめたとき、居酒屋の調理設備やスペースを有効活用できれば、そこには範囲の経済性が働いていると言えます。

さらに、そのラーメン屋が繁盛し、その店舗自体のファンとなれば、夜の居酒屋にも新たな集約を見込みことができます。この効果を「シナジー効果」と言います。

上記の2つの理論は多角化経営を理解するうえで、とても大事な理論となっています。

2章のまとめ
  • アンゾフによると、製品または市場が、既存か新規であるかを分類し、その組み合わせに応じて戦略も変える必要がある
  • 範囲の経済とは、別々の製品が同じ組織内で生産されることによって生じるコスト削減の効果を表す
  • シナジー効果とは、別の事業を営むことによって生まれたあたらしいプラスの効果もの


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3章:多角化経営の事例

そして、多角化経営によって、経営危機を脱した代表的な企業に富士フイルム株式会社があげられます。3章では富士フイルムを事例として紹介します。

3-1: 富士フイルムの成長と衰退

まず、簡潔に富士フイルムについて解説します。

富士フイルムは、2000年まで国内のカラーフィルム業界をリードし、1986年には「写ルンです」を発売し、業界のトップ企業として君臨した企業です。

同社のカラーフィルム販売を主軸とした「イメージソリューション事業」はピーク時には売上8100億円を誇り、企業全体売上の50%以上を占める主力事業となっていました。

しかし、状況は以下のように一変します。

  • 2000年頃より本格的に普及したデジタルカメラの影響で、その後カラーフィルムの需要は一気に衰退
  • わずか10年でその売上は20分の1程度まで低下
  • その結果、2014年にはイメージソリューション事業の売上構成比は全体の15%ほどまでに落ちることになった

主力事業を失った富士フイルムはこの経営危機を脱するべく、2000年以降積極的な多角化戦略を行っていきます。



3-2: 富士フイルムの多角化経営

簡潔にいえば、富士フイルムは次のような多角化経営を実施しました。

  • 2001年に複合機の開発や販売を取り扱う富士ゼロックスを連結子会社化し「ドキュメント事業」を立ち上げる
  • その以降は製薬会社などの買収もおこない医薬品・化粧品や液晶フイルムといった新規事業を続々と手がけ「インフォメーション事業」をおこなう
  • 特に、医薬品・化粧品業界への新規参入は、それまで富士フイルムが培ってきた写真技術とは全く関係がないように思われたため、大きな驚きをもって迎え入れられた

医薬品・化粧品業界参入の背景には、研究の途中で写真フィルムと人間の肌の間にいくつも共有点が見つかったという偶然があります。実際にその研究成果をもとに開発した「アスタリフト」という化粧品は日本国内で大ヒットしました。

そうした成果もあり、非常に厳しい市場の環境のなかで、富士フイルム全体の売上は、2000年度が1兆4403億円であったのに対して、2014年度には2兆4926億円と大きな成長を遂げることができました。

経営多角化の事例

(産経ニュース「写真」社名から外し第2の創業 富士フイルムHD」より引用, http://www.sankeisquare.com/event/nihonryoku2015/company/article13.html, 最終閲覧日2020年3月31日)

この富士フイルムの多角化戦略は、いまでも多角化戦略のお手本のように語られています。

富士フイルムが多角化に成功した要因には、衰退していくカラーフィルムという製品自体に固執するのではなく、そこで培った技術を市場のニーズに合わせられないかということに着目したからと考えられます。

そして、その大胆な業態変化を企業のトップの強い意志をもとにやり抜けたからこそ、いまの富士フイルムがあると言えるでしょう。

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4章:多角化経営が学べるおすすめ本

多角化経営に関して理解を深めることはできたでしょうか。

ここでは参考文献を含めて、多角化経営を深く学ぶ書籍を紹介します。

おすすめ書籍

オススメ度★★★松岡真宏『持たざる経営の虚実―日本企業の存亡を分ける正しい外部化・内部化とは?』(日経BP)

バブル崩壊後の不況期に、日本の多くの企業は多角化から「選択と集中」を掛け声に「持たざる経営」に向かいました。端的には、本業への集中が目指されました。しかし、そんなアニマルスピリットのない経営では企業として成長できないのでは?という問題提起をした本です。

読み物として非常に面白く、多角化経営のメリットがよく理解できます。

オススメ度★★★ 伊藤公介『富士フイルムの変える力』(ぱる出版)

富士フイルムが多角化経営に至るまでの全貌がわかりやすくまとめられた一冊です。実例をもとに書かれているため、多角化経営を学び始める方に読んでいただきたい本です。

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オススメ度★★ ジェイ・バーニー『企業戦略論』(ダイヤモンド社)

アメリカ経営学会の部会長をも務めた世界的にも著名な経営学者の教科書的な著書です。内容は多角化経営をより一歩踏み込んだ形で記載されており、多角化経営をより深く学びたい人向けの一冊です。

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その他参考文献

寺本義也・寺崎尚人『新経営戦略論』(学文社)

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白石弘幸『経営戦略の探求』(創成社)

荻原俊彦『多角化戦略と経営組織』(税務経理協会)

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 多角化経営とは、企業が事業活動を行って外部に販売する製品分野の全体の多様性を増すことである
  • 多角化経営のメリットとして「経済的なメリット」と「新事業領域への進出」がある一方で、デメリットとして「事業失敗のリスクが高い」「利益率の低下や財務リスクの悪化」「企業としてのアイデンティティの低下」がある
  • 多角化経営では、アンゾフの企業戦略論と範囲の経済という2つの重要な理論がある

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