ネイティブ・アメリカンに関する一連の知識を学ぶ場合、入門書から全体像を把握して、徐々に専門的な内容に触れていくことがおすすめです。
ネイティブ・アメリカンに関しては、さまざまな研究分野で膨大な研究蓄積があり、いきなり専門書にあたると路頭に迷う可能性があるためです。
そのため、この記事では、ネイティブ・アメリカンのおすすめ本を初心者、中級者、上級者の段階にわけて紹介します。
新書から英語の専門書まで紹介しますので、あなたの関心にあった書籍を手に取ってみてください。
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1章:ネイティブ・アメリカンのおすすめ本:初学者編
まず、ネイティブ・アメリカンを初めて学ぶ方に向けて、前提知識ゼロで読める本を紹介します。高額な専門書ではないですので、本棚に一冊あるといつでも見返せて便利な本です。
①『ネイティブ・アメリカン―先住民社会の現在』
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鎌田遵の『ネイティブ・アメリカンー先住民社会の現在』は、
- 「部族政府」「部族員」「部族」の仕組み
- ネイティブ・アメリカンの歴史と現在(→現在についてはこちら)
- 居留地の仕組みと抱える問題(→居留地についてはこちら)
- ネイティブ・アメリカンのカジノといった現代的な実践(→カジノについてはこちら)
- ネイティブ・アメリカンのイメージ変遷(→映画における表象についてはこちら)
といった内容が扱われています。
限られた字数の新書であるにもかかわらず、膨大な内容を高いクオリティでわかりやすく説明していることに感激です。
「ネイティブ・アメリカンについて知りたい」という漠然な疑問をもつ方は、まずこの本で間違いありません。教科書的に読むことができますので、私自身も重宝しています。
ただし、学術的な理論の試みられているわけでないので注意してください。たとえば、先住民社会を主に対象としてきた文化人類学的な議論や理論的分析はありません。
いずれにせよ、著者の鎌田遵自身によるフィールドワークと経験から提示される内容もあり、初学者にはとっても有益な本です。
鎌田遵の経験を知ることから始めるのもいいかもしれません。彼の壮絶な経験は、以下の書物から伺い知ることができます。
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1日で読めるような、ジュニア向けの本です。
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居留地の開発に関する話です。合わせて読んでみてください。
②『イシ―北米最後の野生インディアン』
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著者のシオドーラ・クローバーは作家であり文化人類学でもあります。夫はUCバークレー校で人類学部を創設した、著名な文化人類学者のアルフレッド・クローバーです。
『イシー北米最後の野生インディアン』は、
- 20世紀の初頭に突如現れたネイティブ・アメリカンの物語である
- イシと名付けられたこのネイティブ・アメリカンは、入植者の虐殺によって消滅したと考えられていた部族の生き残りだった
- 著者のシオドーラ・クローバーは虐殺した白人社会に飛び込び余生を過ごしたイシの物語から、西部開拓の悲劇を思い出すことを求めている
たとえば、シオドーラ・クローバーは次のような言葉を残しています。
彼らのうちのもっとも善良で優しい人も、彼ら以外の人間ーそれがインディアンにしろーに属する土地を自分のものにするー法律用語は「正当な征服」というものであったー権利が自分たちにあることを疑わなかったのだということを思い出してみてもよい。この侵略は、たとえ政府や大衆の支持がどんなに広汎で本物であったにせよ、古典的な侵略ー定住してきた人々のなかに力ずくで侵入し、侵略者がその人々にとって代わるというーであった。
(『イシー北米最後の野生インディアン』68頁から引用)
あなたが西部開拓の歴史にどうようなイメージをもつかはわかりませんが、イシの物語から西部開拓史、強いてはアメリカ史におけるネイティブ・アメリカンの存在を思い出してもいいかもしれません。
- シオドーラ・クローバーの娘はアーシュラ・ル=グウィンというSF作家
- アーシュラの著作の『世界の合言葉は森』(1973)は、ジェームズ・キャメロン監督制作の映画「アバター」に強い影響を与えている
- 「アバター」では「文化人類学者」的な主役のジェイクと、惑星にいる先住民の複雑な関係が描かれている
まだご覧になってない方は、この機会にぜひ観てみてください。
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アーシュラの『世界の合言葉は森』と合わせてどうぞ。
ネイティブ・アメリカンの歴史に関しては、藤永茂著作の『アメリカ・インディアン悲史』もおすすめです。
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2章:ネイティブ・アメリカンのおすすめ本:中級者編
さて、1章で紹介した本を読んだあなたにおすすめなのは、現代におけるネイティブ・アメリカンの実践を理解することです。
③『ネイティブ・アメリカンの世界』
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青柳清孝の『ネイティブ・アメリカンの世界』では、ネイティブ・アメリカンの歴史を押さえた上で、現代の実践が描かれている点が良いです。
たとえば、
- 博物館の展示に関するポリティクス
- カジノ経営による文化・言語復興とその問題点
- 都市におけるネイティブ・アメリカンの実践
が議論の対象となっています。
「ネイティブ・アメリカンは居留地において原始的な生活をする人々」としばしばイメージされるため、現代における実践に光が当たりにくいことがあります。
しかしネイティブ・アメリカンとしてのアイデンティティがどのように構築されるのかを考える上で、現代の実践は極めて重要です。青柳の論考はそのきっかけになるはずです。
ネイティブ・アメリカンの言語に関して興味のある方は、次の本がおすすめです。言語政策の歴史から現在の状況まで紹介されています。黒人や日系人の事例と学べます。
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④『アメリカ先住民-民族再生にむけて-』
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著者の阿部珠理は「サウスダコタ州のスー族保留地に通いはじめて、足かけ一五年」(同書 9頁)となる先住民に関する研究者です。
『アメリカ先住民-民族再生にむけて-』は、
- ネイティブ・アメリカンの起源に関する議論から居留地やイメージ形成、呼称問題、精神世界まで幅広い分野をカバーしている
- 特に、「民族再生」に向けたネイティブ・アメリカンの実践が力強く示されている
阿部のいう「民族再生」は太古まで繋がる文化実践の復興を意味しないことは大事です。むしろ、文化は変化を繰り返しながら持続してきたという視点が打ち出されています。
しばしば「真正な先住民像」が想定されがちですが、そのような形ではない21世紀における先住民のあり方を考えるきっかけになると思います。
しかし、非常に残念なのは脚注がついていないことです。この点で学術書とはいえないかもしれません。
「そもそも、先住民文化とはなにか?」と考える方には、まず先住民の神話や宗教観を学ぶことをおすすめします。
文化人類学の父による北米先住民の研究です。
レヴィ=ストロースの神話研究の一部。レヴィ=ストロースの著作にしては読みやすいです。
3章:ネイティブ・アメリカンのおすすめ本:上級者編
最後に、ネイティブ・アメリカンや世界の先住民を学ぶ上で読みたい学術書を紹介します。これから紹介する本は、日本の先住民族にも応用できるような議論がされています。
⑤『Returns』
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『Returns』の著者は世界的に有名なジェームズ・クリフォード(James Clifford)です。『文化の窮状』(1988)と『ルーツ』(1997)から構成される三部作の最終編です。
『Returns』の副題にあるように、「21世紀において先住民になること(Becoming Indigenous in the Twenty-First Century)」は何を意味するのか、が議論されています。
歴史を多方向的な過程(multidirectional process)と捉えるクリフォードは、カリフォルニア、アラスカ、オセアニアにおける先住民を対象としながら、逆説的な言葉遊びである「伝統的未来(traditional future)」を提示しています。
伝統という過去に振り返りながら、未来に向かうとはなにを意味するのでしょうか?
『文化の窮状』(1988)と『ルーツ』(1997)をあわせて、クリフォードの議論を飛び込んでみてください。
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ネイティブ・アメリカンの「真正性」を批判的に捉える上でも、次の書物も重要です。
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⑥『政治的アイデンティティの人類学』
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先住民との観点でいえば、『政治的アイデンティティの人類学』では先住民に対する国家の責務が編者の太田好信によって議論されています。
内容はケニアにおける総選挙、アイヌの博物館、国際法における「先住民」の定義など多岐にわたり、ジェンダー・政治哲学の議論を巻き込みながら進行していきます。そのため、学術的な知識なしに読み進めるのは難しい面があります。
ネイティブ・アメリカンというよりも、アイヌ民族という日本の先住民が議論に登場しますが、「国家と先住民の関係」を考える上で不可欠な視点を提供しています。
政治哲学の知識があるとわかりやすいですので、次の記事を参考に読んでみてください。
- 政治哲学に関して→【政治哲学とは】3つの流れと主な議論をわかりやすく解説
- 書籍に関して→【政治哲学のおすすめ本8選】代表的理論・名著・解説本を紹介
⑦『Red Skin, White Masks』
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『Red Skin White Masks』はカナダの先住民であるグレン・クルサード(Glen Coulthard)が著作です。先住民に関する関連本としておすすめです。
端的にいえば、『Red Skin, White Masks』は先住民とカナダという国家の間に存在する植民地的関係が「承認の政治(politics of recognition)」を通して改善するという考えを批判したものです。
タイトルからもわかるように、フランツ・ファノンの『黒い皮膚・白い仮面』に大きな影響を受けています。
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政治学、ポストコロニアリズム、本質主義や構築主義といった社会科学の基礎知識がないと読むことはできませんが、挑戦する価値のある本です。
特に、第一章の「植民地的コンテキストにおける承認の政治(Politics of Recognition in Colonial Contexts)」は本書を語る上で極めて重要です。それは国家と先住民の間にある植民地的関係は国家からの承認を通して解消されることはなく、それとは反対に、植民地的関係の再生産につながることが示されているためです。
次の記事を参考に、政治学と国際政治学を学び、ぜひ挑戦してみてください。
まとめ
あなたが関心を持てる本はありましたか?
この記事があなたの学びのきっかけになれば幸いです。
一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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