心理学

【個人心理学とは】アドラー・特徴・心理療法からわかりやすく解説

個人心理学とは

個人心理学(individual psychology)とは、オーストリア出身の精神科医であるアルフレッド・アドラー(Alfred Adler)によって創始された心理学理論です。

人間は過去や無意識の領域に囚われることはなく、自分の目標や実現したい人生のために成長することが可能な存在であるというアドラーの考えは、ポジティブ且つ斬新なアイデアとして知られています。

この記事では、

  • アドラーの伝記的情報
  • 個人心理学における「個人」
  • 個人心理学の特徴

をそれぞれ解説していきます。

あなたの関心に沿って読み進めてください。

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1章:個人心理学とは

まず、1章では「アドラーの伝記的情報」「個人心理学における『個人』」を解説します。2章から個人心理学の特徴を解説しますので、あなたの関心に沿って読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1: アドラーの伝記的情報

アドラー(アルフレッド・アドラー 1870年 – 1937年)

冒頭の確認となりますが、アルフレッド・アドラー(Alfred Adler)はオーストリア出身の精神科医です。まずは、彼の伝記的情報を簡潔に紹介します。

アドラーの伝記的情報

  • 1870年に穀物商の息子として誕生したアドラーは、幼い頃は病気がちであった
  • くる病にかかったり、肺炎で命を落としかけたりするなどの経験から、医者になることを決心
  • 大学を卒業後、眼科医として医師のキャリアを開始したアドラーは、結婚後に内科医として開業する
  • 診療所を開いたアドラーは、町医者として下層階級の人を診察する中で、社会医学や公衆衛生の分野に該当する「労働者のための心理学」に関心を持つようになる
  • また、アドラーは第一次世界大戦において軍医として従軍した経験をもち、この経験から働く人や動員される一般人のための心理学である「個人心理学」を創始した
  • 晩年のアドラーは、個人心理学を通じて全ての人間がより良く生きることができるようにするために、講演旅行を盛んに行ったことで知られている
  • アドラーは1937年、ヨーロッパへの講演旅行の最中に心臓発作を起こし、人生の幕を閉じた

このような人生を送ったアドラーを語る上で欠かせないのが、精神分析学を創始したジグムント・フロイト(Sigmund Freud)の存在です。

なぜならば、フロイトとアドラーは、

  • ウィーン精神分析協会を共に立ち上げた研究上の同志といえる関係であった
  • しかし、学説上の対立からアドラーはウィーン精神分析協会を去り、フロイトと決別することとなる

からです。

つまり、20世紀の心理学を語る上で欠かせない二人ですが、上流階級に生まれアカデミックな心理学を追求したフロイトと、社会で実際に働く人に向けた実用的な心理学を追求したアドラーの二人にはその目的と方法に大きな違いあったのです(二人の対立点については後述)。

ちなみに、アドラーの創始した心理学理論は「個人心理学」「アドラー心理学」の二つの呼び名で知られています。

  • 個人心理学・・・アドラー自身による心理学理論を指すもの
  • アドラー心理学・・・後世の研究者が個人心理学で示された概念を含む、アドラーの考え方を総合的に指したもの

どちらも本質的には同じ内容を指しますが、この記事では心理学という学問内での正式な呼び名として用いられる「個人心理学」を採用して紹介します。



1-2: 個人心理学における「個人」

個人心理学の特徴を整理する前に、アドラーが自身の心理学理論にも名付けた「個人」の意味についても触れましょう。

まず、アドラー研究者の岸見一郎は、個人心理学を「分割できない全体としての人間を扱う心理学」2岸見 2017『アドラーをじっくり読む』(中央公論新社, 58頁)を参照であると主張しています。

なぜならば、アドラーは、

  • 人間を「感情と理性」「意識と無意識」というような二元論で表すことができない存在である
  • 人間を構成する要素があったとしても、それらは複雑に絡み合い相互に影響する、「全体の一部」に過ぎない
  • そのため、アドラーは個人という存在を「これ以上分割できない存在」である

と考えたためです。

事実、「個人心理学」は英語で「Individual psychology」と示され、「Individual」はラテン語の「分割できない(individuum)」という意味をもちます。

この「分割できない」の意味が英語の「Individual」として表され、日本語では「個人心理学」という名称になります。そのため「Individual」は、日本語における「個人」の意味とは少々異なる意味を持つため、注意が必要です。

1章のまとめ
  • 個人心理学とは、オーストリア出身の精神科医であるアルフレッド・アドラー(Alfred Adler)によって創始された心理学理論である
  • 個人心理学の個人とは、「これ以上分割できない存在」である

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2章:個人心理学の特徴

では一体、個人心理学にはどのような特徴があるのでしょうか?2章では個人心理学の「前提概念」「人間観」から特徴を紹介してきます。

2-1: 個人心理学の前提概念

まずは、個人心理学の「前提概念」をみていきましょう。

2-1-1: 5つの基本前提

基本的に、個人心理学には「5つの基本前提」と呼ばれる概念が存在します。

具体的に、5つの基本前提とは「個人の主体性」「全体論」「目的論」「認知論」「対人関係論」で、以下のように説明することができます。

  • 個人の主体性…人間は、自分自身で自分の人生を決めることができる存在だということ
  • 全体論…人間は、それ以上分割できない「個人」であること(1-2を参照)
  • 目的論…人間の全ての行動には、必ず目的があること。人間は自分自身で決めた目的を実現するための行動を取るということ
  • 認知論…人間には、それぞれ固有の価値観があること。人間はそれぞれの価値観によって「意味づけ」した世界を見ているため、同じ状況に対する感じ方は人それぞれであること
  • 対人関係論…人間にとっての全ての悩みは、対人関係から発生する悩みであること

わかりやすい前提となっていると思いますが、これはアドラーが個人心理学を「すべての人に理解できるものでなければならない」と考えていたためです3岸見 2010『アドラー 人生を生き抜く心理学』(NHK出版, 27頁)を参照

そのため、なるべく専門的な用語を使わず、多くの人が理解できるような理論になるようにしたといわれています。

2-1-2: 目的論

上述した前提概念でもっとも重要なのは、人間の思考や行動についての捉え方として「目的論」を採用していることです。上述したように、個人心理学における目的論は「人間は、何らかの目的を達成するために、現在の行動を選択する」という考え方です。

目的論と対立するように、フロイトは「原因論」を採用しました。これは「人間の行動には性的な欲求に基づく原因がある。原因によって、人間の行動は定められている」と考えるもので、フロイトの分析の中心的な考え方です。(→詳しくはこちら

このように書くと、お気づきかもしれませんが、アドラーとフロイトの対立は「人間の行動が何から生じたものなのか」という疑問から生じたものです。

「未来は必ず変えることができる」という考えを持っていたアドラーは、未来は何らかの原因によって定められているのではなく、今現在の自分が決定した目的によって決定されると強調しました。

徹底した未来志向の哲学は間違いなく個人心理学の特徴ですが、当時のウィーンや精神医学界ではフロイトの「原因論」に分があったため、現在ほど支持された議論ではなかったといいます。



2-2: 個人心理学における人間観

個人心理学の特徴の一つである、人間観を深掘りしていきましょう。

2-2-1: 劣等感と劣等コンプレックス

まず、個人心理学において特徴的なのは、人間は常に劣等感を持つ存在と想定されていることです。

  • 劣等感とは「自分は他人より劣っている存在だ」「自分は、周囲の人の役に立てない」と考えることで生じる感覚を指す
  • 劣等感を持った人間は、自分の劣った部分を他の行動で補おうとしたり、劣った点を克服しようとする(この行動を専門用語で「補完」と呼ばれる)

アドラーは劣等感を克服しようとすることを、まさしく人間の「成長」であるとしました。つまり、劣等感を克服し自信を持つことで、人間は胸を張って社会へと出ていくことができると考えていたのです。

しかし、反対に劣等感に囚われてしまうと、それは「劣等コンプレックス」となります。

  • 劣等コンプレックスは、劣等感を認知して成長するために必要なものではありますが、限度を越してしまうと、人間は「生きづらさ」を感じてしまう
  • アドラーは劣等コンプレックスが増幅されると、神経症が生じる可能性が高まると考えた(神経症:不眠、身体の痛みや違和感などを感じる、器質性の原因が不明の病気)

アドラーに従えば、神経症を予防するには劣等コンプレックスが増幅する前に、その人自身が劣等感を「克服する」ことを決意し、克服するという目的のために生きようとすることが大切だといえるでしょう。

2-2-2: 共同体感覚

ある意味当然ですが、劣等感は「他者との比較」から生じる感覚であるといえます。では、劣等感を感じるそもそもの原因といえる「周囲」や「社会」などの他者について、アドラーはどのように考えているのでしょうか?

結論からいえば、アドラーは人間は「人と人が関わり合う社会の中で生きる存在」と考え、完全に孤独に生きることはできない存在であると考えました。

個人心理学において、このような人間観は「共同体感覚」として以下のように示されます。

  • 「人と人が関わり合う場所、社会」のことを「共同体」といい、自分自身が「この共同体の一員である」と思う感覚を「共同体感覚」という
  • 共同体感覚をもつと、人間は他者を「共同体に属する仲間」として信頼できるようになるだけでなく、「自分の居場所はここだ」と認識し、安心して過ごすことができるようになるとされる
  • アドラーの定義する「共同体」は、実際の職場や学校などの交友関係だけではなく、地域や国といった大きな規模のものにまで及ぶ

アドラーは共同体の限界を定めておらず、最大の共同体は「宇宙」であるとしています。概念と呼べる「共同体」に対する親しみを持ったり、仲間と思う感覚を身につけたりすることは、非現実的なことでもあります。

「共同体感覚」は極めて理想主義的な話ではありますが、個人心理学の未来志向の性格をよく表した要素であるといえます。(→詳しくはこちら

2章のまとめ
  • 5つの基本前提は「個人の主体性」「全体論」「目的論」「認知論」「対人関係論」である
  • 劣等感・・・人間は常に劣等感を持つ存在と想定されている
  • 共同体感覚・・・人間は「人と人が関わり合う社会の中で生きる存在」と考え、完全に孤独に生きることはできない存在である

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3章:個人心理学の心理療法

個人心理学では患者の共同体感覚を養う心理療法がされますが、そこで重要なのは患者個人の「ライフスタイル」を分析して治療に役立てることです。それぞれ解説していきます。

3-1: ライフスタイルとは何か

そもそも、個人心理学におけるライフスタイルとは、

人間が世界そのものや他者、自分自身や自分の人生など、あらゆるものに対して行う「意味づけ」のこと

です。

上述したの5つの基本前提のうち「認知論」に属します。「ライフスタイル」という言葉を用いて説明すれば、人間は自分のライフスタイルに従って世界を認知し、目的の実現や行動を行う存在といえます。

ライフスタイルはしばしば「世界に対する色眼鏡」として表現され、人間が色眼鏡を通じて世界を見ていると想定されます。この言葉は「他者は自分の見ている世界と同じ世界を見ているわけではない」と解釈することができるでしょう。

つまり、ライフスタイルが全く同じだという人は存在せず、ライフスタイルは個人の人生や成功体験から生じた個性を有しているのです。ライフスタイルが他者との関わりの間で表出したものは、「性格」と呼ばれます。

3-2: ライフスタイルとコミュニケーション

アドラーは、人間は個別のライフスタイルを用いて問題解決を行う存在だと考えました。

たとえば、対人関係の中では、状況や人に応じて様々な問題が発生することが予測されます。このとき、人間は避けることのできない対人関係の悩みを乗り越えることによって、問題解決の方法を知ることができます。

それは、

  • 「ああすればうまくいく」「こうしたときはうまくいかなかった」という各々の成功・失敗経験から、人間は自分のライフスタイルを形成していく
  • つまり、ライフスタイルは対人関係におけるコミュニケーションによって作り上げられる

といえます。

そして、個人の問題解決の成功経験が再びライフスタイルを形作っていくのです。



3-3: ライフスタイルの変容

これまでみたように、ライフスタイルは対人関係の中で作り上げられる認知のスタイルです。

ここで確認しておきたいのは、個人心理学は「個人の主体性」を基本前提にもっており、全ての行動は「自分が選んだ目的を達成するために行われるもの」であると定義される心理学であること

つまり、個人心理学では、ライフスタイルも同様に、「個人の自由意思によって選んだもの」として認識されます。たとえそのライフスタイルが、自らの対人関係における成功・失敗経験の影響を受けたとしても、そのライフスタイルを最終的に選んだのは「自分自身」であると定義されるのです。

言い換えば、ライフスタイルは自分の手で選んだものである限り、いつでも変更することができます。たとえば、以下の状況を考えてみてください。

  • 「他者は敵だ」という思い込みから「他者を信用しない」というライフスタイルを選択した人がいる
  • この人は他者を信用しないと「自分自身の意思で」決めているため、対人関係においても困難に多く見舞われることが予想される
  • そこで、個人心理学を用いたカウンセリングでは、その人に「他者は味方である。他者は自分に危害を加えないだろう」というライフスタイルをもてるように促します。
  • その人が自分のライフスタイルを「他者を信用して大丈夫」というように変更できたとき、異なるライフスタイル=色眼鏡を通してみた世界は、以前にその人が見た世界とは異なって見えると推察されます。

「そんな簡単にいくわけないだろう!」と思う方もいるかもしれませんが、個人心理学におけるカウンセリングでは、患者自身がライフスタイルを「決定」するという行為がとても重要です。

カウンセラーはあくまで「促す」だけであり、決定するのは患者自身です。この特色は、個人の意思や、個人の自己決定を重んじる個人心理学ならではの特徴であるといえます。

3章のまとめ
  • ライフスタイルとは、人間が世界そのものや他者、自分自身や自分の人生など、あらゆるものに対して行う「意味づけ」のこと
  • 個人心理学におけるカウンセリングでは、患者自身がライフスタイルを「決定」するという行為がとても重要となる

4章:個人心理学を学べる本

どうでしょう?個人心理学の概要を掴むことができましたか?

あなたの学びをより深めていくためにも、ぜひ以下の書物に触れてみてください。

おすすめ書籍

岸見 一郎/古賀 史健『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)

日本でアドラーが注目されるようになったきっかけの一冊といえる本です。哲学者と青年の対話形式で書かれており、物語を読む感覚で個人心理学を理解することができます。

小倉広『アルフレッド・アドラー 人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)

個人心理学の考え方について、最もシンプルにまとめられた本の1つです。アドラーが生涯を通じて行った講演の中から、選りすぐりの100文が詰められています。

岸見一郎『成功ではなく、幸福について語ろう』(幻冬舎)

人生における様々な困難について、アドラーの考え方や個人心理学に基づいて解決策を示した一冊です。進路の悩みや親の介護など、日常場面で生ずる様々な悩みを解決するために、個人心理学をどのように使っていくべきなのかを学ぶことができます。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 個人心理学とは、オーストリア出身の精神科医であるアルフレッド・アドラー(Alfred Adler)によって創始された心理学理論である
  • 5つの基本前提は「個人の主体性」「全体論」「目的論」「認知論」「対人関係論」である
  • ライフスタイルとは、人間が世界そのものや他者、自分自身や自分の人生など、あらゆるものに対して行う「意味づけ」のこと

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