日本人に対するイメージとは、日本人でない他者による日本人・日本文化・日本という国のイメージを意味します。
あなたも一度は「海外から日本はどう観られているのだろう?」と考えことはないでしょうか?たしかに、そのような疑問に回答した対日イメージ調査は多く存在します。
しかし、外国人が描く日本人のイメージについて一枚岩に語ることは極めて難しいです。それは時代背景や政治情勢に大きく影響されるものだからです。
ですからこの記事では、大まかであるものの、「なぜそのような日本人のイメージが形成されたのか」「そのイメージは生まれた背景とは」といった点を歴史的に説明した議論を紹介してきます。
少なくともグローバル化がさらに進む世界で日本人に対するイメージを学ぶことから、日本の文化的な位相を理解することは大事です。
この記事では、
- 日本人に対するイメージ形成の歴史
- アメリカの日本人に対するイメージ
をそれぞれ解説していきます。
あなたの関心に沿って、読み進めてください。
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1章:日本人のイメージの歴史
1章では日本人に対するイメージ形成の歴史を紹介します。
アメリカから観た日本人のイメージを関心のある方は、2章から読み進めてください。
1-1: 日本人のイメージの形成
日本人のイメージを学問的に学ぶ上で有効な方法の一つは、文化を専門に扱ってきた文化人類学の研究成果を参照することです(→文化人類学についてはこちらの記事)。
ここでは、著名な文化人類学者である綾部恒雄(編)の『外から見た日本人』から日本観の歴史を紹介していきます。
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1-1-1: 日本の「発見」
日本人のイメージが形成される上で大事なことは、日本は「発見」される対象であったということです。つまり、世界史のなかに位置づけると、日本は文化的にも地理的にも「辺境」にいます。
たとえば、日本は次のような人々に「発見」された歴史をもちます。
- 3世紀の中国記録である『三国志』「魏書」東夷条のなかで倭人伝として登場する。中国王朝からみて日本は、中国を取りまく数多くの夷狄の一つ
- 13世紀には有名な『東方見聞録』において、日本は黄金やバラ色の真珠が広がる「エル・ドラード(黄金郷)」として描かれる
- 16世紀になると、宣教師らによって日本についての詳細な報告書が作成される(詳細は後述)
- 19世紀中葉には、黒船の到来によって日本は世界史のなかに組み込まれる
特に、西欧文明の軍事力、価値観、宗教が地球の隅々まで広く浸透して以降、非西欧諸国にとって近代化とは西欧化を意味していました。そのような国における知的なエリートは、自らの意識の有無にかかわらず、各国の伝統の上に西欧的な価値観を身につけました。
現在、世界で優越的な日本人のイメージは西欧文明の価値判断が基準になっているものが多いのはそのためです。
言い換えると、西欧人による一つのイデオロギーとして日本人のイメージを捉えることができるのです。
ですから、大事なのは「西欧文明に日本がどう発見されたのか」を理解することです。ここからは西欧文明と日本社会の関係を簡潔に紹介します。
1-1-2: キリシタンによる日本人のイメージ
そのような歴史の始まりは、キリシタンによる日本のイメージです。1543年種子島にポルトガル人が到着しますが、彼らが漂着する前に参照したのはマルコ・ポーロの『東方見聞録』です。
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漂着したポルトガルは『東方見聞録』によって、
- ジパングはマンジ(チナ)の海岸から東方1500マイルに存在する
- ジパングは7448個の島々から成る
- ジパングには金、真珠、宝石がある
- 偶像崇拝がおこなわれる
- 食人の習慣がある
といった「知識」をもっていたといいます。
そして、さらに有名なのは1549年8月に鹿児島に上陸したフランシスコ・ザビエルです。
日本に関してザビエルは、
- 最初の通信で日本は「今日まで交流した限りにおいて、すべての今までに発見された諸国民のうちで最良のもの」と述べた
- 『日本史』を著したポルトガル宣教師には、「日本人は多くの点でスペインに優る」と主張した
とされています。
その結果、ザビエルは、イエズス会の理想である「道徳的に高潔で、清貧に甘んじ」に非常に近い国と考えたそうです。
1-1-3: 宗教改革
ザビエルがこのように考えた背景には、ヨーロッパにおける社会的な動乱があります。
端的にいえば、当時のヨーロッパでは、ルターによる宗教改革に対抗したカトリック側が体制の再構築を試みており、外に広がっていくことが要請されてたという事情があります。
宗教改革とは、ルターのカトリック教会批判をきっかけとして、カトリック教会からプロテスタントを分離させた一連のキリスト教の改革です。
ヨーロッパによる日本のイメージを理解する上で、ヨーロッパ思想のこの転換期はとても重要です。それは外へとカトリック信者が広がりを試みるなかで、ザビエルが伝えた日本という国にキリスト教的なユートピアをみたからです。
しかし、キリスト教的ユートピアはイエズス会の思い込みであったことは、織田信長や豊臣秀吉による迫害を思い出せばいいでしょう。
たとえば、断片的ではありますが、キリスト教の迫害は映画「沈黙」から理解することができます。
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1-2: 日本人のイメージとあべこべ
18世紀までに理想郷として日本のイメージが崩れたと後も、日本は摩訶不思議な国であるというイメージは残りました。そこのでキーワードは「あべこべ」です。
ここでいうあべこべとは、
ヨーロッパ文化とは異なった国、つまり日本とヨーロッパは対極にあるというイメージ
です。
たとえば、1726年に発表された『ガリバー旅行記』に出てくる小人国であるリリパットは、イギリス人作家のスウィフトが日本を念頭においたキャラクターといわれます。
その他にも、次のような記述があります。
- 「日本はヨーロッパとはまったく反対に走っている世界である」と指摘(ヴァリニャーノによる『日本要録』)
- 1873年から38年間日本に滞在したチェンバレンの『日本事物誌』には、「あべこべ(Topsy-turvydom)」の項目がある
- アメリカ人動物学者のモースは『日本その日その日』(1917)で、「いろいろなことをやるのに日本人と我々とが逆であるという事実がある」と指摘
1-3: 日本人のイメージとジャポニズム
そして西欧文明における日本人のイメージ形成で欠かせないのが、19世紀後半から世紀末の約50年間、フランスを中心とした日本趣味の流行であるジャポニズムの展開です。
流行の背景
- 1609年以降、日本とオランダの交易によって膨大な量の日本の芸術や工芸品が輸出されたことがジャポニズムの背景にある
- 1862年のロンドン国際博覧会における日本の工芸・芸術品が紹介されて、ヨーロッパの芸術に影響を与えた
本場のフランスでは1860年代からの30年間、日本の浮世絵はパリの芸術家に大きな影響を与えるものでした。867年のパリ万博では開国を記念した新作品の出品がされています。
いずれにせよ、ジャポニズムは優雅で繊細な日本人のイメージを提供するきっかけとなり、一種のロマンティシズムとして日本観を形成してきました。
明治期に入ると、貿易や軍事関係者だけでなく、芸術に関心のあるヨーロッパ人が大量に来日します。それによって、19世紀から20世紀にかけて「芸術の国」は日本観の重要な一角となります。
第二次世界大戦以降は日本人を「罪人」とするイメージが普及しましたが、このイメージが長引くことはありませんでした。それは日本の伝統文化を美化した肯定的日本観が19世紀以降継続していたからです。
1-4: 日本人のイメージと日本文化論
さて、これまで紹介してきた内容は文学や芸術という限定された側面に焦点を当てており、日本文化全体に対するイメージや議論ではないことがわかると思います。
第二次世界大戦以降は最も影響力があった文化人類学者ルース・ベネディクトによる『菊と刀』を代表的な例として、日本文化全体に対する議論が活発になります。
『菊と刀』の詳細は2章で後述しますので、ここでは第二次世界大戦後の外国人による「肯定的な日本のイメージ」と「批判的な日本のイメージ」を紹介します。
1-4-1: 肯定的な日本のイメージ
肯定的なイメージは脱植民地化に伴う西洋至上主義の衰退という世界の政治的・社会的変化から生まれてきました。言い換えると、文化に優劣をつけない文化相対主義的な見方が勢いを得たのです(→文化相対主義についてはこちら)。
たとえば、代表的なものとしては1952年に発表された『皇太子の窓』があります。皇太子の家庭教師であったヴァイニング夫人による記述で、天皇制や神道に理解を示し、肯定的日本観を提示したものとなっています。
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その他にも、肯定的な日本のイメージには、
- エズラ・ヴォーゲルの『ジャパン・アズ・ナンバーワン』
- ジェームズ・クラベルの『将軍』
- ラストベーダーの『忍者』や『巫女』
があります。
1-4-2: 批判的な日本のイメージ
そして批判的な日本のイメージとは、1980年代以降に台頭した、日本人による日本文化論を外国人が批判的考察することを意味します。
簡潔にいうと、日本文化論とは、
- 日本人が自らの文化や社会について学問的に論じること
- 日本文化論の伝統は、本居宣長の『古事記伝』に始まる(注意:本居宣長自身は日本文化論という言葉は使っていない→国学について詳しくはこちら)
- 第二次世界大戦後はナショナリズムに傾向を強めた文化論ではなく、日本文化と世界の関連を議論する文化論が生まれた
というものです。
このような日本人による日本文化論に対して、的を射ているか射ないかは別として、批判的な外国人論者が登場してきました。
たとえば、日本研究のデル『日本的独自性の神話』(1986)があります。これは日本の思想家が「自分たちはユニークだ」と考えることはナルシシズムであると痛烈な批判をしたものです。
ベルのような指摘が西欧中心主義かどうかは議論が分かれますが、いずれにせよ「日本人のイメージ」とはおおまかに以上のような歴史をもって形成されてきました。
これまでの内容をまとめます。
- 日本は「発見」される対象であった
- 外へとカトリック信者が広がりを試みるなかで、ザビエルが伝えた日本という国にキリスト教的なユートピアをみた時期がある
- 19世紀から20世紀にかけて「芸術の国」は日本観の重要な一角
- 第二次世界大戦後は、「肯定的な日本のイメージ」と「批判的な日本のイメージ」の二つが大きくある
2章:アメリカから日本人のイメージ
さて、アメリカと比較しないことは許されないほど、日本社会は産業、政治、文化のすべての側面でアメリカと深い関係をもっています。
しかし、一方のアメリカはどのように日本を観ているのでしょうか?正直にいうと、アメリカの対日感情を網羅的に紹介することは難しいです。
そこで、この記事では「外務省による最新の対日世論調査」と「学術的な研究」を紹介します。
2-1: アメリカにおける対日世論調査
ここでは平成30年度に外務省によって実施されたアメリカにおける対日世論調査を紹介します。すべてデータは外務省HPでアクセス可能です。
外務省が実施したデータの結果概要は以下の通りです。
2-1-1: 対日関係
(外務省のデータ:海外における対日世論調査より引用)
このグラフを見る限り、平成30年度の対日世論は良いといえるでしょう。一般と有識者の間に認識の差がほとんどないことがわかります。
2-1-2: 信頼関係
(外務省のデータ:海外における対日世論調査より引用)
信頼関係に関しても、一般と有識者ともに80%以上が信頼できると回答しています。特に、90%の有識者は日本を信頼できると評価していることがわかります。
2-1-3: アジアのパートナー
(外務省のデータ:海外における対日世論調査より引用)
こちらは一般と有識者に大きな違いがでています。有識者のうちの45%は日本がアジアにおける最も重要なパートナーと考える一方で、一般では31%のみです。
米中間では貿易戦争が起こっていますが、一般と有識者ともに二番目に重要なパートナーと考えられていることもわかります(→貿易戦争についてはこちら)。
(余談ですが、一般の方はロシアをアジアと考えているのでしょうか?)
2-1-4: 地域における日本の役割
(外務省のデータ:海外における対日世論調査より引用)
最後に、アジアにおけるアメリカと日本の役割です。一般と有識者の両者ともに、アジアの平和と安定に日本が役割を担う必要性を感じています。
この調査から、アメリカ人は日本を信頼できる「友好的」なパートナーとして認識していることがわかります。
しかし、このような調査には、次のような批判的認識も必要です。
- 人々が抱く対外感情は、状況に依存して大きく変化するもの
- 特に、政治情勢に応じて変化しやすいため、注意して読み取るべき
たとえば、日米貿易摩擦が恒久化した1980年代には「ジャパン・バッシング」があり、対日感情は決していいものではありませんでした。
このように、対日世論調査は揺れ幅が大きく、つかみ所がありません。そこで、アメリカ人による日本研究の代表的なものを紹介します。
2-2: 菊と刀による日本人のイメージ
文化人類学者のルース・ベネディクトが第二次世界大戦中の敵国である日本を知るためについて書いた本、それが『菊と刀』です。『菊と刀』では日本文化とアメリカ文化が比較検討されており、恐らく外国人による日本研究で最も有名な本でしょう。
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2-2-1: 階級制
結論からいえば、『菊と刀』において、ベネディクトは「階級制(ヒエラルキー)」が日本文化と考えました。
たとえば、ベネディクトは「成金」という事例を提示します。日本とアメリカにおける「成金」の捉えられ方についてベネディクトは次のように説明します。
日本社会の場合・・・「秩序と階層的な上下関係に信を置く」ため、成金は常にネガティブな意味を含意する
アメリカ社会の場合・・・「自由と平等に信を置く」ため、ヌーボー・リッシュ(成金)はポジティブとネガティブな意味を同時に含意する
ベネディクトはアメリカ社会と比較しながら、日本社会は階層的な上下関係に信頼を寄せており、それが家族、国家、信仰、経済活動の基層となってるといいます。
成金の事例はほんの一例で、『菊と刀』では日本人が「応分の場を占めること」をどう理解しているのかに関して多くの事例が提示されます。ここで事例は省略しますが、ベネディクトが主張してるは日本人の行動の前提となるのは階級制である、と考えてください。
2-2-2: 菊と刀の評価
アメリカでは刊行以来、すぐさま古典になったという評価もあれば、強い否定の評価もあります。
アメリカ社会での評価
肯定的な評価・・・たとえば、ボアズのもとで学んだ著名な文化人類学者のマーガレット・ミードは『菊と刀』は「瞬時に古典」になった著作であると評価
否定的な評価・・・その一方で、ダグラス・ラミスはベネディクトに厳しい批判した。たとえば、ベネディクトは日系人と日本人を同一視しており、それは日本人の行動を本質主義的に描き出すのもである、と指摘
個別の評価はさまざまですが、まずはあなた自身で読むことをおすすめします。
より詳しい解説は、以下の記事に参照ください。
3章:日本人のイメージを学ぶためのオススメ本
日本人のイメージについて理解することはできましたか?
冒頭で説明したように、外国人が描く日本人のイメージについて一枚岩に語ることは極めて難しいです。
またアカデミックな装いを伴いながら、本質的な日本人論が語られることは少なくありません。そのため、注意深く日本人を議論した書物にあたる必要があります。
ここでは、日本人に対するイメージを学ぶためのオススメ本を紹介していきます。
オススメ度★★★綾部 恒雄(編)『外から見た日本人―日本観の構造』(朝日新書)
この本は日本観を考察したものです。内容はドイツ・フランス・タイ、ハワイ、アメリカ、ブラジルといった国々から日本が考察されており、初学者には大変有益です。
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オススメ度★★ヘレン・ミアーズ
ベネディクトの『菊と刀』とほど有名ではありませんが、アメリカによる日本の分析としては古典的なものです。マッカーサーが翻訳を禁じたといわれる書物でもあります。
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まとめ
この記事の内容をまとめます。
- 日本は「発見」される対象であった
- 19世紀から20世紀にかけて「芸術の国」は日本観の重要な一角
- 第二次世界大戦後は、「肯定的な日本のイメージ」と「批判的な日本のイメージ」の二つが大きくある
- アメリカによる分析で最も有名なものは、ベネディクトの『菊と刀』
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外務省のデータ:海外における対日世論調査より引用(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/culture/pr/yoron.html)