社会思想

【文化伝播論とは】特徴・批判から日本への影響までわかりやすく解説

文化伝播論とは

文化伝播論(diffusionism)とは、文化要素が民族から民族へと伝播したと考えるものです。文化伝播論者はこの観点から世界における諸民族の文化史の再構成を試みました。

主に人類学で提唱された文化伝播論は、世界の文化の類似と差異を説明しようと試みた理論です。しかし、数々の批判に晒された伝播論は、すでに歴史の一部となっている感があります。

とはいえど、日本の学者に影響を与えているように、その理論的な影響力は無視できません。

そこで、この記事では、

  • 文化伝播論の意味・特徴
  • 文化伝播論の研究・批判
  • 文化伝播論と日本

をそれぞれ解説していきます。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:文化伝播論とは

1章では文化伝播論を「意味」「特徴」から解説します。より具体的な研究や批判に関するある方は、2章から読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1: 文化伝播論の意味

冒頭の確認となりますが、文化伝播論とは、

文化要素が民族から民族へと伝播したと考えるもの

です。

意味自体はそれほど難しいものではありません。むしろここで重要となるのは、文化伝播論が提唱された文脈です。

結論からいえば、大航海時代以降、ヨーロッパ文化とは著しく異なる文化をどのように説明すればいいのか?といった文脈から文化伝播論が登場します。

このような疑問に明確に回答したのが、かの有名な「社会進化論」です。社会進化論とは、基本的に以下のような意味をもちます。

  • 人間の社会が進歩的に発展していくと考える思想である
  • 社会の発展段階は宗教、生業形態、婚姻制度、経済制度などで決定される
  • ヨーロッパ文化を最高度とした単線的発展が想定された

※社会進化論に関しては、次の記事で詳細に解説していますので、ぜひ読んでみてください。→【社会進化論とは】スペンサーの議論や問題点をわかりやすく解説

社会進化論は大きな影響をもっていましたが、説明の仕方に大きな問題があったのも事実です。たとえば、人類学者のクネヒト・ペトロは以下のような指摘をしています2クネヒト・ペトロ 2006『文化人類学20の理論』弘文堂, 20頁

これ(社会進化論)は合理性をもった説ではあったが、具体的な資料の分析をもとにして得た結論ではなく、当時の西洋文化を文化の最高峰にしながら、他の文化の位置を先験的に推定される複雑度によって分類しようとする、立証力に欠ける説明の試みでしかなかった ※()は筆者加筆

このような論理的欠点があったために、「文化が独立して発生したのか?それともヨーロッパ大陸のある発生地から世界各地へ広まったのか?」といった問題は解明されていないままであったといえます。

そういった意味で、進化論とは異なるあり方で、文化伝播論は世界文化の類似と差異を説明しようと試みた理論といえるでしょう。



1-2: 文化伝播論の特徴

より詳しい文化伝播論の研究は2章で説明しますが、大まかに「イギリス」「ドイツ・オーストリア」による伝播論的立場が存在したといえます。簡潔に紹介します。

1-2-1: イギリスの伝播論

イギリス伝播主義で有名なのは、エジプトのミイラに関する研究です。この研究ではケンブリッジ大学の研究者グループが、エジプトで誕生した文化的要素が世界的に拡散したことを主張しました。

特に、エリオット・スミスが唱えた汎エジプト説は有名です。主張は以下のとおりです。

  • ミイラを精製する防腐技術は、他の文化的要素の形成に寄与した
  • この技術はエジプトで発明されたのみで、後にさまざまな観念とともに世界の多くの民族へと刺激を与えた
  • そうしてエジプト文化が東方へ広がり、最終的に太平洋を渡り新大陸へ到達した

このようなスミスの主張は、メラネシア社会の研究をおこなったウィリアム・リヴァーズへと発展しながら受け継がれます。

しかし、あまりにも極端な空想的伝播論であると批判に晒されると、そのような主張は消えていくことなります。

1-2-2: ドイツ・オーストリアの伝播論

そして、「文化圏」や「文化層」といった概念を提示したのはドイツ・オーストリア伝播主義者です。それぞれの概念は次の意味をもちます。

  • 文化圏・・・長期にわたり安定して人間生活の主要な文化要素がある地域に存在する場合、それは伝播によるものとして、そのような文化的複合を文化圏と呼ぶ(フロベニウスが提唱)
  • 文化層・・・文化圏を時間軸で把握したものを文化層と呼ぶ(グレープナーが提唱)

そして、ドイツのヴィルヘルム・シュミットは上記のような概念をもとに、世界各地の諸文化を文化史的に再構成することを試みました。彼の研究に関して、詳しくは以下の書物の一節で解説させれています。

1章のまとめ
  • 文化伝播論とは、文化要素が民族から民族へと伝播したと考えるものである
  • 進化論とは異なるあり方で、文化伝播論は世界文化の類似と差異を説明しようと試みた理論である
  • 大まかにに「イギリス」と「ドイツ・オーストリア」による伝播論的立場が存在した
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2章:文化伝播論の研究と批判

さて、2章では文化伝播論の研究や批判をより細かく紹介していきます。

2-1: 文化伝播論の規準

ドイツ人のフリッツ・グレープナーは、文化間の相互関係を科学的に捉えるための方法論の構築を試みました。その成果が『民族学の方法論』です。この書物では類似する文化現象を比較検討し、歴史的な系譜を調べるための3つの規準が提示されています。それぞれ解説してきます。

2-1-1: 形態規準

形態規準とは、

「符合する事物の特徴が、事物自体の本質から必然的に結果したものではなく、またはその材料とか地理的気候的条件によって決まるものでもない」3クネヒト・ペトロ 2006『文化人類学20の理論』弘文堂, 27頁こと

を意味します。

たとえば、アフリカとメラネシアにおける弓の形態が似ているとします。しかし、弓を作るために利用される材料・気候は、本質的な意味でその特徴と関係ありません。

このように考えることによって、文化的要素の類似関係を考察する際に発生する主観的な視座を省くことができるとグレープナーは考えました。

2-1-2: 量的規準

量的規準とは、

「ある地域内にたとえば弓矢のようなひとつの事物が特定の類似性を有するのみならず、その事物とともに必ずといってよいくらいにその他のいくつかの現象か要素が特徴的に共存すること」4クネヒト・ペトロ 2006『文化人類学20の理論』弘文堂, 28頁

を意味します。

先ほどの例でいえば、アフリカとメラネシアにおける弓の形態が似ているとした場合、盾や仮面などの間にも類似関係があるということです。

2-1-3: 継続規準

そして、最後に、継続規準とは、

「ある要素の発生地と現在の分布地区との間に伝播の痕跡が残っている」5クネヒト・ペトロ 2006『文化人類学20の理論』弘文堂, 29頁こと

を意味します。

文化が伝播するとき、一気に空間的に移動することはないので系譜関係が存在することを確認する必要があります。そのためこの規準が設けられました。



2-2: 文化伝播論への批判

上述のような方法論によって研究がおこなわれた文化伝播論ですが、さまざま批判の対象となったのも事実です。

ここでは、1920年代イギリスで登場した機能主義による批判を紹介します6山下 晋司 , 船曳 建夫 『文化人類学キーワード 改訂版』有斐閣, 15頁

そもそも、機能主義とは

社会の慣習、例年の行事、制度、文化の各要素は相互に支持しあいながら一つの統合体(社会)を形成する考え方

のことです。(より詳しくはこちらの記事を参照ください。→【機能主義とはなにか】定義、特徴、歴史をわかりやすく解説

上述した社会進化論を痛烈に批判したことでも有名ですが、機能主義は以下のように文化伝播論にも痛烈な批判を加えています。

  • 文化伝播論は進化論と同様に要素主義であり、文化要素感の機能的な連関を無視している
  • 文化伝播論は進化論と同じく宣教師などのアマチュアが収集したレベルの低い資料をもとに、机上の整理・分析をしているだけである
  • そもそも、人類学とは文化を共時的に分析する分野である

このような批判から文化伝播論は人類学の歴史の一部となった感が否めません。しかし、実証的に示されるのであれば、文化間の相互歴史的関係を提示することは未だに重要でしょう。

2章のまとめ
  • グレープナーは『民族学の方法論』で類似する文化現象を比較検討し、歴史的な系譜を調べるための3つの規準が提示した
  • 文化伝播論に対して、機能主義が痛烈な批判を加えた
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3章:文化伝播論と日本

さて、上記のように展開された文化伝播論ですが、日本にも影響を与えています。ここでは簡潔ですが、文化伝播論に影響を受けた日本人を列挙していきます。

まず、岡正雄は1929年からウィーンに留学して、上記のシュミットとともに勉強をしてます。その結果を『古日本の文化層』にまとめ、博士論文として学位を取得しています。

その岡から影響を受けた石田英一郎もウィーンに留学し、東京大学で文化史的民族学への関心を発展させていきました。

他にも多くの日本人が影響を受けて研究を続けていますが、そのような結びつきは4章で紹介する書物から学んでいってください。

4章:文化伝播論を学ぶためのおすすめ本

文化伝播論の理解を深めることができましたか?

紹介した内容はあくまでも一部ですので、以下の書物を参考にさらに学びを深めていってください。

おすすめ書籍

オススメ度★★★ 岸上伸啓(編)『はじめて学ぶ文化人類学』(ミルヴァ書房)

文化伝播論というよりは、文化人類学学全体についてまとめた著書ですが、難しい用語はほとんど用いられずにわかりやすく経済学を理解できる1冊です。

オススメ度★★★ 綾部恒雄(編)『文化人類学20の理論』(弘文堂)

文化人類学のさまざまな理論を学べる最高の入門書です。この記事でも、この本を参照しています。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 文化伝播論とは、文化要素が民族から民族へと伝播したと考えるものである
  • 進化論とは異なるあり方で、文化伝播論は世界文化の類似と差異を説明しようと試みた理論である
  • グレープナーは『民族学の方法論』で類似する文化現象を比較検討し、歴史的な系譜を調べるための3つの規準が提示した

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