東洋哲学・東洋思想

【四書五経とは】各経典の内容からオススメ本までわかりやすく解説

四書五経とは

四書五経(Four Books and Five Classics)とは『大学』『中庸』『論語』『孟子』の四書、『易経』『書経』『詩経』『礼記』『春秋』の五経からなる儒教における基礎経典の総称です。

時代的にいえば、四書は宋代に確立され、五経の名は唐代に『五経正義』が編纂された時に決まったとされています。

この記事では、

  • 四書五経の概要と歴史
  • 四書五経の内容について

をそれぞれ解説をします。

興味のある方は気になるところから読み進めてみてください。

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1章:四書五経とは

1章では四書五経を簡潔に概説しますので、詳しい内容を知りたい方は2章から読み進めてください。

前提として、儒教に関して知りたい方は次の記事を参照ください。

→【儒教とは】その教え・朱子学との関係・日本での影響を解説

1-1: 四書とは

まず、冒頭の確認となりますが、四書五経とは、

  • 儒教における古典の中でも最も重要視されている典籍の総称
  • 四書とは『大学』『中庸』『論語』『孟子』
  • 五経とは『易経』『書経』『詩経』『礼記』『春秋』

です。

四書五経は儒教成立当初からあったものというより時代と共に成立していったもので、四書は南宋の時代に朱子学の始祖である朱熹が成立させたものです。

具体的には、朱熹は『礼記』から『大学』と『中庸』独立させて、『論語』と『孟子』とを合わせて「四書」を成立させました。

四書は五経以前に読むべき入門書としてその地位を不動のものにし、元代以降、官吏登用試験である科挙の必須科目として取り上げられました。

1-2: 五経

そして、もともと、五経は「六芸」や「六経」と称されていたものです。単純に、それは『詩経』『書経』『礼記』『楽経』『易経』『春秋』の6つから成り立っていたためです。

しかし、その中の『楽経』は秦の始皇帝によって行われた焚書坑儒の影響を受けて散逸して内容は伝わっておらず、この『楽経』を除いた5つをが「五経」になりました。

五経も明代に『五経大全』が編纂され、こちらも科挙の必須科目として重宝されました。

このような過程を経て、四書五経は中国における立身出世のための必要不可欠な科目となったのです。

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2章:四書五経の各経典の内容

では一体、四書五経の内容はどのようなものだったのでしょうか?2章では四書五経の各経典について解説をしていきます。

2-1: 論語

まず、論語は、

儒教の始祖である孔子とその弟子たちの言行録をまとめたもの

です。

具体的には、

  • 孔子の出生地である魯の地方で伝承された『魯論語』
  • 斉の地方で伝承された『斉論語』
  • 孔子の旧家で発見された『古論語』

が後漢の時代に一つにまとめられました。

内容としては、孔子から弟子に向けた教えの言葉や孔子の苦悩だけでなく、高弟である顔回、子路、子貢の個性や人となりについても記されています。また、書いてある教えは日常生活に即した実践的道徳倫理で、孔子の思想を正確に伝えているとされています。

形式は問答形式で、「子曰~」という出だしで書かれていることが多く、弟子とのやり取りの中で、仁愛(人類愛)と礼(行動規範)の重要性を説いています。

構成に触れれば、全20篇で512の短文が収録されてるものとなっています。

『論語』の故事成語

  • 「過ぎたるは、なお及ばざるが如し」
  • 「何事においても、過分にすることは不足していることと同じく、良くない」ことを意味する

『論語』先進篇に記載されており、弟子の子貢に送った言葉とされています。

子頁は同門の弟子2名(師と商)を比較して、「どちらが賢明ですか」と孔子に聞きた。その際に孔子が「師の方は度が過ぎているし、商の方はやや不足している」と答えたといいます。子貢は師の方が優れていると考え尋ねたところ、孔子が返した言葉が「過ぎたるは、なお及ばざるが如し。」だった。

2-2: 大学

四書の一つである『大学』は、

孔子の弟子である曽子によって作られた、或いは秦漢の儒家によって編纂されたもの

といわれています。

もともとは、『礼記』の第42篇に収められていました。内容としては、教育機関である大学についての理念を記録しており、漢代に成立したと考えられています。

後に南宋の朱熹が「初学の徳に入るの門」として学問の入門書を重視し、『大学新本』のテキストを定めて注釈を書きました。これを『大学章句』といいます。

『大学章句』の構成

  • 三綱領・・・「明明徳」「親民」「止於至善」
  • 八条目・・・「格物」「致知」「誠意」「正心」「修身」「斉家」「治国」「平天下」

この朱熹による改編と注釈により、『大学』は朱子学の経典として不動の地位を確立した一方で、後世の経書修正を認める形にもなってしまいました。そのため、陽明学の始祖である王守仁は『大学新本』を否定しています。

朱子学は官吏登用の科挙試験の必須科目となったため、批判を受けつつ『大学章句』は科挙の為のテキストとして清末まで重宝されました。

『大学』の故事成語

  • 「心ここに在らず」
  • 「他の事に心を奪われていて、眼前のことに心を集中できないこと」を意味をする

『大学』第7章に記載されており、「心ここに在らざれば、視れども見えず、聴けども聞こえず、食えどもその味を知らず。」の一節になります。この言葉に続けて、これを自分の心をまず正して身を修めなければならないと説いています。



2-3: 中庸

『大学』と同様に『中庸』は、

  • 『礼記』の第31篇に収録されているもの
  • 孔子の孫である子思が記述したと考えられているが、後世に付けくわえられたと思われる文章も多く、成立は秦または漢代の時代とされるもの

です。

『大学』と同じく、①南宋の朱熹によって重視されたこと、②孔子から子思へ、子思から孟子に伝えられた四書の一つであることが重要です。また、構成を改めて33章に分け、朱熹自らの思想を加えて『中庸章句』としてまとめ上げられています。

『中庸章句』に記されている内容は、中庸とは偏りのない平常の道理あり、それは人間の本質であり元来賦与されているというものです。この人間の本質に従い、良く養い自省し、喜怒哀楽の中和を得れば人間と自然の調和がなるとされています。

『中庸』の故事成語

  • 「仁は人なり」
  • 「人の人たるゆえんは人を愛する心(仁)を持っているからである」ことを意味する。反対に仁があればこその人であるという意味にもなる

『中庸』第二十章五節に記載されており、「親を親しむを大なりと為す。」の言葉が続きます。これは親族に親しむことが大事であると説いており、愛する対象が明確に意識されています。

2-4: 孟子

『孟子』は儒家である孟子の教えを記録したものですが、著者については諸説ありはっきりとはしていません。『資治通鑑』を記した北宋の司馬光は孟子と弟子との共作であると考え、南宋の朱熹は孟子一人で書き上げたものと考えました。その他にも唐代の韓愈は弟子のみが著作したと考えており、主にこの三つの説が主流となっています。

『孟子』はその成立当初はあまり重んじられることはありませんでしたが、唐代に韓愈や柳宗元によって評価を受けると、徐々に地位を上げていき、後漢(947年~950年)の趙岐(ちょうき)によって注釈が加えられるなど高く評価されるようになりました。

趙岐の注釈によって、本来は七篇だった『孟子』の構成が、それぞれ上下篇に分けられ、全十四篇になっています。

『孟子』は北宋の神宗の代(熙寧4年(1071年))に初めて科挙の科目に定められ、朱熹によって四書の一つとされました。五経よりも地位の低い四書ですが、『孟子』は実質的に五経よりも上位に扱われたと言われています。

『孟子』の故事成語

  • 「去る者は追わず、来る者は拒まず」
  • 「自分から離れて行こうとする者は、その意志に任せて、強いて引き留めない」ことを意味する。

ある時、孟子が滕という国の迎賓館に宿泊したとき、そこで役人のわらじが紛失する事件がおきます。役人は孟子の弟子を疑い非難したが、孟子は大して問題にせず、「学問の意志さえあれば、誰でも弟子にし、去る者は追わない主義だ。」と話したことが由来です。



2-5: 易経

『易経』は、

  • 古代中国の占いの書で、周の文王が作成したとも言われるため、別名を『周易』ともいわれるもの
  • この世の万物を陰陽の二気で構成されていると捉えたもの

です。

陰陽の二気を陽爻(ようこう)・陰爻(いんこう)という記号で表しました。陽爻は「⚊」、陰爻は「⚋」と記されます。

この陽爻・陰爻を三段重ねた全てのパターンは八通りであり、これを八卦と呼びました。また、この八卦の下にさらに三段重ねた構造式を六十四卦(六十四通り)として、森羅万象を解き明かそうとしています。

戦国時代から秦漢にかけて、儒家はその思想や主張を根拠づけるため、『易経』解釈に結びつけて展開していきました。そして、宇宙論や陰陽の哲学を加えて中国人の人生観や世界観に大きな影響を与えていきました。

『易経』の故事成語

  • 「虎視眈眈」
  • 「虎が獲物をねらって、じっと見下ろしている様を例えとし、強者が機会をねらって窺っている様子」を意味する

『易経』の中で頤(い)という占いの結果に関する説明に虎視眈々という語句が登場します。

頤は、筮竹(占いの方法)が「陽・陰・陰・陰・陰・陽」と並ぶ卦で、「顚(さかしま)に頤(やしな)わるるも吉なり。虎視眈眈、その欲 逐逐(ちくちく)たれば、咎(とが)なし。」の一部。

上の者が下の者に養われる状況であっても、虎が獲物を狙うように、機会損失をせず上の者として徳を磨き研鑽していれば問題ないという意味になっています。

2-6: 書経

『書経』は別名を『書』または『尚書』といい、宋代以降に『書経』という呼び方が定着しました。漢の文帝(前2世紀)の時に、伏生という人物が『今文尚書』を伝えたとされています。『今文尚書』は堯の時代から秦の穆公(紀元前7世紀頃)までを虞夏書・商書・周書に区分しました。

その内容としては、中国で政治がおこなわれてから、歴代王朝の聖王や賢臣が天命を受け、徳を明らかにして民の教化に勤しむ様を記述しており、これを政治の理想としています。

東晋の元帝(紀元前4世紀頃)の時代になると、梅賾という人物が孔安国注『古文尚書』を献上し、以降はこの『書経』が正として扱われるようになりました。

唐の孔穎達が勅命によって『五経正義』を編纂する際には、この本をもとにして『尚書正義』を作っています。



2-7: 詩経

『詩経』は、中国最古の詩集で古くは『詩』と呼ばれました。周の時代に作られたため、『周詩』とも呼ばれます。

漢詩の原型でもあるため、儒教において経典化されていますが、内容・形式から文学作品とも見られています。収録されている詩は、楽曲などを伴うものであり、歌謡と推察されています。

西周の時代に、当時歌われていた民謡等を孔子が編集したとも言われており、『史記』孔子世家には、3千篇あった膨大な詩編を、孔子が311編に編成しなおしたと記録されています。

現存の『詩経』は漢代の毛公によって伝えられたとされる『毛詩』であり、風・雅・頌の3部から構成されています。

2-8: 礼記

『礼記』は、

周から漢の礼に関する書物をまとめて、前漢の戴聖が編纂したもの

です。

49篇で構成され、唐代以降に五経の一つとして儒学者から重視されました。『礼記』と『周礼』『儀礼』は儒教の礼に関する書物として「三礼」と呼ばれますが、礼記が三礼の中で一番読みやすく礼を理解する際に優れているとされています。

『礼記』の各篇は独立しており、単独で読解する傾向がありました。宋代になってもその傾向は強く、『大学』と『中庸』の2篇は後に独立した経書となって、四書の一つとされました。

『礼記』の内容については、礼理論や国家制度から日常生活における規範に至るまで多岐に渡ります。『礼記』に注釈をつけた鄭玄は、その内容を「通論」「制度」「明堂陰陽記」「世子法」「祭祀」「吉礼」「吉事」「楽記」に分類しています。

『礼記』の故事成語

  • 「弱冠」
  • 年が若いこと。古代中国では二十歳を「弱」といい、その年で元服して冠をかぶったため、厳密には二十歳を指す。そこから転じて若い年を弱冠と呼ぶようになった。『礼記』曲礼上に記述がある



2-9: 春秋

『春秋』は、

孔子の祖国である魯の国の年次で記録された中国春秋時代の歴史書

です。

年を追って記録された編年体の体裁をとっています。儒教では孔子が手を加えた、または孔子自身が作ったとされていますが、孔子が『春秋』のどこに手を加えてたのかなど、不明な点も多いです。

『春秋』の内容は王・諸侯の死亡した記録、戦争や諸侯同士の会盟などの外交、日食・地震・洪水などの自然災害の記録がメインとなっています。

書名の『春秋』が扱う時代を一つの区分にして「春秋時代」という名称が生まれるなど、後世の歴史にも大きな影響を与えています。

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3章:四書五経を学べるオススメ本

四書五経について理解を深めることができたでしょうか?

さらに理解を深めるために、次の書物をぜひ参考にしてください。

オススメ書籍

オススメ度★★★『四書五経入門』(平凡社/2000年)

四書五経についてまとめて書かれている数少ない書籍です。各経典の専著はあれど、「四書五経」全てを一冊にまとめて解説をしています。分かりやすく書かれているので、入門書にお勧めです。

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オススメ度★★『四書五経―中国思想の形成と展開』(東洋文庫/1965年)

上記の入門書に比べると、少し学術的色合いが濃い書籍になります。各経典の概説があり、それぞれのイメージを掴める内容です。その他にも中国における思想の変遷と日本への影響、四書五経の現代における役割についても書かれています。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 四書五経とは『大学』『中庸』『論語』『孟子』の四書、『易経』『書経』『詩経』『礼記』『春秋』の五経からなる儒教における基礎経典の総称である
  • 四書は南宋の時代に朱子学の始祖である朱熹が成立させたものである
  • 五経はもともと『詩経』『書経』『礼記』『楽経』『易経』『春秋』の6つから成り立っていたが、『楽経』は秦の始皇帝によって行われた焚書坑儒の影響を受けて散逸して内容は伝わっていない

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