誇示的消費(conspicuous consumption)とは、誇示的消費とは、生活上の利便性や商品の必要性を目的とした消費ではなく、社会的地位や威信を見せびらかす非生産的する消費活動を指します。
「誇示的消費」というと単なる「見せびらかす消費活動」と思われがちですが、実は経済学、社会学、政治学などの諸分野に影響を与えた、広範囲をカバーする概念です。
「誇示的消費」の意味を知ることも大事ですが、それがどのような社会の分析のために練り出された概念なのか知らないと非常にもったいないです。
そこで、この記事では、
- 誇示的消費の意味
- 誇示的消費と有閑階級の関係
- 誇示的消費の具体例
- 誇示的消費の問題点
などを解説します。
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1章:誇示的消費とはなにか
1章では、誇示的消費を概説します。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1: 誇示的消費の意味と有閑階級(社会進化論的変化)
まず、冒頭の定義を確認すると、誇示的消費とは、
生活上の利便性や商品の必要性を目的とした消費ではなく、社会的地位や威信を見せびらかす非生産的する消費活動
を指します。
誇示的消費の概念は、アメリカ人経済学者のソースティン・ヴェブレンが『有閑階級の理論』(1899)で提唱した概念として有名です。
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そのため、誇示的消費の概念を理解するためには『有閑階級の理論』を理解する必要があります。この本では、一体どのような議論がされたのでしょうか?
「誇示的消費」はしばしば「顕示的消費」「衒示的消費」「見せびらかしの消費」と訳さるが、それらの意味はすべて同じ意味です。
1-1-1: 有閑階級とはなにか
誇示的消費を理解するためのキーワードは「有閑階級」です。ヴェブレンは有閑階級の人びとこそが、歴史的に誇示的消費にしてきたと考えたからです。
ヴェブレンの「有閑階級」とは、大まかに次のような特徴をもちます。
有閑階級の特徴
- ヨーロッパや日本といった封建社会で発展した制度
- 主に貴族階級や聖職階級を意味する(非生産的な仕事をする人びと)
- 生産労働の免除が高い社会的地位のしるし
有閑階級の特徴だけみると、「封建社会以前に有閑階級はなかったの?」と疑問に思うかもしれません。
しかし、ヴェブレンは有閑階級の形成を封建社会以前にもあった、といいます。その発展過程を「平和的段階→略奪的段階→産業的段階」として説明します。それぞれの段階は、複雑ですが、次のように要約することができます。
平和的段階→略奪的段階
- 原始的で平和的な段階から、戦闘によって女性を含む「略奪品」の誇示がおこなわれる
- 人びとの競争心が高まり、私的所有権の概念が生まれてくる
- 略奪が英雄的行為とされる(略奪は高い地位にある男が財を築く方法であるべきという考え)
- その一方で、生産活動は服従のしるしとなる
略奪的段階→産業的段階
- 成功の象徴は略奪品ではなく、富や財産に取って代わられる
- 略奪という英雄的行為は大衆の賞賛を集めにくくなり、富や財産が最も理解される成功の証拠となる
このように、産業的段階に到達するまでに、「富や財産が成功の最も象徴的なしるし」になるとわかると思います。
では一体、具体的に「富や財産」の所有はどのように示されるのでしょうか?それは、非生産的に時間や財産を消費する有閑生活を送ることなどによって示されます。
このような「時間と財産の浪費」を、ヴェブレンは「誇示的消費」または「誇示的閑暇」と呼びました。
ちなみに、ヴェブレンの説明は『有閑階級の理論』を書いた当時、支配的な思想であった社会進化論に強く影響をうけています。
簡単にいうと、社会進化論とは単線的に社会が進歩すると考える思想です。しかしさまざまな分野に影響を与えた思想ですから、興味のある方は次の記事を参照ください。
1-2: 誇示的消費とアメリカ社会
忘れていけない点はアメリカ社会の分析を目的として『有閑階級の理論』が書かれたことです。ヴェブレンが『有閑階級の理論』を書いた時代は、アメリカ社会で有閑階級が誕生している時代でもありました。
アメリカ社会で有閑階級が誕生する過程は次のようになります。
有閑階級の誕生過程
- 1890年代までに西部への拡張が終わりをみせると、地理的フロンティアが消滅。次に経済的なフロンティアが登場する
- 経済的なフロンティアとは、広大な国土を利用したビジネスチャンス(ex: 鉄道や石油…etc)
- 19世紀末までに、このビジネスチャンスをものにした大富豪が誕生する(ex: ロックフェラー…etc)
- その後、これらの大富豪は文化的な成熟をみせる(大学、財団、美術館への慈善活動など)
ヴェブレンは産業と金融をリードし有閑階級のように振る舞う大富豪を観察しながら『有閑階級の理論』を仕上げていきました。
ヨーロッパや日本に比べて、新興国家であったアメリカには「伝統的」な有閑階級がありませんでした。だからこそ、逆説的にアメリカ社会ではさまざまな場面で誇示的な活動がおこなわれます。
社会学者の小谷はその点を次のように説明しています2小谷「家族・私有財産、および見栄の起源」『大妻女子大学人間関係学部紀要』2巻 1号 253-274頁。
アメリカの有閑階級の正当性は、ヨーロッパや日本の同類に比して脆弱で、かつ疑わしいものでしかなった。そのよって立つ基盤の危うさの故にアメリカ有閑階級は、そのもてる富の卓越性を誇示するための様々なパフォーマンスを行う事を余技なくされたのである。
では言った、「さまざまなパフォーマンス」とは一体なんだったのでしょうか?次に誇示的消費の事例をみていきましょう。
1-3: 誇示的消費の具体例
先ほども述べたように、誇示的消費とは「非生産的に時間や財産を消費すること」です。ヴェブレンは封建社会以前(野蛮文化と呼ばれるもの)と封建社会以降の誇示的消費を区別しています。
たとえば、封建社会以前では有閑階級の次のような行為が誇示的消費と考えられました。
封建社会以前の誇示的消費
- 学問、効用の充足以外の趣味的知識、スポーツ、礼儀作法の習得
- 経済的利益と直結しないで、習得するためには十分な閑暇が必要なもの
- 食べ過ぎ、飲み過ぎといったものの浪費(豪快な振る舞いで「男らしさ」の象徴となる)
このように、ヴェブレンは「閑暇という時間を消費すること」と「物質を気前よく消費する」が誇示的消費と考えました。
そして、産業化と都市化が進むにつれて、「誇示的閑暇」よりも「誇示的消費」がわかりやいために効果をより発揮する、とヴェブレンは考えます。
封建社会以降の誇示的消費
- やみくも消費するのでなく、趣味の良いものを消費する
- 舞踏会におけるパーティー、高級なカーペット、宝石や衣装…etc
- しばしば妻や娘による「代行的」な誇示的消費もされる
- 誇示的消費をする有閑階級にとって、それらの品々は「生活必需品」
このように気前よく財を消費することで、他の成員に対して自らの社会的威信を誇示するのです。
消費がもはやモノの機能や所有ではなく、社会的なコミュニケーションとして言語活動にようなシステムをもちます。そのため、誇示的消費は「記号消費」といわれたりもします。
いったんこれまでの内容をまとめます。
- 誇示的消費とは、生活上の利便性や商品の必要性を目的とした消費ではなく、社会的地位や威信を見せびらかす非生産的する消費活動
- ヴェブレンは「誇示的消費」または「誇示的閑暇」が人間社会に存在すると主張
- 誇示的消費は記号消費ともいえる
2章:誇示的消費の評価
さて、これまでヴェブレンの「誇示的消費」の概念を説明してきましたが、ヴェブレンに対する評価は否定的なものと肯定的なものがあります。
誇示的消費の問題点と各学問で評価される理由を知ることは、ヴェブレンの誇示的消費論を理解するために大事なことです。ここでは日本社会での評価とともに、しっかり理解しましょう。
2-1: 誇示的消費の問題点
まず、否定的な意見を紹介します。否定的な意見は文化論からでてきました。たとえば、『啓蒙の弁証法』で有名な社会学者のアドルノはヴェブレンの「文化」を批判します。
具体的に、アドルノは次のような指摘をしました。
アドルノの批判
- ヴェブレンは資本主義社会における有閑階級の消費は金銭的文化というが、この場合の文化とは金銭能力を誇示する広告である
- 文化が虚偽な広告だとしたら、私を含めた人びとの経験はすべて虚偽的となってしまう
- その虚偽的な広告的な文化は、全体主義を肯定する
簡単にいうと、ヴェブレンの文化は広告でしかない。その点に対して批判がなされました。
2-2: 誇示的消費の評価
しかし、ヴェブレンの誇示的消費論はむしろ肯定的な評価が多かったです。ここで、それぞれの分野での評価を簡単に紹介します。
2-2-1: 経済学での評価
世紀転換期(19-20世紀)におけるアメリカ資本主義社会の分析は、高い評価をうけています。
具体的に、ヴェブレンは、
- 古典派経済学にとって代わって、「制度派経済学」という分野を開拓した
- 「制度派経済学」の「制度」とは企業や銀行などの実体ではなく、経済活動を行う人間の思考習慣を考えるもの
- 経済学の対象とは、環境に働きかけていくときの人間の思考の枠組み
と考えた点が評価されています。
2-2-2: 社会学での評価
社会学では「消費社会論の先駆者」という評価をうけています。ここでは、どのような論者がヴェブレンから影響をうけたのかを紹介します。
ヴェブレンから影響をうけた論者たちとその著作
- ボードリヤールの『消費社会の神話と構造』(→詳しくはこちら)
- ガルブレイスの『ゆたかな社会』
- リースマンの『孤独な群衆』
- ブルデューの『デスタンクシオン』(さらには「文化資本」の概念)
ヴェブレンが主張した財力や名声のための誇示的消費は、今日の「記号消費論」を土台を作ったことは確かです。
※消費社会論の歴史や特徴は、こちらの記事でまとめています。→【消費社会論とは】研究目的から研究の変遷までわかりやすく解説
2-3: 誇示的消費と日本社会での評価
さて、日本社会でヴェブレンの『有閑階級の理論』は受容されたのでしょうか?日本では1961年に岩波文庫からこの本が公刊されています。
2-3-1: 1960年代における評価
しかし当時の日本社会は高度経済成長に入ったばかりで、大半の日本人は「有閑階級の誇示的消費」を自分たちの経験に引きつけて考えることはできませんでした。
むしろ、日本人自らの経験というよりも、「アメリカのマルクス」と呼ばれたヴェブレンによる、冷戦構造化における資本主義の分析の本として読まれていた可能が高いです。
2-3-2: 1980年代以降における評価
1980年代以降の日本社会では、成金的な消費と行動が顕著となります。
日本人にとって、消費は生存のための手段ではなく見せびらかす手段となります。ヴェブレンの「誇示的消費」が現実的な経験として日本社会に現れたのはこの時期です。
このような状況で「記号消費論」の分野が活性化すると、ヴェブレンの『有閑階級の理論』がアクチュアルな意味で意味をもつようになりました3詳しい議論は、社会学者の小谷敏の「家族・私有財産・および見栄の起源-『有閑階級の理論』の研究-」(人間関係学研究 2001/2号)を参照ください。。
- ヴェブレンに対する評価は否定的なものと肯定的なものがある
- 経済学、社会学といった研究分野で大きな影響をもった
- 日本社会では次第にアクチュアルな意味をもつようになった
3章:誇示的消費の学び方
どうでしょう?誇示的消費論を学ぶことはできましたか?最後に、あなたの学びを深めるためのおすすめ書物を紹介します。
ソースタイン・ヴェブレン 『有閑階級の理論』(ちくま学芸文庫)
誇示的消費を学ぶにはまずヴェブレンの原著にあたるべきです。文書自体は難しくありませんので、ヴェブレンから直接学ぶことをオススメします。
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井上 俊, 伊藤 公雄 (編)「誇示的消費」『メディア・情報・消費社会』(世界思想社)
ヴェブレンの議論をコンパクトにまとめた章があります。この本の多くをこの記事では参照しました。ヴェブレンの生い立ちも紹介されており、初学者にもわかりやすいのでオススメ。
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まとめ
この記事の内容をまとめます。
- 誇示的消費とは、生活上の利便性や商品の必要性を目的とした消費ではなく、社会的地位や威信を見せびらかす非生産的する消費活動
- ヴェブレンは「誇示的消費」または「誇示的閑暇」が人間社会に存在すると主張
- ヴェブレンに対する評価は否定的なものと肯定的なものがあるが、経済学、社会学といった研究分野で大きな影響をもった
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