経済学

【財政政策とは】メカニズムから日本の現状・問題点までわかりやすく解説

財政政策とは

財政政策(fiscal policy)とは、政府が歳入や歳出を通じて、経済に影響を及ぼす政策のことです。歳入面では増税(または減税)や国債発行の増減、歳出面では公共事業の拡大(または縮小)をすることによって、景気の拡大や抑制を図ります。

「財政政策」の一言では、その理論的な歴史や金融政策との関係を説明することは難しいです。

しかし、言い換えれば、財政政策にまつわる一連の知識を理解することで、経済政策を理解しやすくなるはずです。

そこで、この記事では、

  • 財政政策の意味・役割・理論的背景
  • 日本における財政政策の状況

をそれぞれ解説します。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:財政政策とは

1章では財政政策を簡潔に概説していきます。具体的なメカニズムや日本における財政政策を知りたい方は、2章以降から読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1: 財政政策の意味

冒頭の確認となりますが、財政政策とは、政府が歳入や歳出を通じて、経済に影響を及ぼす政策のことです。

1776年に発表された『国富論』において、古典派経済学者であるアダム・スミスが、市場には「神の見えざる手」が働いていることを指摘したことは有名です。

簡潔にいえば、スミスは

  • 個人が自由な市場において、個々の利益を最大化するように利己的に経済活動を行えば、まるで見えざる手がバランスを取るかのように、最終的には全体として最適な資源の配分が達成される
  • つまり、市場を通じて利益を最大化するためには、政府のような第三者が介入すべきでなく、自律的な市場メカニズムに任せるべきである

と主張しました。(より詳しくは次の記事→【アダムスミスの『国富論』とは】重要概念のすべてを徹底解説

しかし、現代の資本主義において、「神の見えざる手」に任せることが最適な経済を成り立たせる方法であるという主張は、当然のように受け入れられてはいません。

むしろ、市場にまかせて経済活動を自由放任にしてしまうことは、個人間の格差を助長したり、市場外でマイナスの経済効果が生まれたりと、経済にさまざまな不都合を生むことが指摘されています。

簡単にいえば、財政政策とはこの「神の見えざる手」によって生じる不都合を解消する手段のひとつとして用いられている方法です。



1-2:財政政策の仕組み・具体的な手法

さて、代表的な財政政策には、次のような2つの手法があげられます。

  1. 公共事業の実施によって、雇用拡大や所得増加を図る
  2. 所得税や法人税等の減税によるもので、個人の可処分所得増加や企業収益改善を通じて消費や投資を促す

市場経済への介入には、政府による「財政政策」だけでなく中央銀行による通貨や金融を調整する「金融政策」も存在します。

この2つは合わせて語られることが多い政策ですが、

財政政策・・・政府支出や減税を利用した市場介入

金融政策・・・金利政策(金利の操作)や公開市場操作(国債などの売り買い)を通じて市場介入すること

です。

どちらも、景気調整を目的とした政策である点は変わりませんが、その効果や施策をおこなうタイミングは異なります。

財政政策が、金融政策と大きく異なるのは次の点です。

  1. 政府としての財源を使うこと
  2. 公共事業の創出による歳出の増加や減税による歳入の減少がともなうこと

公共事業とは、国がお金を使って事業を行う(例えば土木事業)ことで、経済に刺激を与えるというものです。そのため、歳出(国のお金を使う)が必要なのですが、近年は社会保障費の増大などから、国もじゃぶじゃぶとお金を使えるわけではありません。

したがって、公共事業を行う上で、歳入(国家の収入=税収など)だけで賄えない場合は、赤字国債の発行をおこなうことになり、国の借金が増えることになります。

また、財政政策では、金融政策においては実現が難しい、細かいセグメントに対する景気調整ができることも可能です。

もし金融政策で市場の通貨流通量を増やしたとしても、その流通先のコントールまではできません。しかし、財政政策であれば、特定の産業や業界をターゲットにした政府支出や減税をおこなうことができます。

このように特徴の異なる2つの政策ですが、それぞれの政策は深く結びついており、組み合わせ方によっては、相乗効果のように成果が拡大することもあれば、それぞれが効果を打ち消しあってしまうこともあります。

ゆえに、2つの政策の特徴とその関係性を理解することは、経済の仕組みを理解するうえでとても重要となります。



1-3:財政政策の役割・理論的基盤

冒頭でも述べたように、古典派経済学では市場への第三者の介入は避けるべきものであり、「神の見えざる手」に任せて成り行きを見守ることが前提でした。

その後150年近くにもわたって定説であったこの前提に異を唱えたのが、イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズです。のちに、彼の経済思想はケインズ経済学と呼ばれることになります。

簡潔にいえば、ケインズ経済学とは、

  • 「有効需要の法則」に基づき、「国民所得(GDP)は経済全体の総需要(有効需要)によって決定される」と提唱したもの2中谷巌『マクロ経済学入門』(日本経済新聞出版社, 78頁)
  • そのため、需要を作り出すためには政府の関与が欠かせないこと

と主張されました。

ケインズがこの画期的な思想にたどり着いたのは、当時の世界的な大恐慌によりイギリス全土に失業者が溢れかえったことが背景にあったと考えられています。

失業者が溢れ、景気回復の兆しが見えない中で、政府は古典派経済学に基づく自由放任主義を貫き、有効な手立てを打てないでいました。

そこで、ケインズが財政政策といった市場介入の有効性を理論的にまとめたことで、イギリスのみならず同じく大恐慌に苦しんでいた世界中の国々が参考とし、経済政策に導入するきっかけになりました。

その後、財政政策という考え方は当然のように受け入れられ、ほぼすべての資本主義国がケインズの考え方を取り入れることになります。

ケインズ主義的な政策の代表は、世界大恐慌後にアメリカでルーズベルト大統領が行った「ニューディール政策」です。これは、ケインズの影響から行われた政策ではありませんが、公共事業の創出等によってアメリカ経済の復活に大きな影響を与えました。

→ニューディール政策について詳しくはこちら

ケインズの影響もあり、戦後多くの西側先進国が国家が経済に大きく介入する福祉国家的な政策が行われました。詳しくは以下の記事で解説しています。

→福祉国家について詳しくはこちら

1章のまとめ
  • 財政政策とは、政府が歳入や歳出を通じて、経済に影響を及ぼす政策のことである
  • 市場経済への介入には、政府による「財政政策」と中央銀行による通貨や金融を調整する「金融政策」がある
  • 「神の見えざる手」に批判を加えたのは、ケインズである
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2章:財政政策のメカニズム

さて、2章は代表的な財政政策にあげられる「公共事業」「減税」について説明していきます。

2-1:公共事業

公共事業とは、

  • 国または地方公共団体が公共の利益や福祉のために行う事業のこと
  • 学校や図書館の建設、道路の整備など政策のこと

です。

公共事業の本来の目的は、民間主導では難しい公共財・サービスを国民に提供することですが、公共事業の実施に当たって市場に新規の需要を生み出すという効果も持ちます。

たとえば、学校の建設にあたっては、学校を建築する建築業者や、机や椅子を作る家具業者、教科書や学校用品を販売する小売業者に至るまでさまざまな産業に新たな需要を生み出します。

新しい需要が生まれれば、雇用も国民所得も増加し、景気の回復が期待できることから、特に民間の消費マインドが低下している不景気においては積極的に実行される政策のひとつです。

国家が公共財・サービスを提供するのは、市場に任せていたは供給されないタイプの財・サービスが存在するためです。詳しくは以下の記事で解説しています。

【市場の失敗とは】具体例から政府の役割までわかりやすく解説



2-2:減税

減税とは、

課税者に対する税金の額を減らすこと

です。

日本では、所得税や法人税、消費税などさまざまな税金が設定されていますが、そのいずれも、納税者の所得の一部を徴収し、歳入として国庫や地方財源として組み入れられるという性質は変わりません。

つまり、減税を実施するとは、

国や地方自治体の歳入を減らす代わりに、納税者が消費や貯蓄に使える所得(可処分所得)を増やし、消費を刺激して、景気の回復を試みるもの

です。

公共事業も減税も景気が停滞し、経済活動が悪化している時には非常に有効な手段であることは間違いありません。しかし、1-2でも述べたように、どちらの手段も政府の財政を一時的に圧迫するため、財政政策を無制限に実施することはできません。

また、財政政策は経済対策のひとつの手段に過ぎず、他の経済対策とあわせて有効に組み合わせておこなう必要があります。

極端な例ですが、高齢化が進み限界集落となっている村に大きな学校を建築し、子育て世代向けの減税を実施したとしても、学校に通う子どもや子育て世代自体が少なければ、期待される経済効果は生まれないでしょう。

つまり、財政政策は目的なく無計画におこなうことなく、綿密な計画と目標を立てて、事業の効果を予測・検証したうえで実施される必要があります。

2章のまとめ
  • 公共政策とは、国または地方公共団体が公共の利益や福祉のために行う事業のことである
  • 減税は国や地方自治体の歳入を減らす代わりに、納税者が消費や貯蓄に使える所得(可処分所得)を増やし、消費を刺激して、景気の回復を試みるものである

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3章:日本における財政政策と課題

続いて、3章では日本の財政政策について実例を含めながら解説していきます。

3-1: 日本の財政政策

内閣府が、2019年に発表した財政政策基本指針である「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」によると、新たな財政政策として、およそ13.2兆円程度の財政支出予算が計上されており、今後さまざまな財政政策の実現が見込まれています。

たとえば、国土交通省の公共事業である「成長力を強化する物流ネットワークの強化等のための高速道路等の整備」では、

新名神高速道路の6車線化

物流の生産性向上のため、トラック隊列走行の実現に向けた準備・調査

が予定されています。

この事業の狙いは、日本経済の生産性の向上にあるとされていますが、事業にあたってはさまざまな関連産業の需要や雇用の創出が期待され、狙い以上に大きな経済効果が見込まれます。

また、道路や学校といったハードの整備だけでなく、産業支援や社会課題の解決といったソフトに対する投資も財政政策には数多く見られます。たとえば、以下のようなものがあります。

  • 「地域における就職氷河期世代の先進的・積極的な取組への支援」では、雇用環境が厳しい時期に就職活動を行った、いわゆる就職氷河期世代の活躍の場を広げるための支援が予定されている
  • 具体的には、就職氷河期世代に特化した相談支援や、広域移動時の交通費の支給など社会参加や就労に向けた活動のネックとなる経済的負担の軽減が検討されている

モノがあふれ、ハードに対する投資の価値が相対的に低下している現代において、こうしたソフトに対する投資は今度ますます増えていくものと考えられます。

一方、減税政策には、

住宅購入時に購入費用の一部が控除される住宅ローン減税

国土交通省が定める排出ガスと燃費の基準値をクリアした、環境性能に優れたクルマに対する自動車重量税の減税されるエコカー減税

などがあげられます。

減税は、政府による直接的な投資を必要としないという点では効率的な財政政策と言えますが、当然歳入の減少にも繋がる施策であります。そのため、日本のような財政状況が悪化している政府では、公共事業ほどの規模ではおこなわれなくなる傾向があります。



3-2: 日本の財政政策における課題

日本の財政状況を見てみると、歳出が一貫して伸び続ける一方で、税収はバブル経済が崩壊した1990年度を境に伸び悩み、その差は年々拡大しています。また、その差は借金である公債の発行で穴埋めされており、その発行総額は1000兆円を超えているとされています。

歳出のうち、50%以上は社会保障費と国債の返済に充てられており、公共事業に充てられている予算は6.9兆円で全体の6.8%ほどの割合に過ぎません(図1, 2)。

日本の財政の状況(図1 財務省の「日本の財政の状況」より詳しくは→https://www.mof.go.jp/zaisei/current-situation/index.html

日本の財政の状況(図2 財務省の「日本の財政の状況」より詳しくは→https://www.mof.go.jp/zaisei/current-situation/index.html

この財政政策への支出の割合を増やすことができれば、需要や雇用にはプラスの効果が生まれますが、その財源を税収ではなく、国債で賄ってしまえば国家の財政は悪化します。

また、マクロ経済学において、政府支出には限界貯蓄性向の逆数の乗数効果が働くことも考慮する必要があります。

少し専門的な概念なので簡単に説明すると、以下のような意味です。

  • 政府支出は市場が消費を志向しているか、貯蓄を志向しているかによってその効果が変化する性質を持っている
  • 市場の消費志向が強ければ、政府支出の効果は大きくなり、市場の貯蓄志向が強ければ、政府支出の効果は小さくなる

そして、内閣府のデータによると、日本国内の状況は以下のように説明されています3内閣府『日本経済2018-2019 第2章 家計部門の構造変化(第2節)』

将来の雇用や収入に対する信頼感が高まらないことを背景として、より将来に備えて長期的な観点から資金を確保しようとしていると考えられる。このように、長期的な目的で若者が貯蓄していることは、若年消費が力強さを欠く背景の一つになっていると考えられる。

つまり、若者を中心に貯蓄性向が高まっていることが指摘されています。

この傾向が続くようであれば、政府支出の効果は期待以上に高まらず、景気浮揚効果は限定されてしまいます。そのため、現行の政府支出の内容に加えて、国内の消費性向を上向きにするような新たな政策の立案が求められます。

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4章:財政政策について学べるおすすめ本

財政政策に関して学ぶことはできましたか?

この記事で紹介した内容はあくまでもほんの一部にすぎませんので、ここからはあなた自身の学びを深めるための書物を紹介します。ぜひ読んでみてください。

おすすめ書籍

オススメ度★★★ 中谷巌『マクロ経済学入門』(日本経済新聞出版社)

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オススメ度★★★ 塩路悦朗『やさしいマクロ経済学』(日本経済新聞出版社)

大学の経済学部の講義をまとめたような本であり、初心者の方にも読みやすい内容となっています。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 財政政策とは、政府が歳入や歳出を通じて、経済に影響を及ぼす政策のことである
  • 公共政策とは、国または地方公共団体が公共の利益や福祉のために行う事業のことである
  • 減税は国や地方自治体の歳入を減らす代わりに、課税者が消費や貯蓄に使える所得(可処分所得)を増やし、消費を刺激して、景気の回復を試みるものである

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引用・参考文献