経済学

【産業組織論とは】背景・現実の産業からわかりやすく解説

産業組織論とは

産業組織論(Industrial organization)とは、一つの産業(市場)の中で、どのような企業がどれくらい存在し、それらが互いにどのような競争を展開し、その結果、どのような影響が経済全体に及ぼされるかなどに関する諸々の議論です。

定義だけではわかりにくいかもしれませんが、特にミクロ経済学を学ぶ方には不可欠な議論です。

この記事では、

  • 産業組織論の背景
  • 産業組織論の学術的議論

などをそれぞれ解説していきます。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:産業組織論とは

まず、1章では産業組織論を概説します。2章では産業組織論の学術的議論を解説しますので、用途に沿って読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:産業組織論の背景

まず、経済学を大きく分けると、「マクロ経済学(巨視経済学)」「ミクロ経済学(微視経済学)」があります。それぞれ以下のような分野です。

  • マクロ経済学
    →一つの国家全体の総生産、総所得、総消費、総投資、輸出入などの総量がどのように作用し、それらがどのような経済効果をもたらし、またこれに対してどのような政策を行うべきかを考える学問
  • ミクロ(正確にはマイクロ)経済学
    →国家の中の一つの産業(市場)、一つの商品(製品、サービス)に関して商品を生産する企業がどのように行動し、商品を購入する消費者(家計)がどのように行動し、それらがどのような経済効果をもたらし、またこれに対してどのような政策を行うべきかを考える学問

そして、マクロ経済学とミクロ経済学、これらの中間領域として、産業構造論、一般均衡論、産業連関論などがあります。これから説明する産業組織論は、ミクロ経済学の集大成的な一分野となります。

産業組織論は、イギリスの経済学者であるジョーン・ロビンソン(Joan V. Robinson、1903~1983年)が確立した不完全競争の理論に端を発し、エドワード・メイスン(Edward S. Mason)、ジョー・ベイン(Joe S. Bain)などハーバード学派の学者たちによって体系化されました。

メイスン=ベインなどが依拠した分析の枠組みは、一般にSCPパラダイムと呼ばれ、以下の内容を考えるものです。

  • ある産業(市場)がどのような性格の企業などで成り立っているかの市場構造=S(Structure)
  • そこで企業がどのように価格、生産量、設備投資の決定などを行うかの市場行動=C(Conduct)
  • そこでどのような資源配分の効率性、技術進歩や経済成長などがあり得るかの市場成果=P(Performance)

一般論として、市場構造Sが市場行動Cを決定し、市場行動Cが市場成果Pを決定する、すなわち、S→C→Pという因果関係があるとされます。企業間競争の結果であるPを重視することから、ハーバード学派は厳しい独占規制を主張しています。

しかし、現実の産業(市場)の様相を単純にS→C→Pの因果関係だけで説明するのは困難で、場合によってはC→Sといった関係もあり得ます。事実、例えば、自由主義を重んじるジョージ・スティグラー(George J. Stigler)などのシカゴ学派は、競争原理による市場の効率性を損なわないように、政府は市場へ介入すべきではないと批判しました。

その後、産業組織論には、企業間の相互の関係性に着目したゲーム理論や契約理論が取り入れられ、今日に至るまで発展し続けています。



1-2:完全競争と有効競争

現実の一般的な産業組織は、2章で説明するように、不完全競争市場です。しかし、その不完全競争を理解する前提として、まず非現実的な究極の理論的仮定である完全競争を知る必要があります。

1-2-1:完全競争の理論的意義

まず、簡単にいえば、完全競争の仮定として、以下のものがあります。

  1. 企業と消費者(家計)は無数に存在し、それぞれは商品価格に対する支配力を持たない。つまり、価格は市場から与えられたものとする
  2. 企業や消費者(家計)は、市場に参入するのも退出するのも自由である
  3. 市場で売買される商品は同質で、差異は存在しない
  4. 全ての企業と消費者(家計)は、市場で売買される商品に完全な情報を持っており、情報に差異は存在しない

この完全競争の下では、市場全体の需要と供給が一致する価格が均衡価格となり、「一物一価の法則」が成立します。この市場均衡価格を条件として、売り手である企業は利潤を最大化するように生産量を決定し、また買い手である消費者(家計)は効用を最大化するように購買量を決定します。

完全競争下の企業では、平均費用以上の超過利潤は消滅し、価格は限界費用、つまり生産量1単位増加の際の費用の増加分に一致し、同時にまた最低平均費用にも一致します。これを「生産費の法則」と呼び、それは資源の最適な配分が達成されたことを意味します。

さらにこのとき、社会の他の構成員を現状より不利にすることなく、誰も現状より有利にすることができないという「パレート最適性」が成立します。まさにここに、自由市場経済の持つ普遍的な意義と価値があるのです。

※パレート最適性に関して詳しくはこちら→【パレート最適とは】具体例とエッジワースボックスからわかりやすく解説

1-2-2:有効競争の概念

繰り返すように、完全競争はあくまで究極的な理論的仮定にすぎません。

しかし、この完全競争の理念をベースにしつつ、より現実的で経済的成果を実質的に保証するような競争の考え方が、ジョン・クラーク(John M. Clark)の提唱した「有効競争」です。これは産業組織論の重要な概念です。

どのような状態を有効競争と見なすかについては、2つの考え方があります。

1つは、望ましい市場構造、つまりSの基準を考えるものです。

  1. 無数ではないが、かなり多数の企業(売り手)と消費者(家計、買い手)が存在する
  2. そのいずれもが、市場の大きな部分を占めていない
  3. 企業、消費者それぞれで相互に共謀がない
  4. 企業の新規参入が可能である

もう1つは、市場成果、つまりPの基準を考えるものです。

問題は構造基準でいうような集中や共謀にあるのではなく、生産量の制限、高価格、過剰設備などにあると考え、これらを排除することにより市場における価格低下、品質の改善、技術革新などがもたらされるならば、市場の競争は有効であるとする基準です。

1章のまとめ
  • 産業組織論は、ミクロ経済学の集大成的な一分野である
  • 現実の産業組織は不完全競争市場だが、理論的な仮定である完全競争の仮定の上の議論となっている

 

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2章:産業組織論と現実の産業

さて、2章では現実の産業から産業組織論を紹介してきます。

2-1:産業組織論と不完全競争

冒頭に述べたように、産業組織論は不完全競争の理論から発展を遂げた議論であり、不完全競争は現在でも産業組織論の重要な一大テーマです。

そのため、産業組織を考える上で、不完全競争の考察は欠かせません。また、現実の産業は証券市場、外国為替市場などのごく特殊な例を除き、完全競争市場ではなく不完全競争市場です。

※不完全競争に関する前提知識はこちらの記事で詳しく解説しています→【不完全競争とは】原因から具体例までわかりやすく解説

不完全競争は大きく分けると、以下の種類があります。

  1. 1社の企業が市場全体を支配する独占、一般に商品(製品、サービス)の差別化を伴って数社の企業が市場を支配する寡占
  2. 商品差別化を伴ってその意味である程度の独占力を持った企業が多数存在する独占的競争

※(完全)独占を不完全競争から独立させる考え方もありますが、ここではそれが完全競争ではないという意味で、ここでは不完全競争の一種とします

そして、独占、寡占、独占的競争、それぞれに属する代表的業種は以下のようものが挙げられます。

  • 独占・・・電力、ガス、水道、鉄道など地域独占が多い
  • 寡占
    →【商品差別化が大きい】自動車、家庭電化製品、カメラなどの光学機器、医薬品、ビール、雑誌・新聞など最終財が多い
    →【商品差別化が小さい】鉄鋼、セメント、アルミニウム、ガソリンなどの石油製品、石油化学製品、パルプなど中間財が多い
  • 独占的競争・・・小売業、飲食業、宿泊業など、様々な業態を含む業種が多い

このように、現実の産業は競争的要素と独占的要素と混在しており、完全に競争的ではなく、また完全に独占的ではない産業が大部分を占めています。そこでは、価格競争のみならず、主に商品差別化による非価格競争が定着しています。

そしてミクロ経済理論的にいうと、完全競争市場では以下のようになります。

  • 個々の企業は全く価格に対する独占力を持たず水平な需要曲線(価格線)に直面する
  • そのため、長期的には価格(=平均収入=限界収入)=限界費用=(最低)平均費用で均衡し、超過利潤がゼロとなる
  • そして、そこで生産量が決まる

各企業は最低平均費用で操業するので、資源の効率的配分もなされます。

これに対し、不完全競争市場では、個々の企業は価格に対する支配力、つまり独占力を持ち右下がりの需要曲線(価格線)に直面するため、限界費用線も右下がりとなり、限界収入=限界費用で均衡し、そこで生産量が決まります。

しかし、その価格は完全競争の場合より高く、生産量は少なく、過剰な生産能力が存在することになり、資源の効率的配分もなされず、資源が浪費されます。完全競争と同様、長期的な均衡では超過利潤はゼロです。一般に、高い市場価格と少ない生産量が、不完全競争の帰結です。

不完全競争市場の均衡:市場価格、:生産量、DD:需要曲線(価格線)、MR:限界収入曲線、AC:平均費用曲線、MC:限界費用曲線。ピンク色の面積が超過利潤で、他企業の市場参入により商品価格が下がり、長期的にはゼロ。

図 不完全競争市場の均衡 2『日本大百科全書』(小学館)

※こうした理論的な理解には、数理経済学的な理解も含めてある程度の訓練と慣れが必要なので、3章の参考文献などを参考にして学んでください。



2-2:競産業組織論と競争政策

完全競争市場が理論上の一種の理念型とはいえ、自由市場経済のメリットを活かし、よい商品を少しでも安く大量に作り、また資源の効率的な配分を図るために、世界各国では経済的独占の禁止・抑制、また市場競争での規制緩和、競争促進、参入障壁の低減といった競争政策が採られています。

かつて、日本では、日本国有鉄道(国鉄)、日本電信電話公社(電々公社)、日本専売公社(専売公社)の3公社と呼ばれた全国的な国営企業がありましたが、これらはそれぞれJR、NTT、JT(いずれも略称)という地域独占企業や規制緩和された企業に民営化されました。

この結果、以下のようなことが起きます。

  • JRはサービスが格段に向上し、NTTへの移行の際には通信事業の自由化も同時に行われた
  • その後、国営の郵政事業も日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命に分割・民営化され、サービスが向上した
  • 最近では、競争促進策として携帯電話の通信料金の引き下げが検討されている

日本では、独占禁止策の要として独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)が制定されています。独占禁止法の目的は、企業の公正かつ自由な競争を促進することです。

一部の企業が市場を独占してしまうと競争原理が損なわれ、企業の事業活動が停滞してしまいます。市場に公正かつ自由な競争原理が働いてこそ、各企業は創意工夫を凝らし、事業活動も活発になります。

より優れた商品が安価で市場に出回るようになるため、消費者(家計)にも利益となります。事業活動が活発になれば雇用も確保され、国民所得の向上にもつながります。

このような市場メカニズム(競争原理)を維持・促進することで消費者(家計)の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発展を促進することが、独占禁止法の最終的な目的です。

独占禁止法の概要

  • 目的を実現するためには、まず市場での支配力が一部の企業に過度に集中することを防止する必要がある
  • 独占禁止法では事業活動に対する不当な制限や拘束も禁止している(支配力には関係なくても、企業の事業活動に対する不当な制限や拘束が行われると事業活動が停滞し、消費者(家計)に不利益が及んでしまうため)
  • 禁止規定に違反した場合は課徴金や罰金などの罰則も用意されており、企業間の公正かつ自由な競争が強制的に維持・促進される仕組みとなっている

独占禁止法の規制内容は、以下の通りです。

  1. 私的独占の禁止
  2. 不当な取引制限(カルテル、入札談合)の禁止
  3. 不公正な取引方法の禁止
  4. 企業結合(合併、株式取得など)の規制
  5. 独占的状態の規制
  6. 事業者団体の規制

ただし、独占禁止法の執行機関は、公正取引委員会です。ところで、独占が経済的に完全に悪いかというと、必ずしもそうとはいい切れません。寡占企業や独占的競争企業は、ライバル企業、他の競合他社に真似のできない優れた品質の商品、要するに差別化された商品を絶えず開発し、市場に供給しようと努力しているからです。

すなわち、それは一種の独占力の行使です。その結果、消費者(家計)は多くのバラエティーに富んだ豊富な商品群から商品を選択し、それを購入することができます。こうしたことも、経済的な厚生にとって非常に重要な要因です。このため、企業の設備投資、研究開発投資、イノベーション(技術革新)などを促進する施策も必要になってきます。

2章のまとめ
  • 不完全競争は現在でも産業組織論の重要な一大テーマである
  • 世界各国では経済的独占の禁止・抑制、また市場競争での規制緩和、競争促進、参入障壁の低減といった競争政策が採られている

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3章:産業組織論を学ぶためのおすすめ本

産業組織論について理解を深めることはできましたか?

この記事で紹介した内容はあくまで概要です。産業組織論をしっかり学ぶために、これから紹介する本をあなた自身で読んでみることが重要です。

おすすめ書籍

オススメ度★★★ 奥野正寛『ミクロ経済学入門』(日経文庫)

今回説明した不完全競争が具体例とともにわかりやすく解説されています。今回の記事をしっかりと理解するための前提の知識も丁寧に解説されているので、おすすめです。

オススメ度★★★ ポール・クルーグマン/ロビン・ウェルス『クルーグマン/ミクロ経済学(第2版)』(東洋経済新報社)

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 産業組織論は、ミクロ経済学の集大成的な一分野である
  • 現実の産業組織は不完全競争市場だが、理論的な仮定である完全競争が背景になる
  • 世界各国では経済的独占の禁止・抑制、また市場競争での規制緩和、競争促進、参入障壁の低減といった競争政策が採られている

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