キリスト教原理主義(Christian fundamentalism)とは、
キリスト教(プロテスタント)の中でも、特に『聖書』に内容を硬直的に捉え、現実社会でも協議通りに生きようとする人々のこと
です。
そして、キリスト教原理主義がこれほど知られているのは、アメリカ政治に強い影響力を持ち、「反同性愛」「反人工中絶」「反進化論教育」など過激な主張をするからです。
キリスト教原理主義は、キリスト教のイチ宗派に留まらず、大きな影響力を持っているため、特にアメリカ政治を理解する上では必須のキーワードです。
そこでこの記事では、
- キリスト教原理主義とは何か?
- どんな立ち位置の思想なのか?
- どのようにして生まれたのか?
- キリスト教原理主義について学べる書籍リスト
について解説していきます。
また、キリスト教原理主義と強く関連する「宗教右派」という政治勢力についても説明します。
知りたいところから読んで、ニュースの理解や国際情勢の学びに役立ててみてください。
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1章:キリスト教原理主義とは?
1章ではキリスト教原理主義の基本的なことを説明します。
それより詳しい歴史から知りたい場合は、2章からお読みください。
1-1:キリスト教原理主義の意味
冒頭の繰り返しになりますが、
キリスト教原理主義とは、キリスト教(プロテスタント)の中でも、特に『聖書』に内容を硬直的に捉え、現実社会でも協議通りに生きようとする人々のこと
です。
特に、キリスト教原理主義はアメリカで顕著です。
アメリカはヨーロッパ大陸から渡ってきた多くのプロテスタント(カトリック教会に反発した人たち)によって作られた国ですが、渡ってきたプロテスタントも一枚岩ではありませんでした。
大陸からは多数の宗派が渡ってきましたし、アメリカでも歴史の中で、多数の宗派に分派していったからです。
1-2:キリスト教原理主義の立ち位置
「では、他の宗派とどこが違うの?」
と思われるかもしれません。
他の宗派との違いはズバリ、
- 『聖書』の教義に硬直的で、それを守ることを何より重視する
- 自分たちの思想を政治的にも実現しようとする
という点です。
■キリスト教原理主義は『聖書』に最も保守的
キリスト教原理主義について理解するためには、
「『聖書』の教えに対してどこまで保守的か?」
という軸で考えると分かりやすいです。
そもそも、プロテスタントは、宗教改革以降に生まれた、「カトリック教会が作ってきた教義より、『聖書』に基づいて信仰しよう」という人々のことです。
宗教改革、プロテスタントについて、詳しくはそれぞれ以下の記事をご覧ください。
しかし、歴史の変遷とともに、プロテスタント内でも「どこまで『聖書』に忠実になるのか?」という点で意見が分かれるようになりました。
その中でも、もっとも『聖書』に忠実で硬直的な考えを持つのが、キリスト教原理主義と呼ばれる人たちなのです。
そのため、『聖書』の教義から考えて受け入れがたい、
- 人工中絶反対
- 同性愛反対
- 人類の歴史を「進化論」的に説明する教育への反対
といった主張を過激にしているのです。
また、日本でもキリスト教原理主義が存在しますが、日本においては神社への参拝を拒否するプロテスタントの人々を、キリスト教原理主義と言うようです。
1-3:キリスト教原理主義と宗教右派
ニュースなどのジャーナリズムでは、キリスト教原理主義と宗教右派が、ほとんど同じように使われることがあります。
しかし、厳密にはこれら二つは異なる意味を持ちます。
- キリスト教原理主義・・・『聖書』にもっとも保守的で過激な思想(やそのような思想を持つ宗教団体)
- 宗教右派・・・反中絶、反同性愛などの思想を持ち、政治活動する団体、宗教家とそれを支持する人々のまとまり(原理主義と福音派の団体がその多くを占める)
厳密な区別は難しいですが、まったく同じまとまりを意味するのではないと知っておいてください。
宗教右派勢力について、以下の本がとても分かりやすいです。
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とは言え、キリスト教原理主義と宗教右派は完全に区別して説明することは難しいですので、この記事では両方を共に解説していきます。
さて、ここまでキリスト教原理主義について基本的なことを説明してきましたが、キリスト教原理主義や宗教右派は、複雑な歴史を持っていて、上記の文章だけで理解できるものではありません。
そこで2章では、キリスト教原理主義がどのような原点を持ち、どのように生まれてきて、どのような政治的影響力を持っているのか、歴史を通じて説明してきます。
- キリスト教原理主義とは、アメリカのプロテスタントの中でも特に『聖書』に忠実な人々
- キリスト教原理主義は、過激な主張を政治的に実現しようとする
2章:キリスト教原理主義が生まれた歴史
キリスト教原理主義や宗教右派は、20世紀初頭に起こった「原理主義VS近代主義」の論争によって生まれたものです。
この論争から、プロテスタントが分裂し、その一部がキリスト教原理主義や宗教右派になったのです。
2-1:原理主義VS近代主義論争
この論争のきっかけになったのは、
- 20世紀に入り、キリスト教の世界ではじまった、『聖書』について近代科学を使って分析する「高等批評」という研究
- 「進化論」が教育の世界に入ってきた
という2つの出来事です。
『聖書』に書かれていることを忠実に守りたいプロテスタントの人々にとって、『聖書』に書かれていることが誤りであり、リアルの世界に神が介在する余地がないことが明らかにされることは、不都合なことです。
しかし、上記の出来事のように、近代科学が宗教の世界にも持ち込まれることで、どうしても「神はいない」「世界や生物を作ったのは神ではない」ということが明らかにされてしまいます。
このような、キリスト教の世界への近代科学の侵入について、アメリカのプロテスタントの人々は論争したのです。
2-1-1:論争による分裂
キリスト教の世界に近代科学が入りこむことで、プロテスタントの人々は「近代科学による解釈をどこまで受け入れるか」という点で、分裂することになりました。
その結果、
- 主流派・・・近代科学の解釈に寛容なリベラルな人々
- 原理主義・・・近代科学による解釈を認めず、『聖書』の記述に固執した人々
- 福音派・・・近代科学の解釈は受け入れないが、過激な原理主義の思想も受け入れたくない人々
という3つの考えにプロテスタントが分裂したのです。
この論争から、キリスト教原理主義の思想が明確化されたのでした。
※これはあくまで考え方をまとめたもので、宗派、団体で分かれているわけではありません。
そして、政治的にはキリスト教原理主義や福音派の人々の主張が、宗教右派として影響力を持つことがあります。
2-1-2:主流派・原理主義・福音派のその後
こうして分裂したプロテスタントですが、それぞれ以下のような変遷を経ることになります。
■主流派のその後
分裂後の主流派は、
- そもそも『聖書』解釈に寛容で近代科学を受け入れる思想を持っていた
- 政治、経済、社会のエリートが多く参加していた
- 社会奉仕活動に積極化した
といった理由から、エスタブリッシュメントとしてその後、政治に影響を与えるようになりました。
■キリスト教原理主義のその後
キリスト教原理主義の人々は、
- モンキー裁判(1925年/テネシー州)で、「反進化論」という過激な主張が世界中に知られ、嘲りの対象になった
- 「前千年王国」思想を持っていたため、社会に対して悲観的になっていった
という事情から、分裂以降は社会との繋がりを弱め、宗教の世界での活動に活発になっていきました。
■福音派のその後
福音派は、
- 『聖書』解釈には保守的だったが、そこに固執せず寛容な姿勢を持っていた
- 「回心」体験やカリスマ説教師の演説、テレビ布教などの活用
などを通じて信者の数を増やしていきました。
そして、分裂した3つのプロテスタントは、時代の変化と共に、それぞれがそれぞれの形で政治と繋がっていきました。
2-2:リベラルと主流派の時代
1960年代、アメリカは「リベラリズムの時代」です。
この時代、
- 公民権運動(人種差別撤廃の運動)が起こった
- 主流派は公民権運動を積極的にサポートした
- 人種差別を容認していた福音派である「南部バプテスト連盟」は批判された
というように主流派はリベラルな政治運動と結びつきました。
しかし、60年代に勃興したリベラリズムは、少数民族の積極的優遇、人工中絶合法化、同性愛者の解放運動などの運動に結びつき、さらにヒッピー、フリーセックス、急進左派的な大学での闘争まで繋がりました。
また、福祉制度を充実させ過ぎたことで財政赤字が拡大し、それも批判されるようになります。
つまり、リベラルは行きすぎ、世論の支持を得られなくなっていったのです。
このリベラルへの不信が、宗教右派の勃興に繋がりました。
アメリカのリベラル勢力について、詳しくは以下の記事で解説しています。
2-3:キリスト教原理主義・福音派の政治への介入
キリスト教原理主義や福音派からすると、60年代のリベラリズムによって、伝統的な宗教的な倫理が破壊されたということになります。
そのため、リベラルが弱体化した後に、彼らは破壊された宗教的倫理を復活させようと活動しました。
具体的には、
- 人工妊娠中絶の禁止
- 同性愛、同性間での結婚
- 連邦政府が州の教育や宗教に介入すること
- 学校での祈りの義務化
- 学校で進化論を教えること
- 伝統的な家族構成や価値観の維持
などです。
なぜこれらの主張をするのかというと、それは『聖書』の教義を守ろうとした結果です。
そして、1980年代以降、アメリカでは保守主義が政治的に台頭し、それと共にキリスト教原理主義や福音派は、宗教右派として政治に積極的に介入するようになったのです。
アメリカの保守勢力について、以下の記事の2章で簡単に解説しています。
2-4:その後の宗教右派
宗教右派は、その後もアメリカにおける保守層として、基本的には共和党の支持基盤となって政治に影響力を持つようになり、現在に至っています。
- レーガン政権(共和党):宗教右派が確立した
- クリントン政権(民主党):中道路線だったため、宗教右派的な過激な保守的思想を拒否
- 子ブッシュ(共和党):近年最も宗教的と言われたブッシュと共に、最大の政治的影響力を持った
ちなみに、キリスト教原理主義のような過激な思想は次第に受け入れられなくなり、現代では福音派の一部とみなされるようにまで衰退しました。
また、2000年代以降は、宗教右派全体が衰退し政治から離れつつあるともみなされています。
思想的にも、民主党であるオバマへの投票が多かったり、かつてほどの強い主張を貫き通すことがなくなりつつあるようです。
- キリスト教原理主義は、「『聖書』の近代的な解釈をどこまで受け入れるか?」という論争で、最右翼・保守として明確化した思想
- 長い間政治からは遠かったが、80年代以降の保守主義の台頭と共に政治に積極化し、共和党の支持基盤として確立した
- 近年は政治的影響力が弱まり、かつてほどの勢いはなくなってきている
3章:キリスト教原理主義について学べる書籍リスト
キリスト教原理主義について、なんとなく理解することはできましたか?
実は、キリスト教原理主義や宗教右派は一枚岩ではなく、主張も多様です。そのため、ひとまとまりの説明することは難しいものです。
そのため、より正確な、詳しいことを知りたい場合は、これから紹介する書籍から学ぶことをおすすめします。
キリスト教原理主義を理解することは、国際情勢のニュース、アメリカの大統領選やリベラルな政策などについて理解することになりますので、ぜひ手に取って読んでみてください。
オススメ度★★★飯山雅史『アメリカの宗教右派』(中公新書ラクレ)
アメリカの宗教右派勢力の歴史や立ち位置、主張などについてとても分かりやすく書かれた本です。これからはじめて学ぶという初学者には一番おすすめです。
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オススメ度★★堀内一史『アメリカと宗教-保守化と政治化のゆくえ-』(中公新書)
『アメリカの宗教右派』よりもう少し詳しいことを知りたい人におすすめです。この2冊を順番に読めば、ニュースを深く理解するくらいの知識は十分に得られます。
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一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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まとめ
この記事の内容をまとめます。
- キリスト教原理主義は、『聖書』の記述にもっとも厳格な人々のこと
- キリスト教原理主義は、反人工中絶、反進化論教育、反同性愛などの過激な主張をする
- キリスト教原理主義は、福音派と宗教右派として政治的影響力を持ったが、徐々に影響力は落ちている
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