リベラルアーツ(liberal arts)とは、古代ギリシャ時代において「技術的・職業的知識」の教育と区別されて行われた、哲学、音楽などを通じた市民的教育に起源を持つ、教養教育の伝統です。現代では、分野にとらわれない多角的な視点の養成や、専門を相対化して俯瞰する力の育成などに役立てられています。
リベラルアーツは古代からの伝統ではありますが、直線的に現代までつながっているわけではありません。
中世ではキリスト教社会における知的エリートのものに、近代では国民統合と強く結びついた「教養」へと変化しています。また、現代の大学における一般教養は、アメリカの大学制度の輸入です。
リベラルアーツを深く学ぶためには、こうした歴史やリベラルアーツの意義を理解しておくことが大事です。
そこでこの記事では、
- リベラルアーツの意味、役割
- リベラルアーツのヨーロッパや日本における歴史
を詳しく解説します。
関心のあるところから読んでみてください。
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1章:リベラルアーツとは
まず1章ではリベラルアーツの意味と役割を解説します。
結論から言えば、リベラルアーツは自分自身や自分の学んでいることを、広い視点から相対的・批判的に見ていくこと、多角的に物事を考え研究、実践することに役立つものです。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1:リベラルアーツの意味
リベラルアーツは日本ではほぼ「教養」と訳されることが多く、それは「専門的知識」に対する「一般的知識」「分野横断的知識」「さまざまな学問分野を広くとらえ、その基礎部分に注目した知識」という文脈で使われることが多いです。
一般的な使い方としては、このようにリベラルアーツ=教養として捉え、それを専門的知識に対置する把握でも問題ないでしょう。より詳しくは2章で説明します。
これに対し、リベラルアーツを「哲学」「歴史(学)」「政治や経済、社会の知識」といった「人文社会科学系学問(文系)」のこととして論じる向きもあります。しかし、この把握には問題があります。
なぜなら、人文社会科学系の学問も、それぞれ「人文学」「社会科学」に分かれており、さらにそれぞれの中に「哲学」「歴史学」「文化人類学」「政治学」「経済学」「社会学」といった専門分野があるからです。
逆に、いわゆる理系分野のこととについても、文系の人が知っておくべきことが多く存在します。
つまり、人文社会科学系学問にも専門領域があり、それぞれ深い探求を行っているため、専門知識と対置する意味でのリベラルアーツとイコールにはならないのです。
この記事では、いったんリベラルアーツ=教養として、専門的知識に対置される概念として論じていきますが、2章ではあえて「リベラルアーツ」と「教養」を区別し、現代に必要な「リベラルアーツ」を改めて論じます。
1-2:リベラルアーツの必要性
「リベラルアーツって結局なんで必要なの?本当に学ぶべきなの?」このような疑問も多いと思います。
現在の社会においては、「社会が複雑化、多様化しテクノロジーの活用が重視されている。だから、テクノロジーと関わるプログラミング、AI、ビッグデータなどの知識や、そのベースとなる数学や物理、工学などの知識が大事なのではないか。」といった声もあるようです。
上記はいわゆる「理系」分野ですが、「文系」の中でも「経営学」「会計学」「経済学」といった社会の役に立ちやすい分野も、重視して学ぶべきだと言われることがあります。
こうした意見の背景には、
- 個人レベル…変化の激しい社会でサバイバルするためには、社会で必要とされやすい能力を身に付けるべき
- 社会レベル…テクノロジーやビジネスの力で社会が動かされているため、それらに貢献する分野の学問に社会が投資していくべき
- 国家レベル…国家間の技術開発やグローバル市場での競争が行われているため、国家としてもすぐに投資の効果が得られやすい分野に投資していくべき
といった観念があるのではないでしょうか。
こうした議論を踏まえると、社会にすぐに役に立ちにくい「リベラルアーツ・教養」というものは、勉強しても意味がなさそうな気がするかもしれません。
しかし、そうとも言えません。リベラルアーツ・教養の意義には主に以下のものがあると考えられます。
- 自分の専門分野を広い学問領域の中に位置づけることで、相対的、批判的に把握する
- 専門の隣接分野の学問にも通じ、専門の研究をより多角的に検討する
- 自然、社会、人間に関する広い知識を持つことで、自由な立場で考え、行動する人間になる
よくあるビジネス書などには、「世界のエリートと渡り合うための共通の知識を得るために教養が大事」などと書かれていることもあります。
しかし、リベラルアーツ・教養の意義は、そのような直接的に役立つ面だけではありません。自分自身の知識や価値観を俯瞰し、相対化し、広い世界の中に位置づけることにこそ意義があるのです。
別の言い方をすれば、リベラルアーツを学ぶことは、私たちが向き合う世界や学問世界の「地図」を描くことでもあります。「地図」を描くことで、はじめて自分の立場や方向性を理解することができ、「これから何を学ぶべきか」「人生で何をなすべきか」を考えられるようになるのです。
上記の意味でリベラルアーツを身に付けることで、本当の意味で「リベラル=自由」な人間になることができるのです。
これは余談ですが、当メディア「リベラルアーツガイド」は、学問に興味を持ったさまざまな人に、学問を分かりやすく伝えることで、「地図」を描く第一歩をサポートすることを目指して運営しています。
リベラルアーツの意味や必要性について理解できたでしょうか。
ここまでリベラルアーツ=教養として解説してきましたが、歴史を見ると実はこれらは別の文脈から生まれた概念であることが分かります。
2章ではリベラルアーツ、教養という言葉が生まれた歴史や現代における考え方を解説します。
まずはここまでをまとめます。
- リベラルアーツとは、古代ギリシャにおいて職業的・技術的教育と区別されて学ばれた学問に伝統がある教養教育のこと
- リベラルアーツは、自分自身や自分の専門を相対的、批判的に見ること、多角的な視点で研究することなどに意義がある
2章:リベラルアーツの歴史
これからリベラルアーツの歴史を解説していきますが、先に要点をあげておきます。
- リベラルアーツ・教養の教育は、生産活動から解放された古代ギリシャの市民たちに対する、技術的技能と区別される教育として始められた
- 中世においては、自由七科(セブンリベラルアーツ)という7科目のリベラルアーツ教育が始められた
- 19世紀になると、ドイツから近代国家建設を目的とした大学が生まれ、ここで「教養」教育も始められ、日本でも近代化後教養主義が生まれた
まずは古代から順番に説明します。
2-1:古代から中世のリベラルアーツ教育
「リベラルアーツが大事」と言われることは多いですが、リベラルアーツ教育という伝統は古代ギリシャからはじまったものです。古代ギリシャは学問が始まった時代ですので、学問の始まり重なってリベラルアーツの伝統も生まれた、と言えます。
まずは、古代の教養の伝統から説明します。
教養・リベラルアーツの歴史について多くの先行研究がありますが、ここでは主に安酸敏眞『人文学概論:増補改訂版』(知泉書館)、吉見俊哉哉『大学とは何か』(岩波新書)、隠岐さや香『文系と理系はなぜ分かれたのか』(星海社)を参考にしています。
2-1-1:パラデイア(教養)の誕生
古代ギリシャでは、教養のことを「パイデイア(paideia)」と呼んでいました2安酸敏眞『人文学概論 増補改訂版』33頁など。
古代ギリシャは、
- 生産活動は奴隷に任せ、ギリシャ「市民」は、生産活動に従事する必要がない自由な人々、公務に就く人々であった
- 職人、医者などの専門職の養成には、専門的な技術教育が行われ、それとは異なる普遍的な教育が求められた
という社会でした。
そのため、職業と関わる専門的な教育に対して、自由なギリシャ市民として徳を高めること、普遍的な教育を受けることが求められました。こうして生成されていったのが、パイデイア(教養)という教育だったのです。
実際、プラトンやアリストテレスらのこの時代の哲学者は、家庭教師をしたり、学校を自ら作って生徒を集めたりして教養教育を行ったのです。
この時代の教養教育は、あくまで奴隷らの存在によって生産活動から解放された人々(市民)のためのものでした。その点で、現在の教養教育とイコールではない点に注意してください。
この時代に考えられた教養とは、
- 金銭を得るための教育とは異なる
- 専門的領域とは異なり、普遍的な教育である
- 市民的徳、公共的な精神を育てる
というものでした。私たちが知る「教養」の考え方が、この時代すでに生まれていたことが分かります。
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2-1-2:大学とリベラルアーツの誕生
12世紀初期、ヨーロッパでは大学の原型が誕生しました。この時代に大学が生まれたのは、キリスト教が社会、文化に広く浸透したこと、十字軍の遠征によってイスラム世界との交流が急拡大したこと、自由な自治都市が誕生したことなどの背景がありました。
そして、古代ギリシャの学問はイスラム世界に保存されていたのですが、この時代、イスラム世界に保存されていた古代の学問の翻訳運動が起こります。その中で生まれた、教師と生徒が移動しながら学ぶ、組合的な組織が大学の原型となったと言われています3安酸 前掲書53頁など。
この中世初期の大学では、下記のように「上級学部」と「下級学部」が分かれて成立しました。
■初期の大学の学部
- 上級学部:神学、医学、法学
- 下級学部:文法、修辞学、論理学の「三学(trivium)」と算術、幾何学、天文学、音楽の「四科(quadrivium)」
この「下級学部」の科目は7科目を合わせて「自由七科(seven liberal arts)」と言われました4七自由学芸とも(安酸 前掲書222頁)。
この「自由七科」は、中世の教養教育の中核となっていき、現代の私たちも知っている「教養教育」の伝統に繋がっているのです(「自由七科」は英語で「セブンリベラルアーツ」です)。
「なぜこの時代に教養が重視されたの?」と思われるかもしれませんが、これは古代ギリシャでパラデイア(教養)が重視されていたためです。古代ギリシャのパラデイアに、その後「円環(エンキュロス)」という概念がくっついて、七つの科目がすべて繋がって一つの教養を作る、といった意味になりました。
自由七科は教科書化されて中世に伝わり、それが中世の教養教育となっていったのでした。
2-1-3:中世学問の特徴
こうして生まれた中世の教養教育ですが、12世紀から13世紀にかけて、「法律学」「修辞学」「論理学」が優位に立つようになりました。
特に、古代ギリシャの論理学は哲学者であり万学の祖と言われるアリストテレスの論理学であったため、中世でもアリストテレスの学が非常に重視されるようになります。
アリストテレスの哲学の特徴は、あらゆる学問領域を論理体系化したことです。
したがって、中世の間、法学、神学、哲学を中心にあらゆる学問に論理学が影響しました。それは、「近代科学を物理学的方法の他の諸科学への侵入過程として捉えることができるとすれば、中世の学問は、論理のすべての学問への侵入過程であった5中山茂『パラダイムと科学革命の歴史』105頁」と言えるものだったのです。
こうして、中世の学問の柱はアリストテレス学となったのですが、この伝統も15世紀ごろから起こったルネサンスによって崩れていくことになります。
中世のリベラルアーツの特徴としては、
- 大学の誕生とともに古代ギリシャのリベラルアーツが継承され、それは実学的な教育とは異なるものだった
- 特に論理学、哲学、法学などが重視された
- そして中世のリベラルアーツは聖職者を中心とした知識人の共通知識として学ばれた
というものです。
2-2:ルネサンスとリベラルアーツ
15世紀から16世紀になると、古典古代の文化(芸術、学問など)を復興させようとする「ルネサンス」が起こります。これは、特定の時点で爆発的に起こったというより、15世紀から16世紀にかけて長い時間をかけて起こった世界史的な出来事です。
中世という時代の特徴は、カトリック教会による宗教的・精神的支配と政治的支配が非常に強固だったことです。社会、文化に広くカトリック教会の力とキリスト教の信仰が浸透し、秩序付けられていました。
ルネサンスは、こうしたキリスト教的な世界観から脱却し、カトリック教会・キリスト教から自由だった古典古代の文化に立ち返ろうとした運動でした。
また、この時代大学はキリスト教と深く結びつき、神学を学ぶことが中心的役割とされていました。そのため、ルネサンスによって中世的な大学は衰退していくことになりました。
ルネサンスを特徴づける思想が「人文主義(Humanism)」ですが、これがリベラルアーツ・教養の考え方とも強く結びついています。
イタリアルネサンス期に行われた、人文主義的研究・教育活動は「フマニタス研究(studia humanitatis)」と言われます。フマニタス研究とは、ラテン語による歴史学、道徳哲学、詩学、修辞学といった学問のことで、ルネサンス期にこうした研究を行った人々をフマニスタ(ヒューマニスト)と言います6安酸、前掲書62-63頁。
思い出して頂きたいのですが、古代ギリシャから中世初期に引き継がれたリベラルアーツ教育は「自由七科」として、文法、修辞学、論理学の「三学(trivium)」と算術、幾何学、天文学、音楽の「四科(quadrivium)」が教えられたものでした。
このフマニタス研究は教養の研究と言えます。
(前略)フマニタス研究は神学・哲学。自然科学の研究とは区別され、その基本的精神においては古代ギリシアのパラデイアに相当し、また学科的布陣においては自由学芸のうちの言語学的な「三学」が中心となっているということである7安酸、前掲書63頁。
ルネサンス期には、「四科」よりも「三学」が優位に立つようになった特徴があり、これが現在の人文学(人文科学)の源流ともなっているのです。
フマニタス研究の特徴をまとめると、
- キリスト教的な世界観に対する人間中心主義
- 抽象的な神学、スコラ哲学やそのベースにあったアリストテレス学への反発
- 人間性育成のための実践的知識の重視
というものでした。
こうして自由七科の中でも「三学」を重視する、ルネサンス人文主義の中で、人文学が生まれ、これが後のリベラルアーツ・教養的な学問の流れとなっていきました。
ここまでのリベラルアーツの特徴をまとめると、それは限られた知識人の「知識の共通基盤」であったということです。古代では奴隷に支えられたギリシャ市民のように、中世では聖職者らのように、職業的な専門知識とは区別して学ばれていたのが特徴です。
ルネサンスと結びつき、カトリック教会の支配の打破という動きとして宗教改革が起こり、プロテスタントが生まれました。詳しくは以下の記事で解説しています。
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2-3:近代国家とリベラルアーツ
このようにリベラルアーツはエリートの知識の共通基盤として生まれ、展開していったのですが、近代に入ると別の意味を持つようになりました。それが「教養」という概念です。
2-3-1:大学の誕生
「教養」という概念の誕生を理解するためには、近代的な大学の成立について知っておく必要があります。
実はここまで説明してきた中世的な大学は、15世紀以降のルネサンスごろから学問の中心ではなくなり衰退していきました。そのため、中世的な大学は現代の大学の直接の起源とは言えず、直接の起源と言えるのは19世紀ドイツで誕生した、近代的な大学なのです。
詳しくは「大学の歴史」の記事でも解説しているため、ここでは要点のみ箇条書きします。
■19世紀ドイツにおける大学の誕生
- フランスへの敗北から、ドイツは近代国家建設を目的に大学を設立
- ドイツの大学は、教育と研究を一致させ研究を通じて学生を「一般陶冶」することを理念とした(フンボルト的理念)
- このドイツで誕生した近代的大学が、世界の大学のモデルとなった
そもそも、世界は近代化と共に一つの「国家」としての精神的なまとまり(国民統合)と、その国家を管理する中央集権的な政府とを必要とするようになりました。
したがって、強い権力を持つ国家を管理する政治エリートを要請する必要が生まれ、エリート育成のために世界で大学が設立されたのです。
この時、ドイツが掲げた大学の理念について、吉見俊哉は『大学とは何か』で下記のように説明しています。
- カントは近代的大学の理念として、神学部、法学部、医学部を「上級学部」でかつ「他律的な知」の場として、哲学部を「下級学部」として「自律的な知(外部から独立した知)」の場として考えた
- 近代的大学は、研究対象としての文化と、教育対象としての「教養/人格」が統合されることが目指され、研究と教育の一致が理念となった
- さらに、大学は「国家に奉仕しながらも完全にはこれと同一化しない(86頁)」ため、個人は教育によって国家から独立した「自律的な主体」となる
詳しくはぜひ『大学とは何か』を読んでみてください。
ここで大事なのは、国民統合(国家としての、国民の精神的なまとまりを作ること)のために、知的エリートならこのくらい知っているよね、という知識の共通基盤として「教養」が形成されていったということです。
少し大雑把なまとめ方にはなりますが、
- リベラルアーツ
ヨーロッパ世界における知的エリートの共通知識で、キリスト教・教会の人材育成的機能を持つ - 教養
国民国家という国境を明確に意識した空間における、(特に知的エリートたちの)国民としての精神的統合の機能を持つ
ということが言えます。
2-4:日本のリベラルアーツ教育
日本でも、明治維新以降、近代化と共に大学や旧制高校、官立専門学校などの高等教育機関が成立していきました。そのため、やはり国民統合と結びついて教養主義が生まれました。
ただし、これはその後の一般教養課程の教育とは異なるものです。
「一般教養課程」は、アメリカの教育課程から生まれた「一般教育」を日本が輸入したものなのです。
アメリカの大学では、下記の経緯で「一般教育」が生まれました。
- 「大学院」が設立され、専門的な教育や研究は大学院でなされるようになった
- その結果、学部では一般的なレベルの国民に対して、基礎的な学問を広く教育する場として、「一般教育」という概念が生まれた
この「一般教育」とは、一般大衆が広く学問の基礎を身に付けて、市民として活動することを目的として成立したものです。そのため、国民統合と結びついたエリートのものだった「教養」とは異なる意味を持ちます。
この「一般教育」の概念は、多くの教育史の研究が指摘するように、戦後初の東京大学学長だった南原繁が積極的に導入し、それが東京大学の「教養学部」として実現しました。
また、「一般教育」の導入から「パンキョー」などと言われる、学部生の時に学ぶ一般教養課程となって制度化されました。
南原が主張していたように、「一般教育」は専門的分野を総合し、連関を把握し、現代の文明社会を生きるための知識のことでした。これは、現代使われる「リベラルアーツ」や「教養」の概念とも重なる考え方であったことが分かります。
「リベラルアーツ」「教養」「一般教育」と区別して説明していますが、これは歴史の中でそれぞれ異なる意味を持ったということであり、現代において、特に区別して使われているわけではありません。
ただし、戦後日本における一般教養課程教育は、その後骨抜き化されていくことになります。一部は「大学の歴史」の記事の後半でも解説していますが、簡単に言えば、
- 規制緩和によって、大学の運営にも競争原理が導入された
- 大学院教育の重視によって、一般教養より専門的な内容が優先された
といったことが起こっていったのです。
とはいえ、現代でも一部の大学ではリベラルアーツが重視され、リベラルアーツを深く学べることを売りにしている大学もあります。
有名なのは国際教養大学(AIU)、国際基督教大学(ICU)などですが、他にも早稲田大学や上智大学にも国際教養学部がありますし、九州大学にも「共創学部」が創設され、文理の枠を超えて学問を学べるカリキュラムが導入されています。
こうした教育には「専門性が身に付かない」という批判がなされることもありますが、学問のタコツボ化を超える一つの選択肢であるはずです。専門教育とリベラルアーツというテーマは、まだまだ議論がなされるべきものです。ぜひこれからも学んでみてください。
吉見俊哉の以下の本でも詳しく解説されています。分かりやすいのでおすすめです。
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ここまでをまとめます。
- リベラルアーツの伝統は古代ギリシャで生まれ、中世にも受け継がれ「自由七科」という科目になった
- リベラルアーツは、古代では生産から解放された市民たちの教養として、中世では神学を中心とした知的エリートの共通知識として、近代では国民統合と結びついた教養として学ばれた
- 日本の一般教養課程はアメリカの「一般教育」の導入に起源があったが、現代では軽視されている
- 一部には、リベラルアーツ・教養を重視する大学も存在している
3章:リベラルアーツに関するおすすめ本・学び方
リベラルアーツとはどのようなものか、理解を深めることができたでしょうか。
リベラルアーツは自分の専門分野を相対化してとらえ、より自由な立場で学問や実践をする上で現代でも必要なものです。文系の人にも理系の人にも役立ちますので、自分のペースで学んでみてください。
これから紹介する本では、リベラルアーツ・教養という考え方や学び方が分かるため、これらの本を読んでから自分で学びの計画を立て、興味のあるものから学んでいくことをおすすめします。
大口邦雄『リベラル・アーツとは何か-その歴史的系譜』(さんこう社)
この本は、古代から現代までの「リベラルアーツ」の系譜を追った研究書です。リベラルアーツの歴史が良くわかるため、おすすめです。
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村上陽一郎『あらためて教養とは』(新潮文庫)
科学史・科学哲学の著名な学者である村上洋一郎が、講義調で「教養」の歴史や変遷、問題点、教養の本来の在り方などを論じた本です。研究書ではないため、村上氏の個性や人生経験が色濃く反映されていて、とても面白いです。すぐに読める内容なので、ぜひ読んでみてください。
吉見俊哉『「文系学部廃止」の衝撃』(集英社新書)
社会学者の吉見俊哉が、2015年に起こった「文系学部廃止」の報道や議論を軸に、現代における文系学問の意義やリベラルアーツ、教養といった教育について、分かりやすく論じた本です。現代における議論が良くわかるはずです。
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また、実際にリベラルアーツを学びたいという場合、独学するならまずは広く、学問分野を学んでいくことが大事です。そこで、学問の「地図」を描くのに役立つ本をリストアップします。
まず、学問を広く学ぶためにいわゆる理系の学問(科学)がいかに発展したか、文系(人文社会科学)がどう発展したのか、どういう学問なのかを知ることが大事です。以下の本がおすすめです。
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さらに、学問分野だけでなく世界の歴史や宗教、社会思想を学ぶことも重要です。下記の本が特におすすめです。
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一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- リベラルアーツとは、古代ギリシャに伝統を持つ教養教育の伝統
- リベラルアーツは、自分の専門を相対的、批判的に捉える上で役立つもの
- リベラルアーツと教養は現代では特に区別されないが、歴史的には異なる意味を持つ
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