西洋芸術・文化

【北方ルネサンス】歴史・代表的芸術家・作品を詳しく紹介

北方ルネサンスとは

北方ルネサンス(Northern Renaissance)とは、

アルプス山脈よりも北側の地域で勃興したルネサンスのことです。主にネーデルランド(現在のオランダ、ベルギー)やドイツで展開し、美術、音楽、建築など幅広い分野で古典文化を復興する運動が起こったものです。

北方ルネサンスは、イタリアで展開したイタリアルネサンスと比べても異なる特徴があり、特に後期に現れた芸術家は伝統を打ち壊すような斬新な表現をしました。

そこでこの記事では、

  • 北方ルネサンスの時代背景や特徴
  • 北方ルネサンスの代表的芸術家や作品

について紹介します。

興味のあるところから読んでみてください。

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1章:北方ルネサンスとは

北方ルネサンスとは、アルプス山脈よりも北側の地域で勃興したルネサンスのことです。

ルネサンスとは、術全般や建築、科学など幅広い分野で古典文化を復興しようとした運動のことで、イタリアを中心に起こったイタリアルネサンスと並行して、「北方」でも起こったのです。

「北方」とは芸術が活発だったイタリアから見た地域のことで、アルプス山脈よりも北の地域のことです。地図を見れば明らかですが、イタリアから見て「北方」にはドイツやフランス、オランダなどがあります。

北方ルネサンスが起こった地域

2章では代表的な作品や芸術家を紹介しますので、1章では北方ルネサンスが勃興した時代背景や芸術面の特徴について解説します。

1-1:北方ルネサンスの時代背景

ルネサンスは、さまざまな時代背景から起こった出来事でした。

1-1-1:ルネサンスの要因

古典古代の文化の復興が目指されたのは、15世紀までの芸術はキリスト教の教義の影響が強い、中世的な世界観に規定されていたためです。たとえば絵画を見るとキリストもマリアも悲惨な表情、厳しい表情、苦難に耐えるような表現がなされていたのです。

こうしたキリスト教の教義の影響に対し、15世紀までに以下のような出来事が起こりました。

  • 13世紀以降の十字軍の遠征の失敗によりカトリック教会の権威が低迷
  • 東方世界との交易によりイタリアが経済的に発展
  • 古代ギリシャ・ローマの文化を保存していたビザンツ帝国から、文化の輸入が行われた

こうした時代背景の変化から、古典古代、つまり古代ギリシャ・ローマ世界の芸術を復興しようという運動が起こったのです。

1-1-2:北方エリアの変化

15世紀、北方ルネサンスの中心になったネーデルランド(現在のオランダとベルギーを合わせた地域)も、イタリアのフィレンツェなどと同じく芸術・文化を発展させるだけの経済的、文化的豊かさを持っていました。

なぜなら、ネーデルランドは交易の中心として繁栄し、その結果、豊かな商人を中心とする市民階級と貴族による自由都市が形成されたからです。

自由な社会だったからこそ自由な表現が熟成していったのです。

1-2:北方ルネサンスの特徴とイタリアルネサンスとの違い

ネーデルランドの、特に南部のフランドル(現在のベルギー)では文化が発達しました。

フランドルの絵画は、

  • 発達した油彩画の技法による緻密な描写
  • 見たものをありのままに描く写実主義
  • 『聖書』の世界を日常の中に描く
  • 背景の自然を丁寧に描く

といった特徴がありました。これらの絵画を「北方絵画」とも言います。

イタリアルネサンスが、まずは、

  • 古代ギリシャ・ローマ的な人間の肉体や喜びの描写
  • 自然の美、現実の美しさの表現、写実主義
  • 解剖学や幾何学の発達による、正確かつ統一的な構図
  • 人間らしさ、人間規模の重視

といった特徴を持ったのと比較すると、写実主義等の共通点はあるものの、北方ルネサンスの方が宗教的色合いが強く残っていました。また、油彩画の技法ではイタリアよりも発展していました。

1-3:北方ルネサンスの流れと年表

北方ルネサンスは、15世紀はネーデルランドではじまり、16世紀はネーデルランドから遅れてドイツでも勃興しました。主要な出来事を記載した年表を作成したので、参考にしてください。

北方ルネサンスの年表

1章のポイントを整理します。

1章のまとめ
  • 北方ルネサンスは、15世紀から16世紀にかけてのネーデルランド(オランダ、ベルギー)やドイツで起こったルネサンスのこと
  • 北方ルネサンスは、写実主義、自然の丁寧な描写、日常的な表現などの特徴を持つ
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2章:北方ルネサンスの歴史・作品・人物(15世紀フランドル)

それでは、まずは北方ルネサンスについて15世紀のネーデルランド(オランダ、ベルギー)での歴史や代表的人物、作品などを紹介します。

15世紀のネーデルランドの絵画は、写実表現や油彩画でイタリアをリードする存在でした。それは、イタリアルネサンスの代表的作品と北方ルネサンスの代表的作品を見比べると、違いが分かるかもしれません。

まずは15世紀の代表的芸術家と作品から紹介します。

2-1:ファン・エイク

ファン・エイク(Jan van Eyck/1395年ごろ-1441年)は、15世紀の北方ルネサンスを代表する画家のひとりです。

ファン・エイクファン・エイク
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ファン・エイクは官邸画家であったため、細密、豪華、緊張感のある絵を描きました。絵は静的で感情的なものが見られないのが特徴的です。

ファン・エイク作 ファン・デル・パーレの聖母子ファン・エイク作 ファン・デル・パーレの聖母子
ファン・エイク作 アルノルフィーニ夫妻像ファン・エイク作 アルノルフィーニ夫妻像



2-2:ファン・デル・ウェイデン

ファン・デル・ウェイデン(Rogier van der Weyden/1399年-1464年)は、ファン・エイクと同時代を生きたフランドルの画家です。

ファン・デル・ウェイデンファン・デル・ウェイデン

多くの作品は宗教的テーマで描かれた祭壇画や肖像画でした。北方絵画において最も影響力があった画家のひとりです。

ファン・デル・ウェイデンはファン・エイクとは異なり、感情のこもった表現、内面の描写、親近感のある描き方を追求しました。ファン・エイクの静的で緊張感のある絵画と比べると、違いが分かると思います。

ファン・デル・ウェイデン作 十字架降下ファン・デル・ウェイデン作 十字架降下
ファン・デル・ウェイデン作 聖母を描く聖ルカファン・デル・ウェイデン作 聖母を描く聖ルカ
ファン・デル・ウェイデン作 女性の肖像ファン・デル・ウェイデン作 女性の肖像

宗教的テーマの絵画については、見ている人が絵の中の人物の感情を追体験できるように、感情的に描かれたのです。

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3章:北方ルネサンスの歴史・作品・人物(15世紀ドイツ)

15世紀のドイツでは、フランドルから少し遅れてルネサンスが始まりました。

ドイツでも、芸術はカトリック教会の教義に厳格なものから解放された、自由なものが目指されるようになります。その背景にあったのは、

  • 疫病や飢餓、戦乱などの混乱した世相
  • カトリック教会の権威の失墜

という社会の大変動です。

特に16世紀からは、ルターによって宗教改革の口火が切られます。ドイツは神聖ローマ帝国としてカトリック教会からの抑圧を受けていましたから、宗教改革による社会の変革は特に大きなものがありました。

そのような中で現れたのが、デューラーやグリューネヴァルトといったドイツのルネサンスを代表する芸術家たちです。

彼らの作品を紹介します。

3-1:デューラー

デューラー(Albrecht Dürer/1471年-1528年)は、ドイツのルネサンスを代表する画家、版画家、数学者です。キリストになぞらえた以下の自画像が有名です。

キリストになぞらえたこの自画像は、自分こそが芸術の救世主であるという姿勢を表したものです。

デューラーデューラー
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デューラーは木版画の技術を学び、「ヨハネの黙示録」「メランコリア」などの代表作で成功しました。

また、二度のイタリア滞在でイタリアのルネサンスを吸収し、そこから独自の表現を作り上げていきました。そのスタイルは、自然に理想を込めて描くのではなく、自然をありのまま写実的に描くことを重視するというものです。

イタリアから吸収した古典的な表現(古代ギリシャ的な骨格、筋肉がしっかり描かれたもの)は、それまでの北方ルネサンスにはないものでした。

デューラー作 四人の使徒デューラー作 四人の使徒
デューラー作 アダムとイヴデューラー作 アダムとイヴ
デューラー作 メランコリアⅠデューラー作 メランコリアⅠ



3-2:グリューネヴァルト

グリューネヴァルト(Matthias Grünewald/1470年-1528年)は、デューイと共にドイツのルネサンスを代表する芸術家の一人です。

グリューネヴァルトグリューネヴァルト

グリューネヴァルトの特徴は、北方ルネサンスの影響を受けつつもゴシック的であったところです。ゴシック的というのは、つまりはキリスト教的な表現であるということです。

繰り返しになりますが、ルネサンスはキリスト教の教義に厳格に縛られない表現が模索された運動でした。しかし、グリューネヴァルトの作品は、まだキリスト教の教義の影響が色濃く、例えば「キリストの磔刑」は苦難に満ちた表情が描かれています。

グリューネヴァルト作 キリストの磔刑グリューネヴァルト作 キリストの磔刑

また、イタリアルネサンスでは奥行きのある立体的な表現が発展しましたが、グリューネヴァルトの絵画は表面的で、その面でもゴシック的です。

グリューネヴァルトの絵画は、ゴシック的なものとルネサンス的なものが両方入った過渡期的な芸術なのです。

グリューネヴァルト作 聖母とイエスグリューネヴァルト作 聖母とイエス

4章:北方ルネサンスの歴史・作品・人物(15世紀末~16世紀)

2章でネーデルランドの絵画は、当初はイタリアルネサンスよりも写実性などでリードする存在だったと書きました。

しかし、16世紀にはイタリアルネサンスの方が写実性で優位に立ち、ネーデルランドはイタリアから影響を受けるようになります。ネーデルランドの芸術家たちは、イタリアに滞在して表現を取り入れようとしました。

イタリアの遠近図法や解剖学をベースにした理想的な理想的な人体の表現は、北方から見ても魅力的だったのです。このようにイタリアに滞在してルネサンスの成果を吸収しようとした人々を、ロマニストと言います。

15世紀末から16世紀のネーデルランドの芸術は、ロマニストと地元にとどまって技術を磨いた画家たちによって担われました。

4-1:ボス

ボス(Hieronymus Bosch/1450年-1516年)は、15世紀末のネーデルランドのルネサンスを代表する画家です。

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ここまでの作品を順番に見ていれば、ボッスの作品が異質であることが分かると思います。

ボスの時代のフランドルでは、ドイツのファン・エイクらの影響が強かったのですが、ボスにはそのような影響を受けている痕跡がありません。また、まったくゴシック的でもなければ他のルネサンス画家の作品とも異なります。

聖書に基づいたテーマも多いのですが、表現は自由でユーモアにあふれるシュールさが特徴的です。

ボス作 快楽の園ボス作 快楽の園
ボス作 干草の車ボス作 干草の車

ボスは、絵画における新たな地平を切り開いたと言えるでしょう。



4-2:ブリューゲル(父)

ブリューゲル(Pieter Bruegel/1525年ごろ-1569年)は、ボスの画風を受け継いだネーデルランドの画家です。同名の長男がいますが、ここで紹介するのは父の方です。

ブリューゲル(父)ブリューゲル(父)
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ブリューゲルは、民衆、特に農民の生活をよく描いたことから「農民画家」と言われることもあります。

宗教的テーマではなく、民衆、農民をテーマに描くことができたのは、宗教改革によって境界からの製作の注文が減る一方、市民からの注文にこたえて描いたからだとも言われます。ただし、ブリューゲルの生涯は謎が多いため分かっていないことも多いです。

有名な作品も多いため、特に「バベルの塔」や「雪中の狩人」などは一度は目にしたことがある方も多いと思います。

ブリューゲル作 雪中の狩人ブリューゲル作 雪中の狩人
ブリューゲル作 ネーデルランドの諺ブリューゲル作 ネーデルランドの諺
ブリューゲル作 バベルの塔ブリューゲル作 バベルの塔

ボス、ブリューゲルと見るとルネッサンスも後期になると、過去の伝統から大きく脱した表現が可能になっていることが分かると思います。

5章:北方ルネサンスの歴史や作品が鑑賞できる本

北方ルネサンスの歴史や代表作を紹介しましたが、ここで紹介したのはほんの一部に過ぎません。

この時代に生み出された芸術作品は非常に多いため、まずはぜひ芸術の書籍を手に入れて、じっくり鑑賞してみてください。

また、芸術的表現はその時代の歴史を理解することで、より深く味わうことができます。合わせて当時の社会や文化に関する書籍も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

オススメ書籍

オススメ度★★★リチャード・ステンプ『ルネサンス美術解読図鑑―イタリア美術の隠されたシンボリズムを読み解く』(悠書館)

本格的な本ですが、1冊持っておくとルネサンスの芸術を読み解くことができるでしょう。

オススメ度★★視覚デザイン研究所『鑑賞のための西洋美術史入門』(視覚デザイン研究所)

この本では、西洋美術の歴史と共に代表的な作品が豊富な写真付きで紹介されています。概要的な歴史と有名作しか掲載されていませんが、入門書としてはおすすめです。

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まとめ

最後に今回の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 北方ルネサンスは、15世紀から16世紀にかけてオランダ、ベルギー、ドイツなどの地域で勃興した運動
  • 北方ルネサンスには、高度な油彩画や写実の技術、日常的な表現などの特徴がある
  • 北方ルネサンスの代表的芸術家は、デューイ、ブリューゲルなど

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