現実主義(リアリズム/realism)とは、
国際政治における力(パワー)の重視、国家中心主義、国家行動を対立・闘争を中心に考える、国際政治学の立場のことです。
古くは古代ギリシャにまで遡ることができる思想で、現代の国際政治学において「リベラリズム」「コンストラクティビズム(構築主義)」と共に、主流派の一つとなっています。
そのため、国際政治学を学ぶ方にとっては必ず押さえておかなければならない重要な知識です。
また、国際政治学を勉強する必要がない一般の方にとっても、国際政治学における立場や思想の違いは、知的好奇心が刺激されるとても面白いものだと思います。
そこでこの記事では、
- 現実主義の意味や特徴、理想主義との対比
- 現実主義の歴史
- 現実主義の学び方
などについて解説します。
読みたいところから読んでみてください。
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1章:現実主義(リアリズム)とは?
もう一度確認しますが、現実主義(リアリズム/realism)とは、
国際政治における力(パワー)の重視、国家中心主義、国家行動を対立・闘争を中心に考える、国際政治学の立場のことです。
この定義を踏まえた上で、より詳しく説明します。
1-1:現実主義の意味
現実主義(リアリズム)とは、国家間の関係性をとにかく「現実に即して」考える立場です。
現実主義について理解するためには、現実主義が批判する「理想主義(idealism)」でを共に知っておくと良いかもしれません。
理想主義とは、国際社会における国家間の協力・協調や道義的理念、倫理観などを重視し、すべての国にとって平和が利益であると考える立場です。
「なぜ理想主義を批判するの?」
と思われるかもしれません。
確かに、理想主義は現実の社会を変える変革の力を持っていますが、一方で戦争を防ごうとした結果、戦争の危機を招くことがあるからです(代表例はミュンヘン会談でヒトラーを増長させたこと)。
逆に戦争の危機を高める行為が平和を招いたこともあります。
つまり、現実主義の立場から見れば、理想主義は「現実を見ていない」「実際の国際政治は闘争ばかりで、理想的なことは言えないはず」と見えるのです。
とにかく現実を冷徹に見て、現実に即して理論を構築していくのが現実主義なのです。
理想主義は一部のリベラリズムに対する批判でしたが、リベラリズムと現実主義には以下のような違いがあります。
現実主義(リアリズム) | リベラリズム | |
国家間の関係 | 対立、権力闘争 | 協調、協力が可能 |
国際社会の主体(行為者) | あくまで国家が中心 | 国際機関、多国籍企業、NGOなどの非国家主体も重要 |
国際社会での経済的相互依存関係 | 相互依存が深まっても、戦争が起こる | 相互依存が深まるほど、平和になる |
ルール化・制度化 | 国家が主体であるため、ルール化・制度化に消極的 | 協調によるルール化、制度化に積極的 |
1-2:現実主義の特徴
現実主義の特徴は、以下の点に集約されます。
1-2-1:国際社会は無政府状態(アナーキー)
現実主義(リアリズム)は、国際社会は無政府状態(アナーキー)であると考えます。
そもそも、近代の国際社会は「主権国家体制」というシステムから成り立っていると考えられます。
【主権国家体制とは】
最高の権力を持つのが国家であり、国家をコントロールできる上位の権力は存在しない。また、国家間は対等であると考える立場。
※主権国家体制について詳しくは以下の記事で解説しています。
国家をコントロールできる存在ないのですから、国際社会は最高の権力を持つ国家のみによって構成されることになります。
当たり前のことでは?と思われるかもしれませんが、例えば日本国内の秩序を考えてください。
国内においては、国民は自らの安全や権利を国家に保護してもらうことができます。
財産は法律によって守られていますし、生存を脅かされれば警察に助けを求め、加害者を法によって裁いてもらうことができます。
しかし、国際社会では、国家を守ってくれるいかなる存在もないのです。
そのため、国家は自分で自分の身を守らなければなりません(自助)。
この立場は、現実主義(リアリズム)のあらゆる思想や理論の前提になっています。
1-2-2:国際社会の主体は国家
国際社会の主体を、国家以外のもの(非国家主体)も含めて考える立場もありますが、現実主義はあくまで主体は国家であると考えます。
確かに国際社会では、国際機関や多国籍企業、NGOも行動するのですが、現実主義(リアリズム)は、力(特に軍事力)を重視するため、国際社会で影響力を持つ主体は国家のみと考えるのです。
国際機関、企業、NGOなどは、あくまで国家の存在を前提として活動できているものと見なします。
1-2-3:安全保障の重視
現実主義(リアリズム)は、国家の安全保障を最重要な問題と考えます。
もうお分かりだと思いますが、無政府状態の国際社会で国家が自らの身を守るためには、まず第一に安全保障が必要になるからです。
■リアリズム的世界の国家間の問題
現実主義(リアリズム)の世界では、各国が防衛やパワーの拡大のために、互いに軍備を増強します。
そのため、たとえば日本が軍備を増強しても、その分隣国も軍備を増強し、軍拡のいたちごっこになるのです。
これを「安全保障のジレンマ」と言います。
安全保障のジレンマは、国家間での軍備の拡張競争や戦争の原因を説明するのに説得力を持ちます。
1-2-4:国家間の関係は権力闘争
現実主義(リアリズム)の見方では、国家間の関係は基本的に権力闘争(パワーポリティクス)であると考えます。
国家は他国から領土や富、自由などを奪われないために、他国よりも大きな力を持てるように競争するからです。
権力闘争の結果、国際秩序は「勢力均衡(バランスオブパワー)」というメカニズムで釣り合いが取れると考えられます。
■勢力均衡の3類型
勢力均衡は、
- 単極システム(覇権システム):強大な覇権国の存在とその他の国家によって作られる均衡
ローマ帝国、イギリス帝国、冷戦終結後のアメリカなど、強大すぎて他の国家が手を出せない覇権国が存在し、覇権国に挑戦する国家がいない(少ない)ため安定した秩序が作られる。 - 2極システム:強大な2つの国家を中心に作られる均衡
米ソ冷戦のように、2国の強大な国家が軍拡した結果均衡状態に入り、結果的に安定した秩序が保たれること。 - 多極システム:3つ以上の大国によって作られる均衡
19世紀後半のヨーロッパのように、ヨーロッパに複数の大国が存在している状態。大国が多いと他国の出方が予測しにくく、国家の行動が慎重になるため、結果的に安定した秩序が作られることがある。
すべて「どんな国際社会が安定するのか?」という問いに対する答えなのですが、このように様々な考えがあるのです。
現実主義の基本的な考え方が分かりましたか?
ここまでをいったん整理しましょう。
- 現実主義は、国家を主体として考える、安全保障やパワーの重視、国家間関係を対立・闘争として捉える特徴がある
- 現実主義は、国際政治を理想からではなく徹底的に現実から捉える立場
2章:現実主義の変遷の歴史
現実主義は国際政治の主流の考え方として、古くは古代ギリシャから存在する思想です。
とは言え、時代によって変遷し、現在の姿になっていますので、大まかな流れを理解すると、現実主義の思想がより深く分かります。
2-1:古代ギリシャの現実主義
古代ギリシャの歴史家トゥキュディデス(Thukydides)はペロポネソス戦争を通して、国家関係を現実主義(リアリズム)から説明しました。
トゥキュディデスの主張は、
- ペロポネソス戦争の原因は、アテネとスパルタの間の力(パワー)の不均衡にある。スパルタ人はアテネの勢力拡大に恐怖心を持ったため開戦に踏み切った。
- 戦争の原因は人間の内面ではなく、国際環境や国家間の力関係にある。
というものでした。
この説明は、ペロポネソス戦争だけではなくあらゆる戦争の原因を説明するのに役立つものです。
現実主義の源流として頭の隅っこに入れておくと良いと思います。
2-2:マキャベリの現実主義
近代社会における現実主義は、マキャベリ(Niccolò Machiavelli/1469年-1527年)に起源が見られます。
マキャベリは、
- 国家の指導者(君主や官僚)の行動原理は、自己利益の追求である
- 他国との抗争に勝つためには「法律」と「力」が必要である
- 自己利益追求を求める他国に勝つためには、合理的に(冷徹に)手段を選ばなければならない
というように、国家指導者が持つべき現実主義的立場を明確にしました。
※マキャベリの思想について、詳しくは以下の記事で解説しています。
国家指導者の行動が、道徳律や倫理観から説明されることが多かった当時、現実主義的な立場を明確にしたマキャベリの思想は、その後の近代思想に大きな影響を与えました。
2-3:ホッブズの現実主義
『リヴァイアサン』などで有名なホッブズ(Thomas Hobbes)も、その後の現実主義の基盤となる重要な思想を提唱しました。
それが「万人に対する万人の闘争」という考え方です。
ホッブズによると、
- 人間は本質的に権力欲を持つ
- そのため、人間が本性むき出しになる(自然状態)と、「万人に対する万人の闘争」という「戦争状態」になる
- そのため、社会に秩序を構築するためには、個人に保護を与える国家が必要である
- しかし、国際社会に国家をコントロールできる権力が存在せず、しかも国家は上位の権力(世界政府)を作るほど弱くもないため、国際社会は無政府状態で、かつ権力闘争の場になる。
※上記の説明は、ホッブズの社会契約説の一部です。社会契約説やホッブズの思想について詳しくは以下の記事をご覧ください。
このように、ホッブズはその人間観から現実主義的な思想を生み出したのですが、これはそのままその後の現実主義の思想に受け継がれていきました。
2-4:第一次世界大戦以降の現実主義
国際関係論という学問は、歴史学者のE・H・カー(Edward Hallett Carr)や、ハンス・モーゲンソー(Hans Joachim Morgenthau)の業績によるところが大きいです。
初期の国際関係論は、世界で大戦が勃発したことから理想主義を批判する中で、現実主義中心に発展しました。
2-4-1:E・H・カーの現実主義
E・H・カーは、
- 第一次世界大戦後(1919年)に、アメリカ大統領ウッドロー・ウィルソンの提唱で国際連盟が設立されたにもかかわらず、世界は二度目の世界大戦に突入した
- つまり、ウィルソン的な理想主義は現実の国際政治を動かすのに有効ではない
- 国際政治は、力(パワー)を無視して語れるものではない
と主張しました。
※とは言え、カーは『危機の二十年』で理想主義を完全に否定しているわけではなく、理想主義と現実主義の両方の立場を重視しています。
こうした現実主義の思想は、さらにハンス・モーゲンソーによって発展させられました。
2-4-2:モーゲンソーの現実主義
モーゲンソーは、現実主義の思想を体系化した人物です。
モーゲンソーは、リアリズムの理論を以下の6つの点で集約しました。
- 国際関係は、人間本性(ホッブズ的な人間観:戦争状態)に基づくもの
- 国際関係は、国家が力(パワー)に基づいて利益追求する場である
- 国際関係における国家の目的は生存である
- 「道義」は適切な国家行動に結びつくとは限らない
- 特定の国家の「道義」と、普遍的な「道義」は別物
- 力(パワー)が国際政治とそれ以外を区別する要素であり、国際政治という領域は独立的
これを見ると、1章で説明した現実主義の基本的な考え方が、すでにモーゲンソーによって体系化させられていることが分かると思います。
カーとモーゲンソーの2人が、現代国際政治学の現実主義を作り上げたのです。
3章:現実主義(リアリズム)への批判とネオリアリズムの登場
カーとモーゲンソーの現実主義を中心に、戦後の国際政治学・国際関係論が発展していったのですが、1970年代ごろから現実主義(リアリズム)の立場だけでは、現実を説明できないと批判されるようになりました。
現実主義への批判は以下のようなものです。
- 現代の国際関係は、非国家主体(国際機関やNGO、多国籍企業など)なども登場しており、国家を主体として考えるのは間違っている
- 国際社会では平和に向かって国家が協調することもあり、必ずしも対立的な関係ばかりではない
- 現実主義は、人間本性を国際社会に敷衍させているだけであり、科学的ではない
現実主義の国際政治学者の中から、この批判に応えようという動きが生まれ、ケネス・ウォルツなどによって生み出されたのが、ネオリアリズム(Neorealism)です。
ネオリアリズムは、旧来のリアリズムへの批判に対して、「いや、今でも現実主義は有効な思想なのだ」と応えたものです。
端的に言うと、ネオリアリズムは以下のような思想です。
- 非国家主体の活動も、力を持つ国家が存在することを前提としたもので、国際社会における主体は今でも国家である
- 平和は勢力均衡によって達成されるもので、現代社会でもやはり国際関係の本質は権力闘争(パワーポリティクス)にある
- 国家行動はホッブズ的な人間観ではなく、「無政府状態」という国際構造の存在から影響を受けているものである(科学的な理論化①)
- また、国家行動は、国家が企業のように自己利益の追求を求めた結果、「力の均衡」という秩序が形成される(科学的理論化②)
ネオリアリズムについて、詳しくは以下の記事で解説しています。
ここまでをまとめます。
4章:現実主義の学び方
現実主義について理解を深めることはできましたか?
まず、国際政治学について広く学びたいという場合は、以下のページでさまざま本を紹介していますのでぜひご覧ください。
→【国際政治学のおすすめ本7選】代表的理論と名著・必読書を紹介
国際関係論を学ぶ場合、現実主義だけを独立して学ぶことはあまり意味がありません。
現実主義とリベラリズムの対話・論争で発展してきたのが国際関係論ですので、広く現代までの流れを押さえておくことをおすすめします。
また、現実主義は実際の国際政治の現場でも論じられる思想ですので、ニュースからリアルな情報を集めることでも理解が深まります。
オススメ書籍★★★E・H・カー『危機の二十年-理想と現実-』(岩波文庫)
現実主義に関する名著です。内容は現代でも色あせません。現実主義一辺倒ではなくリベラリズムともバランスが取られた主張で、読みやすいです。必読。
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オススメ書籍★★★モーゲンソー『国際政治(上)――権力と平和』 (岩波文庫)
こちらも現実主義に関する必読書です。上中下と長いですが、国際政治学を学ぶ上ではこれも必読書です。
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オススメ度★★中江兆民『三酔人経綸問答』 (岩波文庫)
中江兆民が書いた読み物で、現実主義とリベラリズムのそれぞれの立場から議論がなされる物語です。現代でもとても読みやすく面白いのでおすすめです。
まとめ
この記事の内容をまとめます。
- 国際関係論における現実主義は、カーやモーゲンソーによって体系化された
- 現実主義は、国際社会を国家が主体、国家間の関係は権力闘争が基本、国家はパワーを求めるもの、と考えた
- 現実主義は人間本性から敷衍された思想だったが、ネオリアリズムでは無政府状態という構造が国家行動に影響する、という科学的説明が成されるようになった
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