国際政治学

【ネオリアリズムとは】理論の形成〜発展までわかりやすく解説

ネオリアリズムとは?

ネオリアリズム(Neorealism)とは、

無政府(アナーキー)な国際社会では、あくまで国家が主体であり、安全保障が重要であると現実主義的に捉えた国際関係論の理論

のことです。

ネオリアリズムは、その後ネオリベラリズム(ネオリベラル制度主義)と合流して、現代に繋がる国際政治学・国際関係論を形作った重要な理論です。

そのため、どのような理論であったのか、なぜそのように考えられたのかを理解することは、これから学ぶ方にはとても大事なものです。

そこでこの記事では、

  • ネオリアリズムの意味
  • ネオリアリズムの諸理論について
  • ネオリアリズムへの批判
  • ネオリアリズムの学び方

について詳しく解説します。

ぜひ読みたいところから読んでください。

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1章:ネオリアリズムとは?

もう一度確認しましょう。

ネオリアリズム(Neorealism)とは、

無政府(アナーキー)な国際社会では、あくまで国家が主体であり、安全保障が重要であると現実主義的に捉えた国際関係論の理論

のことです。

1970年代〜80年代にかけて急速に発展しました。

これだけでは難しいかもしれませんが、伝統的なリアリズムに対して何が「ネオ(新しい)」のか、そしてどのような時代背景から生まれたのかが分かれば、理解できます。

1-1:そもそもリアリズム(現実主義)とは

そもそも、政治学における「リアリズム(Realism/現実主義)」とは、

人間は本質的に闘争的であるため、社会は自ずと力(パワー)による闘争の場になる。従って、上位の権力が存在しない国際社会では、力の行使による均衡(勢力均衡)が秩序になる。

と考える立場です。

つまり、社会における「力」の要素を重視する立場です。

古くは古代ギリシャのペロポネソス戦争から始まった立場だと言われ、近代社会思想の祖と言われるマキャベリもリアリストですし、国際政治学・歴史学の大家であるE・Hカーの立場もリアリズムです。

現実主義(リアリズム)について、詳しくは以下の記事をご覧ください。

【現実主義(リアリズム)とは】国際関係の重要理論をわかりやすく解説

1-2:ネオリアリズムは冷戦後の国際社会を説明しようとした理論

国際政治学の世界では、リアリズムとリベラリズムが主流の思想だったのですが、冷戦後の世界を説明する上では、現実主義(リアリズム)は十分な説得力を持たないと考えられました。

具体的には、以下のような批判がなされたのです。

現実主義(リアリズム)への批判
  • 経済的な相互依存が深まり、国家以外の主体(非国家主体)が登場する社会で、リアリズムは古典的な「国家中心の国際社会」を前提にしている
  • 国家の行動原を「安全保障という国益の達成のため」と考えるが、現代社会では国益より重視される利益(経済的利益)があるはず
  • リアリズムは人間の行動原理をそのまま国家の行動原理に敷衍させているため、科学的ではない

このような批判に対する「反批判」、つまり「リアリズムの立場から、冷戦後社会について説得力のある説明ができるのだ」と主張したのがネオリアリズムという理論です。

1-3:ネオリアリズムの理論の特徴

こうして生まれたネオリアリズムの特徴は、以下のようにまとめることができます。

  1. 国際社会は無政府状態(アナーキー)である、つまり国家の行動をコントロールできる上位権力が存在しない
  2. 無政府状態では、国家は安全保障を目的として、力(パワー/軍事力など)を手段として行動する
  3. 無政府状態では、国家は互いに不利な立場にならないように行動し、力(パワー)が均衡する
  4. 国際システムの安定(平和な世界)は、パワーの分布状況による(1極、2極、多極などの立場がある)

力(パワー)の重視や国家の利己的な行動、力による安定が秩序になる、といった考え方が特徴的で、確かにリアリズムの伝統を引き継いでいるのが分かると思います。

「でも、これでは古典的なリアリズムの考えと違いがないのでは?」

と思われるかもしれませんが、ネオリアリズムは古典的リアリズムへの「国家中心」「安全保障中心」「非科学的」という批判に対し、以下のように答えました。

  • 現代の国際社会においても、あくまで中心は国家である
  • 現代でも国際社会の本質は「協調的」より「対立的」なものであり、安全保障が重要である
  • 国際システム論やミクロ経済学の理論を取り入れることで、ネオリアリズムは科学的である

リアリズムを中心とした国際政治学・国際関係論の理論について、以下の本では分かりやすく解説されています。

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さらに詳しい内容は2章で説明しますので、いったんここまでを整理します。

1章のまとめ
  • ネオリアリズムは、国際社会におけるパワーや安全保障の重視、均衡による秩序形成、国家が主体、といった特徴を持つ立場
  • ネオリアリズムは、旧来の現実主義への「国家中心」「安全保障中心」「非科学的」という批判に応えた

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2章:ネオリアリズムの諸理論

さて、ネオリアリズムは様々な国際政治学者によって提唱されたものです。

ネオリアリズムの中にも複数の立場がありますので、その起源から派生した理論まで何となくでも頭に入れておくことをおすすめします。

2-1:ネオリアリズム誕生時の理論

ネオリアリズムは70年代にその萌芽がありましたが、本格的に登場したのは冷戦後です。

その起源となったのがジョン・ミアシャイマー(John J. Mearsheimer)が『国際安全保障』誌に投稿した「未来への逆走」という論文です。

この論文でミアシャイマーは、「冷戦の終結で米ソ二極による力の均衡が崩れたため、世界は無秩序になる」と考えました。

さらに、これに応えて理論を発展させたのがケネス・ウォルツ(Kenneth Neal Waltz)です。

ケネスウォルツ

ウォルツは、前述の「リアリズムへの批判」を踏まえて以下のように論じました。

2-1-1:国家行動への影響①無政府状態の国際機構

伝統的リアリズムは、戦争が起きてしまうのは人間が本質的に権力欲を持つからであると考えました。

この点は、リアリズムが非科学的だと批判された所です。

それに対して、ネオリアリズムの基礎を作ったウォルツは、国際社会で戦争が起こるのは、人間の本質に問題があるからではなく、国際構造(international structure)が無政府状態だからであると考えました。

国家は、無政府状態である国際構造に影響を受けるため、自然に戦争に向かってしまうと考えたのです。

「なぜ無政府状態になると戦争になるの?」

と思われるかもしれませんが、無政府状態の国際社会では、国家を保護してくれるものが存在しないため、国家は生存するために軍事力を持たざるを得なくなっていくからです。

2-1-2:国家行動への影響②国家間のマーケットメカニズム

無政府状態の国際構造を前提とした国家行動は、結果的に「勢力均衡」を作るともウォルツは考えました。

これは、1章でも紹介したミクロ経済学の理論から影響を受けた考え方です。

企業は、市場で自己利益を極大化させることを目的に行動し、その結果寡占的な秩序を形成します。

ネオリアリズムは、国家も企業と同じように自国の安全保障を極大化することを目指して行動し、その結果「力の均衡」という秩序が形成されると考えました。

いったん戦争などで秩序が壊れても、その壊れた状態から再び「力の均衡」に向かって秩序が形成されていく。これが国家行動に影響を与えるのです

こうしたネオリアリズムの理論を前提に、さらに様々な理論が生まれました。

2-2:覇権安定論

国際政治経済学の大家であるロバート・ギルピン(Robert Gilpin)は、ウォルツのネオリアリズムの理論を発展させて「覇権安定論」を提唱しました。

覇権安定論とは、

  • 国家が持つ力(パワー)は軍事力だけでなく、経済力によっても構成される
  • 国際構造の安定は、覇権国(突出したパワーを持つ国家)によって担われる
  • しかし、覇権国は国際構造の維持のために他国より大きな負担を強いられるため、徐々に衰退し、その恩恵を受けた第2次的国家が次の覇権国になる
    ex.イギリス帝国からアメリカへの覇権の移行

という理論のことです。

米ソ二極構造が崩れ、「これから世界はどうすれば安定していくのか?」という強い問題意識が生まれ、これからの国際社会の秩序を説明するために生まれた理論です。

覇権安定論は、その後アメリカの覇権衰退に関する論争を喚起することになりました。

2-3:防御的リアリズム

ネオリアリズムから派生して、近年生まれた立場に「防御的リアリズム」があります。

ネオリアリズムは、無政府状態の世界では国家間の対立が当然で、国家間協力は難しいと考えますが、これに異を唱えたのが防御的リアリズムです。

防御的リアリズムは、

  • 国家は自国の利益の極大化を目指す(これは旧来のネオリアリズムと同じ)
  • しかし、国家が目指すのはパワーの極大化ではなく、安全保障の確立であ
  • 国家が不用意に軍事力を拡大すると、他国も軍事力を拡大させて自国に不利益になる(安全保障のジレンマ)ため、軍事力の拡大は合理的ではない
  • そのため、国家は安全を確立するための国際協力が必要なら協力し合える

現実の国際社会では、様々な国際協力が行われています。

この現実の国際協力について、説得力のある説明ができる点で、過去のネオリアリズムから発展しているのです。

防御的リアリズムはネオリベラリズムの考え方にも近いですが、ネオリアリズムよりも安全保障を重視しており、国際協調の可能性に楽観的ではない点に違いがあります。

ネオリベラリズムを含めた国際関係論におけるリベラリズムについて、詳しくは以下の記事で解説しています。

【リベラリズム(国際関係)とは】現代までの変遷と理論をわかりやすく解説

2-4:攻撃的リアリズム

ネオリアリズムからは、防御的リアリズムとは対照的な「攻撃的リアリズム」という立場も派生しました。

攻撃的リアリズムは以下のように考えます。

  • 国家が目指すのは安全保障ではなく、パワーの拡大であるため、国際社会は自ずと権力闘争の場になる
  • 国家がパワーの拡大を目指すのは、国家が国際社会における自らの立場を変革し、覇権国になることを常に目指しているからである
  • 攻撃的リアリズムには、国際構造が国家行動に影響する結果、国家行動がパワーの拡大に向かうという立場(ミアシャイマーなど)と、国内要因によって国家行動はパワーの拡大に向かう(新古典派リアリズム)という立場がある

ネオリアリズムの立場を整理すると、以下のようになります。

伝統的リアリズム 防御的リアリズム 攻撃的リアリズム 新古典派リアリズム
国家を権力闘争に向かわせる要因 国家が持つ権力欲 無政府状態という国際構造 無政府状態という国際構造 国内の様々な要因
国家が欲するパワー 覇権の確立、可能な限りの強大なパワー 安全保障が確立できる限りでのパワー 覇権の確立、可能な限りの強大なパワー 覇権の確立、可能な限りの強大なパワー

ここまでをまとめます。

2章のまとめ
  • ネオリアリズムは、人間本性を国際社会に敷衍するのではなく、無政府状態という国際構造に国家行動が影響されていると考えた
  • ネオリアリズムは、国家は市場原理と同じくパワーの追求を通じて勢力均衡すると考えた
  • 防御的リアリズムは、国際協力の可能性を肯定的に捉え、攻撃的リアリズムは国家はあくまで闘争的であると考える

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3章:ネオリアリズムへの批判

さて、ネオリアリズムはいくつかの点で他の国際政治学における立場から批判されました。

  1. 大国中心の考え方
    ネオリアリズムは、パワーを前提とした国際秩序の形成を考える立場であるため、小国の存在を軽視してしまう
  2. 軍事中心主義
    現実世界では、軍事力が大きくなり過ぎないように、各国は国際協力や外交を行うが、ネオリアリズムは軍事力の拡大を肯定している
  3. グローバリゼーションの軽視
    現代社会はグローバリズムにより相互依存関係を深めているため、国家中心、安全保障中心の考え方は説得力がない
  4. 国際社会の変化を説明しない
    国際社会では、対立、同盟、国際協力などによって変化を繰り返しているが、ネオリアリズムは国際社会の変化を積極的に説明していない(ネオリアリズムは、国家や歩アワーの存在を「変わらないもの」と考えている)

こうした批判があるため、ネオリアリズムは「ネオリベラリズム」と統合(ネオネオ統合)し、その後より説得力のある理論として発展させられました。

ネオネオ統合後の国際関係論についても、これからこのサイトで解説しますのでぜひご覧ください。

4章:ネオリアリズムの学び方

ネオリアリズムについて理解を深めることはできましたか?

まず、国際政治学について広く学びたいという場合は、以下のページでさまざま本を紹介していますのでぜひご覧ください。

→【国際政治学のおすすめ本7選】代表的理論と名著・必読書を紹介

国際関係論の学びのためには、ネオリアリズムを単体で学ぶ必要はありません。

現実主義、リベラリズムと共に大きな流れを頭に入れ、それから最新の研究動向に進むのがベストです。

そこで、国際政治学・国際関係論について学びを深めたい方には以下の書籍をおすすめします。

また、国際政治学・国際関係論は現実の社会の動向を分析することで、より活きた知識になりますので、そのための情報収集も必須です。

おすすめ書籍

オススメ度★★★進藤栄一『現代国際関係学―歴史・思想・理論』 (有斐閣Sシリーズ)

国際関係論について網羅的に論じられたとても良い本です。初学者用のテキストとしておすすめです。

オススメ度★★ケネス・ウォルツ『国際政治の理論』(勁草書房)

国際政治学に大きな影響をもたらした普及の名著です。ネオリアリズムについて理解を深めたい方ばかりでなく、国際政治学を学ぶすべての人の必読書です。

おすすめ新聞・雑誌

英文ビジネス誌 The Economist

ビジネスの最前線で勝ち残るための必要な情報が凝縮 日経ビジネス

ウォール・ストリート・ジャーナル

国際情勢に関する情報が豊富ですので、リアルな国際政治を学ぶ上でおすすめです。

まとめ

この記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • ネオリアリズムは、現実主義への「国家中心」「安全保障中心」「非科学的」という批判に応えた
  • ネオリアリズムは、非国家主体もあくまでパワーを持つ国家が背景にいるから活動できる、国際社会は無政府状態であるため、あくまで安全保障が最優先、国家行動は市場原理と同じ論理で勢力均衡すると考えた
  • ネオリアリズムの中にも防御的リアリズムや攻撃的リアリズムなど、複数の立場がある

このサイトでは、他にも国際政治学・国際関係論の理論を解説していますので、ぜひこれからも読んでみてください。

【引用】

ケネスウォルツの画像・・・Wikipediaクリエイティブコモンズ(https://commons.wikimedia.org/wiki/File:%D0%9A%D0%B5%D0%BD%D0%BD%D0%B5%D1%82_%D0%92%D0%BE%D0%BB%D1%82%D1%86.jpg)より引用。一部変更。