アメリカのリベラル(左派)とは、国家が経済活動に介入して国民の自由を実現すること、国家が州の政治や教育まで介入し、個人の自由を守ることなど「国家の役割を積極的に認める」思想、立場のことです。
現在のアメリカでは、基本的に民主党がリベラル(左派)で、共和党が保守(右派)になります。
しかし、アメリカの「保守(右派)とリベラル(左派)の対立」は、独特ですので、理解するためにはそれぞれがどんな立場で、どのように変遷してきたのか理解することが大事です。
そこでこの記事では、
- アメリカにおけるリベラルとは何か?
- リベラルと保守はどう違うのか
- 代表的なリベラルの州や都市、大学はどこか
- リベラルはどのような歴史を辿ってきたのか
- アメリカのリベラルについて深く学ぶ方法
などについて詳しく説明します。
アメリカのリベラル(左派)について理解することは、アメリカの政治経済を動かす原理や政治学の理論を理解することにも繋がります。
知りたいところから読んで、アメリカ政治の理解に役立ててください。
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1章:アメリカにおけるリベラルとは?
もう一度確認しますが、アメリカのリベラル(左派)とは、
国家が経済活動に介入して国民の自由を実現すること、国家が州の政治や教育まで介入し、個人の自由を守ることなど「国家の役割を積極的に認める」思想、立場
のことです。
最も大事なのが「国家の役割を積極的に認める」という部分です。
1-1:アメリカ政治のリベラルの意味
アメリカのリベラル(左派)と保守(右派)の違いについて、まず知っておく必要があるのが、アメリカがそもそも自由主義(Liberalism)の国であるということです。
なぜなら、アメリカは自由を求める人々によって建国された国家であり、ヨーロッパ的な権威主義や保守主義の伝統から決別した立場に基づいているからです。
そのため、右派・左派という対立軸も「自由主義」の上でのものであることに注意してください。
経済や社会的権利について「自由を求める」ことが大事だという前提に立った上で、
- 保守(共和党)・・・経済、社会、宗教、州の行政などについて、国家になるべく介入して欲しくない(自由にさせてほしい)
- リベラル(民主党)・・・それぞれについて、必要であれば国家の介入をある程度認める
という対立軸があるのが、アメリカの政治の特徴です。
この対立軸が明確になったのは、1930年代に「大きな政府」的な政策を支持する人々が「リベラル」を名乗り、それを批判する人々が「保守」になったからです。
※リベラルの変遷について詳しくは2章で説明します。
1-2:リベラルと保守との区別
より具体的な政策内容から、アメリカ政治におけるリベラルと保守の違いを区別してみましょう。
リベラル | 保守 | |
国際社会での覇権力や軍事力の維持 | 必要ない | 必要 |
公共事業や福祉政策、国民皆保険 | 政府がやるべき | 政府は最小限で良い |
人種差別撤廃や移民の受け入れ | 積極的 | 消極的(排他的) |
銃規制 | 必要 | 必要ない |
学校での礼拝 | 必要ない | 必要 |
労働者の保護、雇用政策、格差是正 | 政府がやるべき | 政府はやらなくて良い |
※この違いは極めて大まかなもので、実際には右派・左派のそれぞれの中にも、時代によっても様々な立場があります。
大雑把に言えば、
- リベラル:国が介入しなければ弱者が生まれてしまうため、自由や権力を守るために国家の役割が大事だと考える
- 保守:国が介入すると非効率な政府組織が生まれたり、経済活動が非効率になったり、行きすぎた保護で『甘え』が生まれるから、国家の役割は最小限で良いと考える
という違いがあります。
「保守(右派)」と「リベラル(左派)」という対立軸は、国家や時代によって異なるものですが、もともとはイギリスの議会から始まった区別です。詳しくは以下の記事で解説しています。
【図解・右翼・左翼とは】フランス革命から現代日本までわかりやすく解説
また、アメリカの政治的対立について、下記の本がおすすめです。
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1-3:アメリカのリベラルな州・都市
「アメリカでは、どういう人がリベラルの立場なの?」
と思われるかもしれません。
端的に言うと、リベラルは「東部エスタブリッシュメント」つまり、都会に住み、ある程度の収入や社会的立場、学歴を持っているホワイトカラーだと言われています。
※これは近年の傾向であり、以前はむしろ東部は保守層(共和党支持者)が多くいました。
2000年代に入ってからの大統領選で、民主党が勝ち続けている州をリベラルとすると、以下の通りです。
- カリフォルニア州
- コネチカット州
- デラウェア州
- ハワイ州
- イリノイ州
- メイン州
- メリーランド州
- マサチューセッツ州
- ミネソタ州
- ニュージャージー州
- ニューヨーク州
- オレゴン州
- ロードアイランド州
- ワシントン州
- ワシントンDC
つまり、アメリカの東部と西海岸にリベラルな州が多く、内陸の多くは保守系の州だということが分かります。
※アメリカのリベラル勢力について、以下の本でもわかりやすくまとまっています。
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ここまでを一旦整理します。
- アメリカのリベラルとは、個人の自由や権利を守るために国家の介入を認める姿勢
- アメリカのリベラルは、軍事力の維持・拡大に消極的、公共事業や福祉政策に積極的、同性愛者の権利や人種差別撤廃などに積極的、という特徴がある
- アメリカのリベラルは、東部や西海岸周辺に多く、内陸や南部は保守が多い
2章:アメリカのリベラルの歴史
ここまで読んで、
「リベラルはずっと一貫した政治思想を持ってきたの?」
と思われる方がいるかもしれませんが、そんなことはありません。
リベラルと言っても時代によって異なる主張をしてきました(それは保守も同じですが)。
大きく見ると、
リベラルの誕生(1930年代)→リベラルの全盛(1960年代)→リベラルの下降(1980年代)→リベラルの変化(1990年代)→現在
という流れがあります。
2-1:アメリカのリベラルの起源
そもそも、一般的には、リベラルの思想(リベラリズム)とは自由主義と訳されます。
先ほども言ったとおり、アメリカは自由主義であることが前提で、それがあるときに保守主義とリベラルにさらに枝分かれしたのです。
そのきっかけが1930年代に行われたニューディール政策です。
2-1-1:ニューディール政策とは
1930年代、アメリカのルーズベルト大統領は、世界恐慌から立ち直るために、公共事業や大規模な雇用の支援など「大きな政府」的な政策を実施しました。
それまで、自由放任(国家が経済に介入しない)が自由主義の立場だったのですが、ニューディール政策以降は「国家が経済活動に介入して、個人の自由や権利を守る」という立場が「自由主義(リベラル)」と呼ばれるようになったのです。
こうした意味が転換してからのアメリカの自由主義を「新しい自由主義(ニューリベラリズム/社会自由主義)」と言うこともあります。
「大きな政府」による経済的平等を重視する思想のことを「福祉国家」とも言い、戦後の西側先進国の多くが採用しました。詳しくは以下の記事で解説しています。
2-1-2:リベラルと保守の分離
そのため、それに対して「いやいやそれは自由主義じゃない、国家は経済活動に介入すべきではない」と主張した人達が、アメリカの伝統的な自由主義を守るという意味で「保守」と呼ばれるようになったのです。
つまり、この時代に単なる自由主義が、リベラルと保守に分かれたのです。
こうして生まれたリベラルの連合を「ニューディール連合」と言います。
2-2:アメリカの〜60年代:リベラル全盛期
1930年代以降、アメリカではリベラル(ニューディール連合)が政治の主役になります。
特に1960年代はリベラルの全盛期だと言われます。
2-2-1:公民権運動
1950年代から1960年代にかけて、アメリカの黒人を中心としたマイノリティが、自分たちの権利の保障を求めた運動が公民権運動です。
この時代、アメリカでは人種差別や奴隷制と変わらないような隔離制度(ジム・クロウ制度)が残っていたからです。
2-2-2:ジョンソン政権のリベラルな政策
1964年の大統領選挙では、民主党のジョンソン大統領が当選し、「貧困」「人種差別」などアメリカの社会問題を是正する政策を実施しました。
具体的には、
- 公民権運動に対しても、人種差別撤廃を決めた「公民権法」を成立させる
- 高齢者の医療費補助(メディケア)
- 低所得者の幼児の就学補助(ヘッドスタート)
- 低所得者の食費補助(フードスタンプ)
- 連邦奨学金や給付奨学金制度
など、政府が積極的に経済・社会分野に介入して、個人の自由や権利を保障する「大きな政府」的な政策を実施したのです。
特に、ジョンソン大統領が開始したアファーマティブ・アクションという措置はマイノリティの社会経済的な是正措置として有名です。アファーマティブ・アクションについては次の記事を参照ください。
【アファーマティブ・アクションとは】具体例から反対意見までわかりやすく解説
2-2-3:リベラルの行きすぎ
しかし、こうしたリベラルな政策は次第に「行き過ぎ」を指摘されるようになります。
黒人・有色人種への優遇政策や、同性愛者の権利の保護、フェミニズム、性教育などの政策が行われるようになると、優遇を受けない白人や中間層の人々の一部は、「そこまでやる必要ないのでは?」と批判するようになったのです。
60年代のリベラルの行きすぎから、それを批判する保守勢力が力を持つようになっていきました。
それが以下の勢力です。
■リベラルからのネオコンの分離
60年代のリベラルの行き過ぎやベトナム戦争の反戦運動、カウンターカルチャーなどの動きから、リベラル・左派勢力だったニューヨークのユダヤ人知識人たちが保守勢力に転向しました。
これをネオコン(新保守主義)と言います。
ネオコンについて詳しくは以下の記事をご覧ください。
■宗教右派の台頭
60年代のリベラルな政策が『聖書』の記述から大きく外れていたことから、『聖書』に厳格な福音派やキリスト教原理主義と言われる勢力が、「宗教右派」という勢力としてまとまっていきました。
キリスト教原理主義・宗教右派について詳しくは以下の記事をご覧ください。
■リバタリアンの形成
リベラルの行き過ぎから、国家の役割を最小限にする、もしくは「国家はなくて良い」と考えるリバタリアニズムも力を持つようになりました。
リバタリアニズムについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。
■伝統主義
理想に基づいて社会変革を志向するリベラルに対し、アメリカの自由主義的な伝統を守る勢力も力を付けていきました。
これを伝統主義と言います。
以上の勢力が次第に「保守連合」としてまとまっていき、極めて保守的なレーガンを大統領に当選させ、80年代はリベラルは敗北、保守が全盛期を迎えることになります。
こうしたリベラル批判の中で、リベラル勢力がよりどころにしたのが、政治哲学者ジョン・ロールズの『正義論』です。アメリカの思想を語る上で最も重要なもののひとつですので、詳しくは以下の記事をご覧ください。
2-2-4:保守からのリベラルへの批判
この時代には、保守からリベラルに対して以下のような批判がなされました。
- リベラルはユートピア主義
描いた理想を社会科学的な考えで実現できると考え、計画し、実行するが、その結果社会的弱者に「甘え」を生み、自立できなくしている。社会が科学によってコントロールできると期待しすぎ。 - 優遇が差別を生んでいる
人種差別のための政策(アファーマティブアクション)は、黒人を優遇する一方で、黒人と競合する層(下層、労働者階級)が犠牲になっている。 - 企業活動への悪影響
「大きな政府」は企業にも重い税金負担を要求するが、社会を豊かにするのはリスクを取って行動する起業家たちである。重い負担は彼らの起業家精神に障害になり、結果的に経済を豊かにしない。
2-3:1980年代:ネオリベラリズムの登場
前述の「保守連合」の力とリベラルの弱体化により、1981年に極めて保守的性格を持つロナルド・レーガンが大統領に当選しました。
2-3-1:レーガンの保守主義
レーガンが行ったのは、新自由主義(ネオリベラリズム)的な政策です。
つまり、
- 政府の役割を最小限にする
- 規制緩和により企業活動への国家の介入を減らす
- 減税
などです。
保守的だったのは経済面だけではありません。
レーガンは「強いアメリカ」を目指し、軍事力を拡充し国際社会におけるアメリカの覇権を維持しようとしました。
経済的には新自由主義的に、軍事的には拡大路線を目指したわけです。
2-3-2:ネオリベラリズムの登場
こうした保守の時代に、保守への批判としてリベラルの中から登場したのが「ネオリベラリズム」です。
ネオリベラリズムは、民主党の内部の中堅・若手グループを中心に、「過去のリベラルは長期的な問題解決に有効な解決策が提示できなかった」と考え、過去の政策を見直しました。
■アメリカの国内経済の再建
旧来のリベラルは、成長し続ける社会背景から、拡大し続けるパイを以下に分配して弱者を救うか、という「分配」をテーマにしていました。
それに対し、ネオリベラルは「生産と成長」を通じた豊かさの実現をテーマにしました。
そのために主張したのが、以下の政策です。
- 先端産業の支援
- 生産性向上、経済再活性化のための企業の支援
- 貯蓄推進、企業の投資を促進する政策(サプライサイドの経済政策)
教育の重視や労使協調、共同体の重視などの点で過去のリベラルと共通しています。
しかし、過去のリベラルの「大きな政策」は非効率なもので、具体的な視点に欠け、一部の層に利益が偏っていたという点で批判しています。
■軍事外交政策
リベラルはベトナム戦争後、軍事力の維持拡大について消極的でしたが、レーガン政権の元では「強いアメリカ」が目指されたため、リベラルの説得力が落ちてしまいました。
そこでネオリベラルは、
- 一定の軍事力の拡大は必要
- しかし、軍事予算を無意味に増大させず、効果的にアメリカの安全を確保することを考えるべき
と考えました。
軍事力の役割を認めた上で、ソ連への対抗のために無限に軍事力を持とうとする保守的な立場を批判したわけです。
2-4:1990年代〜現在:保守・リベラル対立の崩壊
さて、80年代にリベラルの中にネオリベラルという思想が生まれたのですが、政治的にはレーガンの元で保守主義が確立し、保守の軸で政治が行われるのが既定路線になりました。
しかし、冷戦崩壊後に既存の保守・リベラルという対立軸が崩れ、共に批判されるようになりました。
2-4-1:クリントン政権:リベラルの中道化
クリントン政権(民主党)は、明らかに中道寄りになりました。
これはクリントン政権が、リベラルから保守に傾いたというよりも、旧来の対立軸とは異なる思想を持っていたということです。
クリントンは、
- 保守・リベラルという対立軸からの決別
- アメリカ国民の生活が第一
- 国内経済の再生が最優先
- 安全保障のためにも経済成長と経済面でのアメリカのリーダーシップが重要
という思想を持っていました。
過去の保守・リベラルが軍事と経済を同程度、もしくは軍事優先に考えてきたのに対し、「安全保障のためにも経済が大事」と経済第一主義で考えたのです。
過去の保守・リベラルとの違いが明らかだと思います。
2-4-2:オバマ政権
クリントン後はブッシュ(子)による保守的な政策が行われましたが、その後のオバマ政権は明らかにリベラル(それも旧来のリベラルに近い)政策を行いました。
具体的には、
- 医療:国民皆保険の実現のための法案を成立
- 安全保障:国際協調的、軍事力の行使に消極的、対話・外交重視、核兵器廃絶
- 移民:移民の権利を認めるために制度改革を主張
- 環境:気候変動政策への積極的姿勢
- 先住民:生活を支援
- 同性婚:同性婚を支持、同性愛者の権利を認める
- 人工妊娠中絶:賛成
これを見ると分かるように、明らかにその政策はリベラルで、「個人の自由や権利を守るために、国家が積極的に介入する」という路線です。
しかし、保守・リベラルの軸が薄れた(多様化した)現代において、旧来の姿に近いリベラルな思想で政治を行おうとしたために、保守から「大きな政府の再来」だと強く批判されました。
その結果、実現できなかった政策も多いです。
このように、アメリカのリベラル(と保守)は分極化が進んでおり、ひとまとめに語ることが難しくなっているのです。
- 1930年代に、アメリカでは現在に繋がるリベラルと保守の対立軸ができた
- リベラルは60年代に全盛期を迎えたが、80年代には保守の全盛期になったため下火になった
- 80年代には保守の批判としてネオリベラリズムが生まれ、新しいリベラリズムを生んだ
- 冷戦崩壊以降は、旧来の保守・リベラルの対立軸が崩れ、分極化した
3章:アメリカのリベラルについての学び方
アメリカのリベラルについて、理解を深めることはできましたか?
まず、アメリカの政治、社会、歴史などの広いテーマを下記の記事で紹介していますので、ぜひご覧ください。
また、下記の書籍もおすすめですので、ぜひご覧ください。
佐々木毅『アメリカの保守とリベラル』(講談社学術文庫)
政治学史の大家である著者による、主に1960年代から90年代のアメリカの保守・リベラルの思想について書かれた本です。とても分かりやすく詳しいためおすすめです。
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渡辺将人『見えないアメリカ-保守とリベラルの間-』(講談社現代新書)
現代アメリカの保守・リベラルについて、政治の現場というよりも地方や国民、様々な個別分野から説明されています。アメリカ人の生活に保守・リベラルの対立がどのように根ざしているのか分かります。
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一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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また、書籍を電子版で読むこともオススメします。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- アメリカの保守・リベラルの対立軸は1930年代に生まれ、近年は分極化している
- アメリカのリベラルは、個人の自由や権利について国家が介入して保障することを認める思想
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