トーテミズム(totemism)とは、人間集団がある特定の動植物(トーテム)と特別な関係をもつと考える信仰、それに基づく制度です。
トーテミズムを「未開」的な宗教と考える方もいるかもしれまんせんが、実は人間に普遍的な思考によって成り立つ信仰です。
また、構造主義を深く学びたい方に「トーテミズム」の理解は不可欠ですので、この機会にしっかり学びましょう。
この記事では、
- トーテミズムの定義・意味
- トーテミズムに関する解釈の変遷
- トーテミズムに関する研究(機能主義と構造主義)
などをそれぞれ解説します。
ぜひ知りたいところから読んで、皆さんの勉強・生活に活かしてください。
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1章:トーテミズムとはなにか?
1章ではトーテミズムを概説します。学術的な議論に関心のある方は、2章から読み進めてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1: トーテミズムの定義
冒頭の確認ですが、トーテミズムとは、
人間集団がある特定の動植物(トーテム)と特別な関係をもつと考える信仰、それに基づく制度
を指します。
どこかのアミューズメントパークに行くと、たいていトーテム・ポールが置いてありますよね。私たちがよく見るトーテム・ポールは北米先住民が墓柱として掘る彫刻を真似したものです。
トーテミズム(totemism)の語源は、トーテム・ポールの「トーテム」にあります。そして、「トーテム」という言葉は、北米先住民のオジブワ族に由来しています。
さて、トーテミズムの定義ですが、社会によってトーテムされる事物はさまざまです。たとえば、以下のような場合があります。
- 集団ではなく個人が結びつけられる場合
- 動植物以外の事物が結びつけられる場合
ですので、実際にはトーテミズムの範囲を明確に規定することは難しいです。
1-2: トーテミズムと人びとの実践
トーテミズムに関連する人びとの実践は、きわめて多様です。たとえば、トーテミズムには、次のような実践があります。
- トーテムは、トーテム集団の祖先であるという信仰
- トーテムとされる動植物をその集団の者が殺したり、食べたりしてはいけないというタブー(→タブーに関してはこちらの記事)
- トーテムを崇拝対象にする儀礼
このように、トーテミズムと総称される実践は世界各地にありますが、さまざまな形態があります。そのため、トーテミズムといわれる現象のすべてに共通する点を見つけるのは難しいです。
「結局何が何だかわからなくなった」と困る方もいるかもしれませんが、心配しないでください。レヴィ=ストロースの構造主義が出てくるまで、他の学者もそう感じていました2橋爪大三郎 『はじめての構造主義』 (講談社現代新書) を参照。
※レヴィ=ストロースによるトーテミズムの解釈は2章で詳しく解説します。
1-2: トーテミズムの起源に関する議論
では一体、レヴィ=ストロースの登場以前、トーテミズムはどう解釈されていたのでしょうか?結論からいうと、トーテミズムは、社会進化論が支配的であった19世紀の中盤以降、呪術や宗教の原始的な形態と考えられていました3たとえば、スチュアートヘンリ「文化(社会)進化論」『文化人類学20の理論』(弘文堂)。
社会進化論は人間の社会が進歩的に発展していくと考える思想です。宗教、生業形態、婚姻制度、経済制度によって人間社会の発展段階を「測定」していました。(→社会進化論に関してはこちらの記事)
1-2-1: 諸学問におけるトーテミズムの解釈
ここでは、いくつかの有名な学者によるトーテミズムの社会進路点的な解釈をみていきましょう。
まず、イギリスの社会人類学者のジェームズ・フレーザーは、トーテミズムを呪術の一種とみなして、トーテミズムと外婚制は起源が同じだと論じています4外婚制とは、ある一定の範囲内の個人間の結婚を禁止する制度。どの範囲までの近親者と結婚できるかは、社会によって異なります。。
フランス人類学者のリュシアン・レヴィ=ブリュールは、トーテミズムで人間が動植物と同一視されるのは、非論理的であり「未開」心性の表れと判断しました。トーテミズムと人間精神の発達が同列で論じされるのは、21世紀のスタンダードでは奇妙に感じるかもしれません。
そして、かの有名な社会学者のエミール・デュルケームもトーテミズムを論じています。デュルケームは、以下のように論じています。
- トーテミズムの基盤には超越的な力への信仰があり、その力が事物に個別化して表れたものがトーテムである
- 聖なるトーテムが集団の連帯を保証する力をもつ
最後に、精神分析学のジークムント・フロイトの解釈も紹介しましょう。彼によれば、トーテムとは父親の象徴で、原初の父殺しに対する讀罪としてトーテムは殺していけないというタブーが生まれたと考えました。
どうでしょう?どれも説得力のある議論とはいえないと思います。そこで重要なのは、トーテミズムをめぐる社会進化論以降の展開です。
なぜならば、社会進化論の代わりに登場した機能主義と構造主義は、トーテミズムの起源ではなく、社会における機能や構造が重要視して分析を始めたからです。
特に、構造主義はトーテミズムの意味を解明する重要な考え方を提示しました。これらの点を2章では解説していきます。
まず、その前にこれまでの内容をまとめます。
- トーテミズムとは、人間集団がある特定の動植物と特別な関係をもつと考える信仰、それに基づく制度である
- トーテミズムにはさまざまな形態があり、トーテミズムといわれる現象のすべてに共通する点を見つけるのは難しい
- トーテミズムを呪術や宗教の原始的な形態とみなす社会進化論はきわめて説明不足である
2章:トーテミズムの意味とその具体例
機能主義と構造主義によるトーテミズムの解釈を確認することで、トーテミズムの社会的な意味が浮上してきます。
2-1: 機能主義によるトーテミズムの説明
そもそも、皆さんは機能主義をご存じですか?簡単にいうと、機能主義とは以下のような思想です。
機能主義の特徴
- 社会をさまざまな要素からできあがる一つの統合体と考える思想である
- 進化論的に、社会がどこまで発展しているとか考えるのはおかしいと社会進化論を批判した
- 発展段階より重要なのは、その社会のなかでどう各要素が役立つのか、つまり機能するのかを調べることが重要であると主張した
※機能主義について詳しくは、ぜひ次の記事を参照ください。→【機能主義とはなにか】定義、特徴、歴史をわかりやすく解説
2-1-1: マリノフスキーとラドクリフ=ブラウンによるトーテミズムの解釈
結論からいうと、機能主義はトーテミズムに実利的な機能があると考えました5クロード・レヴィ=ストロース 『今日のトーテミスム』(みすず書房)。要点は、以下のとおりです。
- 特定の動植物がトーテムとして選ばれるのは、その動植物が主に食物として経済的に意味をもつためである
- だから、特定の動植物に対して宗教的・儀礼的態度がされる
このように、機能主義によるトーテミズムの解釈はシンプルです。これ図に表すと、次のようになります。
つまり、機能主義は「自然」と「文化」という異なったレベルにある要素と要素の関係を重視しています。
しかし、マリノフスキーやラドクリフ=ブラウンといった機能主義によるトーテミズムの解釈には欠点がありました。たとえば、機能主義的な解釈では、実利的ではない動植物や事物がなぜトーテムになっているのかを説明できなかったのです。
つまり、「食べるのに適している」から特定の動植物はトーテムになる、という説明は不十分だったのです。
2-2: 構造主義によるトーテミズムの説明
レヴィ=ストロースによるトーテミズムの解釈は、「野生の思考」といわれる構造主義を支える考え方です。これによって、レヴィ=ストロースは、機能主義では説明不足だった点を乗り越えていきます。
簡単にいうと、レヴィ=ストロースは次のような主張をします。
- 社会集団と自然種との相同性に注目するべきではない
- 重要なのは、「自然種と自然種の差異」と「社会集団と社会集団の差異」である
- 社会集団のレベルに現われる差異と、他方で自然種のレベルに現われる差異との間にある相同性がある
そして、構造主義によるトーテミズムの解釈を表すと、次のようになります。
このように、構造主義は異なったレベルにある要素間の差異が結びつけられることに、トーテミズムの本質があるといいます。
少しわかりにくかったと思いますので、ここからは具体的な例を用いて説明します。
2-3: トーテミズムの具体例と本当の意味
ヒダツァ族に関するレヴィ=ストロースの報告を紹介します6クロード・レヴィ=ストロース 『野生の思考』(みすず書房) 。
- ヒダツァ族という鷲狩をする習慣をもった民族である
- ヒダツァ族によると、人間は鷲狩を小さい黒熊かクズリから習った
- しかし、どちらの動物に鷲狩を習ったのか定かではない
このような状況において、レヴィ=ストロースはヒダツァ族が鷲狩を習ったのはクズリと断定します。なぜでしょう?それは文化と自然という異なったレベルにある要素間の差異が明確に現れるからです。
レヴィ=ストロースよると、文化レベルにある要素間の差異とは以下のとおりです。
- ヒダツァ族の鷲狩は、穴の中に隠れて素手で鷲を捕まえる7鷲は穴の上に置かれた餌につられてやってくる。鷲が餌を食べようと地上に降りた瞬間に、狩人は素手で捕まえる
- つまり、鷲狩は、通常の弓矢による狩りと異なる特徴をもつ
- 鷲狩の方法は人間自身が罠になり、狩人であり獲物でもあるというパラドックスに陥る
一方で、自然レベルにある要素間の差異は、次のとおりです。
- クズリは民間伝承のなかで特殊な位置を占める動物である。なぜならば、クズリは仕掛けられた罠で捕らえられない唯一のイタチ類の動物だからである
- ときには獲物を盗んだり、狩人が仕掛けた罠を面白がってもっていく動物がクズリである
- つまり、クズリも狩人と同様のパラドックス、狩人であり獲物でもあるという状況に陥る
どうでしょう?理解できましたか?このように、レヴィ=ストロースがクズリと断定するのは、文化と自然という異なったレベルにある差異と差異の関係があるためです。
ヒダツァ族の事例からレヴィ=ストロースが指摘したのは、特定の動植物がトーテムとして選ばれるのは、その動植物が「食べるのに適している」からではなく、社会において人間集団を区分するために「考えるのに適している」ためであるということでした。
トーテミズムの本質的な意味は、レヴィ=ストロースによって明らかになったのです。
- 構造主義は、社会集団のレベルに現われる差異と、他方で自然種のレベルに現われる差異との間にある同一性があると主張した
- 特定の動植物がトーテムとして選ばれるのは、その動植物が「食べるのに適している」からではなく、社会において人間集団を区分するために「考えるのに適している」からである
3章:トーテミズムを学ぶための書籍リスト
トーテミズムを理解することはできましたか?最後に、あなたの学びを深めるためのおすすめ書物を紹介します。
小田亮『レヴィ=ストロース入門』(ちくま新書)
レヴィ=ストロースを学ぶための初学者用の本です。トーテミズムはレヴィ=ストロースによって蘇りました。ぜひ、彼の思考方法を学んでみてください。
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クロード・レヴィ=ストロース『今日のトーテミズム』(みすず書房)
トーテミズムを理解する一番の近道です。レヴィ=ストロースはとても面白いのでぜひ読んでみてください。
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クロード・レヴィ=ストロース『野生の思考』(みすず書房)
この本はレヴィ=ストロースの代表的な本の一つです。構造主義的な視点を学ぶために、一番の本です。ぜひ読んでみてください。
一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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まとめ
この記事の内容をまとめます。
- トーテミズムとは、人間集団がある特定の動植物と特別な関係をもつと考える信仰、それに基づく制度
- 機能主義によるトーテミズムの解釈は、ある動植物が主に食物として経済的に意味をもつため、トーテムとして選ばれるというもの
- 構造主義は、社会集団のレベルに現われる差異と、他方で自然種のレベルに現われる差異との間にある同一性がある
- 特定の動植物がトーテムとして選ばれるのは、その動植物が「食べるのに適している」からではなく、社会において人間集団を区分するために「考えるのに適している」から
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