経営学

【カリスマ型リーダーシップとは】特徴から研究までわかりやすく解説

カリスマ型リーダーシップとは

カリスマ型リーダーシップ(Charismatic Leadership)とは、「組織のために自己利益を超越するよう部下を啓発し、フォロワーに根強く絶大な影響を与えうるようなタイプ」1スティーブン P.ロビンス著、高木晴夫訳(2009)『組織行動のマネジメント : 入門から実践へ』ダイヤモンド社 272頁のリーダーシップです。

アメリカ合衆国大統領のフランクリン・D・ルーズベルトやイギリス首相のマーガレット・サッチャー、さらにはアップル社の創業者であるスティーブジョブズのように、激動の時代のなかで優れたリーダーシップを発揮してきました。

そして、卓越した成果や実績を残したリーダーは、時に「カリスマ」と呼ばれ、時代を超えて人々から絶大な支持や賞賛を集めています。

一方で、歴史に名を残した優れたリーダーであっても、一般的に「カリスマ」とまでは呼ばれない人物も数多く存在います。

この記事では、

  • カリスマ型リーダーシップの背景や特徴
  • カリスマ型リーダーシップに関連する研究

などについて解説します。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:カリスマ型リーダーシップとは

まず、1章ではカリスマ型リーダーシップを概説します。2章ではカリスマ型リーダーシップを深掘りしますので、用途に沿って読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注2ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:カリスマとは

現代においても日常的に用いられる「カリスマ」という言葉ですが、この言葉を社会科学に持ち込んだのは、高名な政治学者であるマックス・ウェーバーであると言われています。

マックス・ウェーバーは、カリスマについて以下の定義しています3江頭誠悟(1984)「カリスマと近代 : ウェーバー以後の研究動向」『一橋大学大学院一橋研究編集委員会』8(4)141-154頁

この言葉は、ある人物がもっている(本当に持っているか、そう自称しているだけなのか、そう思われているだけなのか、それは問わない)非日常的な資質を意味する

しかし、この定義はアカデミックな場で用いるにはあまりにも捉えどころのない概念であり、マックス・ウェーバーの用いたカリスマという言葉の利用には多くの批判も集まりました。

一方で、カリスマという言葉が現代においても当然に用いられていることをみると、カリスマという響きやニュアンスが、その正確な定義までは理解されていないとしても、多くの人々に受け入れられていることは否定することのできない事実ではないでしょうか。



1-2:カリスマ型リーダーシップの研究

政治学や社会学など社会科学の分野で古くから多くの議論がなされてきたカリスマに関する議論ですが、カリスマという言葉が近代のリーダーシップ研究が持ち込まれるようになったのは、バーンズの変革型リーダーシップの発表以後であると考えられています。

※バーンズの変革型リーダーシップへはこちら→【バーンズの変革型リーダーシップとは】背景から特徴までわかりやすく解説

バーンズはリーダーシップには「交換型リーダーシップ」と「変革型リーダーシップ」の2つのタイプが存在しています。

  • 交換型リーダーシップ・・・協力への対価として、何らかの報酬を与えることによって影響力を行使するリーダーシップスタイルである
  • 変革型リーダーシップ・・・人々への無条件的な至上価値への貢献が基盤となって影響力を行使するリーダーシップスタイルである

そして、バーンズの研究を引き継いだバスは、変革型リーダーシップの要因のひとつに「カリスマ」が含まれていることを指摘しており、ここからカリスマ型リーダーシップの研究は本格化します。



1-3:カリスマ型リーダーシップの特徴

では、カリスマとはどのようなものであり、どこから生まれるのでしょうか?その疑問に答えるためにロバート・ハウスは次の3つのアプローチを提示しています。

1-3-1:資質アプローチ

カリスマ型リーダーシップをリーダーの資質や特性に見出そうとするアプローチです。

ハウスは、カリスマのリーダーシップ資質として「極度に高度の自信(セルフ・コンフィデンス)」、「支配性(ドミナンス)」、「自己の信念や理想の正しさに対する強い確信」などを挙げています。

さらにリーダーとして優れた成果をあげるためには、知能や説得力、社会的技能、ならびに課題遂行の能力やエネルギーも必要であると主張しています4金井壽宏(1989)「変革型リーダーシップの展望」『経営学・会計学・商学研究年報』35, 167頁

1-3-2:行動アプローチ

カリスマ型リーダーシップをリーダーの行動から見出そうとするアプローチです。ハウスは、カリスマ型リーダーシップ行動として次の7つの行動を示しています5金井壽宏(1989)「変革型リーダーシップの展望」『経営学・会計学・商学研究年報』35, 167-172頁

  1. 役割モデリング・・・フォロワーがとるべき行動やその行動基盤となる原理・原則や価値観を体現した手本となる
  2. イメージ形成・・・結果としてたまたま価値観や新年のモデル(手本)となるばかりでなく、フォロワーにそう思われやすくするため通常なんらかの印象操作ないしイメージ形成をする
  3. 目標の明確化・・・崇高なビジョンを掲げ、高次のレベルでの至上目標を設定する
  4. 高い業績期待の提示・・・達成すべき目標を、他方で目指すべき達成水準よりも、相当高いところに置く
  5. 達成への確信表明・・・高い目標を達成するために、「あなたがたにはできるのだ」とフォロワーを繰り返し励ます
  6. 動機喚起・・・フォロワーの達成動機や、親和動機、権力動機を喚起する
  7. フォロワーに対する育成的態度・・・フォロワーの能力、意欲、意思を発展させる

1-3-3:フォロワーアプローチ

フォロワーアプローチは、フォロワーのリーダーに対する認知や態度からカリスマ型リーダーシップを見出そうとするアプローチです。

フォロワー視点のリーダーシップ要因としては、「リーダーに対する信頼感」「リーダーとの信念の類似性」「リーダーに対する許容」「リーダーへの親愛の情」「リーダーへの前向きな服従」をあげられています6金井壽宏(1989)「変革型リーダーシップの展望」『経営学・会計学・商学研究年報』35, 166頁

資質アプローチは特性理論、行動アプローチは行動理論、フォロワーアプローチはコンティンジェンシー理論の考え方を用いており、カリスマ型リーダーシップが数多くのリーダーシップ研究を踏まえていることがわかります。

ハウスは、パス・ゴール理論と呼ばれる重要なリーダーシップ理論を提唱していますが、パス・ゴール理論が極めて交換型リーダーシップ的な発想であることから、相対する概念である変革型リーダーシップにも関心を向けたのは自然な流れであると言えます。

→パス・ゴール理論についてはこちら

また、カリスマ型リーダーシップの研究者としても有名なコンガーとカヌンゴはカリスマ型リーダーシップの特徴を次のように述べています7スティーブン P.ロビンス著、高木晴夫訳(2009)『組織行動のマネジメント : 入門から実践へ』ダイヤモンド社 273頁

  1. ビジョンと明確な表現・・・現状よりも良い未来を示す理想化された目標としてのビジョンを有し、部下が理解できるようビジョンの重要性を明確に表現することができる
  2. 個人的リスク・・・ビジョンを達成するために、個人的な高いリスクを冒すこと、高い代償を背負うこと、また自己を犠牲にすることを厭わない
  3. 環境に対する配慮・・・環境的制約と変革をもたらすために必要なリソースについて、現実的に評価することができる
  4. フォロワーのニーズに対する配慮・・・部下の能力をよく理解し、部下のニーズや感情に敏感に対応する
  5. 並外れた行動・・・奇抜で、規範に反するとみなされる行動をとる

コンガーとカヌンゴは、上記の5つの特徴によって、カリスマ型リーダーシップと非カリスマ型リーダーシップを区別することができると主張しています。



1-4:カリスマ型リーダーシップの有効性

上記のようなカリスマ型リーダーシップは、多くの研究報告から、集団や組織に対して優れた成果を生み出すことが示されています。

まず、カリスマ型リーダーシップは業績やフォロワーの満足度を劇的に高めます。ロビンスは、カリスマ型リーダーの下で働く部下は、人一倍努力をする動機づけがなされ、リーダーを好意的に感じ尊敬していることから、大きな満足度を示すという研究結果を紹介しています8スティーブン P.ロビンス著、高木晴夫訳(2009)『組織行動のマネジメント : 入門から実践へ』ダイヤモンド社 274頁

また、カリスマ型リーダーシップは集団や組織の危機に出現しやすく、その危機を克服するための原動力として機能します。金井は、この点を以下のように指摘しています9金井壽宏(1989)「変革型リーダーシップの展望」『経営学・会計学・商学研究年報』35, 208頁

徐々に迫りくる嵐を認知すること、換言すると、「わが組織はだいじょうぶだ」と思い込まず、絶えざる自己革新のきっかけに敏感になることが、変革型リーダーシップへの第一要件である

このように、危機がカリスマ型リーダーシップを引き出すと指摘しています。そのうえで、危機を乗り越えるための新たなビジョンを形成し、適切なプロセスを経ることができれば、危機を乗り越え、高い実績を生み出すことができるとしています。

1章のまとめ
  • カリスマ型リーダーシップとは、「組織のために自己利益を超越するよう部下を啓発し、フォロワーに根強く絶大な影響を与えうるようなタイプ」10スティーブン P.ロビンス著、高木晴夫訳(2009)『組織行動のマネジメント : 入門から実践へ』ダイヤモンド社 272頁のリーダーシップである
  • カリスマ型リーダーシップは、多くの研究報告から、集団や組織に対して優れた成果を生み出すことが示されている

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2章:カリスマ型リーダーシップに関わる研究

さて、2章ではカリスマ型リーダーシップ研究を紹介していきます。

2-1:カリスマ型リーダーの具体例

日本のカリスマ型リーダーシップ研究の第一人者である金井は自身の著書にて、卓越した変革型リーダーのひとりとして、大和運輸株式会社(現・ヤマト運輸株式会社)の2代目の社長であった小倉昌男(1924-2005)の名前を挙げています。

いまでは当たり前のように普及し、宅急便の名でも知られる小口貨物配送サービスですが、その全国的な普及に至るまでには小倉と数々の貨物輸送に関する法規制との闘いがありました。

小倉は後年の著書にて、優れた経営者の条件として次の10の項目を挙げています。

  1. 論理的思考
  2. 時代の風を読む
  3. 戦略的思考
  4. 攻めの経営
  5. 行政に頼らぬ自立の精神
  6. 政治に頼るな、自助努力あるのみ
  7. マスコミとの良い関係
  8. 明るい性格
  9. 身銭を切ること
  10. 高い倫理観

この10の条件と、上で挙げたコンガーとカヌンゴのカリスマ型リーダーシップの特徴を比較すると、その内容が非常に類似していることがわかります。

【ビジョンと明確な表現】

小倉は事業を拡大していくにあたって、「サービスが先、利益が後」という標語を掲げ、第一に顧客の利益に貢献できるような事業を目指しました。

もっとも、小倉はただ闇雲にビジョンを掲げたわけではなく、長期的目標と短期的目標を巧みに使い分け、現実的な戦略をあわせるような論理的、戦略的思考があったから宅急便を生み出すことができたと言えます。

【個人的リスク】

事業の変革には常にリスクが伴いますが、小倉は「攻めの経営」を常に意識し、起業家精神を忘れない姿勢を貫いていました。

経営のリーダーが安定を求め、リスクと恐れてしまうと、新商品や新事業を生み出すことができず、企業は落伍していくことを小倉はよく理解していました。

【環境に対する配慮】

小倉の革新的な小口貨物配送サービスへの取り組みは、常に外的環境との戦いでした。しかし小倉は、マスコミとの良い関係を積極的に築いたり、明るい性格で周囲を味方につけることで苦難を乗り越えました。

【フォロワーのニーズに対する配慮】

小倉は10箇条のなかでも「高い倫理観」には特に重きを置いており、顧客に対しても、部下に対しても「真ごころ」と「思いやり」を信条としていました。

【並外れた行動】

小倉は「行政に頼らぬ自立の精神」と「政治に頼るな、自助努力あるのみ」という強い信条を持つことで、幾多の困難を突破してきました。

特に、行政や政府に働きかけて仕組みそのものを変えようとすることは並外れた行動力がなければ成し遂げ得ないことであり、小倉が傑出して優れていた点でもあります。

このように小倉昌男という人物の特徴やエピソードを紐解くだけでも、いかに彼がカリスマ型リーダーであったかがわかります。

もっとも、本人が自らをカリスマであると豪語していたかはわかりませんが、小倉が「組織のために自己利益を超越するよう部下を啓発し、フォロワーに根強く絶大な影響を与えうるようなタイプ」11スティーブン P.ロビンス著、高木晴夫訳(2009)『組織行動のマネジメント : 入門から実践へ』ダイヤモンド社 272頁のリーダーシップを発揮していたことは十分に理解できます。



2-2:カリスマ型リーダーの危険性

集団や組織に変革をもたらし、人々に高いベネフィットを与えうるカリスマ型リーダーですが、カリスマ型リーダーが必ずしもその集団や組織にとって最善の行動をとり続けるとは限りません。

ロビンスはカリスマ型リーダーの危険性として、次の2点を指摘しています12スティーブン P.ロビンス著、高木晴夫訳(2009)『組織行動のマネジメント : 入門から実践へ』ダイヤモンド社 276頁

2-2-1:カリスマ型リーダーによる私利私欲の優先

カリスマ型リーダーはその資質や能力の高さから、集団や組織において非常に大きな影響力や支配力を手にします。

しかし、その力を自己利益のためだけに用いたり、個人的な目標を達成するのみに利用したりする危険性があります。この点を、ロビンスは次のように指摘しています13スティーブン P.ロビンス著、高木晴夫訳(2009)『組織行動のマネジメント : 入門から実践へ』ダイヤモンド社 276頁

リーダーの多くは、与えられて権力を利用し、企業を自分のイメージ通りにつくり変えようとしたのだ。そうした中で、自分の個人的な利益と組織の利益を分ける境界線を完全にあいあまいにさせてしまうことが多かった

すべてのカリスマ型リーダーが必ずしも集団や組織のためだけに行動し続けないことを指摘しています。

2-2-2:独裁的支配の確立

カリスマ型リーダーは集団や組織において大きな権力を獲得しますが、この権力は時にリーダーの独裁的な支配に利用されます。

リーダーは、自分に対する批判を耳にしなくて済むよう、自分にゴマをすることで見返りを受けるノーと言わない人間で周囲を固め、リーダーが過ちを犯していると思っても部下が「王」、または「女王」に対して質問したりいさめたりできない環境をつくり出すのだ14スティーブン P.ロビンス著、高木晴夫訳(2009)『組織行動のマネジメント : 入門から実践へ』ダイヤモンド社 276頁

このように、リーダーの影響力が間違った方向で利用されてしまい、結果的に組織に悪影響を及ぼす危険性を指摘しています。

2章のまとめ
  • カリスマ型リーダーシップののひとりとして、大和運輸株式会社(現・ヤマト運輸株式会社)の2代目の社長であった小倉昌男(1924-2005)がいる
  • カリスマ型リーダーの危険性も指摘されている

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3章:カリスマ型リーダーシップについて学べるおすすめ本

カリスマ型リーダーシップについて理解が深まりましたか。さらに深く知りたいという方は、以下のような本をご覧ください。

おすすめ本

P.ハーシィ、K.H.ブランチャード、D.E.ジョンソン『行動科学の展開 -人的資源の活用 入門から応用へ-』(生産性出版)

リーダーシップ研究全体がわかりやすくまとめられた良著です。タイトル通りに入門者から応用を学びたい方までおすすめの1冊です。

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スティーブン P.ロビンス『組織行動のマネジメント : 入門から実践へ』(ダイヤモンド社)

組織行動論の全般がまとめられた入門書です。論点はリーダーシップだけではないですが、行動科学全体を学びたい方はぜひ持っておきたい1冊です。

金井壽宏『リーダーシップ入門』(日本経済新聞社)

リーダーシップに関する幅広い論点がまとめられたリーダーシップの入門書です。理論と実務がバランスよくまとめられており、経営学を知らない方でも親しみやすい1冊です。

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などの特典もあります。学術的感性は読書や映画鑑賞などの幅広い経験から鍛えられますので、ぜひお試しください。

まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • カリスマ型リーダーシップとは、「組織のために自己利益を超越するよう部下を啓発し、フォロワーに根強く絶大な影響を与えうるようなタイプ」15スティーブン P.ロビンス著、高木晴夫訳(2009)『組織行動のマネジメント : 入門から実践へ』ダイヤモンド社 272頁のリーダーシップである
  • カリスマ型リーダーシップは、多くの研究報告から、集団や組織に対して優れた成果を生み出すことが示されている
  • カリスマ型リーダーの危険性も指摘されている

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