経営学

【パス・ゴール理論とは】背景から内容までわかりやすく解説

パス・ゴール理論とは

パス・ゴール理論(Path–goal theory)とは、リーダーの役割は、メンバーの目標(ゴール)への道筋(パス)を明確に示すことであるとの主張に基づいて、リーダーの役割をメンバーの目標達成を助けることとした理論です。

パス・ゴール理論は、ロバート・ハウスによって提唱されたリーダーシップ論のひとつです。

この理論ではパス・ゴール理論以前のリーダーシップ研究に加え、モチベーション研究など幅広い理論が応用されており、いまでも数あるリーダーシップ研究おける代表的なリーダーシップ論のひとつとして考えられています。

この記事では、

  • パス・ゴール理論の背景や特徴
  • パス・ゴール理論に関連する議論

などについて解説します。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:パス・ゴール理論とは

まず、1章ではパス・ゴール理論を概説します。2章ではパス・ゴール理論を深掘りしますので、用途に沿って読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:パス・ゴール理論の成り立ち

パス・ゴール理論は「目標経路論」とも呼ばれ、リーダーの役割をメンバーの目標(ゴール)への道筋(パス)を明確に示すことであるとします。

そして、「メンバーにパフォーマンス達成の可能性が高いと感じさせ、さらにパフォーマンス達成によって望ましいリワードが得られる可能性が高いと感じさせる」2須田敏子(2018)『組織行動:理論と実践』NTT出版株式会社 182頁ことに、優れたリーダーシップを見出したリーダーシップモデルです。

ハウスはパス・ゴール理論を次のように説明しています3P.ハーシィ, K.H.ブランチャード, D.E.ジョンソン『行動科学の展開 -人的資源の活用 入門から応用へ-』生産性出版 124頁

この理論によれば、リーダーは(フォロワーの)意欲、職務遂行能力、満足感に影響を及ぼすことによって効果的に機能できる。この理論の主たる狙いが(フォロワーの)職務目標、個人目標、目標達成までの経路に影響することにあるので、目標経路理論と呼ばれるのである。この理論では、リーダー行動とは、動機付けであり、欲求充足であって、その効果は(フォロワーの)目標達成向上と目標への“経路の明確化”で決められる。

ハウスのこの説明からもわかるように、パス・ゴール理論は数あるリーダーシップ論のなかでも特に動機付け理論(モチベーション理論)に着目したリーダーシップモデルであると言えます。

※モチベーション理論についてはこちらの記事→【モチベーション理論とは】意味・代表的な理論からわかりやすく解説

さらに、ハーシーとブランチャードによると、パス・ゴール理論は動機付け理論とオハイオ州大モデルを結びつけた理論であると説明しています。

  • 動機付け理論では、人々の行動を「価値あるもの(目標)に結びついているとわかると、人はその仕事に満足し、また努力(経路)が高価なものに結びつくとわかると、よく働く」4P.ハーシィ, K.H.ブランチャード, D.E.ジョンソン『行動科学の展開 -人的資源の活用 入門から応用へ-』生産性出版 124頁と捉える
  • この考え方は「フォロワーは、リーダー行動のフォロワーの期待(目標)に影響を及ぼすことの程度で、動機付け(経路化)されるからである」5P.ハーシィ, K.H.ブランチャード, D.E.ジョンソン『行動科学の展開 -人的資源の活用 入門から応用へ-』生産性出版 124頁というオハイオ州大のリーダーシップモデルに結びついている

そしてパス・ゴール理論におけるリーダーの役割とは、経路の明確化において欠けている要因を補充することであり、これはオハイオ州大モデルのおける「構造主導」あるいは「配慮」を向上させることに他ならないと指摘しています。

オハイオ州大モデルの象限図1 オハイオ州大モデルの象限6P.ハーシィ, K.H.ブランチャード, D.E.ジョンソン『行動科学の展開 -人的資源の活用 入門から応用へ-』生産性出版 106頁



1-2:コンティンジェンシー理論としてのパス・ゴール理論

パス・ゴール理論では、リーダーの役割は組織あるいは集団の置かれた状況によって大きく変化し、たとえ同一のリーダーであっても組織の構造的状況などによって変化し、唯一のリーダーの役割は存在しないと考えます。

この考え方はフォードラー理論を踏まえたものであり、パス・ゴール理論はコンティンジェンシー理論のひとつであるとみなすことができます。

※フィードラー理論についてはこちら→【フィードラー理論とは】背景・特徴をわかりやすく解説

ダフトらは、状況によってリーダーの役割が変化するパス・ゴール理論について、図2のように説明しています。

目標経路論的状況におけるリーダーの役割図2 目標経路論的状況におけるリーダーの役割7P.ハーシィ, K.H.ブランチャード, D.E.ジョンソン『行動科学の展開 -人的資源の活用 入門から応用へ-』生産性出版 126頁

図2からも、リーダーの役割を決めるために前提となる要因がまずフォロワーの状況に依存していることがわかります。

そして、リーダーはフォロワーの状況に柔軟に対応することで、その時々で最適な行動パターンを選択し、成果を積み上げていくというのがパス・ゴール理論の基本的な考え方です。



1-3:パス・ゴール理論の具体的な内容

パス・ゴール理論では、オハイオ州大モデルで示された象限に基づいて、次の4つのリーダーシップモデルを設定しています8須田敏子(2018)『組織行動:理論と実践』NTT出版株式会社 183頁

構造主導の曖昧性が高い

①指示型リーダーシップ(構造主導:低 配慮:高)

部下のタスクの内容を明確にしたうえで、仕事のやり方やスケジュールを示し、仕事の進め方を具体的に指示していくリーダーシップです。

指示型リーダーシップは、部下の特性が低い水準にあり、また「構造主導」の曖昧性が高いとき(構造主導が低いとき)に効果を発揮し、各メンバーへの役割の割り当てや手順指示など進めることによって、メンバーの能力やモチベーションを高める効果が期待できます。

②達成志向型リーダーシップ(構造主導:低 配慮:低)

困難な目標を設定し、部下に対してその達成を求めていくリーダーシップです。部下の特性が比較的高い水準にあり、「構造主導」の曖昧性が高いとき(構造主導が低いとき)に効果を発揮します。

各メンバーへの役割の割り当てや手順指示など進め、なおかつメンバーに対して高い目標を掲げることで、個人のチャレンジ意欲を喚起し、責任をもって仕事取り組む姿勢を醸成する効果が期待できます。

構造主導の曖昧性が低い

③支援型リーダーシップ(構造主導:高 配慮:高)

部下の個別の状況やニーズを聞き、それに対応するかたちで仕事の進め方を決定していくリーダーシップです。

支援型リーダーシップは、部下の特性が低い水準にあり、「構造主導」の曖昧性が低いとき(構造主導が高いとき)に効果を発揮し、メンバーへの配慮行動を強めることで、メンバーの仕事に対するモチベーションを向上させる効果が期待できます。

④参加型リーダーシップ(構造主導:高 配慮:低)

意思決定に部下を参画させ、その意見を反映させながら仕事を進めていくリーダーシップです。

参加型リーダーシップは、部下の特性が比較的高い水準にあり、「構造主導」の曖昧性が低いとき(構造主導が高いとき)に効果を発揮し、メンバーに対して積極的に仕事に関わってもらうことで、モチベーションを向上させる効果が期待できます。

4つのリーダーシップモデルを図にまとめると、以下のようになります。

パス・ゴール・モデル図3 パス・ゴール・モデル9須田敏子(2018)『組織行動:理論と実践』NTT出版株式会社 182頁

これまでの内容をまとめると、パス・ゴール理論には次の2つの特徴があります。

  1. 状況に応じてひとりのリーダーがリーダーシップ・スタイルを変えることができること
  2. パフォーマンス目標の達成において、リーダーは何らかのリワードをメンバーに提供する必要があるとしていること

①は適したリーダーを配置することより、各リーダーがいかに状況に適応し、リーダーシップ行動を変えていくかが重要であると考えられています。

②では、期待理論に基づき、メンバーはパフォーマンス達成の可能性が高いと感じ、求められるパフォーマンスを達成することで自分の望むリワードが得られると期待するために、モチベーションを向上させることがリーダーの役割であると考えられます。

1章のまとめ
  • パス・ゴール理論とは、リーダーの役割は、メンバーの目標(ゴール)への道筋(パス)を明確に示すことであるとの主張に基づいて、リーダーの役割をメンバーの目標達成を助けることとした理論である
  • リーダーはフォロワーの状況に柔軟に対応することで、その時々で最適な行動パターンを選択し、成果を積み上げていくというのがパス・ゴール理論の基本的な考え方である

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2章:パス・ゴール理論に関わる学術的な議論

さて、2章では、パス・ゴール理論に関わる学術的な議論を紹介します。

2-1:スティンソン=ジョンソンモデル

スティンソンとジョンソンによれば、リーダー行動と課題の構造はパス・ゴール理論よりも複雑であると主張しています。

スティンソンとジョンソンは「フォロワーが高度に構造化された仕事をしているときには、リーダーの関係指向的行動は重要である一方で、使うべき課題指向行動の量は、フォロワーの性質とそのフォロワーがやっている仕事のタイプによる」10P.ハーシィ, K.H.ブランチャード, D.E.ジョンソン『行動科学の展開 -人的資源の活用 入門から応用へ-』生産性出版 126頁ことを発見しました。

スティンソンとジョンソンによると、リーダーの課題指向行動11課題指向行動とは、レヴィンのリーダーシップ論における専制型リーダーシップのこと。トップダウンをイメージさせるリーダーシップであり、「専制型」「体制づくり」「生産性指向」と表現されるもの。とその効果は次のように関係していると指摘しています12P.ハーシィ, K.H.ブランチャード, D.E.ジョンソン『行動科学の展開 -人的資源の活用 入門から応用へ-』生産性出版 126頁

リーダーの課題指向行動が高いときに効果的

  • フォロワーの仕事が極度に構造化されていて、フォロワーが物事の達成と自律を強く求め、かつ高いレベルの教育、または経験を持っている場合
  • 仕事の構造化度、フォロワーの達成意欲と自律度、そして課題関連教育ないし経験レベルが低い場合

リーダーの課題指向行動が低いときに効果的

  • フォロワーの仕事が高度に構造化され、フォロワーの物事の達成と自律に対する意欲が低いにもかかわらず、フォロワーが課題に関連した適度の教育、ないし経験を持っている場合
  • フォロワーの仕事の構造化の程度が低く、そして物事の達成と自律にフォロワーが強い意欲を持ち、しかも仕事に関連する教育や経験レベルが高い場合

スティンソンとジョンソンのモデルは、課題構造とフォロワーの能力のいろいろな組み合わせに対して、どのリーダー行動がもっとも効果的であるかを考察しています。

ここでいうフォロワーの能力とは、達成意欲の程度、自立欲求、仕事に関連する教育と経験に関わっています。

たとえば、能力の低いフォロワーに構造度の低い仕事をさせ監督するときには、強い専制型リーダーシップのような高課題・低関係なリーダーシップがもっとも有効です。

逆に能力の高いフォロワーに構造度の高い仕事をさせ監督するときには、民主型リーダーシップのような高構造・高関係なリーダーシップが有効であると主張しました。



2-2:パス・ゴール理論への批判

パス・ゴール理論はコンティンジェンシー理論として一定の評価を得ている理論ですが、次のような批判も存在します。

須田は、「パス・ゴール理論が想定する状況要因は数多く、そのすべての状況要因に関して広範な研究が行われたとは言い難い」13須田敏子(2018)『組織行動:理論と実践』NTT出版株式会社 185頁と述べ、パス・ゴール理論の実証性の不備を指摘しています。

また、構造主導の曖昧さが高い場合は指示型リーダーシップが有効であるという主張については、その主張を支持しない研究結果が数多く報告されており、パス・ゴール理論の理論的な有効性は証明するためには、今後もさらなる研究が必要であると述べています。

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3章:パス・ゴール理論について学べるおすすめ本

パス・ボール理論を理解することはできました?少しでも関心をもった方のためにいくつか本を紹介します。

おすすめ書籍

P.ハーシィ, K.H.ブランチャード, D.E.ジョンソン『行動科学の展開 -人的資源の活用 入門から応用へ-』(生産性出版)

行動科学における特にリーダーシップ研究に関する論点をまとめた著書です。リーダーシップ論全体がバランスよく解説されており、各リーダーシップ論の繋がりを知りたい方におすすめの1冊です。

→こちらから書物を購入することができます

須田敏子『組織行動:理論と実践』(NTT出版株式会社)

組織行動について初心者向けにわかりやすくまとめられた1冊です。組織行動の概要のついて知りたい方はこちらの著書をおすすめします。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • パス・ゴール理論とは、リーダーの役割は、メンバーの目標(ゴール)への道筋(パス)を明確に示すことであるとの主張に基づいて、リーダーの役割をメンバーの目標達成を助けることとした理論である
  • リーダーはフォロワーの状況に柔軟に対応することで、その時々で最適な行動パターンを選択し、成果を積み上げていくというのがパス・ゴール理論の基本的な考え方である
  • パス・ゴール理論にはいくつかの批判がある

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