バーンズの変革型リーダーシップとは、歴史や時代の節目で大転換を起こす変革型リーダーが発揮するリーダーシップに着目した理論です。アメリカの政治学者ジェームズ・マクレガー・バーンズによって提唱されました。
バーンズの変革型リーダーシップは、組織の大規模な変革を対象にしており、環境変化に対して組織全体としてどのように対処するべきかというトップマネジメントのリーダーシップに焦点を当てています。
この記事では、
- バーンズの変革型リーダーシップの背景や特徴
- バーンズの変革型リーダーシップに関連する議論
などについて解説します。
好きな箇所から読み進めてください。
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1章:バーンズの変革型リーダーシップとは
まず、1章ではバーンズの変革型リーダーシップを概説します。2章ではバーンズの変革型リーダーシップを深掘りしますので、用途に沿って読み進めてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1:バーンズの変革型リーダーシップの背景
変革型リーダーシップ研究の先駆者であるアメリカの政治学者バーンズは、ガンジーやジョン・F・ケネディといった特出したリーダーの行動を研究するなかで、それまでの社会心理学を中心とした実験的研究から導き出されたリーダーシップとは異なる「変革型リーダーシップ」を提唱しました2東俊之(2005)『変革型リーダーシップ論の問題点 -新たな組織変革行動論へ向けて-』京都マネジメントレビュー 8号 130頁。
従来のリーダーシップには、特性理論や行動理論といったリーダーシップ論をあげることができます。
20世紀に入り研究が本格化したリーダーシップ研究の分野ですが、その研究のほとんどはリーダーの存在や行動がそのリーダーが率いる集団に対して、どのような成果をあげているかに焦点を当てるものでした。
しかし政治や経済の分野で活躍するリーダーのなかには、予測困難な環境変化を鋭く読み解き、時には集団全体の利益を一時的に損ないながらも、変革に取り組みリーダーが数多く存在していました。
そのようなリーダーたちを「変革型リーダー」と呼び、その特性や行動を研究しようとしたのが変革型リーダーシップ研究です。
1-2:バーンズの変革型リーダーシップの類型
バーンズはリーダーシップには次の2つのリーダーシップが存在すると主張しました
1-2-1:交換型リーダーシップ(Transactional Leadership)
交換型リーダーシップとは、
これまでのリーダーシップ論の枠組みと変わらず、協力への対価として、何らかの報酬を与えることによって影響力を行使するもの
です。
バーンズはその最たる例として選挙活動をあげており、立候補者(ここではリーダー候補)は票集めと引き換えに協力者(ここでは有権者や支援団体などが当てはまる)にある種の外的報酬を約束することによって、リーダーの地位を確立しようとします。
ここでのリーダーは、協力者によって何が期待され何をなすべきなのかがあらかじめ決められていて、それに忠実に従うことが報酬の条件となっており、協力者はその達成のみを期待してリーダーに付いていきます。
1-2-2:変革型リーダーシップ(Transforming Leadership)
変革型リーダーシップとは、
従来のリーダーシップ論の枠組みにとらわれない、人々への無条件的な至上価値への貢献が基盤となって影響力を行使するもの
です。
バーンズは変革型リーダーの例としてアメリカの公民権運動を率いたキング牧師や、インドの独立運動を率いたマハトマ・ガンジーを挙げており、いずれも高いモラル性を持って、人々の価値観や態度を無条件に変化させた人物を変革型リーダーとして定義しています。
変革型リーダーは、フォロワー(リーダーを支持し、ついてくる人)の潜在的な欲求を発見し、より高度な欲求を満足させるためフォロワーの全人格と関わりを持つことで、組織に好ましい結果をもたらす存在であると考えられています3東俊之(2005)『変革型リーダーシップ論の問題点 -新たな組織変革行動論へ向けて-』京都マネジメントレビュー 8号 130頁。
- 交換型リーダーシップは、既存の組織や集団が比較的安定しており、フォロワーの期待が明らかであるときは有効なリーダーシップである
- 一方で変革型リーダーシップは、組織や集団が大きな環境変化に見舞われたり、人々の価値観に大きな変化が生じたりしたときや、既存の集団や組織では人々の期待に応えられなくなったときに必要になる
1-3:変革型リーダーシップ理論の展開
バーンズの変革型リーダーシップの提唱により、それまでのリーダーシップ研究ではあまり対象とされてこなかった大規模組織におけるリーダーシップが注目されるようになりました。
しかしバーンズは、具体的にリーダーのどのような特性や行動が変革型リーダーシップまたは交換型リーダーシップに当てはまるのかまでは言及をしませんでした。
そこでバーンズの変革型リーダーシップに関する実証実験をおこない、具体的なリーダーシップの因子を明らかにしようとしたのが、アメリカのバーナード・バスです。
そして、バスが交換型リーダーシップと変革型リーダーシップの差異を検討した結果、変革型リーダーシップに対応する3つの因子と交換型リーダーシップに対応する2つの因子を提示しました。
図1 変革型リーダー要因と交換型リーダー要因の特徴4 東俊之(2005)『変革型リーダーシップ論の問題点 -新たな組織変革行動論へ向けて-』京都マネジメントレビュー 8号 131頁
変革型リーダーシップの3要因には、「カリスマ」「個別的な配慮」「知的な刺激」をあげています。
交換型リーダーシップの2要因としては、「随伴的報酬」「例外による管理」をあげています。
それぞれみていきます。
「カリスマ」は、フォロワーからの「完全に信じ切れる」「従うべき手本である」といった意見に見られるリーダーシップの要因です。カリスマでは、リーダーの高いモラルや人間性が特に尊重され、それに加えてインスピレーション力や特異的技能などが評価されています。
「個別的な配慮」は、フォロワーからの「仕事がうまくいくと信頼を得られる」「部下のひとりひとりを個別に扱ってくれる」といった意見に見られるリーダーシップの要因です。個別的な配慮では、リーダーの部下に対する異質性や自律性を尊重する姿勢が評価されます。
「知的な刺激」は、フォロワーからの「古い問題を新たな方法で考えてみることを可能にしてくれる」「アイディアを考え直すきっかけとなる」といった意見に見られるリーダーシップの要因です。知的な刺激では、リーダーは教師的要素を有するべきであると考えられ、他者の才能を開花させたり、他者に健全な疑問を抱かせる姿勢が評価されます。
「随伴的報酬」は、フォロワーからの「生み出した成果が昇給やボーナスとして反映される」「賞賛が与えられる」といった意見に見られるリーダーシップ要因です。随伴的報酬では、業績をあげればその分報酬をはずむという姿勢が評価されます。
「例外による管理」は、フォロワーからの「うまくいかない場合にリーダーの介入によって事態が好転した」「失敗に対して的確なフィードバックがあった」といった意見に見られるリーダーシップ要因です。
そして、後の研究にてバスは、これらの要因に加え変革型リーダーシップに鼓舞、交換型リーダーシップにレッセフェールを追加しています5東俊之(2005)『変革型リーダーシップ論の問題点 -新たな組織変革行動論へ向けて-』京都マネジメントレビュー 8号 130頁。
バーンズが「変革型リーダーシップと交換型リーダーシップは相対するものである」との考え方を前提としていたのに対して、バスは多くの実証実験によって、この2つのリーダーシップスタイルの間には相関関係が存在し、2つのリーダーシップスタイルを使い分けることでさらなる効果が期待できると主張しました。
- バーンズの変革型リーダーシップとは、歴史や時代の節目で大転換を起こす変革型リーダーが発揮するリーダーシップに着目した理論である
- 変革型リーダーシップに対応する3つの因子と交換型リーダーシップに対応する2つの因子が存在する
2章:バーンズの変革型リーダーシップに関わる学術的な議論
さて、2章ではバーンズの変革型リーダーシップに関する学術的な議論を紹介します。
2-1:ティシーとディバナの変革型リーダーシップ論
アメリカの経営学者であるティシーとディバナは変革型リーダーが果たすべき役割を、以下のように述べています6N.M.ティシー, M.A.ディバナ著、小林薫訳『現状変革型リーダー : 変化・イノベーション・企業家精神への挑戦』ダイヤモンド社 6頁。
変革が必要なことをはっきりと述べ、新しいビジョンを創出し、こういったビジョンの遂行に必要なやる気を引き出し、そして最後には組織を変革させる
そして、変革型リーダーは次の3つの段階からなるプロセスを経て、組織や集団の変革を達成していると指摘しました(図2)。
図2 変革リーダーの行動プロセス7 N.M.ティシー, M.A.ディバナ著、小林薫訳『現状変革型リーダー : 変化・イノベーション・企業家精神への挑戦』ダイヤモンド社 40頁
初めの段階は,「正気回復の必要性を認識すること」です。まずリーダーには、変革へのトリガーとなる環境からの圧力を認識し,改革に対する抵抗,特に感情面の調整を行うことが求められます。
次の段階は「新しいビジョンの創設」です。次にリーダーに求められるのは、ビジョンを構築するための状況を診断し、フォロワーを動機づけるビジョンを創造し,そしてビジョンへのコミットメントを引き出すことであるとしています。
そして第三の段階は「変化を制度化する」ことです。リーダーには、既存の社会的ネットワークを再構成し,変革を進めるために官僚的組織のもつ硬直性に対峙し,そして新たな人的資源管理システムの構築により変革を確固たるものにすることが求められます8俊之(2005)『変革型リーダーシップ論の問題点 -新たな組織変革行動論へ向けて-』京都マネジメントレビュー 8号 132頁。
2-2:ジョン・コッターの変革型リーダーシップ論
アメリカ人経営学者のジョン.P.コッターはリーダーが企業を変革するためには次の8段階のプロセスを意識しなければならないと指摘しています9ジョン・P・コッター(2012)『リーダーシップ論』ダイヤモンド社 77-102頁。
- 緊急課題であるという認識・・・変革を成功させるためには、まず個人、あるいは社内グループが自社の競合状態、市場シェア、技術トレンド、財務状態などを徹底的に検討することから始めなければなりません。そして、これらの情報を広範かつ効果的に社内に浸透させる方法を考える必要があります
- 強力な推進チームの結成・・・変革をリードするための十分なパワーを備えたチームを築いていくために、変革の担い手を集める必要があります。変革推進チームには、変革の主導に必要となるスキル、人脈、信頼、評判、権限があることが望ましいとされています
- ビジョンの策定・・・変革に導くためにビジョンを生み出し、ビジョンを実現するための戦略を立案します。そして、その立案したビジョンは変革推進チームが簡潔に理解でき、心躍るものでなければなりません
- ビジョンの伝達・・・ビジョンをいくつものチャネルを通して伝え、社内に周知徹底しなければなりません
- 社員のビジョン実現へのサポート・・・変革に立ちはだかる障害物を排除し、変革推進チームがリスクや伝統に囚われずに変革を推進できる体制を構築しなければなりません
- 短期的成果を上げるための計画策定・実行・・・目に見える業績改善計画を策定し、その進捗や成果を「見える化」することで、社員の変革に対するモチベーションを向上させる施策を考える必要があります
- 改善成果の定着とさらなる変革の実現・・・改善成果のフィードバックをすすめ、ビジョンに沿わない制度や政策の積極的な変革を進めます。新しいプロジェクトやテーマの採用をすすめ、メンバーを改革プロセスに積極的にコミットメントさせる体制を確立します
- 新しいアプローチを根付かせる・・・新しい行動様式と企業全体の成功の因果関係を明確にします。そして、新しいリーダーシップの育成と引き継ぎの方法を確立します
コッターはこの8段階のプロセスは、企業変革成功のための明確な道筋であり、同時に変革の落とし穴でもあると述べています。
どの段階であれ、致命的なミスを犯してしまうと、変革運動はその勢いが削がれ、それまでの成果は台無しになってしまうとコッターは注意しています。
しかし、時間をかけてでもこの8段階のプロセスを成功させることができれば、世界的な大企業であっても抜本的な変革が可能であるとコッターは主張しています。
3章:バーンズの変革型リーダーシップ理論について学べるおすすめ本
バーンズの変革型リーダーシップを理解することはできました?PM理論に少しでも関心をもった方のためにいくつか本を紹介します。
グロービス経営大学院『グロービスMBAリーダーシップ』(ダイヤモンド社)
グルービス経営大学院のMBA過程で使われているリーダーシップの教科書です。豊富なケーススタディと理論がセットになって書かれており、実務でリーダーシップをすぐ応用したいかたにおすすめの1冊です。
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N.M.ティシー, M.A.ディバナ『現状変革型リーダー : 変化・イノベーション・企業家精神への挑戦』(ダイヤモンド社)
変革型リーダーの組織変革プロセスや変革型リーダーに求められるスキルについて考察したリーダーシップ論です。変革型リーダーシップに関する著書や論文でも、特に引用される機会の多い理論であり、理論的かつ実践的な内容がまとめられています。
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ジョン・P・コッター『リーダーシップ論』(ダイヤモンド社)
変革型リーダーシップ論の第一人者であるジョン・P・コッター氏によるリーダーシップ論です。ハーバードビジネススクールでも教鞭をとっている同氏のリーダーシップに関する思想や意見はいまでも大きな影響力をもっています。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- バーンズの変革型リーダーシップとは、歴史や時代の節目で大転換を起こす変革型リーダーが発揮するリーダーシップに着目した理論である
- 変革型リーダーシップに対応する3つの因子と交換型リーダーシップに対応する2つの因子が存在する
- コッターはリーダーが企業を変革するためには次の8段階のプロセスを意識しなければならないと指摘した
このサイトは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。
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