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経営学

【SL理論とは】背景・特徴・批判をわかりやすく解説

SL理論とは

SL理論(Situational Leadership theory)とは、「有効なリーダーシップスタイルは、部下の成熟度の変化に依存して推移していく」1金井壽宏(2005)『リーダーシップ入門』日本経済新聞社 285頁ことを示したリーダーシップモデルです。状況対応リーダーシップ理論とも呼ばれ、アメリカの経営学者であるP.ハーシーとK.H.ブランチャードによって提唱されました。

SL理論は、いわゆる集団のコンティンジェンシー理論に関するひとつのモデルであり、従来の行動理論やフィードラー理論をベースに、部下の成熟度という新たな判断軸を加えたものです。

この記事では、

  • SL理論の背景や特徴
  • SL理論に関連する議論

などについて解説します。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:SL理論とは

まず、1章ではSL理論を概説します。2章ではSL理論を深掘りしますので、用途に沿って読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注2ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:SL理論の背景と研究の位置づけ

そもそも、リーダーシップ研究においては、以下のような研究の流れがあります。

  • 1940年頃までは特性理論と呼ばれるリーダーの生まれ持つ資質や素養に着目するリーダーシップ論が研究の中心分野であった→詳しくはこちら
  • 1950年頃になると、レヴィンやリッカートや三隅二不二らの研究者によってリーダーの行動に着目する行動理論と呼ばれるリーダーシップ論が注目を集めた→詳しくはこちら

しかし、多くの研究者がさまざまな研究を重ねても、普遍的に有効なリーダーの特性も、普遍的に有効なリーダーの行動も定義できなったことから、新しいリーダーシップ研究の開拓が求められました。

そこで登場したのが、F.E.フィードラーによる「唯一最善のスタイルのようなものが存在すると認めたとしても、状況からの要請やリーダー本人のひととなりによって、望ましいリーダーシップ・スタイルは変化しうるはずだ」3金井壽宏(2005)『リーダーシップ入門』日本経済新聞社 286頁という主張を展開するコンティンジェンシー(条件適合)理論でした。

具体的に、フィードラーは、以下の点を明らかにしようとしました。

  • リーダーシップの成果とは「仕事中心」または「人間関係中心」といったリーダーの指向と、「リーダーとメンバーの関係性」など集団の置かれた状況の組み合わせによって決まる
  • そのため、LPC(Least Preferred Co-corker)という尺度を用いて優れたリーダーシップ・スタイルを検討した

※コンティンジェンシー理論の記事はこちら

このように、フィードラーは、従来のリーダーシップ論の中心的なテーマであったリーダーの「特性」や「指向」といった要因に加えて、介在する新たな要因として「状況」があることを指摘しました。

野中郁次郎(1976)が「組織理論におけるコンティンジェンシー理論という言葉自体は、フィードラーのリーダーシップ効率の研究に起源を発する」4占部郁美(1979)『組織のコンティンジェンシーモデル』白桃書房 52頁と発言しているように、リーダーシップ研究に多大なる貢献を果たしました。

今回解説するハーシー=ブランチャードの「状況リーダーシップ(SL)理論」も、このフィードラーのコンティンジェンシー理論がベースとなっているモデルです。



1-2:SL理論の特徴

SL理論で、まず前提となっているが従来のリーダーシップの行動理論でも広く用いられていた「仕事」「人間関係」に関する2次元モデルです。

ハーシーとブランチャードは、リーダーシップの行動理論において特に重要な理論のひとつであるオハイオ州大での実験結果を踏まえており、「構造主導」を「指示的行動」、「配慮」を「協労的行動」を定義することで、図1のような2次元モデルを作成しました。

基本的リーダー行動スタイルの2次元モデル図1 基本的リーダー行動スタイルの2次元モデル5P.ハーシィ, K.H.ブランチャード, D.E.ジョンソン著 山本成二, 山本あづさ訳(2000)『行動科学の展開 -人的資源の活用 入門から応用へ-』生産性出版 132頁

  • 指示的行動・・・リーダーが、率いる集団のメンバー(フォロワー)の役割を組織・規定し、そして各人がどのような活動を果たすべきか、いつ、どこで、いかに課題を達成すべきかを説明することの程度
  • 協労的行動・・・リーダーが、自分と率いるグループのメンバー(フォロワー)との間にコミュニケーションの経路を開き、連帯的支援、積極的傾聴、「心理的ストローク」、そして促進的行動を与えることの程度

さらにハーシーとブランチャードは、この2次元モデルに加えて、どのリーダーシップ・スタイルを使うべきであるかは、「影響の対象となる個人、または集団のレディネスに合わせるべきである」6P.ハーシィ, K.H.ブランチャード, D.E.ジョンソン著 山本成二, 山本あづさ訳(2000)『行動科学の展開 -人的資源の活用 入門から応用へ-』生産性出版 186頁と述べています。

図1のような指示的行動と協労的行動に「レディネス」を加えた3次元のリーダーシップ・モデルをSL理論として提唱しました。

レディネスとは、「特定課題の達成に対するフォロワーの能力と意欲の程度」7P.ハーシィ, K.H.ブランチャード, D.E.ジョンソン著 山本成二, 山本あづさ訳(2000)『行動科学の展開 -人的資源の活用 入門から応用へ-』生産性出版 190頁であり、部下の成熟度とも訳されます。

一般的に、与えられた課題によって個々人のレディネスのレベルは異なるのが普通であり、個々人の資質や特質、年齢とは関係しないものとして考えられます。

フォロワーのレディネス図2 フォロワーのレディネス8P.ハーシィ, K.H.ブランチャード, D.E.ジョンソン著 山本成二, 山本あづさ訳(2000)『行動科学の展開 -人的資源の活用 入門から応用へ-』生産性出版 192頁



1-3:SL理論の詳細

SL理論では、基本的リーダー行動スタイルの2次元モデル(図1)にフォロワーのレディネスのレベル(図2)を対応させることで、最適なリーダーシップ・スタイルを確定させます(図3)。

状況対応リーダーシップ・モデル図3 状況対応リーダーシップ・モデル9P.ハーシィ, K.H.ブランチャード, D.E.ジョンソン著 山本成二, 山本あづさ訳(2000)『行動科学の展開 -人的資源の活用 入門から応用へ-』生産性出版 192頁

図3のSはStyleを表しており、リーダーの取るべきリーダーシップ・スタイルを示しています。一方で、Rは Readinessを表しており、フォロワーのレディネスのレベルを示しています。

そして、リーダーが取るべきリーダーシップ・スタイルは次の4つに区分することができます。

1-3-1:教示的スタイル(R1に対してS1)

教示的スタイルは、

レディネス・レベル1に対応するリーダーシップ・スタイル

です。

教示的スタイルでは、リーダーは、特定の課題に対して能力も意欲も低いフォロワーに対して、「何を、どこで、どのようになるべきか」を明確に教示することで、フォロワーへの指示やガイダンスを強めます。

1-3-2:説得的スタイル(R2に対してS2)

説得的スタイルは、

レディネス・レベル2に対応するリーダーシップ・スタイル

です。

説得的スタイルでは、リーダーは、能力は低くとも、努力しているまたは意欲を示しているフォロワーに対して、指示やガイダンスは強めながらも、意欲や努力を支援することを重視します。

1-3-3:参加的スタイル(R3に対してS3)

参加的スタイルは、

レディネス・レベル3に対応するリーダーシップ・スタイル

です。

参加的スタイルでは、リーダーは、能力が高くても、能力が発揮する充分な機会が与えてられておらず、仕事に対する自信を得るに至っていないフォロワーに対して、指示的要素は減らしつつ、支援的な行動を強めることで、フォロワーが仕事に対する自信を得ることをサポートします。

1-3-4:委任的スタイル(R4に対してS4)

委任的スタイルは、

レディネス・レベル4に対応するリーダーシップ・スタイル

です。

委任的スタイルでは、リーダーは、能力も高く、意欲や充分なフォロワーに対して、細かな指示をおこなわずに、当人に責任をもたせて自由に仕事をやらせます。

ハーシーとブランチャードは、状況対応リーダーシップのモデルを図3のように示しつつ、リーダーの行動の適否を決めるのは、リーダー自身ではなくフォロワーであることと述べています。

つまり、フォロワーが先に自らの行動を決め、そのフォロワーの行動がリーダーの行動を規定すると強調しています。

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1章のまとめ
  • SL理論とは、「有効なリーダーシップスタイルは、部下の成熟度の変化に依存して推移していく」10金井壽宏(2005)『リーダーシップ入門』日本経済新聞社 285頁ことを示したリーダーシップモデルである
  • リーダーの行動の適否を決めるのは、リーダー自身ではなくフォロワーである

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2章:SL理論に関わる学術的な議論

さて、2章では、SL理論の基本的な特徴を踏まえた上で、SL理論を組織にどのように取り入れていったらいいかの解説と、SL理論そのものに対するいくつかの批判を紹介します。

2-1:状況対応リーダーシップの導入

状況対応リーダーシップでは、部下のレディネス・レベルの診断に加えて、部下にどんな仕事を任せるべきかの判断基準や、任せた仕事に対するフィードバックのあり方が重要となります。

そこでハーシーとブランチャードは、状況対応リーダーシップを効果的に組織に導入するために、「ACHIEVEモデル」の活用を推進しています。

ACHIEVEモデルは、ハーシーとM.ゴールドスミスによって開発された部下に仕事を振るための管理方式のひとつであり、効果的な仕事振りの管理に関する7つの要因の頭文字を繋げたものです。

  • Ability(能力)・・・フォロワーの知識、経験、技能を示す。当人の能力が特定の課題を達成するために十分なものなのかを判断する
  • Clarity(明快性)・・・フォロワーの仕事への理解と役割認識の程度を示す。当人が仕事を達成するためのプロセスをイメージ、または計画できているかを判断する
  • Help(支援)・・・フォロワーへの組織的な支援体制の程度を示す。当人が課題を遂行するための予算や設備が十分に与えられているかを判断する
  • Incentive(誘因)・・・フォロワーへの動機付け要因の程度を示す。当人が課題遂行にあたる上での金銭的報酬や心理的報償の妥当性を判断する
  • Evaluation(評価)・・・フォロワーへのフィードバックの程度を示す。当人が課題遂行後に受けるべき評価が適正であるか、あるいは課題遂行改善のためのフィードバックが十分であるかを判断する
  • Validity(正当性)・・・フォロワーへの人事的措置の正当性を示す。当人の課題遂行の結果が、適切に評価に反映され、報酬や人事異動に表れているかを判断する
  • Environment(環境)・・・フォロワーが業務遂行するための外的環境の整備の程度を示す。当人が課題遂行を果たす上で、十分な勝機や可能性を与えられているか、または課題を遂行し得ない対処不可能な障害が存在しないかを判断する

ACHIEVEモデルは、職務遂行管理における仕事状況の分析、仕事振りの問題の原因発見、フォロワーが当面する問題に対する解決方法の選定、などについての簡便で使いやすいガイドラインのひとつです11P.ハーシィ, K.H.ブランチャード, D.E.ジョンソン著 山本成二, 山本あづさ訳(2000)『行動科学の展開 -人的資源の活用 入門から応用へ-』生産性出版 374-375頁

ACHIEVEモデルを活用することで、組織のリーダーあるいはマネージャーは状況対応リーダーシップを計画的かつ効果的に利用することができます。



2-2:SL理論への批判

しかし、SL理論には、次のような批判も存在するのも事実です。

2-2-1:レディネスの測定

1章でも述べたように、SL理論においてレディネスの測定はリーダーシップ・スタイルを決める上で最も重要な作業ですが、項目として測定されるレディネスそのものやその評価方法の妥当性については十分な検証がなされていません。

  • SL理論では、レディネスは「能力」と「意欲」の2大要素によって構成されていると考えられている
  • しかし、これを測定する統一的な指標はこれまで開発されておらず,検証結果の比較は困難になったままである

また、レディネスの測定および評価に関して「リーダーが部下の成熟度を評価するというのは,識別可能で独立な指標というよりは,単にリーダーの個人的な選好や部下の業績が投影されたものになりやすい」12犬塚篤 2019「SL 理論の妥当性の再検証―コサイン曲線を用いた包括的検証法の提案― 」『経営行動科学』第31巻第1/2号20頁と指摘されており、リーダーによる主観的評価を排除しきれないことを指摘しています。

2-2-2:リーダーシップの測定

レディネスの測定に関する問題点は、リーダーシップの測定についても同様に生じます。

つまり、「リーダーシップの効果性は通常,部下の業績によって把握されるが,これをリーダーが評価すれば,自己高揚バイアス(self-enhancing bias)が生じやす」13犬塚篤 2019「SL 理論の妥当性の再検証―コサイン曲線を用いた包括的検証法の提案― 」『経営行動科学』第31巻第1/2号20頁く、やはりSL理論での妥当性検証が主観的評価によっておこなわれていることを批判しています。

2-2-3:SL理論の妥当性

SL理論では、その理論の妥当性は部下の業績によって検証されますが、犬塚は「リーダーシップ・スタイルや成熟度が部下の業績に与える直接効果は制御できていなければならない。換言すれば,理論と整合した場合に生じる効果だけを取り出す工夫が求められる」14犬塚篤 2019「SL 理論の妥当性の再検証―コサイン曲線を用いた包括的検証法の提案― 」『経営行動科学』第31巻第1/2号21頁と述べています。

その上で、数学的な方法でリーダーシップ・スタイルや成熟度が部下の業績に与える直接効果の検証を試みています。しかし犬塚は、その検証結果を「SL理論が妥当だとみなせる根拠はまったく見出すことができなかった」15犬塚篤 2019「SL 理論の妥当性の再検証―コサイン曲線を用いた包括的検証法の提案― 」『経営行動科学』第31巻第1/2号 28-29頁と結んでいます。

SL理論はあくまで経験と直感をモデル化したものに過ぎず、その科学的正当性は担保されないと主張しています。

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3章:SL理論について学べるおすすめ本

SL理論を理解することはできました?少しでも関心をもった方のためにいくつか本を紹介します。

おすすめ書籍

P.ハーシィ、 K.H.ブランチャード、 D.E.ジョンソン『行動科学の展開 -人的資源の活用 入門から応用へ-』(生産性出版)

行動科学における特にリーダーシップ研究に関する論点をまとめた著書です。今回のSL理論についても詳しい解説が掲載されており、理論をより深く知りたい方におすすめです。

→こちらから書物を購入することができます

K.H.ブランチャード、S.ジョンソン『新1分間マネジャー -部下を成長させる3つの秘訣-』(ダイヤモンド社)

SL理論の提唱者のひとりであるK.H.ブランチャード氏によるSL理論の実践書とも呼べる著書です。SL理論を実践するためのハウトゥーやフレームワークが物語調で解説されており、とても読みやすい一冊です。

金井壽宏『リーダーシップ入門』(日本経済新聞社)

リーダーシップに関する幅広い論点がまとめられたリーダーシップの入門書です。理論と実務がバランスよくまとめられており、経営学を知らない方でも親しみやすい1冊です。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • SL理論とは、「有効なリーダーシップスタイルは、部下の成熟度の変化に依存して推移していく」16金井壽宏(2005)『リーダーシップ入門』日本経済新聞社 285頁ことを示したリーダーシップモデルである
  • リーダーの行動の適否を決めるのは、リーダー自身ではなくフォロワーである
  • SL理論にはいくつかの批判がある

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