EU(European Union/欧州連合)の離脱問題、ブレグジット/Brexitとは、
2016年の国民投票でイギリスがEUから離脱することを決めたことから起こった、イギリス国内やEU全体に影響を与えた一連の問題
のことです。
また、そもそもEUとは、
マーストリヒト条約によって設立された、欧州の国家が集まった地域統合体
のことです。
しかし、これだけではニュースを理解することも難しいですよね。
EUについて、また、EU離脱問題を理解するためには、EUが「設立当初から抱えていた問題」について知っている必要があります。
逆に言えば、この問題を理解していれば、これから出てくる新しいEUのニュースを見ても「ああ、こういうことか」と理解できるはずです。
そこでこの記事では、
- EU離脱問題とはどういうものか
- EU離脱問題はなぜ起こったのか
- そもそもEUとはどのような仕組みなのか
- EUについて学べる書籍リスト
について詳しく解説します。
専門知識を持っていなくてもわかるように書いていますので、興味のある所から読んでみてください。
このサイトは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。
ぜひブックマーク&フォローしてこれからもご覧ください。
1章:EUからの離脱問題とは
それではまずは、EU離脱問題から解説していきます。
離脱問題の原因について詳しく知りたい場合は2章から、EUの仕組みから知りたい場合は3章からお読みください。
繰り返しになりますが、EU離脱問題とは、
2016年の国民投票でイギリスがEUから離脱することを決めたことから起こった、イギリス国内やEU全体に影響を与えた一連の問題
のことです。
イギリス(British)と離脱(Exit)という言葉を合わせて「ブレグジット(Brexit)」とも言われています。
このことはほとんどの方がニュースで知っていると思います。
そこで、基本的なことについて質問に答える形で説明していきます。
1-1:なんでEUから離脱することになったの?
イギリスがEUから離脱することになった直接の理由は、2016年の国民投票で、EU離脱賛成派が過半数を超えたからです。
しかし、その背景には様々な事情があり、
- EUに対する経済的負担の大きさへの国民の不満
→他の国のために自分たちの税金が使われるなんて許せない! - テロのリスク
→ヒトの移動が自由になるとEU内でテロが起こりやすくなる - 移民に来て欲しくない
→エリートたちが決めた移民受け入れで、自分たちの生活に影響が出るのは嫌だ。治安が悪くなったり彼らのために社会保障サービスが行われるのは嫌だ。
といった国民感情がありました。
また、こういった国民感情を煽ったのは、イギリス内のポピュリズムでもありました。
※ポピュリズムについては2章で詳しく解説します。
1-2:今問題になっていることは何?
2016年にイギリスのEU離脱が決まってから、それに合わせて、
- EUの離脱の条件についてイギリス下院で承認を得る(国内政治における承認)
- EUの離脱の条件について欧州議会での承認を得る(EU政治における承認)
の2つをクリアしなければなりませんでした。
しかし、イギリス下院では、国内の議会に提出した「離脱協定(離脱する上での条件)」が3回にわたって否決され、その後提出された「示唆的投票のための案(離脱協定の代わりの案)」も否決され、膠着状態に陥っています。
EU離脱について、国内で合意形成ができなかった責任を取って、2019年5月にはテリーザ・メイ首相は辞任を発表し、いよいよ先がわからなくなっています。
1-3:イギリスはいつ離脱するの?
イギリスは当初、2019年3月29日にEUを離脱することになっていましたが、離脱協定が決まらないため、離脱の期限が最長2019年10月31日まで延長されることになっています。
そのため、イギリスは最長でも10月31日までに下院で離脱協定を承認させる必要があります。
1-4:イギリスがEUを離脱したらどんな影響があるの?
イギリスがEUを離脱すると、いくつかの影響が考えられます。
①イギリス国内への悪影響
離脱協定の内容次第ですが、イギリスの経済にダメージが出る可能性があります。
なぜなら、EUは地域統合を通じて貿易自由化やヒトの移動の自由化など、よりスムーズに経済活動ができるように発展してきたため、EU離脱に伴って、この自由の恩恵が小さくなってしまうからです。
②EUへの悪影響
イギリスというEUを支える国の一つが離脱することで、EUの統合への計画に影響が出る可能性があります。
実はEUからの離脱を掲げる政党は、イギリス以外にも存在します。
イギリスが離脱という前例を作ってしまうことで、その他の国のEU離脱を目指す政党が勢いづき、EUの統合が揺らぐかもしれません。
③自由貿易協定の締結
EUはこれまで、一体として自由貿易協定(FTA)の締結を交渉してきました。
自由貿易協定(FTA)とは、国家の間で貿易やその他の経済活動を自由化するために結ぶルールのことです。自由貿易協定(FTA)の内容は国家間で話し合われますが、自由化を進めることで双方にメリットがあるように締結されます。
EUに加盟したままだと、イギリスは独自にFTAの締結を進めることができませんでした。
EUから離脱すれば自由にFTAが締結できるため、日本を含め多くの国とFTAの交渉がはじめられる可能性があります。
④日本への影響
イギリスがEUから離脱したら日本にも影響が出ることが考えられます。
たとえば、以下のようなことです。
- イギリスから日本への輸出の減少、また日本からイギリスへの輸出の減少
- イギリスに工場を持つ日本企業のEUへの輸出減少や関税によるコスト増(収益減少)
- イギリスに工場を持つ日本企業の、EUからの輸入の影響(製造に必要な部品が調達できない、関税で値上がりしてコストが増加する、など)
とくにイギリス下院での離脱協定案が通らないまま10月31日の離脱期限を迎えてしまった場合、EUとの「合意なき離脱」となるため、さまざまな混乱が予想されます。
その場合、イギリスに進出している日本企業やイギリスで生活する日本人はもちろんのこと、イギリスと取引している日本の多くの企業にも、混乱の影響が出るかもしれません。
※EU離脱問題(ブレグジット)について、以下の本が分かりやすいのでおすすめです。
まずはここまでをまとめます。
- EU離脱問題(Brexit)の直接の原因は2016年のイギリスでの国民選挙
- イギリスでは、EUへの財政負担、テロへの警戒、自由貿易協定の自由な締結ができないことなど、EUに対する国民感情の不満があった
- イギリスのEUからの離脱は2019年10月31日が期限
ここまで、イギリスのEU離脱問題(ブレグジット)について簡単に解説しましたが、「そもそも、なんでこんなことになったの?」と思っている方も多いのではないかと思います。
そこで次に、EUの離脱問題が起こった理由について解説します。
2章:EUからの離脱問題が起こった理由
イギリスをはじめとしたEU離脱問題が起こったのは、
- EUに複数の危機が起こったこと
- ポピュリズムが台頭したこと
- そもそも、EUに構造的な問題があったこと
- イギリスは最初からEUと距離を取っていたこと
などの理由があります。
この3つの理由を詳しく解説します。
2-1:EUが抱える複数の危機
EUはこれまでいくつもの危機に見舞われました。そして「EUという地域統合体になったからこのような危機に見舞われたのだ」「EUが悪いのだ」という意見が出始めたのです。これがEU離脱を掲げる主張が増える原因の1つになりました。
近年の大きな危機としては、
- 2009年のギリシャ危機(財政、ユーロの危機)
- 2013年ウクライナ危機(安全保障の危機)
- 2015年ギリシャ発のユーロ危機
- 2015年難民危機
- 2015年〜2016年各国でのテロ(安全保障の危機)
などがあり、そのたびにEUが問題の原因を作ったという追求がなされました。
確かに、2009年にギリシャが財政赤字を公表した時、欧州がEUという統合体になっていなければ「別の国の問題」として知らんぷりできたものです。
EUとして統合していたからこそ、ギリシャの財政赤字のダメージがEUにも与えられ、財政的に豊かなEUの国(たとえばドイツ)はギリシャの負担を強いられました。
その他の危機もEUとして地域統合していたからこそ、一部の国家の危機が他の国家に広がったと言えます。
そのため、次に述べるような「ポピュリズム」によって、EUそのものが批判されることになりました。
※EUが抱えている複数の危機について、以下の本がとても分かりやすいです。
(2024/10/13 22:02:06時点 Amazon調べ-詳細)
2-2:ポピュリズムの台頭
ポピュリズムとは、
「大衆」の立場を自称し、規制の政党やエリート、既得権益層を批判する政治思想や政治運動
のことです。
ポピュリズムは世界中で増加しており、
- 政治的、経済的エリートを批判し「エリートVS大衆」という構図を作る
- カリスマ的人気を持つリーダーが政党をけん引し、マスメディアやSNSなどのメディアを積極的に活用する
- 既存の政党が抱える問題点や無力さ、思想が似たり寄ったりである点などを批判する
- 政治的に一貫した立場を持っているわけではない(既存政党やエリート批判の点で一貫)
などの特徴があります。
※ポピュリズムについて詳しくは以下の記事で解説しています。
【ポピュリズムとは】定義・特徴・問題点や現代政治への影響力を解説
欧州ではポピュリズムが台頭したことで、
- 移民受け入れの反対
- EUの統合の深化への反対
- EUからの離脱を主張
などを訴えるようになりました。
もちろんすべての原因がEUという仕組みにあるわけではありません。
しかし、ポピュリストは物事を大衆に受け入れられやすいように単純化する傾向があるため、「すべての原因はEUにある」と主張することで、大衆の支持を取り付けているのです。
特に、EUは次に解説する構造上の問題によって、ポピュリズムから批判される大きな理由を持っています。
と言うより、EUが構造上の問題を持っていたからポピュリズムが生まれたとも言えるかもしれません。
2-3:EUの構造的問題
そもそも、何らかの共同体の意思決定や運営は、その共同体のメンバーの合意からちゃんと合意を得ることで、認められるものになるはずです。
たとえば、日本でも選挙で選出した議員によって、市議会や県議会、国会などが成り立っており、この仕組みで民意が国家運営に反映されるようになっています(もちろん、正しく反映されているかどうかという話は別ですが)。
しかし、EUの場合、国家による集まりという意味でこれも共同体なのですが、EUを構成する国家の国民達の声を聞かずに、一部のエリートたちによって構想、運営されてきたという背景があります。
つまり、EUは一部のエリートによって構想され、民意(大衆の意見)が反映されない所で形成されてきた部分があるわけです。
※これは民主主義の問題ですが、そもそも民主主義とはどのような思想なのか確認したい場合は以下の記事をご覧ください。
■EUがポピュリズムを生んだ理由
ここまで説明すると、お気づきの方もいるかもしれません。
EUがエリート主導で運営されてきたために、「エリート批判」的思想であるポピュリズムの批判の対象になったのです。
欧州で起きた様々な危機の対処をすべてEUの責任にし、「EUからの離脱」もしくは「EUの統合をこれ以上進めない」ことなどを主張するようになったのです。
逆に、EUがエリート主導で形成された面があったからこそ、それを批判するポピュリズムを生んでしまったと言えなくもありません。
2-4:イギリス特有の問題
ここまでEU離脱問題について一般的に解説しましたが、実はイギリスには特有の問題もあります。
実は、欧州統合の歴史上、イギリスは常にEUの統合に対して微妙な立場を取ってきました。
イギリスはもともと、アメリカとの関係やアジア・アフリカの旧植民地との経済的関係を持っていたため、欧州統合への参加にも渋っていた時代がありました。
欧州統合に参加した後も、1980年代以降のユーロ導入に伴うプロジェクトへの参加を拒み、通貨統合への参加も留保しました。
つまり、そもそもイギリスは以前からEUとの微妙な距離感を持っていたのであり、イギリス国内では常に「EUとの関係」について批判的に考える人たちがいたのです。
そこに、ポピュリズムの台頭や様々な欧州危機というインパクトが加わり、EU離脱問題(ブレグジット)が起こったのでした。
- EUはエリート主導で構想されたために、ポピュリズムから批判されがち
- イギリスはEUの統合ともともと距離を持っていたため、複数の危機やポピュリズムの台頭から離脱問題が表面化した
ここまでEU離脱問題やその原因について解説しました。
しかし、これからのEUの動向を考える上では、そもそもEUとはどのような仕組みを持ったもので、どのように作られてきたのかを知っておくことが大事です。
そこでこれからEUの仕組みについて解説します。
EUについてもっと詳しく知りたい方はぜひお読みください。
3章:そもそもEUとはどういう仕組み?
それではこれから、
- EUの歴史
- EUの仕組み
について解説します。
3-1:欧州統合の歴史
欧州統合は、
- 欧州支払い連合(EPU)+欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)
- 欧州経済共同体(EEC)+欧州原子力共同体(EURATOM)+共通農業政策(CAP)
- 欧州共同体(EC)
- 欧州連合(RU)
という大きく4段階で統合を進め、現在のEUという形になりました。
具体的な組織名などを覚える必要はありません。
重要なのは、
「統合」の領域が経済的領域から深化していき、政治的領域にも及びつつある
ことです。
経済領域の地域統合は、欧州以外の地域でも進められています。
※地域統合について詳しくは以下の記事で解説しています。
【地域主義・地域統合とは】国際経済の新たな流れが生まれた理由・背景を解説
しかしEUは、まずは市場統合(貿易自由化など)、次に通貨の統一(ユーロ)そして現在では、外交、国境の管理、安全保障政策、警察協力などまで共同で行い、統合を進めているのです。
これほどまで統合を進めるということは、逆にそれぞれの加盟国が持つ独自の権限は、EUに委譲して少なくなっていくということです。
現在の世界では「主権国家体制」と言って、国家をコントロールできる上位の権力は存在しないことになっているのですが、EUは「国家を超える組織」にすらなろうとしているように見えます。
したがって反発を招くことも多いのです。
3-2:EUの仕組み
具体的なEUの仕組みを紹介しましょう。
EUは非常に多岐にわたる領域での協力があり、そのすべてを紹介するのは難しいです。
そこで、EUの最も中核であるガバナンスの部分を説明します。
EUの運営は、以下の図のように行われています。
- 欧州理事会(EU首脳会議)
→基本方針を決める&調整する。 - コミッション
→「立法提案権」を独占して持つ。コミッションが提案しなければ、他のEUの機関は法律を作ることができない。コミッションの構成員全員のコンセンサスで、提案する法律を決定する。 - 閣僚理事会
→具体的な政策決定&調整を行う。各国の大臣が出席するため、各国の民意を間接的に代表している。提案されたEU法が、自分たちの国益になるかどうか審議し、最終的に閣僚理事会のコンセンサスで決定する。 - 欧州議会
→閣僚理事会と共に政策決定&調整を行う。欧州議会の議員は各国で直接選挙されるため、各国の民意を直接反映する役割を持つ。政党グループに分かれて提案されたEU法を審議し、多数決で決定する。
つまり、
欧州理事会が大まかな方針を決める→コミッションがそれに沿った法案を提案する→閣僚理事会と欧州議会が法案を審議し、双方が賛成すればEU法が可決される
という仕組みになっているのです。
このように複雑な仕組みを作ることで、どこかの国が力を持って国益を追求したり、小国の意見が反映されなかったり、EUが権力を独占して独自に利益を追求するようなことが避けられるようになっているわけです。
さらに、金融面では「欧州中央銀行」、裁判は「欧州司法裁判所」がそれぞれ担っています。
国政政治を学ぶと、EUがいかに特異な存在かがわかります。
EUは、ある意味で理想によって歴史を作ってきた欧州だからこそ生まれたもので、壮大な実験であり、唯一無二のプロジェクトなのです。
4章:EUについて学べる書籍リスト
EU離脱問題(ブレグジット)とEUの仕組みについて紹介してきましたが、ここで紹介したのはEUに関するほんの一部のことに過ぎません。
EUや離脱問題を正しく理解するためには、これから紹介する書籍を読むことをおすすめします。
これらの本を読むことで、EU・欧州に関するニュースをよく理解でき、これから起こりうることも予想できるようになるはずです。
オススメ度★★★庄司克宏『欧州ポピュリズム-EU分断は避けられるか-』(ちくま新書)
この本では、欧州統合の危機の原因となっている欧州におけるポピュリズムについて詳しく解説されています。とても分かりやすい上に、最新の事情まで書かれているのでぜひ読んでみてください。
(2024/10/14 13:54:14時点 Amazon調べ-詳細)
オススメ度★★遠藤乾『欧州複合危機-苦悶するEU、揺れる世界-』(中公新書)
この本は、EU研究で有名な研究者によって書かれた、近年の欧州を襲う複数の危機について分かりやすく説明された本です。欧州の危機について把握するには必読書です。
(2024/10/14 13:54:15時点 Amazon調べ-詳細)
オススメ度★遠藤乾『ヨーロッパ統合史[増補版]』(名古屋大学出版会)
この本はEUの統合の歴史について書かれたもので、これを読めばEUについて深く理解できます。上記2冊より深い内容を知りたい場合は、ぜひ読んでみてください。
一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
最初の1冊は無料でもらえますので、まずは1度試してみてください。
また、書籍を電子版で読むこともオススメします。
Amazonプライムは、1ヶ月無料で利用することができますので非常に有益です。学生なら6ヶ月無料です。
数百冊の書物に加えて、
- 「映画見放題」
- 「お急ぎ便の送料無料」
- 「書籍のポイント還元最大10%(学生の場合)」
などの特典もあります。学術的感性は読書や映画鑑賞などの幅広い経験から鍛えられますので、ぜひお試しください。
まとめ
最後に今回の内容をまとめます。
- EU離脱問題は、EUのエリート主義の歴史やその批判として生まれたポピュリズム、対外的な危機などが原因
- EUは経済的領域から政治的領域に統合を深めようとしている
- イギリスがEUから離脱すると、イギリス国内やEU全体に経済的な影響を与える可能性がある
このサイトでは、今後も国際情勢について解説していきますので、ぜひお気に入りに登録して繰り返し来てみてくださいね。