社会進化論(Social Darwinism)とは、人間の社会が進歩的に発展していくと考える思想で、社会の発展段階は宗教、生業形態、婚姻制度、経済制度などで決定されると考えられたものです。
社会進化論は植民地主義や人種主義に影響を与えていったため、現在では批判の対象となっています。
この記事では、
- 社会進化論の意味
- 社会進化論の提唱者としてのスペンサー
- 社会進化論の問題点とその批判
- 社会進化論はなぜ否定されるべきなのか?
といった点を解説します。
興味関心のある章から読んでみてください。
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1章 社会進化論とはなにか?
それではまず、社会進化論の意味と代表的な提唱者のスペンサーの議論を中心に解説します。社会進化論への批判を知りたい方は、2章から読み進んでください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
この記事では「文化進化論」や「社会ダーウィニズム」と呼ばれる思想を、より一般的な呼称である「社会進化論」としてまとめて呼んでいます。
1-1: 社会進化論の意味を解説
冒頭の確認となりますが、社会進化論とは、
- 人間の社会が進歩的に発展していくと考える思想
- 社会の発展段階は宗教、生業形態、婚姻制度、経済制度などで決定される
といった思想です。
ここでは、スチュアートヘンリの「文化(社会)進化論」『文化人類学20の理論』(弘文堂)に沿って、詳しい歴史をみていきましょう。
1-1-1: 社会進化論の歴史:大航海時代〜
西洋で、人類文化とその社会の「進化」が話題になるのは「大航海時代」からです。きっかけは、大航海時代に出会った新たな人びとや文化です。
地球の異なる地点で遭遇した人びとや文化は、以下のような共通点をもっていました。
- キリスト教徒ではないこと
- (西洋文化や社会と比べて)「異質の」文化と社会をもつこと
すると、大航海時代に出会った異質な人びとや文化を、どうヨーロッパの世界観に組み込むのか?が問題になります。そして、その答えは「生物は段階を経て変化するという生物学の理論を、人間社会と文化に当てはめていく」というものだったのです。
1-1-2: 18世紀の啓蒙思想家たちの社会進化論
初めて生物学の理論を人間社会と文化に当てはめるのは、18世紀の啓蒙思想家です。ここでは、彼らの社会進化論をみてましょう(→啓蒙主義に関してはこちらの記事)。
まず、シャルル・モテンスキューの『法と精神』(1748)です。
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モテンスキューは『法と精神』で、狩猟する社会(野蛮社会)⇒遊牧する社会(未開)⇒ヨーロッパ社会(文明)という人類の発展段階の図式を提示しました。
そして、かの有名な哲学者のヘーゲルや、実証的な社会学の父といわれるコントも人類社会は進歩していくと考えていました。しかし、この時点で実証的な社会進化論ではありません。あくまでも、社会進化論という思想です。
そして、人間社会や文化の進化を判断する基準は多くありました。具体的に、ここでは「生業形態」「宗教」「社会・経済形態」を基準にしたものを紹介します。先に要点をまとめると、次のようになります。
まず、モテンスキューに影響をうけたアダム・ファーガソンやアダム・スミスは人類の発達段階を生業形態で分類しました。具体的には、狩猟社会⇒遊牧社会⇒農耕社会⇒産業社会といった分類を想定していました。
そして、イギリス人類学の父といわれるエドワード・タイラーは、野蛮段階(アミニズム)⇒未開段階(多神教)⇒文明段階(一神教)と宗教を中心に人間の発展段階を分類します。
最後に、デンマーク人のスヴェン・ニルソンとドイツ人のグスタフ・クレムは、社会・経済段階で人間社会を分類しました。それぞれの分類は以下のとおりです。
- ニルソン・・・野蛮社会⇒遊牧社会⇒農耕社会
- クレム・・・野蛮段階(無秩序な狩猟社会)⇒秩序段階(法認識や文字)⇒自由段階(神官からの自由)
このように、上記した18世紀の思想家たちはさまざまな基準に照らし合わせて、人間社会や文化の発展段階を提示していきました。
1-1-3: 19世紀中盤に実証的な社会進化論が登場
さて、実証的な社会進化論が現れるのは、19世紀の中盤です。ルイス・モルガンの『古代社会』(1877)は現地調査や一次資料を使って書かれた本で、内容は人類発達段階を細かく分類したものでした。
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モルガンは世界的な規模の人類発達段階を野蛮時代・未開時代・文明時代に分類し、野蛮時代と未開時代を小・中・高段階に細分しています。たとえば、モルガンは婚姻形態の発展を、次のように説明しました。
野蛮低段階の乱婚制(同一世代の乱婚)⇒野蛮中段階の対遇者婚制(兄弟姉妹婚の禁止)⇒未開段階では一夫多妻制(集団婚から単婚への移行)⇒文明段階では夫婦が対等な単婚制
ご覧のように、現在では必ずしも賛成できる理論ではありません。なぜならば、一夫多妻制の文明社会はいくつも存在するからです。
この他にも、モルガンの図式は現在では不適当とされる点がいくつもあります。しかし、非主観的なデータと比較法は人類発展史と考える上で、一定の評価をうけています。
1-2: 社会進化論とスペンサー
数いる思想家のなかでも、スペンサーの社会進化論は20世紀の初頭まで強い影響力をもちました。ここでは、スペンサーの社会進化論を解説します。
スペンサーの社会進化論の特徴
- 幼児から大人へと成長するように、社会も野蛮から文明への直線的に進化すること
- 必ずそれらの段階を経ること
- その段階を飛ばすことはあり得ないこと
ご覧のように、生物的な進化に、社会と文化を関連づけたものでした。スペンサーの理論と、チャールズ・ダーウィンの理論の違いを確認しましょう。
ダーウィンは『種の起源』(1859)で、環境に生物が適応し変化することを指摘しました。しかしダーウィンは適応し変化することに、優劣をつけませんでした。
しかし、スペンサーは社会と文化が直線的な発展をしていくと疑いませんでした。そのため、スペンサーは『第一原理』(1862)のなかで、生物的な変化を「進化」という言葉で説明します。
- 「進化」という言葉自体は、価値判断の序列化をしません。しかし、「変化して進歩する」という意味は、ダーウィンの「変化」とは大きく異なります。
- たとえば、スペンサーは「弱肉強食」という言葉を使いました。これは「survival of the fittest」の訳語で、文化や社会が「変化して進化する」という意味が込められています。
ダーウィンの「変化」という解釈よりも、スペンサーの「進化」という解釈は広く社会に受け入れました。次はそれらの事例をみていきましょう。
1-3: 社会進化論が実社会にもたらした影響力
スペンサーの「進化」がダーウィンの「変化」と異なることを強調したのは、スペンサーの「進化」の方が広く社会に流布したからです。
社会進化論が実社会に与えた影響には、たとえば、以下のものがあります。
- 植民地や帝国主義の経済的競争は、自然の摂理に従っていると考えられたこと
- 寒冷気候で生きる白人は強者であり、温暖な気候で生きる黒人は生存競争を勝ち抜いていない弱者、という「エセ科学」に根拠を与えたこと
- 人種主義へ加担したこと
その他にも、社会進化論は影響を与えています。
たとえば、ノーベル文学賞を受賞したルドヤード・キップリングは帝国主義を支持し、白人の優越性を謳った『白人の重荷』(1899)を書きました。これは社会進化論を背景に書かれた本です。
今では「トンデモ理論」に聞こえるかもしれませんが、植民地主義や人種主義という歴史に社会進化論という思想は大きな影響を与えていったのです。
人種主義について詳しくは、次の記事を参照ください。→【保存版】人種主義とは?その意味から具体例までわかりやすく解説
- 社会進化論とは、人間の社会が進歩的に発展していくと考える思想である
- 植民地主義や人種主義という歴史に社会進化論という思想は大きな影響を与えていった
2章 社会進化論の問題点を解説
世界に影響を与えてきましたが、社会進化論は多くの問題点のため、現在では理論の前提から否定されています。ここでは、社会進化論にあびせられた批判を解説します。
2-1: 社会進化論に対する批判
さて、社会進化論に投げかけられた批判とはどのようなものだったのでしょうか?
結論からいえば、社会進化論には次のような批判が向けられました2スチュアートヘンリ「文化(社会)進化論」『文化人類学20の理論』(弘文堂)を参照。
- すべての社会が同じ歴史段階を経て直接的に発展することを断定することは間違いである
- 欧米社会を頂点とする自民族中心主義(ethnocentrism)である
- 社会展開の尺度が物質に偏っている
- 19世紀の社会進化論の前提は、その後の実証的研究でそもそも否定さている
社会進化論は、気持ちいいほど痛烈に批判されました。社会進化論は、学問的にエセ科学という断定をうけたのです。
社会進化論に対する批判のなかで、重要だったのは文化相対主義による批判です。その点を確認していきましょう。
2-2: 文化相対主義による批判
皆さんは「文化相対主義(Cultural Relativism)」をご存じですか?文化相対主義とは、「それぞれの社会がその成員の生活を導くために打ち立てた価値を認め、あらゆる慣習に内在する尊厳と、自身のものとは異なる伝統への寛容の必要性とを強調する哲学」3『文化人類学20の理論』(2006)を参照です。
文化相対主義は社会進化論を批判するものとして、強力なパワーをもっていました。文化相対主義は、それぞれの文化をひとつのまとまりとして考えます。文化の要素は、他の要素との関連において理解されるべきなのです。
つまり、社会進化論の間違っている点は、以下の点です。
- 西洋・非西洋社会からある習慣を、その社会での他の習慣との関係を無視して、その社会から抜き取って比較したこと
- こうした比較が可能になるために、比較される対象が同型同質であることを前提としていること
- その前提をどう保障するのか、についての回答はないこと
社会進化論には、文化を「その人びとの視点から」検討しようとする試みが全くありませんでした。
- 社会進化論は、学問的にエセ科学という断定をうけた
- 西洋・非西洋社会からある習慣を、その社会での他の習慣との関係を無視して、その社会から抜き取って比較したことがそもそも間違いである
3章 社会進化論から学べること
社会進化論は批判の嵐にさらされましたが、この歴史から学べることはあるはずです。後ろ向きに歴史を学ぶことで、前にある未来に進みましょう。
社会進化論に対する批判をまとめると、以下の点がが挙げられます。
- 人類進化史の再構成は不確実な資料に基づく憶測にすぎないこと
- すべての社会や文化が同じ「進化」の道を歩むことはおかしい
- 文化や社会はお互いに影響し合うことを無視していること
- 西洋中心主義であること
- さまざま要素で出来上がった文化を、一部だけ切り離し比較したこと
- 切り離し比較することを正当化する理由が一切ないこと
もしも社会進化論者に「現地の人びとの視点から」その社会や文化を理解しようと心構えがあれば、文化の一部だけを切り離し比較しようと考えることはなかったはずです。
異文化との出会いが頻繁に起きる現代に生きる私たちが学べることは、
- 異文化と出会ったとき、相手の文化を一部だけ切り離して判断しないこと
- 私たちの視点からみれば不自然で望ましくないことも、相手の視点から考えてみること
このような、相手を敬う倫理観を社会進化論の歴史から学べるのではないしょうか?
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4章 社会進化論に関する書籍リスト
最後に、社会進化論について学ぶ書籍を紹介します。ここで紹介する本に基づいて、この記事は書かれています。
綾部恒雄(編)『文化人類学20の理論』(弘文堂)
文化人類学のさまざまな理論を学べる最高の入門書です。この記事の多くは、この本を参照しています。
一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
最初の1冊は無料でもらえますので、まずは1度試してみてください。
また、書籍を電子版で読むこともオススメします。
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まとめ
最後に、この記事の要点をまとめます。
- 社会進化論とは、人間の社会が進歩的に(直線的に)発展していくと考える思想
- 社会進化論のさまざまな前提は、実証的・方法論的に否定されている
- 社会進化論の歴史から「現地の人びとの視点から」その社会や文化を理解しようと心構えを学ぼう
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