経済学

【セイの法則とは】基本知識から批判・ケインズの議論までわかりやすく解説

セイの法則とは

セイの法則(英; Say’s law, 仏; Loi des débouchés)とは、「国民所得は総供給の量によって決まる」とする古典派経済学におけるひとつの命題です。フランスの経済学者ジャン=バティスト・セイによって提唱されました。

セイの法則を理解することはケインズ経済学を理解することに繋がります。両者は経済学における基本的な議論ですから、経済学部の学生などに限らず経済を理解したい人は誰もが理解するべきです。

この記事では、

  • セイの法則の考え方
  • セイの法則の批判
  • セイの法則とケインズ経済学

などをそれぞれ解説していきます。

関心のある所から読んでみてください。

このサイトは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。

ぜひブックマーク&フォローしてこれからもご覧ください。→Twitterのフォローはこちら

Sponsored Link

1章:セイの法則とは

セイの法則は、1803年に発表された『経済概論』で言及された理論をもとに名付けられた経済学説です。

『経済概論』では「すべての国において、生産者の数が多くなればなるほど、そして生産が増えれば増えるほど、販路はより容易く、多様で広大なものになる。生産が活発なところでは、それ自体でモノが買えるモノが生まれる」1Jean-Baptiste Say『A Treatise on Political Economy』出典:https://www.econlib.org/library/Say/sayT.html?chapter_num=17#book-readerと述べられています。

つまり、需要量自体は供給量に依存しており、販路が広がり生産物の流通量が増えれば、国家の富は増加するとされています。

では一体、セイはなぜこのような結論を導いたのでしょうか?以下、詳しく解説をしていきます。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注2ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:セイの法則の考え方

セイの法則を理解するためには、まずセイの貨幣や経済に対する考え方を理解する必要があります。セイは『経済概論』において、貨幣の在り方について次のように述べています3Jean-Baptiste Say『A Treatise on Political Economy』出典:https://www.econlib.org/library/Say/sayT.html?chapter_num=17#book-reader

得たお金を貯めこんでしまったとしても、最終的な目的は何かを購入するためにそのお金を使うことだ。ため込んだお金を使わなければ、相続人や、なんらかの手段でそのお金を得た人が使ってしまう。なぜなら、お金それ自体にはそれ以外の使い道はないからである。

この文言からわかるように、セイはお金とはため込んでもどうしようもないものであり、「貨幣の保蔵」は極めて例外的な行為であること指摘しています。

つまり、人々が消費も投資もせずに貨幣を無益に手元に保蔵するのは不合理であり、獲得した貨幣は必ず消費のための支出に変わると考えました。これは貨幣を取り除いた交換経済でも同様のことが言えるとされています。

生産された商品と商品の交換であるから、市場メカニズムが十分に機能し、かつ人々がその市場価格を受け入れるのであれば、販売によって手に入れた商品(または貨幣)はいずれ他の商品の購入に支出されるとされています。

すなわち、セイは、

  • 生産された商品自体が新たな需要を生み出している
  • もし総需要が不足していたとしても、販路を拡大し、供給量を増やせば不均衡は解消される

と考えたといえます。

また生産者の販路拡大のためには、競争、自由貿易、および事業上の制約の引き下げが不可欠であるという自由主義的な主張はセイの特徴のひとつです。

セイの主張は、古典派経済学の中心的な学説となり、その後も数多くの経済学者に支持される理論となりました。



1-2:セイの法則を現実の経済から説明

上述のように、セイは生産物の総供給と総需要が常に一致し、仮に生産物の供給が増えたとしても、その分需要も増えることで過剰生産は起きないと主張しました。

この主張を仮想の経済を想定して、もう少しわかりやすく説明します。なお、話をわかりやすくするために、登場人物はすべてなんらかの家業を営んでおり、生産物の販売によって生計を立てているとします。そうような状況における、以下のケースを想定してください。

  • Aさんが自分で生産したある工業品を売りたいと考え、Xという農家町に出向き、工業品を販売することにした
  • しかしX町では、すべての商品を売り切ることはできずに売れ残りが出てしまった

このとき、セイの主張をもとに売れ残りの原因を分析すると、次の2つの原因と解決策が考えられます。

①X町だけでは総需要が足りなかったから、Aさんが他の町でも売ればいい

  • X町の総需要量では、Aさんの商品を売り切ることができなかったため、一時的に商品が売れ残ってしまった(部分的供給過多)と考えます。
  • そこでAさんは他の町にも出向いて、そこで商品を売れば生産した商品をすべて売り切ることができます。
  • 販路が十分に確保されていれば、慢性的に売れ残る(一般的供給過多)こともないので、Aさんはどんどん生産をして販売していくべきであると考えられます。

②X町の住民のお金が足りていないから、X町の住民はもっと農作物を生産してお金を稼ぐ必要がある

  • X町の住民はAさんの商品が欲しかったが、お金が足りなかったため購入に至らなかったと考えます。そこで、X町の住民はもっと生産活動を活発にし、各住民の供給量を増やすことで富を増やすことができます。
  • そうすれば、供給された生産物の売れ残りは解消されると考えられます。

①と②はあくまでJ.セイの主張をもとにした解決策です。①はAさん、②はX町の住民の視点ですが、供給を増やせば新たな需要が生まれるはずだから、どんどん生産を増やして富を増やすべきであるという考え方は共通しています。

もちろん、市場メカニズムが正常に機能していることが前提ですので、売れば売るほど儲かるといった単純な結果にはなりません。しかし、少なくても、商品やサービスの供給を増やしていくことができれば、経済全体が活性化し、国家の富も増加するとセイは考えました。

加えて、セイの主張のみならず古典派経済学に共通しているものに「失業は存在しない」というものがあります4ここでいう失業は「非自発的失業」のことであり、自己の意思により失業を選択している、あるいはより良い労働条件を求めて自分の意思で失業する「自発的失業」は例外であると考えられています。

  • もし、失業が発生してもそれは市場メカニズムの調整段階での過渡的なものであり、調整が終了すればすべての生産者は生産活動を再開するというのが前提となっている
  • ゆえに、生産しすぎて生産物が売れずに仕事がなくなるということもなければ、町に失業者が溢れかえることもない

上記の例は、セイの法則を簡単に説明するために極めてシンプルな条件を考えていますので、現実の経済ではほかにさまざまな条件が加わります。

しかし、供給を増やせば増やすほど国家の富は増えていくというのは本当に起こりうることなのでしょうか?この疑問は2章で答えていきます。

その前に、いったん、これまでの内容をまとめます。

1章のまとめ
  • セイの法則とは、「国民所得は総供給の量によって決まる」とする古典派経済学におけるひとつの命題である
  • セイは生産物の総供給と総需要が常に一致し、仮に生産物の供給が増えたとしても、その分需要も増えることで過剰生産は起きないと主張した
  • 商品やサービスの供給を増やしていくことができれば、経済全体が活性化し、国家の富も増加する
Sponsored Link

2章:セイの法則に対する批判

さて、2章では、セイの主張への批判的意見を紹介しながら、真逆とも言える学説を提唱したケインズの主張を紹介します。

2-1:セイの法則に対する批判

さて、説明したように、セイの主張をもとに生産を増やせば増やすほど国民所得は増加すると考えられました。しかし、この主張には次の2つの視点が欠けていました。

①「売り」によって取得された貨幣は貯蔵手段となるので、必ずしもすべてが消費や貯蓄に回されるわけではない

  • セイは、お金とはため込んでもどうしようもないものであり、「貨幣の保蔵」は極めて例外的な行為であること指摘しました。しかし、現実経済では貨幣の貯蔵、つまり貯蓄はごく自然の行為として人々の行動に定着しています。
  • もし、所有する貨幣における貯蓄に回る比率が高くなってしまえば、販売によって手に入れた貨幣はいずれ他の商品の購入に支出されるという前提は成り立たないことになり、セイの法則は機能しなくなります。

②現実には仕事をしたいのに仕事が見つからない失業者が存在している

  • 古典派経済学では「失業は存在しない」と想定されており、失業がないのだから、所得を増やすためには仕事をして、生産をどんどん増やしていけばいいという考え方が当然のように受け入れられていました。
  • しかし、資本主義社会が成立して以降も失業がなくなることはなく、いつの時代も失業者の存在が社会問題となり続けました。
  • この状態は、生産物を増やせば新たに需要が生まれるのだから、非自発的な失業は自ずと解消されるはずという古典派経済学の主張が成り立っていないことを意味しました。

この2つの問題が特に顕在化したのが、1930年代にアメリカを皮切りに世界に広がった世界恐慌です(世界恐慌については【ニューディール政策とは】を参照してください)。

世界恐慌の発生にはさまざまな原因があったとされていますが、原因のひとつにあったのは第一次世界大戦後の好景気のもと、資本や設備への積極的な投資がおこなわれた供給過剰であったと考えられています。その過程は、以下の通りです。

  • 好況時はアメリカに大きな富をもたらした大規模な投資だったが、好況後の景気後退期では、資本や設備の供給過剰は企業の財務状況を悪化させた
  • その結果、数多くの企業で解雇をともなうリストラが横行し、アメリカの街には数多くの失業者が溢れた
  • そして失業者の増加はそのまま購買力の低下を誘引し、企業はさらに生産量を低く抑えるという悪循環に見舞われた

つまり、世界恐慌時においてセイの主張は一切成り立つことがなく、それと同時に、世界恐慌自体が古典派経済学の限界を示す象徴的な出来事となってしまいました。



2-2:セイの法則と有効需要の原理

恐慌に苦しむ世界経済において、苦境を脱すべく古典派経済学に代わる新たな経済学説が求められました。そこで注目を浴びたのが、イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズが著書『雇用・利子および貨幣の一般理論』で示した新学説です。

そして、のちに彼の経済思想は「ケインズ経済学」と呼ばれ、世界中の国々が参考とする経済学説となりました。簡単にいえば、ケインズは以下のような思想をもっていました5中谷巌『マクロ経済学入門』日本経済新聞出版社 76頁

  • ケインズは、セイの法則に真っ向から対立するような「有効需要の原理」を主張した6「産出高は消費と投資とからなる」と唱えて、非自発的失業が無くならないのは「有効需要」が不足しているからであると強調した
  • 「有効需要の原理」とは、「国民所得(GDP)は経済全体の総需要(有効需要)によって決定される」という論説である
  • その需要を作り出すためには積極的な政府の関与が欠かせない

ケインズは、市場メカニズムについてもセイと真逆の発想を唱えました。古典派経済学では、市場メカニズムとは価格が先に動くことによって供給量もおのずと調整されるというのが基本的な考え方でした。

しかし、ケインズは短期的には価格調整のメカニズムは働かずにむしろ一定であると考えたほうが現実的な経済を説明できると主張しました。たしかに普段の私たちの生活においても、日々価格が変動する商品やサービスの方が非常に少ない事に気づくことでしょう。

そして、価格メカニズムが働かなければ、市場での供給過多は生産者の供給量の調整によってのみ解消されるしかありません。特に企業などの供給者は、売れ残りはリスクや負担にしかならないので、需要量に見合った数量しか商品やサービスを供給しません。

すなわち、

セイの法則のように「供給が新たな需要を生む」というのは限られた条件下でしか成り立つ事はなく、むしろ現実経済では「供給量は需要量によって決められる」という考え方のほうが自然である

とケインズは論じたのです。

「有効需要の原理」は、世界恐慌における慢性的な非自発的失業の原因を説明するにも適していました。上でも述べたように短期において価格メカニズムが働かないのであれば、企業は供給量を減らすしかありません。

そして、供給量を減らすためには、生産に従事している過剰な従業員は解雇する必要があります。つまり、失業とは需要が不足しているときに、供給量を調整するために企業が雇用を減らすことによって生じると言えます。

総需要を増やすためには、企業だけの努力では限界があります。そこでケインズは、政府が財政政策や減税などの手段で支出を増やすことで、需要を喚起する有効性を述べました。

ここで、ケインズはセイが掲げた政府による恣意的な市場介入を否定する自由主義とは対立するような主張を展開しました。

実際、世界恐慌において大きな効果を発揮したアメリカのニューディール政策は大規模な財政支出の最たる例であり、はからずもケインズの学説の有効性を証明する出来事となりました。

2章のまとめ
  • 世界恐慌自体が古典派経済学の限界を示す象徴的な出来事であった
  • イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズが著書『雇用・利子および貨幣の一般理論』で示した新学説を提示した
  • ケインズはセイが掲げた政府による恣意的な市場介入を否定する自由主義とは対立するような主張を展開した
Sponsored Link

3章:セイの法則に関連するおすすめ本

セイの法則について理解を深めることはできましたか?

セイの法則について掘り下げて知りたい場合、これから紹介する本を読んでみてください。

オススメ書籍

オススメ度★★★ 中谷巌『マクロ経済学入門』(日本経済新聞出版社)

マクロ経済学全般がわかりやすくまとめられた1冊です。セイの法則を理解するうえでの基本的な解説が数多く書かれており、初心者の方にもおすすめです。

created by Rinker
¥990
(2020/11/24 00:10:59時点 Amazon調べ-詳細)

オススメ度★★★ 日本経済新聞社『やさしい経済学』(日本経済新聞出版社)

実際の経済の動きを、経済学の視点からわかりやすく解説されています。日本を代表する経済学者がオムニバス形式で各テーマについて書いており、1冊で様々な論点を学べるのも特徴です。

created by Rinker
¥17
(2020/11/24 15:35:30時点 Amazon調べ-詳細)

学生・勉強好きにおすすめのサービス

一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。

最初の1冊は無料でもらえますので、まずは1度試してみてください。

Amazonオーディブル無料体験の活用法・おすすめ書籍一覧はこちら

また、書籍を電子版で読むこともオススメします。

Amazonプライムは、1ヶ月無料で利用することができますので非常に有益です。学生なら6ヶ月無料です。

Amazonスチューデント(学生向け)

Amazonプライム(一般向け) 

数百冊の書物に加えて、

  • 「映画見放題」
  • 「お急ぎ便の送料無料」
  • 「書籍のポイント還元最大10%(学生の場合)」

などの特典もあります。学術的感性は読書や映画鑑賞などの幅広い経験から鍛えられますので、ぜひお試しください。

まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • セイの法則とは、「国民所得は総供給の量によって決まる」とする古典派経済学におけるひとつの命題である
  • セイは生産物の総供給と総需要が常に一致し、仮に生産物の供給が増えたとしても、その分需要も増えることで過剰生産は起きないと主張した
  • イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズが著書『雇用・利子および貨幣の一般理論』で示した新学説を提示した

このサイトは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。

ぜひブックマーク&フォローしてこれからもご覧ください。→Twitterのフォローはこちら