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経済学

【不完全競争とは】原因から具体例までわかりやすく解説

不完全競争とは

不完全競争(Imperfect competition)とは、企業が価格に対して独占力を持つことで、市場メカニズムがうまく働かなくなる状態を指します。

1776年に発表された『国富論』において、古典派経済学者であるアダム・スミスが、市場には「神の見えざる手」が働いていることを指摘したことは有名です。

その原理は「市場メカニズム」と呼ばれ、市場を通じて、資源配分・技術選択・生産物配分の最適な(もっとも望ましい)状態が自動的に生み出されると考えられています1奥野正寛(1990)『ミクロ経済学入門』日本経済新聞出版社 20頁

しかし、なんらかの理由で、企業が価格に対する独占力を持ち、その影響力をもって市場に参加すると、市場メカニズムは適切に働かなくなり、市場全体によって望ましくない「不完全競争」状態が起こると言われています。

この記事では、

  • 市場のメカニズムとは
  • 不完全競争の原因
  • 不完全競争の具体例

をそれぞれ解説します。

関心のある所から読み進めてください。

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1章:不完全競争とは

1章では不完全競争を概説します。具体例から知りたい方は2章から読み進めてください。

具体的な説明の前に簡単に言えば、不完全競争とは市場において価格決定に大きな力を持つ独占企業(や寡占企業)が存在する場合に、適切な競争原理が働かず、効率的な資源分配が行われない状態を言います。

たとえば、日本の携帯・スマホ通信の市場は一部の限られた企業による寡占的な状態が続いたため、消費者が不利な立場になっている(高い価格を支払わざるを得ない)状態にあると言えます。したがって、総務省は適正な競争原理が働くようにテレコム競争政策を実施しているのが現状です2参考:総務省「テレコム競争政策」最終閲覧日2020年7月13日

このように、不完全競争は世の中にたくさんの実例が見られ、改革のために政府が介入することもあるのです。

そこでこれから、なぜ不完全競争という状態が生まれるのか経済学の基礎知識を用いて説明します。数式や表が分からなくても要点が分かればニュース等の理解に役立ちますので、参考にしてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注3ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:市場メカニズムとは

不完全競争を説明する前に、前提の知識となる完全競争における市場メカニズムについて確認します。

図1は、ある財の需要曲線(D)と供給曲線(S)、そしてふたつの曲線の均衡点(C)を示したものです。

市場メカニズムとは(図1「市場メカニズムとは」筆者作成)

この時、特定の売り手が価格に対して独占力を持たない完全競争市場である場合、買い手の需要が増加すれば、売り手は生産量を増やし、逆に買い手の需要が減少すれば、売り手は生産量を減らすためです。

これは、第三者が指示や命令をしなくても、売り手自身が自らの利潤を最大にしようと試みる結果、自律的なメカニズムが生まれ、価格と流通量が調整されるためです。これが経済学が前提とする市場メカニズムです。

たとえば、図1においてある財の需要が増加し、需要曲線がD1からDに移動したケースを考えます。

  • 売り手は、もとの生産量Q1のままでは需要の増加に対応できず、品薄による機会損失をしてしまうことから、生産量を増やしより多くの収入を得ようとする
  • このとき短期的に売り手のなかには、最大限の収入を得ようと価格を相対的に高く設定する者(Pa)もいれば、相対的に安く設定する者(Pb)もいるかもしれない
  • Paでは供給超過による売り残りが生じ、Pbでは需要超過による品薄が生まれてしまうことから、最終的には新しい均衡点C(価格P2生産量Q2)が生まれる

このように、価格という所与(特定の売り手の意思では決められない固定的な条件)に合わせて、売り手がおのずと生産量の調整をおこなうメカニズムが存在することで、効率的で無駄のない資源配分を実現することができます。



1-2:売り手のメカニズム

経済学において、売り手が第一に考えるのは「利潤の最大化」です。利潤とは、「売上-費用」で表され、売り手はこの利潤を最大にするための最善の行動を取るとされています。(*ここでの説明は、すべて完全競争条件下での前提としています)

完全競争の下、価格が所与であるならば、売り手が決める要素は生産量だけとなり、「価格×生産量」が売り手の得られる売上となります。この場合、生産量を増やせば増やすほど、売上は大きくなります。

しかし、生産した財やサービスが売れるかどうかは需要に依存するため、利潤を考える上では、決まった生産量に対して利潤を最大化するための費用を考えることが優先されます。

1-2-1: 費用とは

費用とは、労働投入量や生産機械といった生産に必要はコストのことです。

費用には、以下の2つが存在し、この2つの費用の組み合わせが特定の生産量における総費用となります。

  • 固定費用・・・生産量に依存せず常に一定の費用が発生する
  • 可変費用・・・生産量によって費用が変化する

つまり、設備のメンテナンス費用や減価償却費、正社員の人件費といったコストを「固定費用」と考える必要がありますし、生産のための追加的な人員(作業員)や必要な部品、材料、燃料などはその都度コストが発生する「可変費用」と考える必要があります。

そして、企業の生産における決定要因は、生産によって生まれる利潤が、生産量に関わらず発生する「固定費用」と生産量に応じて増加する「可変費用」を回収できるかどうかで判断されます。

特に、生産量に依存する可変費用は、生産量に対する増加関数となりますが、このときの変化には「規模の経済」という効果が働きます。

規模の経済とは、生産量の増大に伴い、原材料や労働力に必要なコストが減少する効果のこと。

図2は、生産量に応じた企業の限界収入と限界費用をあらわしたグラフです。

完全競争市場下での企業の限界収入と限界費用(図2「完全競争市場下での企業の限界収入と限界費用」筆者作成)

  • 限界収入・・・生産量が1単位増加(または減少)したときに発生する追加の収入
  • 限界費用・・・生産量が1単位増加(または減少)したときに発生する追加の費用

この時、限界収入は価格が一定であると仮定しているので、生産量が増えてもその増加分のみが追加の収入となります。

しかし、限界費用は規模の経済の効果により、特定の生産量までは減少しその後は増加します。このときの企業の行動は次の4つのわけることができます。

  1. 生産量Qが交点C1と一致するとき(Q= C1 ):利潤がゼロであるが、生産量の増加にあわせて利潤が生まれる見込みがあるため、生産を継続する
  2. 生産量QがC1とC2の間に存在するとき(C1<Q< C2):利潤がプラスであり、企業は積極的に生産をおこなうが、発生している利潤の獲得を狙って新規企業が参入してくる
  3. 生産量QがC1より少ない、あるいはC2より多いとき(Q< C1or C2<Q):利潤がマイナスであり、企業は生産をやめ、市場から撤退する
  4. 生産量Qが交点C2と一致するとき(Q= C2):利潤がゼロであるが、生産にかかる費用を回収することができているため生産は継続する。C2が図2における均衡点となる

図2より、企業は生産量QがC1以上、C1以下であれば生産をおこない、それ以外のケースでは生産をおこなわなくなることがわかります。

現実の経済では少し考えにくいですが、経済学上の企業は利潤がマイナスにならない限り、市場から退出することなく、むしろ利潤がゼロになるまで生産量の増加が続きます。そして、すべての企業の利潤がゼロになるまで生産量が増加すると仮定されています。

しかし、この仮定があるからこそ、需要と供給は自律的に調整され、均衡点が導かれることで市場全体は効率的に機能します。

ここまでの説明が、不完全競争について理解する上での前提になります。次項では独占や寡占といった不完全競争下での企業の行動を見ていきます。

上記の説明はミクロ経済学のテキストから学ぶことをおすすめします。



1-3: 不完全競争市場のメカニズム

完全競争市場では、市場に参加する売り手のシェアが均等であり、価格に対して独占力を持つ企業は存在しませんでした。しかし、不完全競争市場では、単独あるいは少数の売り手が市場シェアの多数を占め、価格に対して支配権を持つようになります。

不完全競争市場は、次の3つの種類に分けることが出来ます。

  • 独占・・・市場に売り手が1社しか存在せず、1社が市場に対して絶対的な価格支配権を行使できる状態
  • 寡占・・・市場に売り手が少数しか存在せず、数社が市場に対して価格支配権を行使できる状態
  • 独占的競争・・・市場に多数の売り手が存在しているが、製品差別化のために、各企業が価格支配権を行使できる状態

完全競争下では価格は所与であり、企業が価格に影響力を持つことはできないと仮定されていましたが、不完全競争下では企業は生産量に加え、価格にも決定権を持つようになり、市場メカニズムがうまく機能しなくなります。

簡単に言えば、特定の製品を1社(もしくは数社)の企業のみが提供している場合、企業はその製品の価格をある程度自由に決められるということです。なぜなら、競合他社が同じ製品をより安く販売してくる可能性が少ない(ない)ためです。

実際に、独占市場における企業の動きを、図3を参考に考えてみます。

限界費用は生産に関わるコストである限り、独占市場であっても変化はありません。しかし、限界収入は企業が価格を任意で決められるようになるため、グラフは図3のように変化します。

独占市場下における限界収入と限界費用(図3「独占市場下における限界収入と限界費用」筆者作成)

図2では価格は所与でしたが、独占市場では需要曲線に基づいて、売り手が任意に価格を決めます。

限界収入は追加的な供給がもたらす収入増と、供給が増えたため価格が低下することに伴う収入減に分割できます。
※限界収入の曲線の傾きは需要曲線の価格弾力性の逆数にマイナス1を掛けた値で求められます。

本来、需要と供給の均衡点は需要曲線と限界費用が交差する交点C1ですが、価格と生産量が売り手の任意で決まる独占市場では、企業は利潤が最大となる限界収入と限界費用の交点C2の生産量Q2になるように生産をおこないます。

企業としては、利潤を最大化できるQ2での生産は正しい判断ですが、需要者として、完全市場下に比べ価格が高くなり、流通量も少なくなっているため不利益を被っていると言えます。

よって、社会全体からみると、独占は完全競争よりも資源配分がうまくいっておらず、需要者そして市場全体に不都合が生じていることがわかります。

今回は、独占のケースを用いて説明をしましたが、寡占や独占的競争においても価格の決定権が売り手に存在する限り、同様の不都合が生まれます。これが、不完全競争が解消されるべきと論じられる一般的な根拠となっています。



1-4: 不完全競争の原因

不完全競争による不都合を解消するためには、そもそも、なぜ不完全競争が生まれるのかを明らかにする必要があります。不完全競争が生まれるのには、次の原因があると考えられています。

  1. 資源の独占
  2. 技術的優位性
  3. 政府の規制
  4. 規模の経済による自然独占
  5. サンクコストの存在

それぞれ解説していきます。

1-4-1: 資源の独占

生産に必要な資源の占有権を有していることで生まれる独占です。たとえば、ダイヤモンドのような貴重な鉱物資源は、少数の鉱山の所有者によって市場価格を任意に決められてしまい、独占が生まれます。

1-4-2: 技術的優位性

ほかの生産者が模倣できない技術を有することで生まれる独占です。たとえば、特許権を取得した技術で生み出された製品は、市場に同様の技術を持つ競合が存在しないため、製品の価格も生産量も、生産者の任意で決めることができます。

1-4-3: 政府の規制

政府の規制が存在する産業で生まれる独占です。たとえば、認可の必要な公共交通事業や、電気・ガスのような公共インフラ事業は単独または少数の供給者しか存在せず、事業者が価格を任意に決めることができます。

1-4-4: 規模の経済による自然独占

規模の経済が強く働く産業で生まれる独占です。たとえば、製鉄産業や石油産業は、他の産業に比べて規模の経済が強く働き、一定の規模を有する供給者のみが生存できるという特性を有しているため、自然発生的に独占が生まれます。

1-4-5: サンクコストの存在

サンクコスト(=すでに支出され、どのような意思決定をしても回収できない埋没費用)が多く存在する状況で生まれる独占です。

たとえば、ある製品を生産するにあたって高額で汎用性の低い機械を購入した企業は、その固定費用を回収するために、相場より低い価格で生産をおこなう可能性があります。すると、他社の企業は生産の追随ができず、独占が生まれます。

上記のように、不完全競争の原因には、②④⑤のように競争によって自然発生的に生まれる独占もあれば、①③のように競争以前の権利によって生まれる独占も存在します。

それぞれ、根本となる原因が異なることから、不完全競争を解消するためには別のアプローチが必要となります。

■自然発生的な独占に対するアプローチ

  • 競争環境が阻害される過度の独占を排除するような規制法の整備
  • 事業者に対する需要者の不利益にならないようなガイドラインの整備

■権利による独占に対するアプローチ

  • 政府や第三者組織による監督機能の強化
  • 政府や第三者組織による価格や生産量の決定に対する介入

それぞれ上記のようなアプローチが必要です。一方で、不完全競争を解消するための過度な市場介入自体が、自由な競争環境を阻害するという側面もあります。

ゆえに、規制をおこなう側にも、明確な基準やルールの制定が必要であり、恣意性のない公正な判断が求められると言えます。

1章のまとめ
  • 不完全競争とは、企業が価格に対して独占力を持つことで市場メカニズムがうまく働かなくなる状態を指す
  • 不完全競争の原因には「資源の独占」「技術的優位性」「政府の規制」「規模の経済による自然独占」「サンクコストの存在」がある
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2章:不完全競争市場の事例

さて、2章では、具体的にビール業界を例にあげて不完全競争の実態を確認していきます。

現実の日本経済に目を転じると、実は完全競争に近い市場は極めて少ないことがわかります。

個々の生産者の規模や市場シェアが比較的小さい第一次産業では、完全競争に近い条件はあります。しかし、農協や漁業団体といった大規模な業界団体の存在を考えると、完全競争であると断言はできません。

一方で、製造業が属する第二次産業や、サービスや小売が属する第三次産業では、数多くの業界で上位数社が大きな市場シェアを有していることがわかります。

中でも、ビール業界は典型的な寡占市場であり、課税数量ベースの99%以上が上位4社によって供給されています。

最近ではクラフトビールブームの流れもあり、上位4社以外のビールもスーパーや酒店で見かけるようになりましたが、トータルの販売数量では上位4社に追いつける企業は現れていません。

アサヒビールホールディングス2019株主向け公開資料を一部改変(図4「ビール業界の市場シェア」アサヒビールホールディングス2019株主向け公開資料を一部改変)

また、寡占市場において過度な競争は互いの不利になるため、価格競争よりも製品の差別化や宣伝などに力を入れ、各企業が独自色で差別化戦略を図る傾向があります。これによって、以下のような現象が起こります。

  • 寡占市場では参加する企業がもともと少数であり、価格における競争原理がそれほど発生しない
  • 価格においては業界トップのプライスリーダーが価格を決め、2位以下の企業が、それらに追従して価格を設定する動きが強く見られる
  • そのため、寡占市場は、市場シェアが多数の事業者によって分割された市場に比べると価格の動きは穏やかになる

そして、販売されているビールの代表的な3銘柄の近年の店頭平均価格の推移をみると、おおむね30円差以内という小さな範囲に店頭販売価格が集中していることがわかります4参考:「ビールの店頭平均価格」日本経済新聞社『「ビール価格」なぜ上昇?』

もちろん、上位4社も市場シェア拡大のために様々な営業努力をしており、不当に高い販売価格を維持しているとは言えません。

しかし、寡占状態がむやみに放置されれば、いずれは消費者や販売代理店の不利益にも繋がることから、ビール業界には独占禁止法に基づき公正取引委員会による厳しい監視がおこなわれています5(参考) 酒類の流通における不当廉売,差別対価等への対応について

近年では、若者のビール離れに加え、大手小売業者によるプライベートブランドのビールの登場や、地方のビールメーカーによる特色のあるクラフトビールの台頭など、消費者のビールに対する選択肢は以前より増えており、既存のビール業界を取り巻く環境は大きく変化しています。

このような市場の新陳代謝を促す環境をさらに整備できれば、寡占市場によって生まれる弊害を回避し、消費者の得る利益を大きくすることで、市場全体の効率性も向上させていくことができるでしょう。

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3章:不完全競争に関する本

不完全競争について理解できたでしょうか。さらに深く知りたい方は、以下のような本をご覧ください。

オススメ書籍

オススメ度★★★ 奥野正寛『ミクロ経済学入門』(日本経済新聞出版社)

今回説明した不完全競争が具体例とともにわかりやすく解説されています。今回の記事をしっかりと理解するための前提の知識も丁寧に解説されているので、おすすめです。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 不完全競争とは、企業が価格に対して独占力を持つことで、市場メカニズムがうまく働かなくなる状態を指す
  • 不完全競争の原因には「資源の独占」「技術的優位性」「政府の規制」「規模の経済による自然独占」「サンクコストの存在」がある
  • 不完全競争市場の事例として、ビール業界がある

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参考文献

伊藤元重(2004)『はじめての経済学[上]』日本経済新聞出版社