社会学

【ラベリング理論とは】犯罪の事例から逸脱理論までわかりやすく解説

ラベリング理論とは

「ラベリング理論(labeling theory)」とは、

ある規則を犯せば逸脱となるような規則こそが、逸脱という行為を生み出すという考え方です。

ラベリング理論の定義だけではわかりにくいかもしれませんが、安心してください。「逸脱行為とはなにか」を知れば、ラベリング理論についても理解できるはずです。

社会学では「社会病理学」や「社会問題論」といった分野が逸脱行為について研究をしてきました。その中から1960年代に登場したのが、ラベリング理論です。

ラベリング理論を学ぶことで、逸脱行為に意味づけられた社会文化的な価値観を知ることができます。つまり、社会一般を理解する上でもラベリング理論は大事なのです。

そこで、この記事では、

  • ラベリング理論と逸脱行為の関係
  • ラベリング理論の事例
  • ラベリング理論と逸脱論の系譜

をそれぞれ解説します。

社会学における逸脱行為の意味やラベリング理論を網羅できる内容となっていますので、あなたの興味のある箇所から読み進めてください。

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1章:ラベリング理論とはなにか?

冒頭で述べたように、ラベリング理論を理解する上で、「逸脱行為とはなにか」という疑問を避けて通ることはできません。

そのため、まず逸脱行為の意味から解説します。

1-1: ラベリング理論と逸脱行為

「逸脱(deviance)」とは、

社会規範から逸れた、望ましくない行為

を意味します。

広義にいえば、ある社会規範、ルール、秩序のあり方からずれたさまざまな行為・態度・状態を指します。この際、法律、道徳、礼儀作法といったものも社会規範やルールに含まれます。

具体的に、社会学では次のような行為を逸脱として研究してきました。

逸脱行為の具体例

  • 犯罪
  • 非行
  • 狂気
  • 自殺
  • 薬物依存
  • アルコール依存
  • 不登校
  • 幼児虐待
  • 中絶
  • 性的逸脱

これらの逸脱行為は社会的な「病理」や「問題」と考えられ、「社会病理学」や「社会問題論」の研究対象となってきました。

「社会病理学」や「社会問題論」では望ましくない行為を①なぜ人はするのか?(原因)、②どのようにその行為を受け取るべきか?(是非)、③どう対処すべきなのか?(対策)といった点が議論されてきました。

(*逸脱行為に関する議論は2章で詳しく解説します)

1-1-1: 逸脱行為の区別:望ましい行為と望ましくない行為

しかしよく考えてみると、「望ましい行為/望ましくない行為」の区別はそれほど自明ではありません。ある社会における逸脱行為は、異なる社会や異なる時代で正常な行為であることがあるからです。

たとえば、コペルニクスの唱えた地動説は当時宗教的な犯罪と考えられましたが、現在では正しい意見と認められています。中世から近代におけるヨーロッパで同性愛は犯罪でしたが、現在では社会的に認められています。

つまり、なにを逸脱行為とするか?は自明な出発点ではなく、議論に値する問題なのです。

また、社会・文化・歴史が違えば、逸脱行為とされるものは変化します。そういった意味で、逸脱行為は社会を理解する鍵であるのです。



1-2: ラベリング理論と犯罪の事例

さて、このように逸脱行為を対象とする研究はこれまでも存在しましたが、ラベリング理論は画期的なものでした。

ラベリング理論の代表的な論者はハワード・ベッカー(Howard Becker 1928-)です。彼は次のように、逸脱行為を説明しました。少し長いですが、ベッカーの言葉を引用します。

社会集団は、これを犯せば逸脱となるような規則をもうけ、それを特定の人びとに適用し、彼らにアウトサイダーのレッテルを貼ることによって、逸脱を生み出すのである。この観点からすれば、逸脱とは人間の行為の性質ではなくして、むしろ、他者によって規則と制裁とが「違反者」に適用された結果なのである。(『アウトサイダーズ−ラベリング理論とはなにか−』(1978))

これまでの内容を踏まえて、ラベリング理論のなにが画期的なアイデアだったのかわかりましたか?

これまでの議論とラベリング理論を比較すると、

  • これまでの議論・・・逸脱行為がまず存在して、それを人びとが逸脱として認識する
  • ラベリング理論・・・人びとがある行為を逸脱と認識するから、逸脱になる。「逸脱者」というレッテル貼りが「逸脱者」を生み出す

といった違いがあります。

つまり、ベッカーは個人の内的な性質(動機、性格、精神病理)によって逸脱行為を説明してきたこれまでの社会学の常識を、逸脱を貼り付ける社会制度とラベリングされる側との相互作用として説明したのです。

1-2-1: 犯罪という逸脱行為

これまで議論とラベリング理論を、犯罪の事例で考えてみましょう。

ラベリング理論の発想からいくと、法律こそが犯罪という逸脱を作り出すといえます。それは法律に準拠しながら、私たちは逸脱行為を認識するからです。

つまり、逸脱行為があるから法律が取り締まるのではなく、法律によって逸脱行為が作り出されているということです。

ベッカーの『アウトサイダーズ』(1978)はラベリング理論を理解する上で最も重要な書籍です。ぜひ読んでみてください。

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1-3: ラベリング理論と社会問題の構築主義

ここでは、ラベリング理論がどのように社会学内部で展開されたのか触れましょう。

1960年代に登場したラベリング理論は、1980年代までに「社会問題の構築主義」という議論に発展します。

社会問題の構築主義とは、

社会問題はその社会のメンバーによって構築されたと考えること

です。

当然ですが、社会は単なるモノや人の集まりではなく、人びとが世界に意味づけあいながら構築されるものです。言い換えると、人びとの意味づけに先行した社会的な現実は存在しません。

だからこそ、「なにがそもそも逸脱とされる行為なのか」「どのような原因によってその行為が説明されるのか」「どうような対処がされるのか」「誰に専門性や権限があるのか」といった問題は自明の事柄ではなく、社会的に作られた現実なのです。

極端なことをいうと、女性の参政権が存在しない社会において、当事者の女性が異議申し立てをしなければ、そこに社会問題は存在しないということです。

このようなラベリング理論の発想を精緻化させた理論は「社会構築主義」といわれるようになりました。キセツとスペクターの『社会問題の構築主義』(1977)は代表的でありながら先駆的な議論として有名です。

これまでの内容をまとめます。

1章のまとめ
  • ラベリング理論とはある規則を犯せば逸脱となるような規則こそが、逸脱という行為を生み出すという考え方
  • 逸脱行為は相対的なものであり、普遍的な定義は不可能
  • ラベリング理論の先駆者であるベッカーは個人の内的な性質(動機、性格、精神病理)によって逸脱行為を説明してきたこれまでの社会学の常識を、逸脱を貼り付ける社会制度とラベリングされる側との相互作用として説明した

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2章:ラベリング理論と逸脱理論の系譜

ラベリング理論が画期的アイデアであったことは理解できましたか?どのように画期的であったかを理解するには、ラベリング理論登場以前の理論を知ることが一番の近道です。

そのため、2章ではラベリング理論以前の逸脱行為に関する研究を解説します。

2-1: 古典的な逸脱理論

古典的な逸脱論は「社会病理としての逸脱」から「価値中立的な逸脱」の移行として理解するとわかりやすいです。

2-1-1: 社会病理としての逸脱

まず、社会病理の概念を理解するためには、初期の社会学が「社会」をどう捉えたのかを知る必要があります。

結論をいうと、初期の社会学は「社会」を生物体の身体としてモデル化していました。コントやスペンサーが提唱したこのモデルは「社会有機体」といわれます。

社会有機体モデルにおいて、

犯罪、自殺、貧困という望ましくない行為は身体をむしばむ病気

として語られていました。

2-1-2: 価値中立的な逸脱

しかし20世紀に入るころには、社会有機体モデルが否定され、社会とは独自の性質と仕組みをもつシステムという発想に移り変わります。

たとえば、シカゴ学派はさまざまな逸脱行為・態度を産業化や都市化といった社会変動に関連させて概念化しました。その結果、「望ましくない行為」という概念は十分に科学的でないことが証明されていきます。

「望ましくない行為」が科学的でないとは、次の意味をもちます。

  • 人類に普遍的な「望ましくない行為」など存在しないため、科学的な説明には限界があるということ
  • たとえば、キリスト教の倫理観に従えば自殺は罪だが、日本で切腹は義務であったり賞賛される行為となる

その結果、「望ましくない行為」は自明な事柄ではないため、無自覚に「望ましい行為」を研究対象に投影するのはよくないという自覚が社会学者のなかで生ました。

そして、ある人びとに共有される規準から逸脱行為をみなすという「価値中立的な逸脱行為」の概念が誕生したのでした。

2-2: 逸脱論の諸理論

ここではラベリング理論登場以前の理論を「統制理論」「構造的緊張理論」「逸脱下位文化理論」「合理的選択理論」から紹介します。

それぞれの理論が答えようとする問いとは、

  • 規範から逸脱した行為をすると、社会的な罰をうけることが予想できるのに、なぜ人は逸脱行為をするのか?
  • 逸脱行為の原因とはなにか?

というものです。

2-2-1: 統制理論

統制理論は、

  • デュルケームの『自殺論』の流れを引く立場
  • 人びとが逸脱行為をするのは、他者や社会とのつながりが弱いからと考える

統制理論の考えは「社会のなかには規範に関する合意があるのだから、それをあえて踏み外すのは、社会的な紐帯が弱まっているからだ」というものです。

たとえば、非行研究をおこなったトラバス・ハーシ(Travis Hirschi)は、人びとのつながりを愛着、投資、まきこみ、規範観念に分類し、青少年と社会のつながりを検証しました。

ハーシの非行研究に興味のある方は『非行の原因』を参照ください。

2-2-2: 構造的緊張理論

構造的緊張理論とは、

人びとは強い社会的な圧力をうけて、たまらず逸脱行為をおこすと考える立場

有名な研究はロバート・マートン(Robert Merton)の『社会理論と社会構造』です。

マートンはアメリカ社会で共有された「成功」という文化価値がもたらす社会的圧力を巧みに書き出しています。「成功」は過剰に強調されますが、「成功」に達する手段は社会のメンバーに均等に配分されていません。それが社会的圧力の原因になります。

興味のある方は、マートンの詳しい議論を参照ください。

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2-2-3: 逸脱下位文化理論

逸脱下位文化理論とは、

  • (逸脱した)サブカルチャーを意味する
  • 主流文化からみると逸脱した行為や態度にみえるものは、サブカルチャーを実践する人びとの視点からみれば「常識」であると主張
  • 問題は社会的紐帯でも圧力でもなく、サブカルチャーに接触することで逸脱行為を学習することと考える

サザーランドとクレッシーは『犯罪の原因』において、窃盗のプロ集団から聞き取り調査をおこない、逸脱行為をおこう集団に関する研究をおこないました。

サブカルチャーという逸脱行為を学習することは、個人の偶発的な行為なのか、階級や民族と結びついた行為なのかで議論は二分されています。前者はサザーランドとクレッシーで、後者はカルチュラル・スタディーズです。

両者の立場は次の文献から学ぶことができます。ぜひ参照ください。

2-2-4: 合理的選択理論

合理的選択理論とは、

逸脱行為のコストと利益を天秤にかけて、利益がコストを上回れば逸脱行為をすると考える立場

この理論の前提となるのは、ベンサムの功利主義です。功利的な前提をもとに、逸脱行為に「見合う」罪が軽いと人びとは犯罪をおこなうと考えられました。

1970年代に盛んに議論された犯罪抑止効果を実証的に研究しようとする研究は、合理的選択理論の一部です。

合理的選択理論を理解するためには、まずベンサムの功利主義を理解しましょう。次の記事で詳しく解説しています。

ベンサムの功利主義とは
【ベンサムの功利主義とは】最大幸福からパノプティコンまでわかりやすく解説ジェレミー・ベンサム(Jeremy Bentham)の功利主義(utilitarianism)とは、 人間は快楽と苦痛を計算し...
2章のまとめ
  • 古典的な逸脱論では「社会病理としての逸脱」から「価値中立的な逸脱」の移行がおきた
  • ラベリング理論登場以前の理論は大きく「統制理論」「構造的緊張理論」「逸脱下位文化理論」「合理的選択理論」に分類される

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3章:ラベリング理論を学ぶための書籍

いかがですか?ラベリング理論とそれ登場以前の理論を理解することはできましたか?

大事なのは逸脱理論の系譜を理解し、ラベリング理論がいかに画期的なアイデアであったかを理解することです。

これから紹介する書籍を参考にラベリング理論に関する理解を深めていってください。

おすすめ書籍

オススメ度★★★ 碓井タカシ、 大野 道邦、 丸山 哲央、 橋本 和幸(編) 『社会学の理論』(有斐閣) 

社会学の基礎知識がないと少し読みにくいと思いますが、逸脱理論からラベリング理論までの展開をうまくまとめています。この記事でも参照しましたし、さらに詳細な議論を知りたい方にオススメ。

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オススメ度★★ 酒井 千絵, 永井 良和, 間淵 領吾(編)『基礎社会学』(世界思想社) 

社会学の広大な研究領域をうまくカバーしています。初学者にオススメな本で、身近な事例からわかりやすくラベリング理論を説明しています。

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まとめ

最後に今回の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • ラベリング理論とはある規則を犯せば逸脱となるような規則こそが、逸脱という行為を生み出すという考え方
  • 逸脱行為は相対的なものであり、普遍的な定義は不可能
  • ラベリング理論登場以前の理論は大きく「統制理論」「構造的緊張理論」「逸脱下位文化理論」「合理的選択理論」に分類される

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