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経済思想

【重農主義とは】重商主義との違いや自由貿易の思想をわかりやすく解説

重農主義とは

重農主義(physiocracy)とは、

国家が貿易を管理して貴金属を蓄積することを主張した重商主義に対して、本当に新しい価値を生み出すのは農業のみである。そのため国家は農業を重視すべき、国家は貿易に介入せず自由放任であるべきと主張した経済思想です。

重農主義は、経済学が成立しようとしてまさにその原点にある思想であり、経済学の父であるアダム・スミスにも強い影響をもたらしました。

そのため、経済思想や経済学を学ぶ上で必ず押さえておかなければならない思想です。

この記事では、

  • 重農主義の思想の特徴や生まれた背景
  • 重農主義の代表者であるケネーの主張
  • 重農主義への批判

などについて詳しく説明します。

関心のあるところから読んで、これからの学びに活用してください。

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1章:重農主義とは

まずは定義から確認しましょう。

重農主義とは、

  • 工業は原材料を組み合わせるだけだから価値を生まないが、農業は自然の恵みによって新しい価値を生む
  • しかし、国家は重商主義的政策によって、貿易振興や農業に打撃があるような政策を行っている
  • そのため、国家の経済のためには貿易を中心とした国家の介入をやめて、農業の振興のために自由な政策を行うべき

と考える思想なのです。

英語のフィジオクラシーとは、自然による支配を意味する言葉です。重農主義の背景に「理神論」と言われる思想があったため、このように呼ばれました。

また、アダム・スミスは重商主義を「商業の体系(commercial or mercantile system)」と呼んだのに対し、重商主義を「農業的体系(agricultural system)」と呼んでいます。

重農主義の代表的な論者は、経済思想家のウィリアム・ペティ(Sir William Petty)、『経済表』を書いたフランソワ・ケネー(François Quesnay)や、テュルゴー(Anne-Robert-Jacques Turgot)などです。

重農主義は「重商主義への批判」として生まれた思想ですので、その背景や重商主義との立場の違いから学びましょう。

1-1:重農主義は重商主義批判の思想

重農主義が批判した「重商主義」とは、16~18世紀にイギリスで支配的であった経済思想です。

重商主義の特徴は、

  • 貿易を通じた貴金属の蓄積が経済の繁栄であり、国家の繁栄である
  • そのために輸出を増やし輸入を抑えることが大事である

というものです。

近代国家が形成されていく中で、他国に対して軍事力を強化する必要があり、その中で国家の財政を潤すために貿易を通じた貴金属の蓄積が目指されたのです。

これに対して、重農主義の論者は、

  • 重商主義的政策は国内の農業に打撃を与え、結果的に国家の経済に負の影響を与えている
  • 農業は新しい価値を生み出す唯一の産業であるため、工業よりも農業を振興すべき

と主張したわけです。

※重商主義について詳しくは以下の記事で解説しています。

【重商主義とは】重農主義との違いやヒュームからの批判を詳しく解説

1-2:重農主義の特徴

重商主義と重農主義の違い・特徴をまとめると以下のようになります。

重商主義 重農主義
富の定義 貴金属 労働によって生み出される価値
具体的な政策 保護主義的な貿易政策による貿易黒字の増大 農業の保護、振興
国家の役割 経済活動に積極的に介入すべき 国家は経済活動に対し、自由放任的であるべき

当時は、重商主義のように国家が積極的に経済活動に介入するべき、という思想が支配的だったのですが、それに対して重農主義は、自由放任的な思想を持っていました。

そのため、重農主義は後の経済学の原点になったとも言えます。

では、具体的に重農主義はどのような思想を持っていたのか、ケネーの『経済表』などを通して説明します。

まずはここまでをまとめます。

1章のまとめ
  • 重農主義は、国家により保護貿易的な政策が農業を疲弊させることを批判し、農業の振興を主張した経済思想
  • 重農主義は、労働によって生み出される価値が富である、経済活動は国家に対して自由であるべきなど、後の経済学に大きな影響を及ぼす思想を持っていた
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2章:重農主義者たちの主張・運動

 重商主義を批判し、農業の重要性や自由主義的な政策を訴えた重農主義者には、ケネーやテュルゴー、ミラボーなどがいます。

彼らの思想は、経済学の原点となった思想です。まずはケネーの思想を『経済表』を通して学びましょう。

2-1:ケネーの『経済表』の主張

ケネー(François Quesnay)は、アダム・スミス以前の経済思想家であり、代表的な重農主義の論者です。

フランソワ・ケネー

ケネーの経済学における功績は、『経済表』で富が再生産される仕組みをモデル化したことです。

ケネーはあたかも血液が流れるように、貨幣の流れを図式化しましたが、これはウィリアム・ハーヴェイ(William Harvey)の血液循環図を参考にしたと言われていまます。

『経済表』で示されたモデルは現代から考えれば素朴なものでしたが、重商主義を批判し経済学の源流を作り出した点に大きな意義があります。

ケネーの思想は、重商主義批判とし登場しました。

2-1-1:フランス・コルベリズムへの失敗への批判

重農主義はフランスで生まれた思想でしたが、フランスでは政治家のコルベールによる政策(コルベリズム)が国内農業に大きなダメージを与えたため、その批判として重農主義が登場しました。

コルベール(Jean-Baptiste Colbert)は、フランス東インド会社の設立などの経済政策を行った、当時のフランスにおける財務大臣のようなポジションの政治家です。

重商主義者のコルベールコルベール

コルベールは貿易に関して重商主義的な思想を持っており、以下のような政策を実践しました。

  • 輸出する奢侈品(ぜいたく品)の保護
  • 農業の価格を抑えるために輸出禁止、国内での移動も規制
  • 輸出品の価格を抑えるために、国内の賃金を引き下げ
  • 低賃金で労働できるように、労働者が消費する穀物価格を抑える

こうした政策の結果、フランスの王室や一部の輸出業者は潤いました。しかし、フランスの国内の農業は大きなダメージを受け、それが結果的に経済にダメージを与えました。

こうした失策を批判して重農主義を主張したのがケネーです。

2-1-2:重商主義批判

コルベールの重商主義的政策は、保護貿易による貴金属の増大により、国内の工業を振興させようとしたものでした。

それに対してケネーは、工業は新しい価値を生まない。農業こそ新しい価値を生む産業なのだ。という主張をしました。

もう少し詳しく整理すると、『経済表』の重農主義の思想は以下のような内容です。

  • 社会の階級は「生産階級(農業労働者+農業資本家)」「不生産階級(工業従事者)」「地主」の3つである。
  • 工業は原材料を組み合わせているだけであるため、投入した原材料を超える新たな価値を生まない。農業は自然の恵みによって、唯一投入した価値を上回る新たな価値を生む産業である。
  • また、富とは貴金属の量のことではなく、労働によって年々生み出される価値である。

このように重商主義に対して農業の重要性を主張したのです。

■『経済表』では富について異なる定義がなされた

ケネーの『経済表』の意義は、重農主義的主張や富の再生産の図式化などがありますが、それだけではありません。

後にアダム・スミスが特に評価したのは、富とは貴金属のことではなく、年々作り出されていく生産物の量であるというケネーの主張です。

貴金属の量(ストック)ではなく、毎年生み出される生産物(フロー)によって富を測るべき、ということです。これは、経済学の思想の原点でもあります。

2-2:テュルゴー、ミラボーの重農主義的実践

重農主義の支持者として代表的なのはケネーですが、他にも重農主義の支持者として重要な人物がいます。

それが、テュルゴーとミラボーです。

2-2-1:テュルゴーの実践的運動

テュルゴー(Anne-Robert-Jacques Turgot)はフランスの政治家、経済思想家、啓蒙主義者でもあり、ケネーとも親交があった人物です。

テュルゴーテュルゴー

経済に関する多数の著作を発表しており、さらに政治家として財務大臣のようなポジションの時に、

  • 穀物取引の自由化
  • ギルド廃止

などの自由主義的な政策を行いました。

重農主義的思想を現実の政治の場で実践したのです。

このような自由主義的実践は、その後のフランス革命における自由放任の思想にも影響を与えていたと思われます。

2-2-2:ミラボーの実践

ミラボー(Victor Riquetti de Mirabeau)は、フランスの経済思想家です。

ミラボーは、重商主義を批判した貨幣数量説的な思想である、カンティヨン(Richard Cantillon)の『商業試論』から影響を受けて重農主義的思想を形成し、『人間の友あるいは人口論』という書籍を発表しました。

また、この書籍発表後にケネーとの親交が生まれ、ケネーの『経済表』を広く世に広める役割を果たしました。

ミラボーは、重農主義およびケネーの支持者として、思想を広く世に伝えたのです。

では、なぜ当時、ケネー、テュルゴー、ミラボーのような重農主義的な思想家が多く誕生したのでしょうか?

その背景にあった思想について、3章で説明します。

ここまでをいったんまとめます。

2章のまとめ
  • ケネーはコルベールの重商主義的政策を批判し、重農主義を『経済表』を通じて主張
  • テュルゴーは、政治家として重農主義・自由主義的政策を実践した
  • ミラボーはカンティヨンの影響を受けて重農主義的理論を形成し、ケネーの『経済表』を世に広めた
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3章:重農主義の背景にあった理神論

重農主義の背景にあったのは、啓蒙思想から生まれた「理神論」という思想です。

理神論というのは、

  • 世界には合理的な秩序(自然の秩序/order naturel)がある
  • 合理的な秩序は、神の力によって成立している

と考える思想です。

つまり、世界のあらゆる現象は人間の理性によって解き明かすことができるのだ、という思想です。

こうした思想があったために、「市場は『神の見えざる手』によって均衡する」というアダム・スミスのような思想も生まれたのです。

理神論の影響を受けていた重農主義者たちは、

  • 自然の秩序は神が定めた絶対のものである
  • そのため、その秩序の運行を国家の介入などで妨げてはならない
  • 自然の秩序による合理的な作用を邪魔しない、「自由放任」の姿勢が重要である

と考えたのです。

こうして、経済学はその端緒において自由放任の思想を前提とすることになり、この重農主義者たちの思想をより発展させる形で登場したのが、経済学の父アダム・スミスなのです。

4章:重農主義に関するおすすめ書籍

重農主義について理解することはできましたか?

重農主義は経済学の原点です。それほど深く理解する必要はありませんが、経済学、特に経済思想を学ぶ上でその前後の思想と合わせて理解しておくことが大事です。

経済思想の入門書としておすすめの本を紹介します。

オススメ書籍

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まとめ

最後に今回の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 重農主義とは、重商主義を批判し国家の経済への自由放任の姿勢や、農業を振興する重要さを説いた
  • ケネーは『経済表』で、富の循環と再分配を図式化し農業こそ新しい価値を生み出す産業であることを主張した
  • テュルゴーは、政治家として重農主義・自由主義的な政策を実践した
  • ミラボーは、ケネーの『経済表』を世に広める役割を担った

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