ドラッカーのイノベーションとは、「より優れ、より経済的な財やサービスを創造すること」1P.F.ドラッカー著、上田惇夫訳(2006)『現代の経営 上』ダイヤモンド社 50頁を指します。
経済学者ヨーゼフ=シュンペーターによって提唱されたイノベーションという概念は、彼が唱える経済理論を説明するために生み出されました。
しかし、その後、1954年に出版されたアメリカの経済学者ピーター・F・ドラッカーの『現代の経営』によって、イノベーションという発想が経営学に持ち込まれたと言われています。
この記事では、
- ドラッカーの特徴や7つの機会
- ドラッカーの戦略
について解説します。
好きな箇所から読み進めてください。
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1章:ドラッカーのイノベーションとは
まず、1章ではドラッカーのイノベーションを概説します。2章以降ではドラッカーのイノベーションを深掘りしますので、用途に沿って読み進めてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注2ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1:ピーター・ドラッカーの伝記的情報
まずは、簡単にピーター・F・ドラッカーという人物の伝記的情報を紹介します。
ピーター・ファーディナンド・ドラッカー(Peter Ferdinand Drucker 1909 – 2005)
- 1909年にオーストリアのウィーンで生まれた
- ドイツの新聞記者として活躍し、1931年にドイツのフランクフルト大学を卒業する
- ドイツではナチ党が台頭しはじめると、ユダヤ人という生い立ちに身の危険を感じるようになり、イギリスへの移住を決断する
- その後、イギリスで銀行に勤務する傍ら、経済学を学ぶ
- 1939年には活動の拠点をアメリカに移し、後にベニントン大学の教授となる
- アメリカで経営コンサルタントをして活躍する傍ら、独自の見識に基づく「マネジメント論」を構築する
このような研究活動のなかで、ドラッカーは「分権化」や「目標管理」をはじめとするさまざまなマネジメント手法を提唱しました。
彼はマネジメントという概念自体を体系化した、云わば「マネジメントの父」であり、20世紀を代表する経済思想家です。
※ちなみに、ドラッカーはシュンペーターの影響を大きく受けているため、「シュンペーターのイノベーション」の記事をぜひ参照してください。→【シュンペーターのイノベーションとは】5分類・新結合をわかりやすく解説
今回解説するイノベーションについても、ドラッカーは経営学的視点からさまざまな提言をおこなっており、各著書はいまでも世界中の経営者によって愛読されています。
1-2:ドラッカーの考えるイノベーションとは
ドラッカーは、『現代の経営』(1954)にて「企業とは、成長、拡大、変化のための機関である」3P.F.ドラッカー著、上田惇夫訳(2006)『現代の経営 上』ダイヤモンド社 50頁と述べています。そして、その成長や拡大を実現するための機能がイノベーションであると主張しました。
具体的に、ドラッカーは次のようにイノベーションを捉えていました。
- 国家の経済成長、ひいてはそれを支える企業の発展のためには、イノベーションと企業家精神が重要である
- イノベーションとは企業家に特有の道具であり、イノベーションは富を創造する能力を資源に与え、時にはイノベーション自体が資源を創造する
しかし、イノベーションを生み出す企業家の捉え方については、シュンペーターとドラッカーでは少し異なる主張をしています。
- シュンペーター・・・企業家とは極めて属人的な要素から成り立っており、卓越した能力と野心的な動機をもって事業に取り組む者と考えた
- ドラッカー・・・イノベーションとは体系化できる方法論のひとつであり、企業家とはこの方法論を用いて、「変化を探し、変化に対応し、変化を機会として利用する」者であると定義した
ここで注意したいのは、ドラッカーはシュンペーターの考えを全面的に否定しているわけではないことです。
シュンペーターは経済における企業家の登場を偶発的なものと捉えたのに対して、ドラッカーはイノベーションの体系を理解し、適切な方法論を用いることができれば、天性の才能を持つ者でなくても企業家になれると論じていることです。
ドラッカーは、『イノベーションと起業家精神』の前書きにおいて、次のように述べています4P.F.ドラッカー著、上田惇夫訳(2007)『イノベーションと起業家精神』ダイヤモンド社 ⅲ頁。
イノベーションと起業家世親は才能やひらめきなどの神秘的なものとして議論されることが多いが、本書はそれらを体系化することができ、しかも体系化すべき課題すなわち体系的な仕事としてとらえた
この意見こそがドラッカーのイノベーションに対する基本的なスタンスでした。
ちなみに、ドラッカーの『イノベーションと起業家精神』は、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「イノベーションと企業家精神」を読んだら』でまとめています。初学者にはおすすめです。
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- ドラッカーのイノベーションとは、「より優れ、より経済的な財やサービスを創造すること」5P.F.ドラッカー著、上田惇夫訳(2006)『現代の経営 上』ダイヤモンド社 50頁を指す
- ドラッカーは企業の成長や拡大を実現するための機能がイノベーションであると指摘した
2章:イノベーションの7つの機会
さて、2章ではイノベーションの種を探し出すための、7つのイノベーションの機会を解説します。
2-1:予期せぬ成功と失敗を利用する
企業にとって予期せぬ成功と失敗は、価値ある分析対象です。そこには、イノベーションを生み出す絶好の機会が潜んでいます。
企業にもたらされた成功や失敗は必ずしもあらかじめ計画、予測されたものではありません。そして、企業にとっての予期せぬ事態は計画されたものでないが故に、その発生理由や原因は無視されがちです。
ドラッカーは、予期せぬ事態の捉え方について次のように指導しています6P.F.ドラッカー著、上田惇夫訳(2007)『イノベーションと起業家精神』ダイヤモンド社 26頁。
予期せぬ成功は、自らの事業と技術と市場の定義について、いかなる変更が必要かを自らに問うことを強いる。それらの問いに答えたとき初めて、予期せぬ成功が最もリスクが小さく、しかも成果の大きいイノベーションの機会となってくれる。
つまり、ドラッカーは、予期せぬ事態とはまったくの偶然だけで起きているのではなく、企業の定義や認識のズレから起きていることも多いことを指摘しています。そして、このズレを機会として生かすことができれば、イノベーションが生まれうると述べています。
2-2:ギャップを探す
ギャップとは、「こうである」という現実と「こうあるべきだ」という理想の乖離を指します。そして、そのギャップが生まれている市場には大きなイノベーションの種が潜んでいます。
ドラッカーはイノベーションの種となりうるギャップを次の4つに分類しています。
- 業績ギャップ・・・市場の成長率と、自社製品の業績とのギャップ
- 認識ギャップ・・・既存産業における常識と、その常識に対する顧客の不満とのギャップ
- 価値観ギャップ・・・企業の先入観と、社会での実際のニーズとのギャップ
- プロセスギャップ・・・既存産業における業務プロセスと、顧客のニーズとのギャップ
上記の4つのギャップは社会のあらゆる場面で見られるものです。そのギャップにいち早く気づき、適切な事業を立ち上げることができれば大きなイノベーションが生まれるはずです。
2-3:限定されたニーズを見つける
限定されたニーズには、早期に実現可能なイノベーションが潜んでいます。ここで「限定された」と言っているのは、「このようなものがあれば良い」のような漠然とした一般的なニーズとは区別して考えなければならないからです。
ドラッカーはイノベーションの種となりうる限定されたニーズとして、次の3つをあげています。
- プロセス上のニーズ・・・産業内部の業務プロセスにおける不都合を解決したいというニーズ
- 労働上のニーズ・・・事業に関わる労働力の省力化に図りたいというニーズ
- 知識上のニーズ・・・開発や研究に必要な知識を獲得したいというニーズ
限定されたニーズと言っても、それが本当に限定されているかを判定するのは容易ではありません。
そこでドラッカーは、限定されたニーズを判定するためには、以下の3つの条件を満たしているかが重要であると述べています7P.F.ドラッカー著、上田惇夫訳(2007)『イノベーションと起業家精神』ダイヤモンド社 72頁。
- 「ニーズが明確に理解されているか」
- 「必要な知識は現在の科学技術で手に入れられるか」
- 「得られた解決策は、それらを使うはずの人たちの使い方や価値観と一致しているか」
こうしたニーズは、早期の実現が求められているニーズがあるが故に、実現できれば確実性の高い成功が企業にもたらされると考えられます。
2-4:産業構造の変化を知る
安定的かつ永続的に見える産業構造であっても、小さな力によって簡単にしかも瞬時に解体することがあります。ゆえに、産業と市場の構造変化の発生には大きなイノベーションが伴います。
たとえば、ショッピングサイトAmazonの台頭を例に考えてみてください。
- 顧客は商品の品切れや自宅までの運送を気にすることなく、ネットで気軽に買い物ができるようになった
- 小売店舗は自らの事業の在り方を再考する必要性に迫られた
このように、Amazonは既存の小売業界のゲームルールを大きく変えてしまいました。
ドラッカーは、上記の例のように、産業構造の変化は外部者とって大きなイノベーションの機会であると指摘しています。なぜなら、強固な業務プロセスを産業内部で構築している既存企業には、その業務プロセスに不利になるようなダイナミックな変化は起こせないからです。
2-5:人口構造の変化に着目する
人口構造の変化はこれまでの機会のなかでも特に認識しやすく、なおかつ予測しやすいイノベーションの機会です。
たとえば、日本のような少子高齢化社会では介護問題や医療問題といった高齢化社会特有の問題がこれまで以上に深刻になるでしょうし、少子化に伴う教育や就労に対する価値観の変化は高い確率で起こることでしょう。
2-6:認識の変化をとらえる
認識の変化とは、ある物事に対する見方を変化させることです。たとえば、次の例を考えてみてください。
- 顧客分析をおける「顧客の80%は女性である」と「顧客の20%は男性である」という2つは同じ結果であるが、この2つの結果に対する企業の行動は変化する
- もし「顧客の80%は女性である」ことを重視するのであれば、企業は女性に合わせたマーケティングやサービスをおこなうであろう
- 一方で、「顧客の20%は男性である」を重視するのであれば、企業は新規の男性顧客獲得を目指した商品開発やプロモーションをおこなうであろう
このように、ひとつの物事に対しても切り口を変えればさまざまな見方をすることができます。この認識の変化は、イノベーションの新たな機会であると言えます。
2-7:新しい知識を活用する
発明発見という新しい知識は、大きなイノベーションの種となります。そして、この新しい知識を活用するイノベーションは、一般にイメージされているイノベーションと非常に近しいものです。
発明発見というと技術や物質のように具現化できるものを連想しがちですが、マネジメントやサービスにおける新たな手法も偉大なイノベーションになりえます。また、全く新しいものを見つけなくても、既存にある知識を組み合わせるだけでもイノベーションになることにも注意を払わなければなりません。
- 予期せぬ成功と失敗を利用する
- ギャップを探す
- 限定されたニーズを見つける
- 産業構造の変化を知る
- 人口構造の変化に着目する
- 認識の変化をとらえる
- 新しい知識を活用する
3章:イノベーションを達成する戦略
3章では、2章で得たイノベーションの機会を生かすためのマーケティング戦略を以下の4点から紹介します。
3-1:総力戦略
総力戦略とは、
明確な目標を一つ掲げ、それに全エネルギーを集中する戦略
です。
イノベーションには既存の市場や顧客が存在しないため、企業は全エネルギーを集中して、新たな市場の開拓に取り組む必要があります。さもなければ、中途半端な成果しかあげることはできず、イノベーションは実現しません。
ドラッカーは総力戦略について、「この戦略は最高の企業家戦略とされているものである」を評価しつつも、「企業家戦略の中で最もギャンブル性が強い」と述べています。成果は大きい戦略ですが、そのぶんリスクも大きい戦略であることを指摘しています8P.F.ドラッカー著、上田惇夫訳(2007)『イノベーションと起業家精神』ダイヤモンド社 249頁。
3-2:ゲリラ戦略
ゲリラ戦略とは、弱みへの攻撃を重視する戦略です。ドラッカーはゲリラ戦略のひとつとして「創造的模倣戦略」が有効であると述べています。
創造的模倣戦略とは、すでに誰かがおこなったことを、最初におこなった者よりもそのイノベーションの意味を深く理解して、創造的におこなうことです。ドラッカーは創造的戦略のポイントを次のように述べています9P.F.ドラッカー著、上田惇夫訳(2007)『イノベーションと起業家精神』ダイヤモンド社 263頁。
誰かが新しいものを完成間近まで作り上げるのを待ち、そこで仕事にかかる。短期間で、顧客が望み、満足し、代価を払ってくれるものに仕上げる。直ちに標準となり市場を奪う。
創造的模倣戦略の最たる利点は、イノベーションの初期では困難とされる市場調査ができることです。
創造的模倣戦略を採用する企業は「誰がなにを買っているか」「何を価値としているか」といった情報を、最初のイノベーションを生み出した先発企業よりも低いリスクで獲得することができ、確実性の高い成功がもたらされるというメリットがあります。
3-3:ニッチ戦略
ニッチ戦略とは、
市場や業界のトップの地位は狙わず、目標を限定した隙間(ニッチ)の占拠を目指す戦略
です。
ドラッカーはニッチ戦略のひとつとして「専門技術戦略」が有効であると述べています。専門技術戦略とは、専門技術によって生態学的なニッチにおける支配的地位を獲得し、その地位を維持する戦略です。
専門技術戦略のポイントは、開発した優れた技術を、早い段階で市場に投入することで、自社の技術を市場の標準的な技術に位置付けることです。
高い専門技術戦略を持つ企業は、他の後発企業に対して大きなアドバンテージを有しているため、熾烈な競争に巻き込まれることなく、市場における独占的な地位を維持することができます。
3-4:顧客創造戦略
顧客創造戦略とは、
物理的にはいかなる変化を起こさなくても、経済的にまったく新しい価値を創造する戦略
です。
たとえば、既存のイノベーションを、それまでそのイノベーションを利用していなかった人に普及させ、あらたな顧客を創造することができれば、そこには経済的な新しい価値が生まれたと考えることができます。
顧客創造戦略は新しいものを生み出すことに着目するのではなく、いまある製品やサービスの「顧客にとっての効用」「顧客にとっての価格」「顧客にとっての事情」「顧客にとっての価値」の4つの視点を考慮したマーケティング戦略を練ることで、顧客から高い支持を得ようとする戦略です。
- 総力戦略
- ゲリラ戦略
- ニッチ戦略
- 顧客創造戦略
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4章:ドラッカーのイノベーションについて学べるおすすめ本
ドラッカーのイノベーションを理解することはできましたか?最後に、あなたの学びを深めるためのおすすめ書物を紹介します。
P.F.ドラッカー『イノベーションと起業家精神』(ダイヤモンド社)
今回の記事のもとになったドラッカーのイノベーションに関する著書の原著です。イノベーションに関する事例が数多く掲載されており、経営学を知らない方でも比較的読みやすい著書です。
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岩崎夏海『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら』(ダイヤモンド社)
社会的ブームを巻き起こした『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』の続編にあたる著書です。ドラッカーの『イノベーションと起業家精神』がストーリー調でまとめられており、導入書としてはおすすめです。
(2024/09/17 11:24:44時点 Amazon調べ-詳細)
P.F.ドラッカー『現代の経営』(ダイヤモンド社)
ドラッカーの提唱するマネジメントが体系的にまとめられている、まさに経営学の古典です。経営者の必読書と呼ばれるほどの著書であり、経営学を学びたい方にはぜひ読んでいただきたい1冊です。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- ドラッカーのイノベーションとは、「より優れ、より経済的な財やサービスを創造することである」10P.F.ドラッカー著、上田惇夫訳(2006)『現代の経営 上』ダイヤモンド社 50頁ことを指す
- ドラッカーは企業の成長や拡大を実現するための機能がイノベーションであると指摘した
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