経営学

【シュンペーターのイノベーションとは】5分類・新結合をわかりやすく解説

シュンペーターのイノベーションとは

シュンペーターのイノベーションとは、「経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なるやり方で新結合すること」1桑原晃弥(2014)『知識ゼロからのイノベーション入門』幻冬社 14頁です。

イノベーションは日本語で「技術革新」と訳され、革新的な商品や、画期的なサービスが生み出された時によく用いられる言葉です。

しかし、シュンペーターが提唱したイノベーションはもっと広い意味を持っており、経済理論の構築にあたって、特に経済成長を説明するための言葉として生み出されました。

そこで、この記事では、

  • シュンペーターのイノベーションの概念
  • シュンペーターのイノベーションの学術的な議論

をそれぞれ解説します。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:シュンペーターのイノベーションとは

まず、1章ではシュンペーターのイノベーションを概説します。2章以降ではシュンペーターのイノベーションの学術的な議論を解説しますので、用途に沿って読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注2ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:経済学者シュンペーターとは

いまでは当たり前のように使われている「イノベーション」という言葉ですが、経済学においてイノベーションという概念を生み出したのが、オーストリア=ハンガリー帝国(のちのチェコ共和国)出身の経済学者のヨーゼフ・シュンペーター(1883年 – 1950年)です。

シュンペーターのイノベーションヨーゼフ・シュンペーター(Joseph Schumpeter 1883年 – 1950年)

シュンペーターは、1883年にオーストリア=ハンガリー帝国のモラヴィア地方のトリーシュで生まれました。幼少期より、並外れた記憶力と優れた語学力を発揮し、1901年にはヨーロッパで有数の歴史を持つウィーン大学の法学部3ウィーン大学は当時、独立した経済学部はなく、法学部内で経済学が教育されていましたに進学しました。

ウィーン大学卒業後のシュンペーター

  • いくつかの大学で教鞭を振いながら、1912年に論文「経済発展の理論」を発表し、のちのイノベーションと呼ばれる「新結合」という概念を生み出した
  • この論文の発表をもって「シュンペーター経済学」はひとまずの完成を見て、20世紀を代表する経済理論学者としてのキャリアを歩むことになる

このときシュンペーターはまだ29歳であり、経済学者の吉川は彼を「早熟の天才」と評しています4吉川洋(2009)『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ』ダイヤモンド社



1-2:新結合(イノベーション)という概念はなぜ生まれたのか

端的に、シュンペーターが「イノベーション」という概念を経済学に持ち込んだのは、経済発展の原理を適切に説明できないという問題があったからであると言われています。

特に、シュンペーターが1912年に論文「経済発展の理論」を発表する以前の静態的な経済学説ではこの原理をできなかったといいます。

静態的な経済とは、シュンペーター曰く「一定条件に制約された経済」のことです。この経済では利子が説明できなかったり、経済に恐慌が存在し得ないなどいくつかの不都合があったと説明しています5吉川洋(2009)『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ』ダイヤモンド社 49頁

シュンペーター自身も「経済発展の理論」の目的は、基本的に「静態的」な既存の均衡理論に対して、自らの内に変化のエネルギーをはらむ「発展」する経済の理論を打ち立てるところにあったと述べています6吉川洋(2009)『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ』ダイヤモンド社 49頁

では、発展する経済の本質とは何なのでしょうか? この問いに答えるのが、「経済発展の理論」の中核とも言える部分です。たとえば、以下のような指摘を、シュンペーターはしています。

  • 人口の増加などにより経済が成長していたとしても、それは「発展」ではない
  • 真の「発展」とは「経済から自発的に生まれた変化」であり、「非連続的な変化」を指す

ここでいう、「経済から自発的に生まれた変化」または「非連続的な変化」こそがイノベーションです。シュンペーターは、これらの変化が経済を「発展」させると強調しました。

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1-3:イノベーションの5分類

ここまでイノベーションという言葉を多用してきましたが、正確に言えば「経済発展の理論」ではイノベーションという言葉は用いられていません。代わりに使われているのが「新結合」という言葉で、これが後に「イノベーション」と呼ばれるようになります。

では、具体的にイノベーションとは何を指すのでしょうか?端的にいえば、シュンペーターはイノベーションには次の5つのタイプが存在すると指摘しています7根井雅弘(2001)『シュンペーター -起業者精神・新結合・創造的破壊とは何か-』講談社 49頁

シュンペーターのイノベーション
  1. 新しい財貨の生産
  2. 新しい生産方法の導入
  3. 新しい販路の開拓
  4. 原料の新しい供給源の獲得
  5. 新しい組織の実現

それぞれ解説していきます。

1-3-1:新しい財貨の生産

新しい財貨の生産とは、

世の中にまだ存在していない、あるいは消費者にまだ知られていない革新的な製品やサービスを生み出すこと

です。

たとえば、日清食品の創業者の安藤百福は1958年に世界初のインスタントラーメンである「チキンラーメン」を開発し、お湯を注ぐだけで食べることのできるラーメンを生み出しました8日清食品HP 「日清食品HISTORY」https://www.nissin.com/jp/about/history/

1-3-2:新しい生産方法の導入

新しい生産方法の導入とは、

製品の新しい生産方法や取扱方法を生み出すこと

です。

たとえば、フォード自動車のヘンリー・フォードは、それまで熟練した職人が手作業で組み立てていた自動車を、ベルトコンベアーを使用することで大量生産するフォード生産方式を生み出しました。

そして、それまでお金持ちの乗り物であった自動車を大衆車として販売できるような低価格化を実現しました。

1-3-3:新しい販路の開拓

新しい販路の開拓とは、

製品やサービスを従来の販売先ではないところに販売すること

です。

たとえば、それまで店舗販売しかおこなっていなかった小売店がECショッピングサイトを制作し、店舗に来店した顧客のみならず、世界中の顧客に商品を販売することができようになれば、新しい販路の開拓というイノベーションが実現したと言えます。



1-3-4:原料の新しい供給源の獲得

原料の新しい供給源の獲得とは、

製品に利用される原料を見直し、新たな原料を見つけ出すこと

です。

たとえば、スマートフォンなどの精密機械にも使用されているレアメタル(希少金属類)は、製品のスペックや品質を大幅に向上させ、さまざまな製品を生み出しました。

こうした新しい原料を開発、利用することもイノベーションと考えられます。

1-3-5:新しい組織の実現

新しい組織の実現とは、

製品やサービスの販売のみならず、全く新しい組織を構築すること

です。

たとえば、コンビニエンス業界でよく見られる「フランチャイズ・システム」は、企業の持つビジネスモデルや商標を提供することで、低いリスクで大きな成長を実現できる全く新しいビジネスモデルを作り上げたという点でイノベーションの1つにあげることができます。

1章のまとめ
  • シュンペーターのイノベーションとは、「経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なるやり方で新結合すること」9桑原晃弥(2014)『知識ゼロからのイノベーション入門』幻冬社 14頁である
  • シュンペーターが「イノベーション」という概念を経済学に持ち込んだのは、経済発展の原理を適切に説明できないという問題があったためである

 

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2章:シュンペーターのイノベーションに関する学術的議論

さて、2章ではシュンペーターのイノベーションを深掘りしていきます。

2-1:企業者の存在

シュンペーターが提唱した「新結合」においてもっとも重要な担い手となるのが「企業者」という存在です。この企業者とは、「新結合を遂行する経済主体」と定義されます。

一般的に、この経済主体とは「経営者」と解釈されがちですが、吉川はシュンペーターの考える「新結合を遂行する経済主体」は必ずしも経営者に特定されていないと指摘しています10吉川洋(2009)『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ』ダイヤモンド社 55頁

企業者とはあくまでも「新結合を遂行する」経済主体だから、ルーティン的な事務処理をしているだけの経営者は「企業者」ではない、と(シュンペーターは)言うのである。

たとえば、経営者には、自らが所有する土地を貸し出すことで利潤を得る「地主」や、工場の運営などに出資することで利潤を得る「資本家」なども含まれます。

しかし、これらの存在はシュンペーターの言う「企業者」ではないとされます。なぜなら、地主や資本家がおこなっているのは、あくまで自らの所有物や資金を貸し出すという慣行(ルーティン)行為に過ぎず、新結合が意味するところの「非連続的な変化」には当てはまらないからです。

では、企業者になるための要件とはなんでしょうか?シュンペーターは「企業者」となる要件とその動機について次のように述べています11根井雅弘(2001)『シュンペーター -起業者精神・新結合・創造的破壊とは何か-』講談社 60-65頁

企業者の要件
  1. 本質的なものを確実に把握し、事態を正確に見通す洞察力
  2. 意思を新しく動かし、その方向を変える力
  3. 経済面で新しいことを行おうとする人々に対して向けられる社会環境の抵抗への克服力
企業者の動機
  1. 自己の王朝を建設しようとする夢想と意思
  2. 成功そのものを渇望する成功獲得意欲
  3. 経済行為そのものに対する喜び

ここで注目したいのが、シュンペーターの主張する企業者の動機に「経済的成功」や「社会的地位の確立」といった動機が含まれていないことです。

この点に関して、根井はシュンペーターの考える「企業者」は「『企業者』が『単なる業主』と違ってますます英雄的な色彩を帯びるといってもよい。」12根井雅弘(2001)『シュンペーター -起業者精神・新結合・創造的破壊とは何か-』講談社 65頁と述べています。

これは、ある種の自己実現を目指す「企業者」と、ただ金儲けの目的である「単なる業主」を明確に区別していることを意味しています。



2-2:景気循環論

では、経済発展の要因を新結合と指摘したシュンペーターは「景気循環」についてはどのように考えていたのでしょうか?

根井(2001)は、シュンペーターが唱える「好況」をもたらすメカニズムを次のように説明しています13根井雅弘(2001)『シュンペーター -起業者精神・新結合・創造的破壊とは何か-』講談社 50-51頁

いつの時代でも、最初に新結合に成功するのはごく一握りの天才的企業者のみだが、いったん彼らによって道が開かれると、今度は新結合が群生するようになる。なぜなら、先駆者によって新結合の遂行を妨げる障害や困難が克服されてしまえば、後に続くものはそのやり方を模倣し、より容易に新結合を遂行することができるようになるからである。そして、このような新結合の群生が、経済を「好況」へと導いていく。

ここで用いられている「新結合が群生する」という箇所こそが、シュンペーターの考える好況のメカニズムの重要なポイントです。

スマートフォンを事例に考えてみてください。

  • 2007年にApple社の開発した「iPhone」はスマートフォンのさきがけとして瞬く間に世界中に普及し、モバイル端末業界に新結合をもたらした
  • その直後には「iPhone」を模倣するように世界中のメーカーがスマートフォンを販売し、その周辺のハードウェア(各種アクセサリやモバイルバッテリーなど)やソフトウェア(スマートフォン用アプリケーションなど)も含めて、まさに「新結合が群生」した

しかし、好況が永遠に続くようなことはありません。なぜなら、やがて新結合の成果として新しい財貨が大量に市場に出回るようになるからです。

総務省が公表した平成30年度版「情報通信白書」によると、「iPhone」のみならずスマートフォンが大量に市場に流通したことがわかります14総務省「平成30年度版 情報通信白書 第2部基本データと政策動向」 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd252110.html

  • 2010年時点のスマートフォンの世帯保有率・・・9.7%
  • 2017年時点のスマートフォンの世帯保有率・・・75.1%

もちろん、財貨の供給の増加とともに諸価格は低下していくため、一般に企業の獲得できる利潤は小さくなっていきます。

しかし、多くの企業は財貨の供給にあたって投じた設備の資金回収のためにその財貨の供給を続けるので、価格の低下に拍車がかかります。これが「不況」の過程であるとシュンペーターは説明しています。

ここで留意すべき点は、シュンペーターの理論によると、不況は新結合によって創造された新事態に対する経済体系の正常な適応過程として説明されていることです15根井雅弘(2001)『シュンペーター -起業者精神・新結合・創造的破壊とは何か-』講談社 51頁

吉川は、シュンペーターの唱えた景気循環説について、「前の好況を生み出したショックを経済が十分に吸収しなければ、新たな新結合の波が生まれない」と前置きをしつつ、「『不況無くして経済発展なし』という一種の『不況必要悪説』はシュンペーター経済学の大きな特徴である」と説明しています16吉川洋(2009)『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ』ダイヤモンド社 61頁

2章のまとめ
  • 「新結合」において、もっとも重要な担い手となるのが「企業者」という存在である
  • 「新結合が群生する」ことが、シュンペーターの考える好況のメカニズムの重要なポイントである

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3章:シュンペーターのイノベーションについて学べるおすすめ本

シュンペーターのイノベーションについて理解できたでしょうか?

この記事で紹介した内容はあくまでもきっかけにすぎませんので、下記の書籍からさらに学びを深めてください。

おすすめ書籍

根井雅弘『シュンペーター -起業者精神・新結合・創造的破壊とは何か-』(講談社)

経済学の歴史に詳しい著者によるシュンペーター自身の解説書です。シュンペーターの終生がストーリーとして描かれており、シュンペーターのことをしっかり理解できる1冊です。

根井雅弘『ケインズとシュンペーター 現代経済学への遺産』(NTT出版株式会社)

同年に生誕した二人の偉大な経済学者であるケインズとシュンペーターの違いを比較した1冊です。経済学を少し勉強された方向けの本です。

吉川洋『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ』(ダイヤモンド社)

20世紀前半の経済学者であるケインズとシュンペーターの経済理論がどれだけ現代の経済に適用できるかを明らかにしている著書です。経済学にあまり詳しくない方でもわかるような内容です。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • シュンペーターのイノベーションとは、「経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なるやり方で新結合すること」17桑原晃弥(2014)『知識ゼロからのイノベーション入門』幻冬社 14頁である
  • シュンペーターが「イノベーション」という概念を経済学に持ち込んだのは、経済発展の原理を適切に説明できないという問題があったためである
  • 「新結合」において、もっとも重要な担い手となるのが「企業者」という存在である

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