経営学

【コーポレート・ガバナンスとは】日本の具体例からわかりやすく解説

コーポレート・ガバナンスとは

コーポレート・ガバナンス(Corporate governance)とは、企業は株主のものであるという前提のもと、企業経営の非効率性を排除し、企業価値を高めるための統治手法(メカニズム)のことです1参考 花崎正晴『コーポレート・ガナバンス』岩波新書, 1頁。日本では「企業統治」とも呼ばれます。

コーポレート・ガバナンスとは「企業は誰のものか?」という問いから生まれ、「企業はなんのための存在しているのか?」に繋がる、法学や経済学、金融論、そして企業経営論を含めた数多くの研究を横断する重要なテーマです。

そこで、この記事では、

  • コーポレート・ガバナンスの背景・エージェンシー問題
  • コーポレート・ガバナンスの具体例

などをそれぞれ解説していきます。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:コーポレート・ガバナンスとは

1章ではコーポレート・ガバナンスを概説します。2章ではコーポレートガバナンスの具体的手法を説明しますので、用途に沿って読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注2ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:コーポレート・ガバナンスの背景

コーポレート・ガバナンスの具体的な説明の前に、そもそもコーポレート・ガバナンスという概念がなぜ生まれたのか確認しましょう。

コーポレート・ガバナンスのはじまりと言われているのは、18世記後半にイギリスで始まった産業革命です。大まかにいえば、産業革命を契機に以下のような変化が起きました。

  • 産業革命以前において東インド会社のような国策的な大規模会社を除き、一般的な企業体はごく限られた数の資本家によって所有・経営されていた(→東インド会社に関して詳しくはこちら
  • 加えて、事業規模も概ね所有者の財産に見合った小規模なものがほとんどであった
  • しかし、産業革命のはじまりにより数多くの優れた技術が民間レベルで用いることができるようになったことで、多額の資本を調達して大規模な会社を作ろうという気運がイギリス国内で一気に高まった
  • そのために利用されたのが、不特定多数の人から資本を募りひとつの会社を設立する株式会社という事業形態である
  • その後19世紀になると、ヨーロッパ諸国のみならず、アメリカでも株式会社は一般的な会社制度として定着した

端点にいえば、産業革命以前後では所有と経営が一致しているかどうかに大きな違いがあります。

特定の資本家によって運営されている企業体であれば、その資本家が企業の運営方針の決定者であり、財務的な責任も資本家自身が負うことが一般的でした。つまり、資本家が企業体を所有しかつ経営にも積極的に関わっていたということです。

しかし、株式会社という制度が広まったことで、所有と経営が分離するようになったのです。

  • 出資金に関わる配当を受け取る権利はそれぞれの出資者に存在するものの、すべての出資者が企業の運営に積極的に関わるわけではない
  • ごく限られた人数の手によって企業の運営方針が決められるのがほとんどであり、所有者と経営者は必ずしも一致していない

資本と経営権のどちらも保有する経営者であれば、自身の財産を減らしたくない一心で企業を運営するのは当然の行動です。しかし、資本の所有権を持たない経営者であれば、もし会社の運営に失敗したとしても職を失うくらいで自身の財産が減少することがありません。

この株式会社における所有者と経営者の立場の違いは「エージェンシー問題」と呼ばれ、コーポレート・ガバナンスにおいて非常に重要なテーマとなります。



1-2:コーポレート・ガバナンスとエージェンシー問題

上述したエージェンシー問題をさらに深掘りしていきましょう。

1-2-1:エージェンシー問題とは

具体的には、エージェンシー問題とは下記のような問題です。

  • 依頼人と代理人の間で起きる利害対立の問題である
  • 依頼人は代理人に依頼人の利益にかなう十分な努力水準を求めるのに対して、代理人は自己の利益を高めることを第一義的な目的として、自分にとって望ましい努力水準を選択しようとする問題3花崎正晴『コーポレート・ガナバンス』岩波新書, 13頁

コーポレート・ガバナンスにおいて、「依頼人=出資者」「代理人=経営者」になります。

  • 出資者の立場
    →出資した企業にはなるべく長期にわたる存続を期待し、配当や株価の値上がりによって、少なくとも自らが出資した金額以上のリターンを求める
  • 経営者の立場
    →自身がより多くの報酬を得るためになるべく短期的に成果を出し、その成果に応じた報酬の獲得を期待する

この時、両者の利害は必ずしも一致していないことがわかります。極端な話をすると、経営者が企業の全財産を使って、自身が退任するまでに莫大な報酬を得たあとで引退してしまえば、その後会社がどうなろうと知った話ではないという状況も考えられます。

しかし、出資者としては、自らが出資した資金が経営者の利益のためだけに使われたとしたらたまったものではありません。

つまり、エージェンシー問題とはまさに「企業は誰のものなのか?」というコーポレート・ガバナンスの根本的な問いなのです。

1-2-2:情報の非対称性とエージェンシー・コスト

エージェンシー問題の原因には、「情報の非対称性」「契約の不完備性」が深く関わっていると言われています。それぞれ解説していきます。

1-1でも述べたように株式会社制度では、全ての出資者が企業の経営に深く関わるわけではありません。つまり、経営者は知っていても、出資者は知らない事態は頻繁に起きます。

その結果、複数の経済主体の間で情報量に差がある状態である「情報の非対称性」がおきます。この場合、出資者と経営者の間の情報量の差を示します。(→情報の非対称性に関して詳しくはこちら

情報の非対称性は、人間の認知能力に限界がある限り、完全に解消するのはとても難しい問題です。そこで、出資者と経営者の利害不一致問題が顕在化しないように、契約書という形で先手を打って解決する方法が存在します。

  • 出資者は自分自身の利益にかなう十分な水準の要求を契約書に盛り込み、経営者にその要求の達成を約束させる
  • この方法が有効に機能すれば、経営者は出資者の要求を前提として事業の運営にあたることになるため、「エージェンシー問題」が深刻化することはない
  • しかし現実において、そもそも出資者の要求が妥当なものであるか、そしてビジネスにおいて誰も予期できない事態が発生した時の責任の所在がどこにあるのかなどを判断することはとても難しい

その結果、エージェンシー問題を解決するための完全な契約書を締結することは至難の業であると言わざるを得ません。このように、出資者が経営者の行動を監視することがいかに難しいかは理解できたかと思います。

そして、企業において、出資者の期待とは裏腹に経営者が出資者の利益を毀損するような経営に走ることによって生まれる資源の浪費を「エージェンシー・コスト」と呼ばれます。言い換えれば、本来、出資者が受け取ることができるはずであった機会利益といえます。

この「エージェンシー・コスト」が大きくなってしまうと、出資者の得られる利益はどんどん減少し、いずれ市場から出資者が消えてしまいます。

それゆえにコーポレート・ガバナンスの原点は、

  • このエージェンシー・コストの発生を抑制すること
  • 経営者が株主に対して、その投資に見合った適正な収益を換言する制度的な仕組みを整えること

にあると言えます。

1章のまとめ
  • コーポレート・ガバナンスとは、「企業経営の非効率性を排除して、企業価値を高めるメカニズム」のことである4花崎正晴『コーポレート・ガナバンス』岩波新書, 1頁
  • 産業革命以前後では所有と経営が一致しているかどうかに大きな違いがある
  • エージェンシー問題とは「企業は誰のものなのか?」という問いから生まれ、コーポレート・ガバナンスの根本的な考えになっている部分である



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2章:コーポレート・ガバナンスと日本の具体例

「コーポレート・ガバナンス」という言葉からもわかるように、この概念は欧米で生まれた後に日本で普及した仕組みです。

では、日本の企業にコーポレート・ガバナンスという発想がなかったかと言えば、そうではありません。日本は日本独自の企業統治の制度を有していたと考えられています。

具体的には、以下の制度がある種の企業統治の手段のひとつであったとされています。

  • 銀行によるメインバンク制度
  • 企業間の持ち合い株制度

この点は、数多くの研究者によって様々な研究がなされています。今回は、スペースの都合上、従来の日本型の企業統治の話には深く言及しませんが、代わりに欧米で生まれ、近年は日本企業でも導入が進んでいるコーポレート・ガバナンスの手法を紹介します。

2-1:経営者のモニタリング

経営者のモニタリングとは、

株主が経営者の行動をモニターし、株主と経営者の間の情報の非対称性を緩和する仕組み

です。

経営者の行動をモニターするといっても、事業の規模が小さい中小企業や零細企業の場合ではありません。

株式の分散所有が進んでいる大企業の場合、株主が経営者を直接モニターすることは事実上困難です。そのため、その機能は「取締役会」「監査役会」「会計監査人」といった会社内組織(または会社内機能)に委ねられています。

とりわけ近年、日本でも導入が進んでいるのが、取締役会における社外取締役や、監査役会における社外監査役といった、会社と利害関係の薄い外部人材によるモニターです。

社外取締役や社外監査役には、会社外部の人材でありながら経営者に対する助言や指導といった幅広い権利が与えられており、会社が組織内部の都合だけで暴走しないようなチェック機能を担っています。

このように、経営者のモニタリングは第三者による監督機能に重点を置いた手法といえます。



2-2:経営者へのインセンティブ付与

経営者へのインセンティブの付与とは、

経営者の自社株所有やストックオプションを付与することで、経営者自身の経営に対するモチベーションを高める手法

※ストックオプションとは、将来の株価の値上がりを期待して、役員や従業員に対してあらかじめ決められて価格(権利行使価格)で自社の株式を取得できる権利を与えるものです。

です。

もともと、「オプション」は選択権を意味し、権利を有するものがその権利を行使するかどうかは個人の判断に委ねられています。

そういった意味で、ストックオプションとは次のような意味をもちます。

  • 経営努力を続け、権利行使可能時に権利取得時よりも株価をあげることができれば、権利保有者の利益になるような制度である
  • もし株価が下がったとしても権利を行使するかどうかは個人の自由であるので、純粋に経営に対するモチベーションを高める手段となる

アメリカでは古くから利用が認められてきた制度でしたが、日本でも1997年の商法改正で公式にストックオプションを利用することが可能となり、現在数多くの企業で導入されています。

2-3:株式市場を利用するアプローチ

上記の2つの手法はあくまで会社内部でコーポレート・ガバナンスを維持しようとする発想でしたが、株式市場という外部環境からの圧力を用いて企業を監視する手法もあります。

具体的には、このアプローチは、

敵対的買収やアクティビスト(物言う株主)による株式取得

を意味します。それぞれ解説していきます。

敵対的買収とは、第三者による経営権保有を目的とした敵対的な株式取得です。特に、潜在的な企業価値が高いにも関わらず経営者の手腕の低さによって株価が低下しているような企業は、敵対的買収のターゲットになりやすいと言われています。

敵対的買収が成功した時には、ほとんどの場合で経営陣は退任を迫られ、企業を買収した第三者によって経営権をはく奪されます。

また、アクティビストによる株式取得も似たような構図です。第三者が経営に対して影響力をもてるほどの株式を取得し、株主総会などを通じて、役員の選任などに積極的な関与をすることです。これによって、企業価値を最大限まで高めようとします。

アクティビストは敵対的買収のように経営権の取得までは目指しませんが、独自の情報力や洞察力を生かして一般的な株主にはできない強力な圧力を経営陣に対してかけます。

敵対的買収やアクティビストの存在は、直接的には企業統治の手段とは言えません。しかし、経営努力を怠れば経営者自身の立場が危うくなるといったプレッシャーを企業に与えることで、間接的に企業価値を高め、経営者の規律を正す機能をもつと考えられています。

2章のまとめ
  • 経営者のモニタリングとは、株主が経営者の行動をモニターし、株主と経営者の間の情報の非対称性を緩和する仕組みである
  • 経営者へのインセンティブの付与とは、経営者の自社株所有やストックオプションを付与することで、経営者自身の経営に対するモチベーションを高める手法である
  • 株式市場という外部環境からの圧力を用いて企業を監視する手法は、敵対的買収やアクティビスト(物言う株主)による株式取得を指す
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3章:コーポレート・ガバナンスと社会

ここまでコーポレート・ガバナンスの背景や仕組みについて説明してきましたが、最後にこれからのコーポレート・ガバナンスの展望について簡単に述べていきます。

1章では、エージェンシー問題を交えて「企業は誰のものか?」についての解説を述べました。しかし、冒頭でも述べたように、企業をより大きな枠組みで捉える必要があります。

  • いまや企業はひとつの企業体という枠を超えて、社会全体に影響を与えるほどの存在となりつつある
  • そうしたなかで、企業内部の都合だけでコーポレート・ガバナンスを考えることはナンセンスであるという論調が世界中で高まっている
  • そこで、「企業は誰のものか?」という小さな枠組みを超えて、「企業はなんのために存在しているのか?」という広い枠組みからコーポレート・ガバナンスを考える動きが多くの企業でみられるようになった

こうした動きは「ステークホルダー(利害関係者)型ガバナンス」と呼ばれます。

株主や経営者といった会社関係者だけではなく、従業員や取引先、さらには地域住民や市場関係者など幅広い利害関係者に配慮した経営を志すことで、企業に対して自律的なコーポレート・ガバナンスを促そうとしています。

「ステークホルダー型ガバナンス」は従来の手法とは大きく異なり、企業の自立性に期待したガバナンスであると言えます。世界各地でCSR(企業の社会的責任)やSRI(社会的責任投資)といった機運が高まっていることからも、21世紀の企業運営を担う価値観になるかもしれません。

4章:コーポレート・ガバナンスに関するおすすめ本

コーポレート・ガバナンスに関して理解を深めることはできましたか?

以下の書物はコーポレート・ガバナンスの理解を深めるために、必ず役立つものです。ぜひ読んでみてください。

オススメ書籍

オススメ度★★★ 花崎正晴『コーポレート・ガバナンス』(岩波新書)

コーポレート・ガバナンスの歴史や仕組み、展望に至るまで幅広い視点が書かれています。これからコーポレート・ガバナンスについて学びたい方はまずこちらの本をおすすめします。

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オススメ度★★★ 青井倫一『ガイダンス コーポレート・ガバナンス』(中央経済社)

コーポレート・ガバナンスに関する各論点が詳細にまとめられています。コーポレート・ガバナンスに関する主要な事例も多く掲載されており、コーポレート・ガバナンスについて詳しく学びたい方におすすめです。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • コーポレート・ガバナンスとは、「企業経営の非効率性を排除して、企業価値を高めるメカニズム」のことである5花崎正晴『コーポレート・ガナバンス』岩波新書, 1頁
  • 日本企業でも導入が進んでいるコーポレート・ガバナンスには、3つの手法がある
  • 近年では「ステークホルダー(利害関係者)型ガバナンス」と呼ばれる動きが活発化している

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