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経営学

【クリステンセンのイノベーションとは】ジレンマの定義から克服法までわかりやすく解説

クリステンセンのイノベーションとは

クリステンセンのイノベーションとは、「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」という2つのイノベーションの性質の違いを認識することで、新たな成長事業を生み出すための方法論です。

経営学に少しでも触れた方であれば、必ずと言っていいほど耳にするであろう「破壊的イノベーション」「イノベーションのジレンマ」という言葉は、ハーバードビジネススクールの教授であるクレイトン・M・クリステンセンによって提唱されました。

「偉大な企業はすべてを正しく行うが故に失敗する」1クレイトン・M・クリステンセン『イノベーションのジレンマ』翔泳社 275頁という彼の主張は当時、多くの研究者や経営者に大きなインパクトを与えました。

そして、この主張が登場する『イノベーションのジレンマ』は、発表されて20年近く経った今でも名著として世界中で読まれています。

そこで、この記事では、

  • クリステンセンのイノベーションの概念
  • クリステンセンのイノベーションの学術的な議論

をそれぞれ解説します。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:クリステンセンのイノベーションとは

まず、1章ではクリステンセンのイノベーションを概説します。2章以降ではシュンペーターのイノベーションの学術的な議論を解説しますので、用途に沿って読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注2ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:クリステンセンとは

まず、簡単にクリステンセンという人物の伝記的情報を紹介します。

クレイトン・クリステンセンクレイトン・M・クリステンセン(Clayton M. Christensen 1952年 – 2020年)

クリステンセンは、1952年にアメリカ合衆国のユタ州で生まれました。

1975年にブリガムヤング大学の経済学部を首席で卒業した後、1977年にオックスフォード大学経済学の修士号を、1979年にハーバードビジネススクールでMBAを取得し、その際に優秀な学生に与えられるベイカースコラーの称号を得ています。

クリステンセンは、豊富な社会人経験を持っており、学問の世界に入ったのは比較的遅い経営学者です。ハーバードビジネススクールの教授を勤める以前は、以下のような経験をしてきました。

  • ボストンコンサルティンググループのコンサルタント
  • ホワイトハウスフェローとしてアメリカの運輸長官の補佐

このような社会人経験に関して、『イノベーションのジレンマ』の日本語訳の解説を務めた玉田は次のような指摘をしています3クレイトン・M・クリステンセン『イノベーションのジレンマ』翔泳社 279頁

(クリステンセン教授の )豊富な実務経験が、クリステンセン教授の問題意識を地に足のついたものにし、教授の理論を現実の問題に適用可能な実践的なものにするのに影響を与えていると思われる

このように、クリステンセンの提唱する理論が学術界のみならず、実務界にも十分に通用するものであることを強調しています。



1-2:イノベーションのジレンマとは

イノベーションのジレンマとは、

業界のトップ企業が顧客の意見に熱心に耳を傾け、新技術にも投資したにもかかわらず、技術や市場構造の破壊的変化に直面した際に市場のリーダーシップを失ってしまう事象のこと

を指します。

たとえば、1960年代の日本の高度経済成長は、当時まだ発展途上であった日本が技術力で先を行くはずの欧米諸国に対して、破壊的変化を生み出したことで実現したとクリステンセンは指摘しています。

技術でも資本の大きさでも劣っていた日本が「ジャパナズナンバーワン」とまで呼ばれ、経済大国にまで成長できた理由には、ソニーの「ウォークマン」やトヨタの「カイゼン」を代表とする破壊的変化をもたらす技術の存在がありました。

この点に関しては、「日本的経営」の記事が参考になります。

【日本的経営とは】特徴・課題をデータからわかりやすく解説

しかし、一方で特に2000年代に入ってから、日本企業は中国やASEANをはじめとする成長著しい国々の新興企業から経済的に激しい追随を受けています。

最近では、家電メーカーのシャープが中国の鴻海精密工業(フォックスコン)の傘下に吸収されるなど、かつてのリーディングカンパニーが新興企業に太刀打ちできなくなるケースも頻繁に見られるようになりました。

優れた経営を続けているはずの日本企業が、なぜ技術力でも資本の大きさでも劣る新興企業に負けてしまうのでしょうか?

イノベーションのジレンマとは、このような事象を精緻に分析し、原因とともに対応策を提示するものとなっています。

1章のまとめ
  • クリステンセンのイノベーションとは、「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」という2つのイノベーションの性質の違いを認識することで、新たな成長事業を生み出すための方法論である
  • イノベーションのジレンマとは、業界のトップ企業が技術や市場構造の破壊的変化に直面した際に、市場のリーダーシップを失ってしまう事象のことを指す



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2章:イノベーションのジレンマの原因

イノベーションのジレンマを考える上で、以下の2つの視点から分析する大事になってきます。

  • 外部的要因・・・技術変化や顧客ニーズの変化など
  • 内部的要因・・・マネジメントや意思決定要因など

それぞれ解説していきます。

2-1:外部的要因

クリステンセンは、イノベーションのジレンマの原因に「持続的イノベーション」「破壊的イノベーション」という性質の異なる2つのイノベーションの存在を挙げています。

2-1-1:持続的イノベーション

持続的イノベーションとは、

製品の漸進的な性能向上や技術的進歩のこと

です。

たとえば、コンピューターに欠かせないCPUやHDDなどのストレージに関する技術は日進月歩の発展を見せており、まさに持続的イノベーションが続いていることがわかります(図1)。

CPUの性能推移図1 CPUの性能推移4HITACHI 公式HP「ビッグデータ時代に求められるフラッシュストレージの要件」

2-1-2:破壊的イノベーション

一方で、破壊的イノベーションとは、

製品の性能を引き下げることで、従来とはまったく異なる価値基準を市場にもたらすこと

です。

そして、クリステンセンはこの製品の性能を引き下げる効果を持つ技術を「破壊的技術」と命名しました。たとえば、創業間も無いソニーが開発したトランジスタは、当時主流であった真空管に対して破壊的イノベーションを起こしました。

この点に関しては、「コアコンピタンス」の第3章が参考になります。

【コアコンピタンスとは】実践的知識と具体的事例をわかりやすく解説

開発すぐのトランジスタは当時最先端の真空管よりも性能は劣っていましたが、その高い安全性や耐久性が評価されて、大手電気メーカーが相次いでトランジスタを採用しています。

その結果、当時主流であったはずの真空管の市場は大きく縮小することになりました。

つまり、

  • 持続的イノベーションは既存の製品の価値を高めていくためには、必要不可欠のイノベーションである
  • しかし、ひとたび市場に破壊的イノベーションが現れると、既存の製品を作る企業は熱心に持続的イノベーションに取り組むがゆえに、その破壊的イノベーションに対応できなくなる

のです。

加えて、クリステンセンは「企業が競争相手よりすぐれた製品を供給し、価格と利益率を高めようと努力すると、市場を追い抜いてしまうことがある」5クレイトン・M・クリステンセン『イノベーションのジレンマ』翔泳社 10頁とも指摘しています。

持続的イノベーションと破壊的イノベーションの影響図2 持続的イノベーションと破壊的イノベーションの影響6クレイトン・M・クリステンセン『イノベーションのジレンマ』翔泳社 10頁

図2は、技術革新のペースと市場の需要のペースを時間経過とともにあらわしたグラフです。

  • 既存製品が持続的イノベーション(図2の左の直線)によって性能が向上していくと、いつか市場のハイエンドで求められる性能を追い越してしまう
  • その結果、製品の性能が市場のニーズと一致しなくなり、製品の性能は高いのに関わらず売上が伸びないといった状況が発生する
  • そこで、製品の性能を引き下げて、従来とはまったく異なる価値基準を市場にもたらす破壊的イノベーション(図2の右の直線)が起こると、それまでその製品を使ってこなかったローエンドを中心として、新たな市場を作り出す可能性が生まれる

たとえば、家庭用品メーカーのアイリスオーヤマ7アイリスオーヤマは、もともとガーデン品やペット用品を製造する家庭用品メーカーであり、大手家電メーカーに比べて家電製造に対する経営資源やノウハウは圧倒的に少なかった。は、多機能化が進んでいた家電の機能を整理し、操作をシンプルにした低価格の家電を発売しました。

そうすることで、家電の特定の機能だけを求める消費者に対して、新たな需要を創出しました。



2-2:内部的要因

クリステンセンは、イノベーションのジレンマのもうひとつの原因に、企業の内部的要因を挙げています。これは既存企業が企業の競争環境を大きく変えうる「破壊的イノベーション」に対して適切に対応できないことを意味します。

前提としてクリステンセンは、製品に対するさまざまな知識や、情報ネットワークをもつ大手企業が破壊的技術の存在に気づいていないわけではないと述べています。

そして、それにも関わらず、実績ある企業が破壊的技術に積極的に投資できないのには、次の3つの理由があるためだといいます8クレイトン・M・クリステンセン『イノベーションのジレンマ』翔泳社 11頁

内部的要因
  1. 破壊的製品のほうが単純で低価格である
  2. 破壊的技術が最初に商品化されるのは、一般に、新しい市場や小規模な市場である
  3. 大手企業によって最も収益性の高い顧客は、通常、破壊的技術を利用した製品を求めない

①破壊的製品のほうが単純で低価格である

破壊的技術をもつ製品は、低性能・低価格であるがゆえに利益率が低いのが通常です。

そのため、厳密に管理された社内プロセスを有し、一定の利益率目標をクリアしなければならない大手企業では破壊的技術に投資する意思決定ができません。

②破壊的技術が最初に商品化されるのは、一般に、新しい市場や小規模な市場である

一般的に、初期の破壊的技術が受け入れられるのは、それまで市場がなかったところか、市場はあったが採算が合わないくらい小さな市場のどちらかです。

そのため、通常一定のボリューム層をターゲットとする大手企業のマーケティング戦略とは一致せず、破壊的技術への積極的な投資が遅れてしまいます。

③大手企業によって最も収益性の高い顧客は、通常、破壊的技術を利用した製品を求めない

大手企業であれば、多くの優良な既存顧客を抱えており、売上を伸ばすためには彼らの意見に耳を傾け、収益性と成長性を高める新製品を開発しようと行動します。

そのため、そもそも顧客ではないローエンド以下のユーザーの意見は軽視されやすく、破壊的技術が大きな市場になる頃には、すでに手遅れになってしまう場合が多くなります。

このように、大手企業は破壊的技術を認識できるだけの経営資源を有しながらも、破壊的イノベーションに対応できない構造的な理由をもつことから、クリステンセンはこの事象をイノベーションの「ジレンマ」と呼びました。

2章のまとめ
  • 外部的要因・・・技術変化や顧客ニーズの変化など
  • 内部的要因・・・マネジメントや意思決定要因など

 

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3章:イノベーションのジレンマの克服

3章では、イノベーションのジレンマの理屈を理解した上で、企業がイノベーションのジレンマを克服するためにどのような対応や考え方の変化が求められるのかを説明していきます。

まず、イノベーションのジレンマと向き合うために、企業はクリステンセンの次の指摘を受け入れなければなりません9クレイトン・M・クリステンセン『イノベーションのジレンマ』翔泳社 13頁

企業の問題に対する一般的な解決策として、これまで以上に綿密に計画し、懸命に努力し、顧客の意見を受け入れ、長期的な視点に立つことは、すべて問題を悪化させる。安定した実行力、商品化のスピード、総合的な品質管理、プロセス・エンジニアリングも悪影響を与える。

これらの解決策はすべて、優れた企業が積極的に取り組んでいることです。しかし、企業が破壊的イノベーションの直面した場合において、こうした解決策は事態を解決に導くどころか、破壊的イノベーションへの対応に悪影響をもたらすとクリステンセンは指摘します。

では、企業は破壊的イノベーションに対してどのように対応したらいいのでしょうか?

クリステンセンは次の4つの原則を理解し、その原則に調和することが大事であると述べています10クレイトン・M・クリステンセン『イノベーションのジレンマ』翔泳社 13-19頁

4つの原則
  1. 企業は顧客と投資家の資源に依存している
  2. 小規模な市場では大企業の成長ニーズを解決できない
  3. 存在しない市場は分析できない
  4. 技術の供給は市場の需要と等しいとは限らない

それぞれ解説していきます。

3-1:4つの原則:①

優れた企業ほど、企業がもつ限られた経営資源を、顧客と投資家を満足させるため方策に集中させます。ゆえに、顧客の望まないアイディアは社内プロセスで排除され、顧客がそのアイディアを求めるようになる前に経営資源を投入する機会を逃します。

企業はこの原則を回避するために、低い利益率でも収益性を達成するための独自のコスト構造をもった独立組織を設立することが必要です。

3-2:4つの原則:②

新しい市場を生み出した企業には、先駆者利益と呼ばれる競争戦略上の大きな優位がもたらされますが、企業の規模が大きくなると、将来大規模になるはずの新しい小規模な市場に参入することは難しくなります。

企業はこの原則を回避するためには、目標とする市場の規模に見合った規模の組織に、破壊的技術を商品化する任務を与えることが必要です。



3-3:4つの原則:③

優れた企業ほど、確実な市場調査と緻密なマーケティング戦略を得意としますが、まだ安定した市場の存在しない破壊的イノベーションではこれらの能力は役に立ちません。

むしろ、確立していない新しい市場を数値によって分析しようとすると、意思決定において重大な間違いを犯しかねません。

企業がこの原則を回避するためには、自社の緻密な計画と戦略が間違っている可能性が認識することが必要です。

そして、このような想定のもと投資と管理をおこなえば、破壊的イノベーションに対しても柔軟な行動が取れるようになります。

3-4:4つの原則:④

破壊的技術は、当初は主流から離れた小規模な市場でしか使われませんが、いずれは主流市場で確立された製品に対抗しうる性能を身につけるかもしれません。

その可能性があるのにも関わらず、「現在の主流市場の顧客が期待する品質水準に及んでいないため、普及する見込みはない」という決めつけは、企業に大きな危険をもたらします。

企業がこの原則を回避するためには、顧客が製品をどのように使うのかを注意深く観察し、市場で競争の地盤が変化するポイントをとらえることが必要です。

新しい製品の性能が低くても、よりよい使い方を期待できるものであれば、それは既存製品の十分な脅威となります。

イノベーションのジレンマは組織の構造的な問題であり、容易に解決することが難しい事象ですが、企業のマネージャーがこれらの原則を理解し、さまざまな障壁を超えることができればイノベーターが直面するジレンマは解決できると、シュンペーターは強調しています。



4章:クリステンセンのイノベーションについて学べるおすすめ本

クリステンセンのイノベーションについて理解できたでしょうか?

この記事で説明した内容は組織文化のごく一部を紹介したに過ぎませんので、GEについてもっと知りたい方は参考文献やその他の書籍をご覧ください。

おすすめ書籍

クレイトン・M・クリステンセン『イノベーションのジレンマ』(翔泳社)

「イノベーションのジレンマ」の日本語訳の著書です。インテルの元会長アンドリュー・グローブ氏が「本書は、成功を収めている企業がいつか必ず直面する困難な問題について言及している。明晰で、示唆に富み、それでいて恐ろしい」と評したベストセラーです。

クレイトン・M・クリステンセン『C.クリステンセン経営論』(ダイヤモンド社)

クリステンセンの主要論文のエッセンス集です。イノベーションのジレンマはもちろん、その後の主要論文が要約されて掲載されているので、クリステンセン経営理論の一通りの理解が期待できます。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • クリステンセンのイノベーションとは、「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」という2つのイノベーションの性質の違いを認識することで、新たな成長事業を生み出すための方法論である
  • イノベーションのジレンマとは、業界のトップ企業が技術や市場構造の破壊的変化に直面した際に、市場のリーダーシップを失ってしまう事象のことを指す
  • イノベーションのジレンマを考える上で、外的要因と内的要因の視点をもつことが大事になる

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