分断社会とは、経済的な格差が広がったり、政治的な意見が異なる人々が衝突することで、社会全体が分断されていくことを指します。
「社会は分断している」とよく耳にしますが、そのような分断がなぜどのようにして起きたのかを知っていますか?
この記事では、
- 分断社会の意味
- 分断社会の要因
について解説します。
時代背景なども整理しながら分かりやすく解説するので、興味のある方はぜひご覧ください。
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1章:分断社会とは
1章では日本社会における経済的分断と、アメリカ社会における政治的分断を提示します。そのような分断の要因に関心のある方は2章から読み進めてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1:日本社会における経済的な分断
まずは、日本社会における経済的な分断についていくつかデータを見ていきましょう。当然ですが、経済的な分断とは社会全体に経済的な格差が広がることで引き起こされます。
国が行っている国民生活基礎調査の結果を見ると、日本人の1世帯あたりの平均所得金額は1994年に664万円を記録して以降、2012年までは減少傾向となっています。そして、2018年には552万円となっています。
厚生労働省「2019年国民生活基礎調査 結果の概要」9頁
また、世帯所得の中央値も1995年に550万円まで上昇した後、現在まで長期的な減少傾向となっており、2018年には437万円となっています2総務省統計局「所得五分位値-中央値,年次別」(e-Stat 政府統計の総合窓口「令和元年国民生活基礎調査」より)。
ここから分かるのは、
- 現在は横ばいとなっているものの、日本人の平均所得は20年前の水準よりも100万円以上低い
- 中央値は平均値よりさらに100万円以上低く、高所得世帯が平均を押し上げている
という2点です。
加えていえば、日本では相対的貧困率もゆるやかな上昇傾向にあります。1985年には12%でしたが、近年は16%前後で推移しています。
厚生労働省「2019年国民生活基礎調査 結果の概要」14頁
これらのことから、少なくとも、貧困世帯は増加しており、経済的な格差が広がりつつあると考えられています。
この記事でも参照していますが、駒村康平の『中間層消滅』(角川新書)は日本の経済的格差を理解する上で有益な書物です。
1-2:アメリカ社会における政治的な分断
次に、アメリカ社会における政治的な分断についてのデータを提示します。以下のグラフは、アメリカの有権者のイデオロギーを表したもので、青は民主党支持者、赤は共和党支持者を表しています。
Pew Research Center「The Partisan Divide on Political Values Grows Even Wider」
このグラフから、過去の20年間で民主党支持者はより革新的に、共和党支持者はより保守的になっていることがわかります。
Pew Research Center「The Partisan Divide on Political Values Grows Even Wider」
さらにこのグラフからも理解できるように、共和党と民主党がある程度の共通的な政治信念から議論することが難しくなっています。
より具体的に、共和党と民主党の政治的な意見を表したものが以下の図になります。
このように共和党と民主党はさまざまな点で論争的な問題を抱えており、両者の溝を簡単に埋めることはできないと考えられています。
2章:分断社会の要因
さて、2章では上述したような分断がなぜ引き起こされているのか、その要因を見ていきましょう。
分断の要因は多岐にわたるため、ある一つの要因から社会の分断を包括的に説明するのは不可能です。ここでの要因とは、そのような還元的な要因ではなく、あくまでも多様な要因の一つです。
2-1:経済的分断の要因
1章でみたようなここ20~30年の日本における格差の拡大は、なぜ起きたのでしょうか?経済学者の駒村康平は、非正規労働者の増加による日本型雇用システムの縮小と、それに対する政策対応の遅れや不在がこの格差拡大を引き起こしたと論じています3駒村康平『中間層消滅』(角川新書)電子版位置520-692。
バブル崩壊によって株価が下落した日本企業は、短期的なコストが高い日本型終身雇用の見直しを図りました。これにより、正規労働者を将来の幹部候補生に絞り込み、それ以外の労働力は有期雇用によってまかなう企業が増えていきます。
日本型雇用システムは日本独自に進化を遂げたもので、他国では類を見ない雇用システムでした。しかし、従来の日本的雇用システムも時代に合わせた変化が叫ばれるようになっています。
日本の雇用に関しては以下の記事がより詳しいです。
このような変化の結果、雇用者全体に占める非正規労働者の割合は2019年には38.2%となっています。特に、バブル崩壊後の「失われた10年」には、正規労働者になりたくてもなれなかった「不本意非正規労働者」があふれました。
非正規労働者の窮状
- 正規労働者のような厚生年金や健康保険などに加入できず、加入できるのは自営業主を想定した国民年金と国民健康保険のみである
- 正規労働者が支払う保険料は賃金に比例するのに対し、非正規労働者の保険料は定額であるため、低所得者ほど相対的に負担が大きくなる
- また、リーマンショックやコロナ禍のような不況時は、立場の弱い非正規労働者から解雇・雇い止めされていく
こうして、かつての日本であれば正規労働者として中間所得層を占めていた人々が、非正規労働者、または失業者として貧困層となっていき、日本全体の格差の拡大につながったのです。
※非正規雇用問題に関しては次の記事がとても詳しいです→【非正規雇用問題とは】現状・原因・実践されている政策をわかりやすく解説
2-1-1:ブルデューの議論
ここまで、近年の日本において格差が拡大した背景を解説してきましたが、そもそも、このように生まれた経済的な格差を固定してしまう構造がこの社会にあることを明らかにしたのが、社会学者のピエール・ブルデューです。
ブルデューは、フランスの学生を対象に行なった大規模な調査により、教育システムが、人々の階層を再生産していることを明らかにしました。
そうとは言っても、「裕福な家庭では教育にお金をたくさん使えるから優秀な子供が育つ」という単純な現象が起きるわけではありません。
ブルデューが明らかにしたのは、以下の点です。
- 育った階層によって、子どもたちはの学校教育への接し方や、重視する学びなどが異なる
- つまり、単なる経済的な不平等が子供の将来に影響を与えるのではなく、家庭で培った文化的な素養や立ち振舞いなどが、結果的に子どもたちの将来に影響を与える
たとえば、『遺産相続者たち』では、以下のような指摘があります4宮島喬『文化的再生産の社会学』(藤原書店)317-318頁。
本人たちが意識的にそうは考えないにせよ、客観的な就学機会におけるこのような大きな差は、日常的な知覚の場でさまざまな仕方で表現され、高等教育を自分の『不可能』な未来とみるか、『可能』で『当然』の未来とみるかという、社会的出自ごとに異なるイメージをつくりだす。
そしてそのイメージが、こんどは就学への志向を規定するようになる。二人に一人以上が大学に行き、その周囲や家族のなかにも高等教育をありきたりの通常のコースとして見いだしている上級カードルの子弟と、進学が百人に二人以下で、人づてに、また媒介的世界をへだてて勉学と学生のことを知るにすぎない労働者の子弟とでは、未来の勉学がおなじように経験されるはずがない
ブルデューらの調査によれば、このような不平等を生む社会的要因の有効性はきわめて大きいために、次のような現象が起こり得ることを示唆しています5Pierre Bourdieu & Jean-Claude Passeron “les héritiers” (戸田清ほか訳『遺産相続者たち』藤原書店 49頁)。
経済力の平等化がもし実現されたとしても、大学制度は社会的特権を生まれつきの才能や個人的功績へと転換することによって、不平等を正当なものとして認定することをやめない
以上で見てきたように、そもそも階層は社会的な要因によって固定されている側面が強いにもかかわらず、近年の日本では不況や政策対応の遅れによって、経済的な分断がさらに広がったと言えるでしょう。
2-2:政治的分断の要因
次に、アメリカ社会における政治的な分断の要因の一つを考えていきましょう。これに関して広く言われることですが、インターネットのアルゴリズムが鍵となってきます。
アメリカの法学者キャス・サンスティーンは、インターネット上で自分好みのニュースに囲まれている我々の情報環境を「デイリー・ミー(日刊・私)」と呼び、以下のような指摘をしています6Cass R. Sunstein “#REPUBLIC” Princeton University Press(伊達尚美訳『#REPUBLIC-インターネットは民主主義になにをもたらすのか』勁草書房 5頁)。
- 近年の人工知能やアルゴリズムの進化による予測精度の高まりによって、このような情報環境はさらに強化されている
- そうして私たちは、個人に最適化され、非常に快適な「インフォメーションコクーン(情報の繭)」に包み込まれて生きていることになる
このような情報環境の中で生きていると、自分と同じような意見を持った人々の声しか耳に届かないために、自分の意見がそのまま反響してくるような感覚に陥り、自分の意見がさらに強化されていきます。
この現象を理解するために、サンスティーンはアメリカで行ったある実験を紹介しています7Sunstein 前掲書 94頁。
実験概要
- この実験では、約60人のアメリカ国民が、6人×10グループに分けられた
- それぞれのグループは保守、またはリベラルの人々が固まるように構成され、このグループ内である政治的な問題についての議論を行う
- そうすると、議論の前は「保守寄りのリベラル」や「リベラル寄りの保守」などさまざまなグループがあったにもかかわらず、議論の後にはどのグループも元々の意見をより過激にしたものを主張するようになった
- つまり、保守とリベラルが、よりくっきりと分断してしまった
このように、私たちは似たような意見を持つ人同士で付き合ってばかりいると、自分の意見を強化していく一方です。
現代のインターネット空間では、インフォメーションコクーンの中で好みの情報に触れるのみであるために、上記の実験で起きたようなことが、社会全体で起こっているのかもしれません。
社会心理学的な視点から、現在の政治状況を「確証バイアス」として説明することも可能かもしれません。確証バイアスの効用に関しては以下の記事が詳しいです。
【確証バイアスとは】意味・例を心理学的実験からわかりやすく解説
インターネット広告は意図的に分断を作り出すために悪用されるケースが増えています。ブレグジットやトランプ当選に影響を及ぼした選挙への介入について告発した、以下の本が詳しく面白いです。
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2-2-1:小公共圏の誕生?
ユルゲン・ハーバーマスは、世論形成の母体となる、市民の間で討論が行われる空間を「公共圏」と呼びました。
しかし、社会学者の遠藤薫は、現代においては社会全体に大きな公共圏があるわけではなく、1つの社会の中に、それ自身の論理と力学を持つ多様な「小公共圏」が存在していると論じました8遠藤薫編著『ソーシャルメディアと〈世論〉形成—間メディアが世界を揺るがす』(東京電機大学出版会)36頁。
サンスティーンが主張したような、人々が同質な集団内に留まる現象は、このような「公共圏」の島宇宙化として議論することもできるでしょう。以上のような政治的な分断は、日本のネット空間でも起きているようです。
社会学者の瀧川裕貴は、日本の政治家アカウントをフォローするユーザーからなるTwitter=政治場を同定し、そこでのユーザーの政治的志向を分析しました9瀧川裕貴「ソーシャルメディアにおける公共圏の成立可能性」(遠藤薫編著『ソーシャルメディアと公共性』東京大学出版会63-89頁)。
Twitter=政治場
- Twitter上ではイデオロギー的に極端な立場ほど、同質性の高い集団を形成しており、その傾向は保守・リベラルの両方において同様であった
- それらの政治的志向ごとの集団の間には明確な「分断線」が存在し、現状においては異なる政治的立場同士、特に極端な立場同士での議論が阻害されている
また、社会学者の辻大介は、インターネット上で特定のサイトを利用することが、人びとの外国人肯定評価および外国人排斥感情にどのような影響を与えるかを調査しました10辻大介「インターネット利用は人びとの排外意識を高めるか―操作変数法を用いた因果効果の推定」(『ソシオロジ』63巻1号 3-20頁)。
外国人肯定評価および外国人排斥感情への影響
- ネット利用と排外意識の関係における因果の方向を調べた結果、「ネット利用が排外意識を高める」という方向の因果関係が認められている
- 一方で、ネット利用は排外意識を強めるとともに、反排外意識も強めていることが明らかになった
このことから、アメリカだけでなく、日本でも、インターネット上における人びとの政治的立場がより先鋭化し、世論の二極化、ならびに分断の要因となっていた可能性があります。
- 日本社会の経済的分断の要因には、非正規労働者の増加による日本型雇用システムの縮小と、それに対する政策対応の遅れや不在がある
- 政治的な分断の要因には、インターネットのアルゴリズムがある
3章:分断社会に関するおすすめ本
分断社会についての理解は深まりましたか?
この記事で紹介した内容はあくまでもほんの一部にすぎませんので、ここからはあなた自身の学びを深めるための書物を紹介します。ぜひ読んでみてください。
駒村康平『中間層消滅』(角川新書)
日本の格差拡大の要因となった、中間所得層の没落について、様々な論点から解説されています。海外の過去の事例と現代日本の事例を対比させ、類似点を浮かび上がらせています。新書なので、気軽に読むことができるでしょう。
加藤晴久『ブルデュー 闘う知識人』(講談社選書メチエ)
格差や階層を再生産する構造を明らかにしたピエール・ブルデューの功績を、平易かつ詳細に解説している本です。ブルデューの著作は難解なものが多いため、興味がある方はこちらから読んでみるのがおすすめです。ちなみに、終章はブルデューの著作のブックガイドになっており、どれから読むべきかを決めるのにとても役に立つでしょう。
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キャス・サンスティーン『#REPUBLIC』(勁草書房)
近年話題となっている政治的な分断の問題について、インターネット空間の問題点を指摘する形で明らかにした本です。巻末には解説もついており、この問題に関心のある人にとっては必読書となっています。この本で理論的な部分を学んだら、調査や実験でこれを実証している論文などを読むのがおすすめです。
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一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- 分断社会とは、経済的な格差が広がったり、政治的な意見が異なる人々が衝突することで、社会全体が分断されていくことを指す
- 日本社会の経済的分断の要因には、非正規労働者の増加による日本型雇用システムの縮小と、それに対する政策対応の遅れや不在がある
- 政治的な分断の要因には、インターネットのアルゴリズムがある
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