開発教育とは、公正で共に生きることの出来る持続可能な地球社会をつくることを目指した教育学習活動のことです。国際社会の開発をめぐるさまざまな問題を理解することで、その解決に向けた態度や能力を養うことに重点が置かれています。
グローバル化が進む現代において、国際社会で起こっているさまざまな問題が自分とどう関係しているのかを認識することは、その解決に向けた第一歩となります。
とくにこれからの未来を生きていく若い世代にとって、こういった問題を理解する機会として開発教育は欠かせない学習活動の機会となります。
言い換えれば、大人は、少なくともその機会を与える責任があるともいえるでしょう。
この記事では、
- 開発教育の意味
- 開発教育の具体的な取り組み
- 開発教育の歴史
について解説していきます。
好きな箇所から読み進めてください。
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1章:開発教育とは
1章では、開発教育の意味、開発教育の内容・カリキュラム、国際理解教育との違いについて解説していきます。開発教育が実施されるようになった背景は、2章で解説しますので、用途に沿って読んでみてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1:開発教育の意味
まず、冒頭の確認となりますが、開発教育とは、
公正で共に生きることの出来る持続可能な地球社会をつくることを目指した教育学習活動のこと
です。
開発教育の目的は、学習者が国際社会の開発をめぐるさまざまな問題を認識・理解し、その解決のために行動できるようになることです。
開発教育協会(DEAR)は、開発教育の目的を達成するためには次の5つの学習目標を掲げる必要があると述べています2開発教育協会HP「開発教育とは」 (最終閲覧日:2020年6月13日)。
- 多様性の尊重
- 開発問題の現状と原因
- 地球的諸課題の関連性
- 世界と私たちのつながり
- 私たちの参加
開発を考える上で、人々の生活や人権を守ること(①多様性の尊重)や、世界各地に見られる貧困問題や格差の現状や原因(②開発問題の現状と原因)、環境破壊などの地球的課題との関係性(③地球的諸課題の関連性)を理解することは大切です。
そして、この問題を解決するためには、自分たちが問題とどう関係しているかに気づき(④世界と私たちの繋がり)、これからどう行動していく必要があるか(⑤私たちの参加)まで考える必要があります。開発教育はそのような思考ができる態度や能力を養うことを目指しています。
この開発教育は、もともとは「南北問題」が世界的な課題となっていた1960年代にヨーロッパで提唱された教育運動でした。
南北問題とは、先進国と開発途上国の間にある経済格差の問題のことです。経済的に豊かな国が世界地図上の北側、貧しい国が南側に偏っていることからそう呼ばれていました。
1970年代になると、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)やユニセフ(国際連合児童基金)といった国際機関でも採用され、先進国を中心に広まっていきます。
日本では、1990年代にODA(政府開発援助)の拠出額が世界第1位になったことで、国内でも国際協力や開発への関心が高まり、開発教育の必要性が認識されるようになりました。
ODA(政府開発援助)に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
当初、日本の開発教育はYMCA(キリスト教青年会)や国際交流協会などの一部の団体、JICA(国際協力機構)の地域センターなどによって、研修会や市民講座といった学校外での社会教育や市民活動として行われていました。
しかし、2002年から実施された「総合的な学習の時間(総合学習)」の導入により、開発教育が学校教育の中でも実施されるようになっていきます。このようにして、現在では学校内外のさまざまな場所で開発教育が行われる機会が増えていきました。
*開発教育の歴史に関しては、2章より詳しく解説します。
1-2:開発教育の具体的な内容・カリキュラム
では一体、開発教育では具体的にどのようなカリキュラムが使われるのでしょか?
実際のところ、開発教育のテーマは、上述の目的から大きく外れない限り、どのような問題でもテーマにすることができます。しかし、一般的な傾向として、国際問題・地球的課題といった問題が取り上げられやすいです。
開発教育協会(DEAR)が2012年に発行した「開発教育実践ハンドブック―参加型学習で世界を感じる[改訂版]」を見ると、以下のような学習プログラムのテーマが設定されています。
1. [子ども]世界の仲間と友達になろう
2. [文化]異文化を身近に感じよう
3. [食]世界からやってくる私たちの食べ物
4. [環境]命を守る水
5. [貿易]ものの流れから見る世界と私たち
6. [貧困]貧困の悪循環を断ち切ろう
7. [識字]識字・非識字について考える
8. [難民]難民 同じ時代を生きるこどもたちへ
9. [国際協力]望ましい国際協力を考えよう
10.[ジェンダー]ジェンダー・フェアな社会へ
11.[在住外国人]多文化共生の課題を見つけよう
12.[まちづくり]きもちをかたちに!まちづくり
また、開発教育は扱うテーマ以上に、「参加型学習」と呼ばれる学習形態を用いる点が特徴です。
参加型学習とは、学習者が学習過程に参加することを促すような学習形態を指します。学習プロセスにおいて知識よりも体験を重視することから、体験型学習と呼ぶこともあります。
参加型学習で用いられる活動としては、以下のような手法が考えられます。
- 発表
- 対話
- 実験
- 見学
- 調査
- スタディツアー
- ワークキャンプ
- ディベート
- ランキング
- フォトランゲージ
- シミュレーション
- ロールプレイ
- プランニング
どの手法も学習者にとって、緊張することなく和やかな雰囲気の中で、自分が持っている知識や経験、個性や能力を活用し、意見交流や相互理解を促進させることができる方法とされています。
加えて、この参加型学習では、教師や指導者はファシリテーターとしての役割が求められます。
ファシリテーターとは、学習者一人ひとりが、それぞれを尊重しながらも、彼らの持っている知識や経験を引き出し、その中で対話を生み出し、相互の学び合いを促進する役割です。
このファシリテーターの存在が参加型学習を通して開発教育を進める上で重要な要素となっています。
1-3:開発教育と国際理解教育の違い
開発教育とあわせて「国際理解教育」という言葉もよく聞かれます。国際理解教育は、ユネスコ(国連教育科学文化機関)によって提唱された教育活動です。
当時の内容は、平和教育、人権教育、国連教育、各国理解が目的でした。その後、国際社会では東西の軍事対立に加え、南北問題や環境問題など新たなグローバルな課題が出現し、これを受けてユネスコは、1974年に「国際教育」の推進することになります。
その際、以下のような出来事が起きました。
- 「国際理解、国際協力および国際平和のための教育ならびに人権および基本的自由についての教育に関する勧告」というものを世界中の加盟国に発した
- これからの教育が取り扱うべき人類共通の課題として、民族、平和・軍縮、難民・人権、開発、人口、資源・環境、文化遺産などが提示された
2005年には、国際理解教育はESDと名称を変え、世界中へとその取り組みが広がっていくことになります。ちなみに、ESDとは「Education for Sustainable Development」の略で、「持続可能な開発のための教育」のことです。
ESDは、
- 環境、貧困、人権、平和、開発といった世界各地で起こっている様々な問題を自らの問題として捉えて、身近なところから取り組むこと
- それらの課題の解決につながる新たな価値観や行動を生み出すこと
- そしてそれによって持続可能な社会を創造していくこと
を目指す学習や活動です。
このように、国際理解教育や開発教育だけでなく、現在では開発教育、国際教育、ESD、グローバル教育とさまざまな名称で呼ばれています。
どれも始まったきっかけや背景は少し違います。しかし、そこで取り組む課題は、
- 外国理解や異文化理解の促進すること
- 人類共通課題の解決のための人類共通意識やグローバルな視野の促進すること
- グローバルな市民性を育成すること
が重要であるという点で共通しています。
したがって国際理解教育と開発教育は、扱っているテーマや課題、手法などそれぞれお互いに重なる部分が多くあるものであり、教育活動を通して目指すゴールは同じところにあると言えるでしょう。
- 開発教育とは、公正で共に生きることの出来る持続可能な地球社会をつくることを目指した教育学習活動のことである
- 一般的な傾向として、国際問題・地球的課題といった問題が取り上げられやすい
2章:開発教育の背景・歴史・現在
さて、2章では日本の文脈を中心に、開発教育の背景・歴史・現在を解説していきます。
2-1: 開発教育の背景
開発教育の始まりは、1960年代の欧米諸国における海外協力活動であると言われています。上述したように、当時の国際社会において問題となっていたのが南北問題でした。
多くのNGOがアジアやアフリカの開発途上国への支援を始める中で、開発途上国の人々が飢餓や貧困に苦しんでいることを知ってもらい、援助の必要性を理解してもらう活動に力を入れるようになりました。
しかし、それでもなかなか埋まらない経済格差に、ただ広報や募金をもとめるだけではなく、真剣にこの問題について解決策を考え、議論する場が必要だと考えるようになっていきます。
それが教育活動として発展していき、現在の開発教育の原型となったと言われています。
2-2: 日本での活動
この動きはやがて日本にも伝わります。上述のように、1970年代には、YMCA(キリスト教青年会)やガールスカウトなど、もともと国際的な強いつながりを持つ団体が国際交流の一環として教育活動を始めていました。
また、JICAの青年海外協力隊の帰国隊員が、開発途上国での国際協力の経験を地元で伝えるような活動も展開され始めたのもこの頃でした。
「開発教育」という言葉を用いて初めて大規模な催しが行われたのは、1979年に栃木と東京で開かれた「開発教育シンポジウム」でした。
開発教育シンポジウムとその後
- これを主催したのは、それまでに途上国とのつながりやそこでの活動経験があった青年海外協力隊の事務局や帰国隊員だけでなく、青少年団体、日本ユニセフ協会、国連広報センターなどの国連機関であった
- そして、1982年にこのシンポジウムに関わった団体や人々を中心に開発教育協議会(現在の開発教育協会)が結成され、現在もなお開発教育のセンター的役割を担っている
また、80年代から90年代は、日本でアジアやアフリカを支援するNGOが多く設立されていき、NGOによる国内の広報活動の一環として、開発教育活動がより充実されるようになりました。
たとえば、以下のような独自性を持った開発教育活動が展開されていきました。
- 「シャプラニール=市民による海外協力の会」・・・開発教育活動に使用するためのビデオ教材を作成した
- 「日本国際ボランティアセンター」・・・生活用品を使用した国別の開発教育教材を作成した
そして、日本における開発教育の取り組みは、ついに日本の学校教育制度の中でも正式に扱われ始めます。
きっかけとなったのは、2002年に導入された「総合的な学習の時間(総合学習)」でした。
総合学習とは、「地域や学校、児童(生徒)の実態等に応じて、横断的・総合的な学習や児童の興味・関心等に基づく学習など創意工夫を生かした教育活動」3小学校学習指導要領(平成10年12月告示、15年12月一部改正)第1章総則よりとして始められたものです。国語・算数・理科・社会のような教科教育とは異なります。
この学習指導要領の中で扱うべき総合学習のテーマの例として、国際理解、環境、福祉・健康、情報、地域課題が挙げられました。
たしかに、それまでも一部の教師による授業や講演会のような単発的な教育活動としては行われてきましたが、カリキュラムとして継続的で体系的に行われるようになったのは、総合学習がきっかけでした。
総合学習では、児童や生徒が「自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え」、「問題の解決や探究活動に主体的、創造的に取り組」4小学校学習指導要領(平成10年12月告示、15年12月一部改正)第1章総則よりむことが求められていたため、まさに開発教育が重視してきた参加型学習と親和性の高い教育手法と言えます。
さらに、2005年に国連が定めた「持続可能な開発のための教育(ESD)の10年」は、日本の教育現場にも強い影響を与え、ESDへの取り組みとともに開発教育は今や学校現場で定着しつつある教育活動です。
2-3: 近年の開発教育
近年では、SDGs(持続可能な開発目標)が掲げる「誰一人取り残さない」の理念に基づいて教育活動が行われることも多くなってきました。
SDGsでは17の目標を通して、
- 公正・不公正、対立と平和、環境、格差などの問題を発見すること
- 地域で(locally)、それぞれの国で(nationally)、世界で(globally)その解決に取り組んでいくこと
が求められています。
加えて、2017年告示の新学習指導要領では、学力の要素として「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学習意欲」の 3 つが示されています。それぞれ以下の意味をもちます。
- 知識・技能・・・「何を知っているか、何ができるか」
- 思考・判断・表現・・・「知っていること、できることをどう扱うか」
- 学習意欲・・・「どのように社会・世界と関わりよりよい人生を送るか」が重要である
これらの資質能力を獲得するためには、「主体的で対話的な深い学び(アクティブ・ラーニング)」の実践が必要とされています。
新学習指導要領が示しているものは、開発教育の理念とも合致する部分が多く、学校教育と開発教育の親和性は高いと言えるでしょう。
また、学校現場とJICAやNGOとの協働による開発教育の推進も進んでおり、JICAやNGOの職員が講師(ファシリテーター)として学校に派遣される事例も多数報告されています。
- 開発教育の始まりは、1960年代の欧米諸国における海外協力活動である
- カリキュラムとして継続的で体系的に行われるようになったのは、総合学習がきっかけである
- 「主体的で対話的な深い学び(アクティブ・ラーニング)」の実践が必要されている
3章:開発教育について学べるおすすめ本
開発教育について理解できましたか?さらに深く知りたいという方は、以下のような本をご覧ください。
田中治彦・三宅隆史・湯本浩之『SDGsと開発教育:持続可能な開発目標ための学び』(学文社)
開発教育とSDGsについて、その歴史から教育方法までを丁寧に解説した一冊です。現在の国際社会の課題についても説明している開発教育の入門書です。
『開発教育基本アクティビティ集1-世界とのつながり』(開発教育協会)
開発教育を実際に実践してみたい方におすすめの一冊です。開発教育の特徴でもある参加型学習を体感的に理解できるアクティビティ例がたくさん集録されています。
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池田香代子『世界がもし100人の村だったら』(マガジンハウス)
開発教育の教材として使われている代表的な一冊です。地球に住む63億人を100人の村に縮めることで見えてくる世界の現状を伝える現代の民話です。
一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- 開発教育とは、公正で共に生きることの出来る持続可能な地球社会をつくることを目指した教育学習活動のことである
- 開発教育の始まりは、1960年代の欧米諸国における海外協力活動である
- カリキュラムとして継続的で体系的に行われるようになったのは、総合学習がきっかけである
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引用・参考文献
- 開発教育協会HP「開発教育とは」http://www.dear.or.jp/org/2056/ (最終閲覧日:2020年6月13日)
- 文部科学省HP「ESD(Education for Sustainable Development)」https://www.mext.go.jp/unesco/004/1339970.htm (最終閲覧日:2020年6月13日)
- 西岡尚也(1995)「わが国における開発教育の動向と課題一第三世界との新たな関係を構築する教育への一試論―」,佛教大學大學院紀要,23,pp95-119
- 原郁雄(2011)「開発教育における『体験的学習活動』の『意欲・態度』形成面への有効性を探る」,横浜市立大学論叢.,社会科学系列,62(1,2&3),pp231-281
- ・文部科学省(2003)「小学校学習指導要領(平成10年12月告示、15年12月一部改正)第1章総則」より抜粋https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/cs/1320013.htm (最終閲覧日:2020年6月24日)