陰謀論(Conspiracy theory)とは、ある出来事を「陰謀」という視点からのみ説明しようとする妄想症的(パラノイア)主張です。
古今東西、陰謀論は存在しており、現在では大衆娯楽として陰謀論を楽しむ方も多いと思います。しかし、陰謀論が社会に影響を与えたきたことは重要な事実です。
たとえば、下記で触れるように、オウム真理教は陰謀論を抜きにして語ることはできません。そのため、陰謀論を知ることは社会を深く理解することにも繋がります。
この記事では、
- 陰謀論の意味
- 陰謀論の具体例
- 陰謀論とアメリカ
をそれぞれ解説解説してきます。
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1章:陰謀論とは
1章では陰謀論を「意味」「具体例」「特徴」から概説します。アメリカにおける陰謀論に興味がある方は、2章から読み進めてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1: 陰謀論の意味
まず、冒頭の確認となりますが、陰謀論とは、
ある出来事を「陰謀」という視点からのみ説明しようとする妄想症的(パラノイア)主張
です。
たとえば、「東日本大震災は人工地震兵器によってもたらされた」「ユダヤ人が世界を裏で操っている」などを聞いたことがあるかもしれません。
このような表向きの「事実」は、何者かが「真実」を隠すために計画したものだ。我々は「彼ら」に騙されて、操られるのである。といった主張が陰謀論となります。
宗教学を専門とする辻隆太朗は、『世界の陰謀論を読み解く』(講談社現代新書)において以下のような定義を提示しています2辻隆太朗『世界の陰謀論を読み解く』(講談社現代新書, 5頁。
- ある事象についての一般的に受け入れられた説明を拒絶し、
- その事象の原因や結果を陰謀という説明に一元的に還元する
- 真面目に検討するに値しない奇妙で不合理な主張とみなされる諸理論
少し堅い説明かもしれませんが、陰謀論とはこのように定義されるものです。
1-2: 陰謀論の具体例
さて、辻は上述の書物で数多くの陰謀論を紹介しています。限定的にとなりますが、「オウム」「ユダヤ陰謀論」をここでは紹介します。
重要なのは「陰謀論は狂っている」と一刀両断するのではなく、その人々の視点から世界を理解することです。
それは2章で紹介するジェーシー・ウォーカーが指摘するように、「陰謀論は、対象については何ら真実を語っていないとしも、それを信じて繰り返し口にする人びとの懸念や経験については、いくばくかの真実を語っている」3ジェーシー・ウォーカー『パラノイア合衆国』河出書房新社, 24頁からです。
1-2-1: オウムの事例
オウムの世界観は、身近な出来事から歴史上の出来事まで極めて陰謀論的です。たとえば、機関誌『ヴァジラヤーナ・サッチャ』と公式サイト「世界陰謀大全」では以下のような出来事、人物、組織が「彼ら」の陰謀として考えられました。
- マスメディアは人間を物質的欲望に動物化しており、携帯電話は「洗脳電話発信器」である
- 電気・電話・鉄道の民営化は、ユダヤ資本が日本のインフラを支配するための陰謀である
- 民主主義・自由主義は、政治を衆愚化、国家を弱体化させるための陰謀である
- ホロコーストはユダヤ人の陰謀である
- ビートルズはイギリスのダヴィストック研究所が計画した大衆洗脳である
聞いたことがない方には、衝撃的な内容に聞こえるかもしれません。しかし、このようなフレームを通して、オウムは世界を見ていたのです。
1-2-2: ユダヤ陰謀論
ユダヤ人陰謀論は有名ですので、知っている方も多いかもしれません。経済界やメイディアに強い影響力をもつと考えられたユダヤ人には、次のような陰謀があると信じる人がいます。
- ユダヤ人は世界の政治経済を支配している
- ユダヤ人はキリスト教から二度と迫害されない世界を創るために、あらゆる陰謀を企ている
- ユダヤ人がフリーメイソンを操って、フランス革命やロシア革命を引き起こした
- ユダヤ地下政府の会議で語られた世界支配計画の文書が流失した、『シオン賢者の議定書』(通称、プロトコル)が存在する
特に、『プロトコル』は社会に大きな影響を与えています。自動車王のヘンリー・フォードは『プロトコル』を基に『国際ユダヤ人』という陰謀論を出版してますし、ヒトラーも『プロトコル』はユダヤ人の本性を明らかにしたものと評価しています。
しかし、実際には『プロトコル』は偽書であることが明らかになっています。制作者はロシア秘密警察とされ、目的は以下のようなものでした。
- 帝政ロシアの脅威となった、自由主義・近代的潮流をユダヤ人に帰すこと
- ユダヤ人の迫害を煽り、既存秩序の正当化と延命を図ること
『プロトコル』に関しては深入りすると話が脱線しますのでストップしますが、この文書が社会的に影響を与える例だと理解できたと思います。
ユダヤに関する陰謀論は、実際にナチス・ドイツによる迫害に繋がりました。詳しくは、アーレント『全体主義の起源』の「反ユダヤ主義」を読んでいただきたいですが、下記の記事でも説明しています。
【全体主義とは】生まれた理由からアーレントの主張までわかりやすく解説
「フリーメイソン」「イルミナティ」「震災デマ」など触れることのできなかった事例も多くあるので、知りたい方はぜひ辻隆太朗のこちらの本を当たってみてください。
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1-3: 陰謀論の特徴
では、一体上記の事例に共通する特徴とは何でしょうか?端的にいえば、陰謀論によって自分を陥れる仮想敵を作り出し、自らの原理の正当化をしていったことです。
少し長いですが、辻の言葉を借りると、陰謀論の解釈の枠組みとは以下のようなものです4辻隆太朗『世界の陰謀論を読み解く』(講談社現代新書, 251頁。
現代世界の「窮状」は歴史の意思せざる結果などではなく、何者かによってそのように、徹頭徹尾計画的に操作されてきたのである。つまり彼らは世界の現状を直接的に引き起こした明確で単純な因果関係、明確な犯人を求めるのである。・・・(中略)・・・自己の「正しさ」についての想定を損なうことなしに、理解できないもの、認めがたいものを説明可能とするための補助線、あるいは解釈枠組みなのである。
加えていえば、陰謀論に対するありとあらゆる反証は意味を待たないことも特徴です。なぜならば、その反証それ自体が陰謀の仕業であると解釈されるためです。つまり、ある情報によって陰謀を否定すると、陰謀勢力による情報操作に騙されているとみなされてしまうのです。
そのため、いくら「事実(facts)」を提示しようとも、それ自体にはあまり意味がないです。言い換えれば、外部から見れば明らかに論理矛盾であっても、陰謀論内部では論理的整合性をもって完結しているといった特徴があります。
- 陰謀論とは、ある出来事を「陰謀」という視点からのみ説明しようとする妄想症的(パラノイア)主張である
- 有名な陰謀論には「オウム」「ユダヤ陰謀論」がある
- 陰謀論によって自分を陥れる仮想敵を作り出し、自らの原理の正当化をする
2章:陰謀論とアメリカ
さて、2章ではアメリカにおける陰謀論を紹介していきます。アメリカでは陰謀論が特に社会に影響を与えているため、大まかに理解しておくこと必要があるでしょう。
2-1: 陰謀論とアメリカ史
非常に興味深い仕事は、ジェーシー・ウォーカーによる『パラノイア合衆国』(河出書房新社)です。この書物は、陰謀論の観点からアメリカ史を再考したものです。
簡単に結論を提示することが許されれば、陰謀論は政治的な少数派の運動ではなく、誰もが陥る可能性のあるパラノイア的思考であるが示されています。
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重要なのは、ここでいう「パラノイア(paranoia)」とは精神科的な用語ではないことです。むしろ、より一般的な意味で陰謀に対する懸念や恐怖を指す言葉として使われています5ジェーシー・ウォーカー『パラノイア合衆国』河出書房新社, 429頁。
そして、著者も指摘するように、アメリカでは敵対する政治的立場を非難する用語として、「パラノイア(paranoia)」が使われてきました。たとえば、以下のようなものが提示されています。
- 17世紀におけるインディアン陰謀論(=外なる敵)
- 短編『若いグッドマン・ブラウン』(1835)に提示されるような内なる敵としての陰謀者
- ウォーターゲート事件や9・11後の騒動(現代の陰謀論)
このように、17世紀のイギリス植民地時代から現代アメリカまで、多様な立場から多様な陰謀論があったことを詳細な歴史から論証しています。そして、現代アメリカでもっとも陰謀論が問題となっているは、次に紹介する白人ナショナリストの陰謀論です。
2-2: 白人ナショナリズム
トランプ大統領誕生以前から存在し影響力を増しつつある白人ナショナリズムは、現代のアメリカを語る上で無視できない存在です。そして、白人ナショナリズムは陰謀論と強く結びつけられています。
たとえば、アメリカ研究者の渡辺靖は著者『白人ナショナリズム』(中公新書)で「陰謀論の政治学」と題した節で、白人ナショナリズムと陰謀論の親和性を指摘しています6渡辺靖『白人ナショナリズム』中公新書, 147−153頁。ここでも全てを紹介することはできませんが、具体例として以下のようなものが提示されています。
- 1995年のオクラホマシティ連邦政府爆破事件は、反政府系の陰謀論に突き動かされたもの。一部の白人ナショナリストは主犯を英雄視している
- 2001年9月11日同時多発テロ事件は、アメリカ政府またはネオコンの仕業であるという陰謀論がある
- トランプ大統領も加担した、出生運動(birther movement)ではオバマ大統領がアメリカ生まれではないことが指摘された
このような陰謀論の中でも、特に異様なのはインターネットの匿名掲示板サイト「4chan」や「8chan」で陰謀論を主張する謎の人物「Q」の存在です。
謎の人物「Q」は、
- トランプ大統領こそが「闇の国家」と戦う救世主だ
- ジョン・F・ケネディは「闇の政府」に暗殺されたのだ
といった主張をインターネットの匿名掲示板で繰り返しています。
そして、「Q」を礼賛する「QAnon」という一派はトランプ大統領の集会で以下のようなプラカードを掲げるまでに至っています(写真1)。
(写真1「トランプ大統領の集会における「Q」の存在」出典:渡辺靖『白人ナショナリズム』中公新書, 149頁)
2-2-1: キリスト教原理主義と陰謀論
では一体、なぜ白人ナショナリズムと陰謀論には親和性があるのでしょうか?上述した辻によると、宗教的な観点からいえば、このような政治的・道徳的保守と陰謀論は結びつきやすい傾向性があります(※必然性はない)7辻隆太朗『世界の陰謀論を読み解く』(講談社現代新書, 235頁。
その中で特に結びつきやすいのは、キリスト教原理主義的な価値観です。簡単にいえば、キリスト教原理主義は①聖書無謬説(聖書には間違いこと)、②排他的な態度、③保守的価値観の擁護などの特徴をもっています。
キリスト教原理主義に関してよりは、以下の記事や書物を参考にしてください。
→【キリスト教原理主義とは】宗教右派・福音派と共にわかりやすく解説
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このような特徴から、キリスト教原理主義は、たとえばリベラルな思想を神なき思想と考えられがちです。特に、一部の急進派は啓蒙主義以降の近代思想を伝統的なキリスト教への挑戦と捉えています。
加えていえば、千年王国的な観点において、キリスト教原理主義は現代社会は堕落の一途を辿っていると見なしています。そのため、キリストの再臨は近いと考えているのです。
このようなものの見方は、
- 邪悪な存在が世界を悪い方向に導けば導くほど、キリスト教の再臨を信じるキリスト教原理主義の世界観は肯定される
- つまり、世界が陰謀によって支配されるという、陰謀論の世界観と似ている
ことになります。
事実、「古き良き」伝統の破壊は陰謀論の伝統的なテーマであり続けてきましたし、それらを反キリスト的と考えることも多かったです。
いずれにせよ、アメリカ社会における陰謀論は無視できるテーマではないことが理解できたのではないでしょうか。
- 陰謀論は政治的な少数派の運動ではなく、誰もが陥る可能性のあるパラノイア的思考である
- 政治的・道徳的保守と陰謀論は結びつきやすい傾向性である
3章:陰謀論を学ぶためのおすすめ本
陰謀論を理解することはできましたか?
馴染みがあった方もなかった方も、以下の書物を参考にさらに学びを深めていってください。
オススメ度★★★ 辻隆太朗『世界の陰謀論を読み解く』(講談社現代新書)
この記事でも多くを参照した本です。陰謀論の馴染みのある方ない方にオススメできる本です。ぜひ読んでみてください。
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オススメ度★★★ ジェーシー・ウォーカー『パラノイア合衆国』(河出書房新社)
アメリカ合衆国における陰謀論の歴史を知りたい方にオススメです。非常に詳細な歴史から陰謀論の実態を学ぶことができます。小説みたいに読める点も良いです。
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オススメ度★★ 渡辺靖『白人ナショナリズム』(中公新書)
陰謀論と直接関係ないかもしれませんが、陰謀論的な考えがいかに社会に影響を与えるのかを垣間見ることができます。ジャーナリズム的な本なので簡単読めることができます。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- 陰謀論とは、ある出来事を「陰謀」という視点からのみ説明しようとする妄想症的(パラノイア)主張である
- 陰謀論によって自分を陥れる仮想敵を作り出し、自らの原理の正当化をする
- 陰謀論は政治的な少数派の運動ではなく、誰もが陥る可能性のあるパラノイア的思考である
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