ファヨールの管理過程論(Fayolism)とは、フランスの実業家ジュール・アンリ・ファヨールによって提唱された伝統的な経営管理論です。
管理論としての経営学という学問領域が確立されたのは、ファヨールの『産業ならびに一般の管理』に書かれた管理原則が起源であると考えられています。
そのため、ファヨールはアメリカのフレデリック・テイラーに並び経営学のパイオニアとしていまでも高い評価を得ている人物です。
この記事では、
- ファヨールの管理過程論の背景・特徴
- ファヨールの管理過程論の学術的な位置づけ
などについて解説します。
好きな箇所から読み進めてください。
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1章:ファヨールの管理過程論とは
まず、1章ではファヨールの管理過程論を概説します。2章では管理過程論を深掘りしますので、用途に沿って読み進めてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1:ファヨールの伝記的情報
ジュール・アンリ・ファヨール(Jule Henri Fayol、1841年 – 1925年)
ジュール・アンリ・ファヨールは、1841年にフランスのアリエ県の資産家一族の家系に生まれました。
ファヨールは1860年にフランスのサン・テチエンヌ鉱山大学を卒業すると、その後生涯関わり続けることになるボワグ・ランブール合資会社のコマントリ鉱山の技師として就職しました。
ボワグ・ランブール合資会社とは
- ボワグ・ランブール合資会社(のちに株式会社コマントリ・フルシャンボーに改組)は、ファヨールの母校であるサン・テチエンヌ鉱山大学での先輩にあたるステファーヌ・モニーによって創設された
- モニーの強力なリーダーシップによって順調な成長を遂げていたが、1884年にモニーが急死すると、跡を継ぐ形でファヨールが代表取締役に就任した
地質学に長けた鉱夫としてボワグ・ランブール社に就職したファヨールでしたが、その後は天性とも思える経営能力を開花させていました。ボワグ・ランブール社のフランス国内の事業の統括にあたって、その手腕を発揮していたさなかの代表取締役への昇進でした。
代表取締役として就任したファヨールでしたが、就任直後のボワグ・ランブール社の経営環境は決して良いものでなく、急激な市場変化によって経営危機に瀕していました。そのため、次のような改革をすすめていきます。
- 企業の再建が代表取締役として最初の仕事となったファヨールは、事業の多角化や事業の選択と集中を進めた
- その結果、ボワグ・ランブール社の業績は大きく改善し、ファヨールはその後約30年にわたってボワグ・ランブール社の経営の指揮をとった
このように実務家として高い評価を得ていたファヨールでしたが、理論家としても非凡なる才能を発揮します。
特に、ファヨールの没年でもある1925年に出版された『産業ならびに一般の管理』は企業における管理の重要性を体系的に説明した名著としていまでも読み継がれています。
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1-2:ファヨールの管理過程論の特徴
ファヨールが『産業ならびに一般の管理』において、まず主張したのが管理教育の必要性でした。その背景には、企業の活動は次の6つの機能に分類できるというファヨールの指摘が存在しました。
- 技能的機能・・・新商品開発や生産管理に関する機能
- 商業的機能・・・マーケティングや調達に関する機能
- 財務的機能・・・財務管理や資金調達に関する機能
- 保全的機能・・・リスク管理や企業の持続可能性に関する機能
- 会計的機能・・・簿記や損益管理に関する機能
- 管理的機能・・・経営管理に関する機能
①~⑤の機能についてはファヨールが生きている頃からその技能の重要性は認識されており、大学や専門学校においても技能を教育する機関は存在していました。
しかし、管理的機能を教育する機関は存在しておらず、ファヨールは著書において、学校教育で管理的能力を必ず学ばせることの必要性を提言しています2経営学史学会監修、佐々木恒夫編著(2012)『経営学史叢書 ファヨール』文真堂 35頁。
さらに、ファヨールは企業の活動のひとつである管理的機能を次のように定義しました3経営学史学会監修、佐々木恒夫編著(2012)『経営学史叢書 ファヨール』文真堂 30頁。
- 管理すること・・・予測し、組織し、命令し、調整し、統制すること
- 予測(計画)すること・・・将来を検討し、活動計画を作成すること
- 組織すること・・・権限と責任の種類を割り付け、企業の物的並ならびに社会的な二重の組織を構成すること
- 命令すること・・・計画を実行させること、従業員を作業に就かせること
- 調整すること・・・あらゆる活動とすべての努力を結合し、一元化し、調和させること
- 統制すること・・・すべての活動が確立された基準に則り、命令通りにおこなわれることを確保すること
ここでファヨールが補足しているのは、管理とは企業の責任者あるいは指揮者の独占的特権でもなければ、個人的な責務でもないとしていることです。
管理とは、あくまで組織の指導者とその構成員との間で分担されるべき機能の一つに過ぎず、その他の5つの経営の機能とは区別して考える必要があるとファヨールは主張しています。
そして管理的機能とは、端的にその機能を説明するのであれば、「企業が自由な処分を任せている資源から可能な限りの最大利潤を獲得できるよう、企業本来の目標の達成に向けて、作用させ、指揮・督励」4経営学史学会監修、佐々木恒夫編著(2012)『経営学史叢書 ファヨール』文真堂 31頁することであると述べています。
1-3:管理の14原則
さて、ファヨールは、管理的機能を遂行するにあたり、自らの経験に照らし合わせて重要と思われる以下の14の項目を管理原則として挙げています。
- 分業・・・組織の多様な機能を分業すること
- 権限-責任・・・権限に基づく行為の責任を信賞必罰として明確にすること
- 規律・・・組織としての確立された約定を外形的象徴として定めること
- 命令の一元性・・・業務の担当者が唯一の責任者以外から命令を受け取ってはいけないこと
- 指揮の一元性・・・ひとつの組織目標に対して、ひとりの責任者とひとつの計画のみを置くこと
- 個人的利益の全体的利益への従属・・・一個人や一集団の利害が、企業全体の利害に優先されることがあってはならないこと
- 従業員の報酬・・・従業員への報酬を公正に定め、使用者と従業員双方が満足するように努めること
- 権限の集中・・・組織全体として最良の成果がもたらされるように必要な権限を配分すること
- 階層組織・・・組織階層を上位権限者から下位の担当者に至る責任の配列とすること
- 秩序・・・組織としての物的または社会的秩序を守ること。有形資源や人的資源の適材適所への配置に努めること
- 公正・・・規律に定められていないことに対しても、人間的かつ社会的な好意と正義を前提として行動すること
- 従業員の安定・・・従業員の環境適応に対して、中長期的な時間的な猶予を持つこと
- 創意・・・担当者の仕事への熱意や意欲を尊重し、増大させるような対応を試みること
- 従業員の団結・・・団結が作り出す力を信じ、組織の好ましい調和を生み出すこと
もっともファヨールは、この14の管理原則は管理機能を増大させるためのある一定の原理原則に過ぎないと指摘しています。そもそも、管理問題とは極めてダイナミックのものであり、経営者は常に多くの可変的な要素を考慮にいれておかねばならないと注意しています。
そして、管理問題に厳密かつ絶対的なものはなく、すべてが程度の問題として捉えられるべきものだとし、同一原則を同一の条件のもとで再度適用することは基本的にありえないと主張しています5経営学史学会監修、佐々木恒夫編著(2012)『経営学史叢書 ファヨール』文真堂 36頁。
1-4:ファヨールの管理論が誕生するまで
上記の理論を見るだけでもファヨールの管理論が、非常に実務的でありながら、なおかつ理論的・科学的な内容であることがわかります。
その背景には、ファヨールという人物が、純粋な学者ではなく「鉱夫上がりの経営者」であったことも要因として挙げられます。しかし、『産業ならびに一般の管理』の日本語訳者でもある佐々木恒夫は、次のような指摘をしています6経営学史学会監修、佐々木恒夫編著(2012)『経営学史叢書 ファヨール』文真堂 60頁。
- ファヨールは企業経営に携わる傍らで、コントやクロード・ベルナール等の実証主義哲学の書物に親しみ、『社会科学協会誌』に掲載される各種論文にも目を通していた
- そのため、ファヨールがそれらの影響を受けつつ、独自の管理論を構築できた大きな要因であった
特にベルナールは、近代生理学の祖とも呼ばれるほどの人物であり、近代科学方法論の確立にも大きな貢献を果たした人物です。
ベルナールの思想や功績は、生理学の分野だけに留まらず、のちの社会学や近代経営学にも大きな貢献をもたらしているとも言われており、いまでも社会科学の基礎をなしているものです。
その事実からも、ベルナールに触れていたファヨールの理論が単なる実務の書ではなく、理論的・科学的な書として後世まで語り継がれるようになったのは、ファヨール自身の幅広い視座と深い教養が加わったことで、独自の経営理論が形成されたと考えられています。
- ファヨールの管理過程論とは、フランスの実業家ジュール・アンリ・ファヨールによって提唱された伝統的な経営管理論である
- ファヨールの主張する管理とは、企業の責任者あるいは指揮者の独占的特権でもなければ、個人的な責務でもない
2章:ファヨールの管理過程論の学術的議論
2章では、ファヨールの管理論をテイラーの科学的管理法や、のちに確立された過程的管理論などを参考にしながら、その発展を考察します。
2-1:ファヨールとテイラー
ファヨールとほぼ時を同じくして、科学的な管理法を提唱した人物にアメリカのフレデリック・テイラーがいます。
ファヨールとテイラーはそれぞれフランス出身とアメリカ出身と出生の地は異なりましたが、いずれも今日の経営学のパイオニアとも呼べる存在であり、経営学の教科書には必ずと言っていいほど名前の載っている二人です。
テイラーは「科学的管理の父」と呼ばれ、従来の工場主の主観や経験に基づいて運営されていた企業活動を開放し、科学的で客観的な根拠に基づいて実施しようと試みようとした人物です。
※より詳しくこちらの記事を参照ください→【テイラーの科学的管理法とは】背景・内容・問題点をわかりやすく解説
テイラーに対してファヨールが問題にしているのは、工場現場の作業よりも工場や会社などの組織全体の経営活動でした。
さらにいえば、行政やあらゆる種類の組織全体の経営に関する組織原則を提唱している点からも、今日の経営学のルーツとなっているのはファヨールの管理論であると解釈するのが一般的です。
もっとも、テイラーの科学的管理法は今日の経営工学(Industrial Engineering :IE)の基礎となっており、そもそも研究対象とした領域に違いがあったという点は注意しなければなりません。
2-2:ファヨールの管理論の発展
ファヨールの管理論は、テイラリズム(テイラーの科学的管理法の思想を持つ理論のこと)との対比を繰り返されながら、ファヨールの管理理論を継承する者たちによってさらなる発展を見ます。
たとえば、イギリス出身の実業家であり、優れた学者でもあったリンダール・F・アーウィックがいます。
アーウィックとは
- ファヨールの管理論の普及に、とりわけ大きな貢献を果たした人物として評価されている
- 仏語で著された『産業ならびに一般の管理』の英訳を完成させ、さらに自身の著書においてもファヨールの管理論を積極的に取り上げた
- 彼の基礎理論はアーウィック自身の管理論の体系化においても大いに活用されている
そしてアーウィックらの活躍により、ファヨールの管理論はファヨールの母国であるフランスを超え、イギリスやアメリカでも広く知られる存在となります。
そして、イギリスのニューマンや、アメリカのクーンツとオドンネルらの手によって、ファヨールの管理論は過程論的接近法により、新たな学問領域として確立されました7ファヨール自身は、自身の経営論を管理過程論とは呼んでおらず、後年の研究者らの手によってファヨールの管理論が管理過程論として位置づけられるようになったというのが正確な認識です。。
特にクーンツとオドンネルの共著である『管理の原則』(1964年)は、20年以上にわたってアメリカ国内の大学の代表的な経営学のテキストとして用いられ、経営学の代表的な理論のひとつとして知られています。
- 今日の経営学のルーツとなっているのはファヨールの管理論である
- ファヨールの管理論は過程論的接近法により、新たな学問領域として確立された
3章:ファヨールの管理過程論について学べるおすすめ本
ファヨールの管理過程論について理解が深まりましたか?
この記事で紹介した内容はあくまでもきっかけにすぎませんので、下記の書籍からさらに学びを深めてください。
ジュール・アンリ・ファヨール『産業ならびに一般の管理』(未来社)
1925年に出版したファヨールの原著の日本語訳です。経営学における古典に位置づけられている本であり、ファヨールの管理論全般を理解できる1冊です。
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佐々木恒夫『経営学史叢書 ファヨール』(文真堂)
ファヨールの原著の訳者でもある佐々木恒夫氏が編著したファヨールの解説本です。ファヨール自身からその理論に至るまで幅広い解説がなされており、現代の経営学までの繋がりを理解できる1冊となっています。
一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- ファヨールの管理過程論とは、フランスの実業家ジュール・アンリ・ファヨールによって提唱された伝統的な経営管理論である
- ファヨールの主張する管理とは、企業の責任者あるいは指揮者の独占的特権でもなければ、個人的な責務でもない
- 今日の経営学のルーツとなっているのはファヨールの管理論である
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