官僚制(bureaucracy)とは、
職務の内容や責任、立場などについて細かく階層化、分業化が発展させられた組織のことで、現代では主に行政機関の制度について指すことが多いです。
特に日本においては、行政機関(省庁など)におけるエリート国家公務員たちが構成する制度のことを指すのが一般的です。
官僚制について、日本の世論の中では、
「国家権力を裏で支配している」「政治家は官僚にコントロールされている」
などと言われることも多いですが、これは部分的に正しく、部分的に間違っています。
「官僚による国家の支配」というような一面的な見方にこだわると、本当の日本の権力の構造を見逃してしまいます。
そこでこの記事では、
- 官僚制とはそもそもどのような仕組みのことか
- 日本の官僚制の特徴
- 官僚制に関するマックス・ウェーバーの議論
などについて詳しく説明します。
官僚制について理解することで、普段目にするニュースの理解を一段と深めることができます。
ぜひ関心があるところから読んでみてください。
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1章:官僚制とはどのような体制か
まずは、官僚制を構成する要素について理解しましょう。
1-1:官僚制を構成する要素
官僚制とは一般的に、以下のような要素を持つ制度のことです。
- 職務の内容や責任、立場などについて細かく階層化、分業化されている
- 上意下達の指揮系統が明確で、ピラミッド型のヒエラルキーで構成されている
- 資格や能力を重視した採用がなされ、血縁や血統、家柄などその他の要素に左右されない
- 文書主義(書面を使った事務手続きが中心)
上記の要素を持つ組織であれば、官僚制と言われることが多いです。
そのため、一般的には行政機関の組織構造を指して官僚制と言われることが多いですが、世界的企業であるマクドナルドやゼネラル・エレクトリック(GE)社などの民間企業が持つピラミッド型の組織構造も、官僚制と言われることがあります。
1-2:官僚制に関する主要な議論
官僚制は古くからある政治学・社会学上のテーマですので、さまざまな議論があります。
1-2-1:パーキンソンの研究
イギリスの政治学者、シリル・ノースコート・パーキーソンは、官僚制の非合理性について理論化した「パーキーソンの法則」を提唱したことで有名です。
パーキーソンは、
- 官僚制のもとでは、官僚の数が仕事量と関係なく増大する(成長の法則)
- その結果、必要のない無駄な仕事が増大する(凡俗の法則)
- 官僚制では、官僚の目的が官僚組織の維持に向かってしまう
と主張しています。
※また、パーキーソンの法則は、現代では官僚制の意味から離れて、時間やお金などの資源の制約を決めなければ仕事量が無限に増殖していく、という意味で使われることも多く成っています。
1-2-2:ジョンソンによる研究
日本の通商産業省の研究として有名なのが、チャーマーズ・ジョンソンによる『通産省と日本の奇跡』です。
ジョンソンはこの書籍の中で、国家の省庁(および政府)について、
- 規制志向型国家…国家は市場の失敗を取り除くことが役割であり、それ以上のことは行わない。そのため、国家と企業などの社会集団は「規制するもの/規制されるもの」という対立関係にある。
- 発展志向型国家…社会の発展のために政府と企業などの社会集団が協力し、政府が指導的な役割を持つ。
と類型化しました。
お分かりだと思いますが、日本は「発展志向型国家」であると指摘されたのです。
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さらに、他に有名な研究としてマックス・ウェーバーによるものもありますので、ウェーバーの議論は4章で説明します。
1章の内容をまとめます。
- 官僚制とは、分業・階層化が進められ、資格や専門性によって採用され、上意下達の明確な指揮系統がある組織
- 官僚制についてパーキーソンは、官僚制を維持することが目的となり、無駄な仕事が増大する非効率な形態だと批判
- 日本の官僚制についてジョンソンは、「規制志向型国家」であると指摘し、政府が国家の成長を主導する仕組みになっていることを指摘
2章:日本の官僚制の特徴
冒頭でも触れたように、日本の政治は「官僚によって支配されている」「政治家は官僚の操り人形」といった評価をされることがありますが、これは一面的な理解です。
端的に、日本の官僚制の特徴をまとめると、
- 業界団体や現場に近い官僚から(つまり「下」から)政策が立案され、調整の中で政策が決定される
- 閣議決定の前に、事前に政策を調整し合意形成している
- 政治家と深く関わり、利害の一致する族議員を育てる
などのものがあります。
まずは政策立案・政策決定の過程の特徴から見ていきましょう。
2-1:政策立案・決定過程
官僚の仕事の一つに、政策を立案することがあります。
実際には大臣やその他の国会議員が政策を持ち込むこともあるのですが、多くは具体的な行政の業務に携わっている官僚がアイディアを持っており、その中から政策が作られていきます。
このように、現場レベルから政策が立案、形成されていくのが日本の政策過程の特徴の一つです。
2-1-1:政策立案の一般的なプロセス
政策立案の過程を簡略化して紹介すると、
- 所轄の部局の責任者が省庁幹部へ政策のアイディアを伝える
- 場合によっては、族議員(※)や大臣にもこの段階で伝えられる
- 省内での合意形成のための会議(合議)が行われ、意見の調整ができたら立案に入る
- 政策について関連部局や関係課、他の省庁の関連部局、与党の関連議員などと会議や説明を通じて合意形成していく
- 政策立案と政策についての合意形成が同時に進められ、調整されながら立案される
※特定の業界と強く結びついて議員のこと
という流れで行われることが多いです。
ポイントとしては、
- 上から計画が立てられてトップダウンで政策立案されることよりも、省内の「下から」の立案が多い
- 政策立案を経て合意形成されるのではなく、合意形成の過程で調整されながら政策が立案される
という点があります。
2-1-2:総合調整
とはいえ、政策が上記のように全体の計画なしに立案されると、全体の整合性が取れなくなる問題点があります。
そこで、日本の省庁においては、以下のような総合的な調整が行われています。
- 予算調整…省庁全体、省庁間での予算の調整
- 組織の調整…省庁全体での組織作り、人事の調整
- 内閣法制局による審査…新規の法案と既存の法令が矛盾しないか調整する
- 内閣官房による調整…日本の政策を大局的に見て検討する
日本の官僚制にはこのような全体調整の仕組みがあり、省庁ごとの政策が全体として整合性が取れるようになっています。
日本の政策体系について、大局的な視点や創造性が欠けていることを批判しているのが下記の本です。日本の政策立案や政策の体系、問題点について理解しやすい本です。
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2-2:省庁と外部のネットワーク
日本の官僚制の特徴は、その「小ささ」にもあります。
2-2-1:外部団体の存在意義
一般的には日本の政府の無駄遣いが批判され、もっと「小さな政府を!」と主張されることもありますが、日本の公務員の数は人口比率でかなり少なく、財政的にも予算かなり少ない方です。
つまり、日本の政府はすでに「小さな政府」なのです。
しかし、それは省庁の人員の数や予算に限った話で、実は政府の影響力は大きなものです。
なぜなら、日本の省庁は外部に多様なネットワークを持っているからです。
具体的には、
- 特殊法人(政府系金融機関や財団法人、社団法人などの公益法人、政府に由来する企業など)
- 省庁の働きかけで作られた業界団体
などが代表的です。
これらの団体、法人への官僚の天下りは一時的かなり問題視されました。
それは、官僚はある時期からポストが絞られていき、トップの事務次官などは同期に1人以下になるからです。つまり、それ以外の官僚は定年前に辞めなければならず、その場合の受け皿が外部団体になっているのです。
※たとえば、経済産業省(旧通商産業省)の官僚は、JETROの幹部などに天下りすることが多いです。
さらに特徴的なのは、これらの外部の関連団体が政府の機能を一部行っており、その結果政府自体は「小さな政府」で済んでいるという側面です。
こうした外部の関連団体の存在は政策ネットワークと言われます。
2-2-2:外部団体と省庁による業界の利益の反映
日本の官僚制は、深く外部団体と結びついた制度です。
そして外部団体の存在は、官僚の天下り先や政府の業務の外部化以外にも意義があります。
それが、業界の利益を省庁がくみ上げることができるという点です。
省庁と外部団体の関係は、単なる上下関係というわけではありません。省庁の仕事をサポートする見返りに、業界の利益を省庁がくみ取ることを期待します。
そのため、省庁と外部団体の関係は、外部団体を通じた業界利益の反映という側面もあるのです。
本来民間の利益は政治家を通じて政治に反映されるものですが、日本の官僚制には外部団体との協力関係を通しても民意が反映される側面があるのです。
これは、民主主義の原則から考えると問題があるのですが、いずれにしても現在の仕組みではそういう機能もあると覚えておいてください。
2-3:政治家との関係・影響力
日本の官僚制の特徴として、
「官僚が政治家に対して、勉強会を開いたり『ご説明』に回ったりする」
「省庁と利害が結びついた『族議員』が存在する」
といったものもあります。
つまり、官僚と政治家が深く関係しているのです。
ここで確認しておきますが、国民の意見を政治に反映し、政策を決めて国家を統治するのは、あくまで政治家の役割です。なぜなら、国民の選挙によって選ばれたのは政治家だけだからです。
しかし、官僚は専門的領域で仕事を行うため、しばしば政治家よりも政治に関する知識を深く持つことになります。
それに加えて、これから紹介するような政治家との独特の関係性を作ってきたために、日本の官僚は政治的領域に深く関わってしまっているという問題点があるのです。
■族議員と官僚の相互補完的な関係
その最も大きな要素が「族議員」との関係です。
族議員とは、特定の業界の利益を代弁し政治に反映させる政治家のことです。「農林族」「郵政族」「道路族」などと言われます。
族議員は省庁の政策決定に影響を及ぼしていると言われますが、一方で官僚が族議員を育てている側面もあります。
前述したように、官僚は政策立案・決定の過程で関連する省の内外に合意形成を取りに行きますが、その時に政治家にも説明に行くことが多いです。
これは自民党支配の中で形成された慣習で、官僚が自民党本部に早朝に行き、そこで政治家に対して政策について説明する、といったことが日常的に行われています。
特に官僚側が「この議員は族議員として協力相手になりそうだ」と思えば、繰り返し説明に行き、人間関係を作り、族議員として育成していきます。
その結果、省庁の利益を代弁する議員が生まれるのです。
こうして、官僚は族議員を使って間接的に政治に影響力を持つことができるというわけです。
その結果、「業界団体-その業界を監督する省庁-その業界と結びついた族議員」という利害を一致させたネットワークが作られ、それが批判の対象になることもあります。
2-4:人事制度
最後に、日本の官僚制の人事制度について説明します。
日本の官僚制では、官僚の人事は官僚によって行われる自律的な制度になっています。
そして、官僚組織はピラミッド型であり、
- キャリア(総合職)…国家公務員一種に合格したエリート
- ノンキャリア(一般職)…キャリア以外の職員
と明確に分かれており、トップのポストに行けるのはキャリア組のみです。
たとえば、警察ドラマに出てくる、若くして「警視」や「警視正」といった役職について指揮管理の仕事をしているのは「キャリア」であり、官僚です。それに対して、現場で走り回るおじさん刑事は「ノンキャリア」ですね。
さらに、事務系と技術系でも人事が分かれていますが、特に「事務次官」のような省のトップになるのは事務系のキャリアです。
2-4-1:事務系のキャリア
事務系のキャリアは、以下のような流れが一般的です。
- 国家国務院試験合格者の中から、各省において採用される
- 入省した年次ごとに、同期がほぼ同じ待遇で、ある時期まではほぼ同じ早さで昇進する
- 新人の官僚は短期間のうちに現場を広く経験させられ、20代で係長などの役職が付く
- 本省の課長補佐になると官僚としての仕事が本格化
- 30代半ば以降くらいから同期の中でも昇進の差が出始め、一部が出世していく
- 出世頭は課長になり、さらに重要な課の課長を経て、審議官、部長、局長と出世し、局長が事実上のトップのポジション
- さらに省庁の官僚のトップである事務次官に同期のうち1人以下が選ばれる
- 課長以降はポストが限られるため、年齢を重ねるほど天下りが増える
いわゆるエリート官僚の典型的なキャリアが上記のような流れです。
2-4-2:官僚の人事は慣行的
官僚の人事やキャリアは複雑で、細かく決まっていることも多いのですが、実はキャリアとノンキャリアの区別や事務系と技術系の区別などは、法律で決まっているわけではありません。
つまり、すべてこれまでの慣行から決まっているのです。
もちろん官僚を縛る「国家公務員法」という法律もあり、そこでは人事のことも定められています。
しかし、実際の運営と法律に乖離があるため、過去の慣行をそのまま引き継いでいるのです。
結果的に、官僚の人事は政治家を含めた外部からの規制が及びにくい領域になっています。
日本の官僚制が慣行によって運用されている面が大きいことは、官僚制の歴史を見ると理解しやすいです。官僚制の歴史について以下の本がおすすめです。
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日本の官僚制が、政党政治や外部団体との関係性や慣行によって独特のものになっていることが分かったでしょうか?
日本の官僚制の特徴をまとめます。
- 政策立案・決定…政策に関わる省内や他の省の部局や政治家に説明周りに行き、合意形成しつつ政策を調整し、決定していく
- 外部団体…政府としては小さいが、特殊法人や業界団体などの外部団体が多数存在する
- 政治家との関係…族議員を中心として省庁と深く関わっており、利害を一致させる関係にある
- 人事…国家公務員法とは異なる慣行で行われており、外部に影響されない自律的な制度を持っている
3章:各国の官僚制の特徴
日本の官僚制について説明しましたが、官僚制と一言で言っても日本と他の国とでは異なる特徴を持っています。
そこで、各国の官僚制の特徴について、ここで簡単に整理します。
3-1:アメリカの官僚制
アメリカの官僚制と日本の官僚制の違いは、官僚の採用についてです。
日本の官僚制では、官僚の採用は国家公務員試験を経て省庁から採用されますが、アメリカの場合は「政治的任命」が一般的です。
政治的任命とは、
- 選挙で選ばれた任命権者が、公務員を選ぶ
- その結果、現在の担当者はそのタイミングで退任する
という制度のことです。つまり、官僚・公務員すら選挙で選ばれるのです。
したがって、選挙のたびに官僚・公務員ががらっと入れ替わることになります。
官僚による政治の支配が制限されるメリットがある一方で、専門性や行政権力への責任感が生まれにくいデメリットも指摘されています。
3-2:イギリスの官僚制
アメリカと正反対なのが、イギリスの官僚制です。
イギリスの官僚制は終身雇用的な制度で、官僚は身分を保証され、官僚や強固な官僚組織を作ることができます。
官僚は一流大学を卒業し、資格を取得することで採用されていくため、日本の官僚制に近いです。
しかし、日本との大きな違いもあります。
それは、
- 官僚は国王に忠誠を誓う
- 政権は国王の代理人とされるため、官僚はその時々の政権に忠誠を誓う
という点です。したがって、官僚は政治的に中立ではなく、その時の政権に有利に働くことが期待されるのです。
「官僚が政治的に中立でなくていいの?」
と思われるかもしれませんが、政権が変われば別の政党に忠誠を誓うことになるため、長い目で見ると中立的な姿勢を保持できるのです。
3-3:フランスの官僚制
フランスの官僚制は、資格任用と政治的任用を併せ持った側面があります。
フランスの中でも強力な官僚グループである「グラン・コール」と言われる官僚になるには、一流の大学校の中でもトップクラスの成績を収める必要があり、そのトップクラスから官僚としてリクルートされます。
ここまでは資格任用制です。
しかし、各官房に配属された官僚は、
- そこから大臣によって政治的任命を受けて、ポジションを得る
- 大臣が辞任すると官僚はともに退任する(ただし、官僚の身分を持っているため失職はせず他の官職などに異動になる)
というように政治的任命制による人事も行われます。
とはいえ、これは一部のエリート官僚であり、それ以外にも専門性を持つ官僚が行政を担っています。
このように、官僚制は国家によって異なる制度、特徴を持っているのです。
- アメリカの官僚制…政治的任命制
- イギリスの官僚制…資格任用制
- フランスの官僚制…政治的任命制と資格任用制を併せ持つ
4章:官僚制に関するウェーバーの議論
官僚制に関する古典的な議論は、社会学者のマックス・ウェーバーが展開したものです。
ウェーバーの議論を深く理解するためには、「官僚制」という言葉の語源と当時の社会的状況を知る必要がありますので、それらの点から解説していきます。
4-1: 「官僚制」の語源と社会状況
そもそも、「官僚制(bureaucracy)」という言葉は、次の二つの言葉が結びついたものです。
「官僚制(bureaucracy)」の語源
- 事務室や仕事部屋を意味するフランス語の「bureau」
- 権利や支配を意味するギリシャ語の「kratos」
語源から理解できるように、官僚制という制度が完成したのは近代ヨーロッパにおいてです。
当時のヨーロッパ社会は、
- 王侯が各地に分立する封建社会から、国の中央集権的な国家体制へと変化していた
- 統治をする上で生じる問題を、合理的・効率的に処理する行政機関が必要とされた
という背景があります。
このような時代の要請をうけて誕生したのが、官僚制機構という膨大な問題群を処理する精巧なマシーンでした。
4-2: 官僚制の特徴:ウェーバーの定式化
官僚制のメカニズムについて、最初の包括的な定式化をしたのがウェーバーです。1-1で解説した内容と一部重複しますが、ウェーバーによると、官僚制は次の6つの特徴をもった組織です。
- 職業的行政幹部・・・官僚制は給料とひきかえに行政幹部が団体の秩序の維持をするシステム
- 公的資格による職員の採用・・・職員は試験や免状などの公的に認められた能力を基準にして採用される
- 専門分化と職務規定・・・官僚制機構はいくつもの部門に分化されており、分化した組織で占める位置によって、職務を行使できる権限が定められる。また、ヒエラルキー的な命令系統がある
- 命令系統の一元性・・・それぞれの職員はただ一人の上司から命令をうける。これによって、複数の上司から矛盾した指示をうけることがなくなり、効率性があがる
- 文章主義・・・組織の決定事項は文章で確認される。そのため、担当する職員が代わっても継続性があり、系統的に情報と経験が維持される
- 公私の分離・・・職員は自分の地位を利用して利益を得たり、予算を私的に使うことは禁じられている
ウェーバーは、これらの特徴は与えられた目的に対して、最適な手段を発見・実行する上で、大変効率的であると考えました。この効率性に特化した合理性を「形式合理性」とウェーバーは呼びました。
加えて、ウェーバーは官僚制が他の組織形態と比べて合理的な組織であると考えました。以下の特徴は、ウェーバーが指摘した官僚制機構のもつ合理的な特徴です。
- 恒常性・・・常勤職員による継続的な活動が可能になること
- 予測可能性・・・個人や集団が行動する際に、その行為が引き起こす結果を予測できること。ウェーバーは行政や資本主義的経営の官僚制化することで、資本主義的発展が起きると指摘
- 道具性・・・官僚制は支配者の道具となること。命令系統の一元性や専門分化と職務規定は道具性を高める仕組みとなる
- 業務の自動化・・・職員に名人芸的能力を求めない組織なので、テクノロジーによる自動化が適していること
ウェーバーの議論は『支配の社会学』に集約されています。興味のある方はぜひ参照してください。
4-3: 官僚制と非合理性
以上はウェーバーの指摘した官僚制機構のもつ合理性ですが、「官僚制が合理的なシステムなんてありえない」と考える方もいると思います。たしかに、官僚制は効率性に特化したシステムであるはずなのに、かえって非効率になる場合があります。
この逆転現象を社会学者のロバート・マートンは「官僚制の逆機能」と呼びました。官僚制の逆機能とは、「官僚制がもたらす意図されない結果」です。
たとえば、官僚制の逆機能には次のような事例があります。
官僚制の逆機能の事例
- そもそも規則の厳守は、組織の目的を効率よく達成するための手段
- しかし年功的な昇進や昇給システムなどの圧力は、しばしば意図された目的に代わって、官僚たちの究極的な目的となる
- 本来の目的は忘れられ、目的を達成することではなく、規則を守ることが目的に転倒する
- この転倒から形式主義、画一主義、権威主義、保身主義といった官僚主義の弊害が生み出される
その他にも、派閥や身内意識などのセクショナリズムがマートンによって指摘されました。
「官僚制の逆機能」や「合理性がもたらす非合理性」といった議論に関心のある方は、マートンの『社会理論と社会構造』(1961)やホルクハイマーとアドルノの『啓蒙の弁証法』(1944)がオススメです。
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5章:官僚制のおすすめ書籍
官僚制について理解することはできましたか?
官僚制について理解することは、日本の政治や権力の構造について理解することになります。
官僚制の正しい理解を抜きにして、日本の政治、権力、統治の問題を考えることはできません。
この記事で紹介したことも官僚制に関する知識の一部にすぎませんので、関心がある方はこれから紹介する書籍を読んでみることをおすすめします。
オススメ度★★★飯尾潤『日本の統治構造-官僚内閣制から議院内閣制へ-』(中公新書)
この本は、日本の権力構造について詳しく、端的にまとめられた名著です。特に官僚制と政治に関わりについて詳しく書かれていますので、日本の官僚制や政治について理解する上で必読書です。
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オススメ度★★飯尾潤『現代日本の政治』(放送大学教育振興会)
官僚制はさまざまな政治の領域とかかわったテーマですので、単体で学ぶべきではありません。まずは広く政治の全体像から知ることが大事ですので、初学者いんはこちらの本がおすすめです。
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オススメ度★城山三郎『官僚たちの夏』(新潮文庫)
官僚制について理解する上で、小説を通じて実際の官僚の働きをイメージしてみるのもおすすめです。『官僚たちの夏』は官僚についてやや美化されているきらいはありますが、官僚小説の金字塔です。すぐに読めますのでぜひ読んでみてください。
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一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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また、書籍を電子版で読むこともオススメします。
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などの特典もあります。学術的感性は読書や映画鑑賞などの幅広い経験から鍛えられますので、ぜひお試しください。
日本の官僚制の問題点や官僚の働きについて学ぶ上で、リアルな情報収集は欠かせません。下記の雑誌・新聞はコンパクトに情報がまとまっているためおすすめです。
まとめ
この記事の内容をまとめます。
- 官僚制とは、分業・階層化された組織、上意下達の指揮系統、資格や専門性による採用などを特徴とする制度
- 日本の官僚制は、人事について慣行的に運用されており、外部から影響を受けにくい
- 日本の省庁における政策立案は政策調整と並行され、調整と合意形成が同時に行われる
- 日本の官僚は、政治に深く浸透しており政治的に問題視されることがある
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