日本の選挙制度には「国政選挙」「地方選挙」「特別な選挙」の3つがあり、国政選挙は複数の制度の利点を集約し、欠点を補い合うように作られ複雑な仕組みになっている点に特徴があります。
日本の選挙制度は、選挙の種類やシステムなどの点で非常に複雑で分かりにくいものです。しかし、民主主義国家の日本に生まれた国民として、選挙制度に関する知識は不可欠です。
さらには、日本社会の現状を色濃く反映しているのがまさに選挙制度であり、選挙制度を知ることは社会全体を理解することにつながります。
そこで、この記事では
- 日本の選挙制度の概要
- 衆議院議員選挙の概要とそのシステム
- 参議院議員選挙の概要とそのシステム
- その他の選挙について
について解説していきます。
関心のある所から読んでみてください。
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1章:日本の選挙制度とは
1章では日本の選挙制度全体を簡単に概観します。2章以降では日本の選挙システムについてより詳しく解説しますので、自身の理解に合わせて読み進めてみてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1: 選挙の種類
そもそも、日本の選挙は「国政選挙」「地方選挙」「特別な選挙」の3種類に大別されます。
- 国政選挙・・・国会議員である衆議院議員と参議院議員を選ぶ選挙のこと。それぞれ「衆議院議員総選挙」と「参議院議員通常選挙」と呼ばれる。
- 地方選挙・・・地方自治体の首長と地方議会議員を決める選挙のこと。
- 特別な選挙・・・補欠選挙などを指し、国政選挙と地方選挙を補完する役割を果たす選挙のこと。
2章以降で詳しく解説しますので、ここでは3種類に区別されることを覚えておいてください。
選挙制度について理解するためには、日本政治の基本的な要素を理解しておくことが大事です。この記事とあわせて以下の記事も参考にしてください。
1-2: 日本の選挙はいつ行われるのか
では、上述した3種類の選挙はいつおこなわれるのでしょうか?それぞれ解説していきます。
1-2-1: 国政選挙
国政選挙の場合、「衆議院」と「参議院」でそれぞれ異なった時期に選挙が行われます。
まず、衆議院議員総選挙は、
衆議院議員の任期満了(4年)に伴う選挙
衆議院が解散されたときに行われる選挙
の二種類があります。
したがって、この選挙は通常は4年に1回ですが、総理大臣が衆議院の解散を行ったときはその都度行われます。
(※実際には任期満了を待たずに解散され選挙になることが非常に多いです)。
一方、参議院議員通常選挙は、
参議院の解散はないため、常に任期満了(6年)による選挙
となります。
ただし、参議院議員は3年ごとに半数が入れ替わるように憲法で決められていることから、3年に1回半数が改選されます。したがって、衆議院議員総選挙と異なり、参議院議員通常選挙は必ず3年に1回行われます。
1-2-2: 地方選挙
地方選挙の場合、
地方議会議員を選ぶ一般選挙と地方公共団体の長の選挙双方共に、原則任期満了(4年)に伴って行われるもの
です。※詳しくは4章で解説します。
1-2-3: 特別な選挙
最後に、特別な選挙の場合、国政選挙と地方選挙を補完する選挙であるため、不定期に行われます。
日本の選挙制度を簡潔にまとめた書物として『高校生のための選挙入門』があります。初学者にはとても有益です。
1-3: 誰が投票できるのか
国政選挙の場合、満18歳以上の日本国民が投票をする権利(選挙権)を持っています。一方、地方選挙の場合、満18歳以上の日本国民で3ヶ月以上その地方自治体の区域内で住所を持つ者が選挙権を有します。
したがって、戦前と異なり、貧富や性別関係なく投票できるということです。例外的に、刑に処せられている、または刑の執行猶予期間中の者は原則的に選挙権を有しません。
あなたもご存知かもしれませんが、選挙権年齢が下げられたのはつい最近のことです。2015年6月に公職選挙法が改正され、選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられました。当時は一部の高校で模擬選挙の授業などが始まり、話題となりました。
1-4: 複雑性
日本の国政選挙は諸外国の選挙と比べて極めて複雑とよく言われます。これはさまざまな選挙制度の利点を集約し、それぞれの制度の欠点を補い合った産物だからです。
大まかにいえば、日本の国政選挙は「小選挙区制」「選挙区制(大選挙区制)」「比例代表制」というシステムで行われています。それぞれ以下のような長所と短所があります。
- 小選挙区制・・・大きな政党に有利で政局が安定するという長所がある一方、小さい政党に不利、死票(落選者に投じられた票)が多くなってしまうという短所がある
- 大選挙区制・・・少数政党も議席を獲得できる可能性が高まり、多様な民意が反映しやすい、死票が少なくなるという利点があるものの、政局が荒れる可能性もあるという欠点がある
- 比例代表制・・・大選挙区制と同様のメリット、デメリットを持っている
これらの制度の利点をどちらも生かしつつ、制度の欠点を最小化し、より日本社会に適した選挙システムを構築することを目指して出来上がったのが、今日の複雑な日本の国政選挙です。
- 日本の選挙は「国政選挙」「地方選挙」「特別な選挙」の3種類である
- 国政選挙の場合、満18歳以上の日本国民が投票をする権利(選挙権)を持っている
- 日本の国政選挙は「小選挙区制」「選挙区制(大選挙区制)」「比例代表制」というシステムで行われている
2章:衆議院議員総選挙
2章では、衆議院議員総選挙について詳しく解説します。衆議院議員総選挙は小選挙区制と比例代表制を併用しており、これを「小選挙区比例代表並立制」と呼びます。以下では、この小選挙区比例代表並立制について詳しく見ていきましょう。
2-1 : 小選挙区比例代表並立制とは
「小選挙区制」「比例代表制」「並立制」をそれぞれ個別に解説していきましょう。
2-1-1: 小選挙区制
小選挙区制とは、1つの選挙区から1名の議員を選ぶ選挙制度のことです。日本では、衆議院総選挙での小選挙区選挙の定員が289名ですので、全国を289の小選挙区に分けています。
その特徴としては、
- 1つの選挙区から最も得票数の多い候補を選ぶ形式であることから、力の強い政党が有利になること
- 多数派の支持を集めやすい中道的で穏健な大政党出身者が当選しやすいことから、政局が安定し、二大政党制の確立に貢献すること
- 小選挙区が全国で細かく分かれていることから、「最も有権者と候補者の距離が近い選挙制度」であること
が挙げられます。
小選挙区制は諸外国でも導入されており、いくつかの種類があります。たとえば、韓国の国会選挙では小選挙区比例代表並立制という形で、小選挙区のシステムを取り入れています。
2-1-2: 比例代表制
次に、比例代表制とは、各政党が獲得した投票数に比例して、各政党の候補者に議席を配分する制度のことです。すなわち小選挙区制とは異なり、全国から集まった票で当選者が決まります。
衆議院議員総選挙の場合、拘束名簿式比例代表制を採用しており、各政党は事前に候補者の当選順位が決められた候補者名簿を提出します。有権者は政党名で投票し、政党の獲得投票数(獲得議席数)に応じて、名簿の登録上位順に当選者が決まるのです。
簡単にいえば、以下のように当選と落選が決まります。
- X党が事前に提出した候補者名簿では候補者の当選順位が、1位Aさん、2位Bさん、3位Cさん、4位Dさん、5位Eさんであったとする
- そして、X党は衆議院比例代表選挙で、3議席を獲得したとする。その場合、1つ目の議席にはAさんが、2つ目の議席にはBさんが、3つ目の議席にはCさんが入る
- そしてDさんとEさんは割り振られる議席がもうないので、落選という形になる
これが衆議院議員総選挙における比例代表制の仕組みとなります。
日本の衆議院比例代表選挙では、全国を11ブロックに分け、合計176議席が選出されます。すなわち、衆議院の定数は小選挙区で選ばれる289名と合わせて、465議席ということになります。ブロックについては2-2で詳しく解説いたします。
民主主義の制度上、社会の多数派の意見が政治に反映されやすいです。そのため、少数派の意見も政治に反映できるように考案されたのが比例代表制なのです。
比例代表制については、民主主義における「多数者の専制」を指摘したJ・S・ミルの議論が知られています。詳しくは以下の記事を御覧ください。
2-1-3: 並立制
では、「並立制」とはどういうことなのでしょうか?
並立制ということは、小選挙区制と比例代表制が両者とも用いられているという意味であることはもちろんのこと、重複立候補が可能であるという意味を表します。ここが「併用制」ではない特徴です。
すなわち、たとえ知名度が低く小選挙区選挙で当選できなかったとしても、比例代表に重複立候補し、自身の属す政党が比例代表選挙で議席を複数獲得すれば、復活当選できるということを意味します。
2-2:小選挙区比例代表並立制の特徴・問題点
続いて、小選挙区比例代表並立制の特徴といくつかの問題点について説明します。
2-2-1: コスト削減効果
1994年以前まで、日本の衆議院選挙制度は中選挙区制という形態を取っていました。これは今よりやや広い選挙区が設定されており、一つに選挙区から複数の当選者が出る仕組みでした。
しかし、候補者は広い選挙区全体で選挙活動を行う必要があり、候補者の膨大な活動費が問題視されていました。
そこで、小選挙区制を並立制の一部として導入したことで全国が289もの選挙区に分かれ一つの選挙区がとても小さくなり、候補者の金銭的負担(遊説に回る交通費、ポスターの数等)を減らすことに成功しました。
2-2-2: 死票の問題
前述しましたが、小選挙区制は一方で死票が増え、少数意見が反映されにくい問題点がありました。そこで比例代表制と並立する形で導入されました。
比例代表制では、政党がある一定数の票を獲得すればその政党から議員を輩出できるシステムであるため、少数政党の意見が反映しやすい、すなわち多様な意見が政治に反映されることになります。
また、各政党の得票の割合がそのまま議席に反映されるので、死票を少なくすることができるのです。しかし一方で、死票をゼロにすることはできていないという問題は残ります。
2-2-3: ドント方式
比例代表制の特徴については前述しましたが、日本の場合は、ベルギーの法学者ドントが考え出した「ドント方式」という議席割り当て計算法が採用されています。
前述したように、衆議院比例代表選挙では全国が11ブロックに分けられています。ここではこのうちの1つのブロックをX ブロックとし、このブロックの定数を7名としてドント方式を具体的に説明しましょう。
政党名 | A党 | B党 | C党 | D党 |
総得票数 | 10000 | 8000 | 6000 | 2500 |
1で割る | 10000① | 8000② | 6000③ | 2500 |
2で割る | 5000④ | 4000⑤ | 3000⑦ | 1250 |
3で割る | 3333.3⑥ | 2666.7 | 2000 | 833.3 |
※政党の総得票数とは、候補者の獲得した票(参議院での比例代表選挙に限る)+政党の獲得した票の総和です。
たとえば、選挙によってA党10000票、B党8000票、C党6000票が獲得された場合を考えてみましょう。
その選挙区で「7議席」が配分される場合、上記のように獲得された票が1、2、3と割られていきます。そして、数字の大きい順に議席が配分されます。この場合は、A党が3議席、B党が2議席を得ることができたことになります。
よって、A党は3議席、B党は2議席、C党は2議席し、D党は一議席も獲得できなかったということになります。この議席配分システムがドント方式なのです。
- 小選挙区制とは、1つの選挙区から1名の議員を選ぶ選挙制度のことである
- 比例代表制とは、各政党が獲得した投票数に比例して、各政党の候補者に議席を配分する制度のことである
- 少数政党の意見が反映しやすい、すなわち多様な意見が政治に反映される
3章:参議院議員通常選挙
続いて、参議院選挙の詳しい解説をしていきます。
3-1:選挙区制
参議院議員通常選挙は147名が選挙区制選挙で、98名が比例代表制選挙で選ばれています。ここではこのうちの選挙区制について説明します。
選挙区制は小選挙区制と同様、全国を区割りして区ごとに選挙を行います。しかし、参議院の選挙区制は大選挙区制とも呼ばれるものです。
すなわち参議院の選挙区は、衆議院の小選挙区制のように全国が細分化されているのではなく、おおむね都道府県ごとの45選挙区からなっています。したがって、複数人当選する選挙区もあります。
3-2:比例代表制
参議院の場合、衆議院の比例代表制のように全国を複数ブロックに分けるのではなく、全国を1区として98名が選ばれます。仕組みはドント方式、そして非拘束名簿式比例代表制が用いられています。
非拘束名簿式の場合、有権者は政党名と候補者名どちらでも投票可能です。
具体的には、非拘束名簿式の場合は、
- 候補者名を票に書いた場合、政党名を書いた場合と同様にその候補者が属する政党の得票となる
- しかし、各政党は拘束名簿式のように候補者当選順位を事前に決めることはできず、候補者の得票数(つまりその候補者名が書かれた票の数)に応じて候補者は当選の順位付けがされる
というものです。
3-3:参議院議員選挙の特徴と問題点
そして、特徴としては、衆議院議員総選挙のような復活当選ができないことが挙げられます。これは衆議院では小選挙区と比例代表の両方での立候補が認められていますが、参議院では選挙区と比例代表両方での立候補が認められていないためです。
問題点としては「一票の格差」問題が挙げられるでしょう。選挙区選挙における議員一人当たりの有権者数に不均衡が生じている問題のことです。
2015年の公職選挙法改正で鳥取県と島根県、高知県と徳島県が合区となりましたが、完全には是正されていない、県単位に民意が反映されないといった批判もあり、議論が続いています。
- 参議院の選挙区制は大選挙区制である
- 非拘束名簿式比例代表制が用いられている
- 議員一人当たりの有権者数に不均衡が生じている
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4章:その他の選挙
最後に、「地方選挙」と「特別な選挙」を詳しく解説します。
4-1:一般の選挙(地方選挙)
前述したように、地方選挙は地方議会議員を選ぶ一般選挙と地方公共団体の長の選挙が原則任期満了(4年)に伴って行われます。
ただし、地方議会議員の場合、議会が解散されたときは例外的に選挙が行われる場合もあります。また、地方自治体の長の選挙の場合、住民の直接請求(リコール)によって解職されたときや、議会で不信任決議が可決され失職したときなどに例外的に選挙が行われます。
しかしながら現在は、選挙への関心を高める、多くの選挙で住民が混乱するのを防ぐ、選挙事務を集約し効率化するといった目的で、これらの地方選挙は日程を統一的に調整しています。
この選挙スタイルを「統一地方選挙」と呼びます。したがって、この統一地方選挙は原則、4年に1回行われています。
また地方選挙には、地方公共団体が新しく設置された際に、その地方公共団体の長と議会議員を選ぶ設置選挙と呼ばれる選挙もあります。
4-2:特別な選挙
特別選挙は、国政選挙や地方選挙を補完する選挙であると述べましたが、大きく分けると「再選挙」「補欠選挙」「増員選挙」の3種類があります。内容は以下のとおりです。
- 再選挙・・・当選者がいない、または得票数は法的に不足し、繰り上げ当選の方法でも当選者を補充できない場合におこなわれる選挙
- 補欠選挙・・・現職議員が死亡あるいは退職等で議員を続けられなくなった場合に、その欠員を補充するために行われる選挙。当選者は前任者の残任期間のみ在任可能となる
- 増員選挙・・・地方公共団体において議会議員の定数を任期中に増加させる場合に増員分を選出する選挙
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5章:日本の選挙制度について学べるおすすめ本
日本の選挙制度について理解を深めることはできましたか?
以下は、あなたの学びを深めるためのおすすめ本です。
斎藤一久『高校生のための選挙入門』(三省堂)
高校生のためと題名にありますが、選挙制度や選挙のルールまで幅広く学べる老若男女にオススメできる入門書です。
大林啓吾・白水隆『世界の選挙制度』(三省堂)
世界の選挙制度を学ぶことで日本の選挙制度の仕組みや問題点、そして特徴を相対的に知ることができる本です。選挙制度を熟知した気鋭の学者が執筆しているので必読です。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- 日本の選挙は「国政選挙」「地方選挙」「特別な選挙」の3種類である
- 国政選挙の場合、満18歳以上の日本国民が投票をする権利(選挙権)を持っている
- 日本の国政選挙は「小選挙区制」「選挙区制(大選挙区制)」「比例代表制」というシステムで行われている
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