社会システム論(social systems)とは、社会を一定の価値観を共有・内面化した人びとの集まりと考えて、その人びとの行為のネットワークをシステムとして捉えることから社会のメカニズムを分析しようとする理論です1稲葉『社会学入門』(2009)を参照。
簡単にいえば、ある社会における人びとの間、構成要素の間の相互関係を捉えて、全体の社会構造を分析しようとする理論です。
「社会システム」と呼ばれる理論は、社会科学を学ぼうと志す方には不可欠な知識です。提唱者のパーソンズとルーマンの議論をしっかりと理解する必要があります。
そこで、この記事では、
- 社会システム論の概要
- パーソンズとルーマンによる社会システム論
をそれぞれ解説します。
あなたの関心がある箇所から読んでみてください。
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1章:社会システム論とはなにか?
1章では、社会システム論を概説します。ルーマンとパーソンズの研究に関心のある方は、2章から読んでみてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注2ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1: 社会システム論の意味
まず、冒頭の確認となりますが、社会システム論とは、
社会を一定の価値観を共有・内面化した人びとの集まりと考えて、その人びとの行為のネットワークをシステムとして捉えることから社会のメカニズムを分析しようとする理論
です。
一般的に、タルコット・パーソンズ(Talcott Parsons 1902-1979)によって提唱された理論とされています。「社会システム」という言葉が広まったのは彼の貢献が大きいです。
パーソンズの後に、ニコラス・ルーマン(Niklas Luhmann 1927-1998)というドイツの社会学者が独自の社会システム論を提示します。
パーソンズとルーマンの議論と相違点は2章にまわして、まずは社会システム論の概要を確認しましょう。
「社会システム」という言葉が使われるとき、必ずしも一定の指標があるわけではありません。そのため、混乱が起きやすいです。ここでは「社会システム」という言葉の意味から解説します。
1-1-1: 「システム」とは
そもそも、社会システムの「システム(systems)」とは何を意味するのでしょうか?
結論からいうと、システムとは次の内容を指します。
- ある要素の集合体
- その要素間には独自の関係性がある
ただし、要素の内容は研究者によって異ります。パーソンズは社会的行為を、ルーマンはコミュニケーションを要素としました。
ちなみに、パーソンズが社会システムを分析するために練り上げた理論は、「構造機能主義」といわれます。
文化人類学という領域で使われる「機能主義」とは多少異なりますので、注意が必要です。文化人類学における機能主義については、次の記事を参照ください。
1-1-2: 社会集団と社会システムの違い
そして、「社会集団」と「社会システム」には重要な違いがあります。私たちが「社会集団」というとき、次のようなイメージがあります。
社会集団のイメージ
- 家族、職場、サークルといった人びとが集まり共同生活をする場
- ルール、帰属意識、連帯感といった共通の特性が社会集団から引き出される
一方で、「社会システム」の場合はより抽象化されて、国民社会や国際機構といった人間のさまざまな集合体を指すとき使われます。
「社会システム」が前提とするのは次の5つの点です。
- さまざまな程度の秩序がある
- 人びとが何らかのまとまりをもつ
- 輪郭が境界となる
- 人びとの間、または構成要素の間に、相互関係がある
- その関係を制御する構造が存在する
「社会システム」という言葉が使われるとき、このような前提があることを頭においてください。
ちなみに、社会システム論は社会学の基礎理論の一つですが、多くの論者がさまざまなことを主張しています。まず、多くの論者の意見を一度に学べる解説本をオススメします。この記事では、この書物を参照しています。
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1-2: 社会システム論:生物有機体のアナロジー
さて、社会システム論には2つの系譜があります。それは「生物有機体のアナロジー」「機械のアナロジー」です。
まず、生物有機体のアナロジーとは、
社会をあたかも生物の体と同じであるかのような発想で研究する立場
を指します。
当然ですが、人間は有機体的なシステムをもちます。この有機体のアイデアを個人の集合した社会に当てはめて、生物体としての社会を想定するのが「生物有機体のアナロジー」です。
たとえば、生物体のアナロジーを用いながら、社会には「大脳」や「神経」が存在するといった指摘されます。また、生体の体温、血糖量、ホルモン分泌といった自動調節の働きはホメオスタスと呼ばれますが、社会システム論でも同様の表現がされます。
「生物有機体のアナロジー」の原点は、社会進化論を唱えたハーバート・スペンサーにあります。スペンサーの考えは次のようなものでした。
スペンサーの社会有機体説
- 人間の身体は脳、内臓、神経などの異なる部分から構成されるが、社会も異質な部分からなる有機体である
- 生物が単純なものから複雑なものに「進化」するように、社会のあり方も単純なものから複雑なものに「進化」する
さらに細かくいうと、「社会の消化器官のような維持システム」「感覚器官のような規制システム」「循環器官のような分配システム」といった区別があります。
1-3: 社会システム論:機械のアナロジー
そして、機械のアナロジーとは、
社会は機械のように合理的な設計がされたものとして研究をする立場
を指します。
ここでは機械のアナロジーで社会分析をおこなった論者を列挙します。
機械のアナロジーを用いた論者は、以下の人々がいます。
- レヴィンの集団力学的な社会分析
- ウェーバーの官僚制論(組織の合理的な機械化)
- パレートの連立方程式モデル
- ホマンズの全体的社会システム論
それぞれの議論を解説する余裕はありませんが、重要な点は合理性的な機械をアナロジーとして社会分析をおこなっていることです。
いったん、これまでの内容をまとめます。
- 「社会システム論(social systems)」とは、社会を一定の価値観を共有・内面化した人びとの集まりと考えて、その人びとの行為のネットワークをシステムとして捉えることから社会のメカニズムを分析しようとする理論
- 社会システム論には「生物有機体のアナロジー」「機械のアナロジー」という2つの系譜がある
2章:社会システム論:パーソンズとルーマンの研究
さて冒頭で話したように、社会システム論の代表的な研究はパーソンズとルーマンの研究です。
パーソンズとルーマンの議論は非常に複雑ですので、この記事では重要な点だけを解説します。詳細な議論は必ず原著にあたってください。
2-1: 社会システム論とパーソンズ
まず、パーソンズの社会システム論です。彼の社会システム論は「構造機能主義」といわれ、具体的に次のような意味を指します。
パーソンズの構造機能主義の要点
- 社会のアイデンティティを「構造」という言葉で表現し、人びとの共通の価値観や体系と考える
- 価値観や体系を共有した人びとによる個別の活動は、全体社会、つまり「構造」に影響を及ぼす「機能」とされる
つまり、社会における個別の活動、「全体」に対する「部分」が「全体」を維持するためにプラスの「機能」を担うか、マイナスの「機能」を担うかという議論です。
具体的な社会分析は、①社会システムの構造とはなにか?、②その構造が維持されるための機能的な要件がどう充足されるか?といった順番でされます。
重要なのは個別の活動が人間の「行為」であることです。パーソンズは「行為」が構成要素となると指摘した一方で、後に紹介するルーマンは「コミュニケーション」が構成要素になると考えました。
2-1-1: 社会システム論の相互連関と機能評価
パーソンズの社会システム論には二つの重要な局面があります。それは「相互連関」と「機能評価」です。「相互連関」と「機能評価」をとおして社会構造の維持と変化が説明されます。
相互連関とは、
ある要素が別の要素の変化に相互的に影響をもつ
ということです。
唐突ですが、出版社の例で考えてみましょう。出版社には「編集部」「営業部」「人事部」といった部署があります。相互連関の局面では、人事部の決定が編集部に影響を与えることがあることを意味します。
そして、機能評価とは、
相互連関の結果、社会構造がプラスまたはマイナスな「機能」かを評価すること
を意味します。
たとえば、「ある出版社の本が売れない」という社会構造の維持に関して「機能」を満たしていないとき、出版社(社会構造)を維持するための変化が起きます(編集部や営業部の再編成等々)。
2-1-2: パーソンズのAGIL図式
では具体的に、どのような機能的要件(システムが維持されるために必要とされること)があるのでしょうか?
パーソンズによると、社会システムには4つの機能的要件があり、それは英語の頭文字を取って「AGIL図式」といわれます。
AGIL図式
- Adaption(適応)・・・ 物質的な環境。主に経済システム
- Goal-attainment(目標達成)・・・目的を意味する。主に政治システム
- Integration(統合)・・・社会のまとまり。主に社会共同体をつくるシステム
- Latency(潜在的パターン)・・・基本的な価値の共有。主に動機付けのシステム
これだけでも十分に複雑ですが、パーソンズはAGIL図式をさらに精緻化していきます。その点を詳しく知りたい方は、パーソンズの原著にあたることをオススメします。
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2-2: 社会システム論とルーマン
ルーマンの社会システム論の大事な部分は、生物学者のマトゥラナの「オートポイエーシス(自省し自己に言及することを意味する)」をシステムとして捉え直したことです。
※オートポイエーシスに関しては次の記事で詳しく解説していますので、要点のみ紹介します。→【オートポイエーシスとは】定義・意味・理論をわかりやすく解説
つまり、1章で解説した「生物有機体のアナロジー」と「機械のアナロジー」とは区別されるシステムをルーマンは作り出しました。
加えて、ルーマンは社会システムが、「意味を構成する体系であること」「コミュニケーションを要素とするシステムであること」と主張しました。
つまり、ルーマンのいう社会システムとは①オートポイエーシスであり、②意味を構成し、③コミュニケーションを要素とするものなのです。
ルーマンは意味を「3つの次元」に、コミュニケーションを「3つの選択の総合」に細分化して議論をします。この議論を深入りすると、迷路に迷い込みますので、ここでは触れません。
2-2-1: 社会システムとオートポイエーシス・システム
最も重要なのはルーマンが、オートポイエーシス・システムして社会システムを捉えたことです。
要するに、オートポイエーシス・システムとは、システムの秩序をシステム自身が作り出す「自己組織システム」であることを意味します。
「自己組織システム」というとき、普通はシステムを構成する要素はすでに存在しており、要素の配列や関係をシステムが管理することが想定されます。
しかし、オートポイエーシス・システムでは要素自体もシステムが自ら作り出すものとして考えられています。つまり、システムの要素は関係を通じて作り出されるシステムなのです。
ルーマンの議論はシステムの自己規準によって周界に反応することで、自己のメカニズムを更新していく現代社会を捉える視点として高い評価を受けています。
- パーソンズは社会における個別の活動、「全体」に対する「部分」が「全体」を維持するためにプラスの「機能」を担うか、マイナスの「機能」を担うかという議論をする
- ルーマンは「オートポイエーシス・システム」を用いて、社会システムの秩序をシステム自身が作り出す「自己組織システム」であることを指摘した
3章:社会システム論の学び方
どうでしょう?社会システム論の概要を理解することはできましたか?
この記事で紹介した議論はあるまでの社会システム論のさわりに過ぎませんので、最後に、あなたの学びを深めるためのおすすめ書物を紹介します。
稲葉振一郎『社会学入門』(NHK出版)/『社会学入門・中級編』(有斐閣)
社会学に興味があるという方に読んでもらいたい本。社会学とはどのような学問なのか?を理解する上で、社会システム論の議論が登場します。
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ちなみに、稲葉は『社会学入門・中級編』を2019年に出版しており、続けて読み進めることができるのでさらにオススメ。
大澤真幸『社会学史』(講談社現代新書)
パーソンズとルーマンの研究を詳しく知りたい方はこの本を読みましょう。社会学の成り立ちから現代社会学の現状まで、解説されています。ある特定の章だけを読むことはできない構成ですが、時間をかけて読む価値のある本です。
碓井タカシ、 大野 道邦、 丸山 哲央、 橋本 和幸(編) 『社会学の理論』(有斐閣)
社会システム論を始めとした社会学の理論が網羅的に解説されています。社会学の基礎知識がないと読みにくいのが欠点です。理論的な展開を知りたい方にオススメな本です。
河本英夫『オートポイエーシス』(青土社)
河本英夫は哲学者で日本にオートポイエーシスを初めて紹介した人物です。この本はシステム論の系譜からオートポイエーシスを説明し、様々な領域のあり方を根本から問い直しています。少々難しいですが、オートポイエーシスの奥深さを感じられるはずです。
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まとめ
最後に今回の内容をまとめます。
- 社会システム論とは、社会を一定の価値観を共有・内面化した人びとの集まりと考えて、その人びとの行為のネットワークをシステムとして捉えることから社会のメカニズムを分析しようとする理論である
- パーソンズは社会における個別の活動、「全体」に対する「部分」が「全体」を維持するためにプラスの「機能」を担うか、マイナスの「機能」を担うかという議論をする
- ルーマンは「オートポイエーシス・システム」を用いて、社会システムの秩序をシステム自身が作り出す「自己組織システム」であることを指摘した
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