社会学

【投票行動とは】社会学・心理学・経済学の研究からわかりやすく解説

投票行動とは

投票行動(Voting behavior)とは、選挙において有権者が賛否の意見や態度を表明する行動のことで、人びとが政治に参加する方法の1つです。

「投票」といえば、政治に関する用語の中でも特に馴染み深いものだと思いますが、「投票行動」はそれを分析するために、心理学、社会学、経済学などでしばしば用いられる用語です。

そのため、幅広い学問分野から投票行動について理解する必要があります。

そこで、この記事では、

  • 投票行動の意味・意義・現代日本の特徴
  • 投票行動における「社会学モデル」「心理学モデル」「経済学モデル」

をそれぞれ解説していきます。

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1章:投票行動とは

1章では投票行動を「意味」「意義」「現代日本の特徴」から概説します。投票行動に関する研究は2章で解説しますので、用途に沿って読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:投票行動の意味

日本では2015年に公職選挙法が改正され、2016年以降の選挙では投票できる年齢が「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げられました。この記事を読んでいる皆さんも有権者である方が多いかと思います。

投票行動とは、私たちのような一般の有権者の選挙時の行動のことです。そして、投票行動についての研究では、私たち有権者がどのようなメカニズムで特定の政党や候補者に投票したかを明らかにすることを目指しています。

私たちがある政党や候補者に投票する理由は、以下のように多種多様なものがあるはずです。

  • 「政策に共感したから」
  • 「党首(候補者)の人柄が良さそうだから」
  • 「なんとなく目についたから」
  • 「とりあえず現状維持で与党に」
  • 「とりあえず現状を変えたいから野党に」

投票行動の研究では、このような多様な有権者の投票への動機を、世論調査の結果や選挙結果、時には実験で集めたデータを用いて明らかにしてきました。

1-2:投票行動を分析する意義

では、投票行動について研究・分析する意義は何でしょうか?この問題に関しては、まず「政治」について考える意義から説明しなければいけません。

朝起きて、仕事をしたり学校の授業を受けて、家に帰って寝る。このような普通の生活をしている中では、一見、政治は私たちの生活から程遠い、ワイドショー番組の中の出来事でしかないように思えます。

しかし、このような普通の生活も、実は政治で決められたことに規定されています。たとえば、私たちの仕事に対して支払われる給料について考えてみてください。

  • 仕事に対して支払われる給料は、国が定めている「最低賃金」をベースにしている
  • 最低賃金は、厚生労働省の最低賃金審議会を通して国や各地域で決められるが、その前に、政府や厚生労働大臣によって引き上げ/引き下げの方針が決められる
  • 事実、現在の第2次安倍政権では、大幅な引き上げが促されてきた
  • つまり、政治によって私たちの給料のベースが決められている

このような政治を行う政治家を決めるための行為が「投票行動」です。私たちの生活を根本から支えている政治、そしてその過程の中で中心的な役割を担う選挙や投票について研究することは、この社会についてのあらゆる疑問に答えるために不可欠なことです。

※政治制度に関しては、以下のページにまとめていますので、ブックマークして何度も参照ください。→政治学記事の一覧へ飛ぶ

このような意義があることを念頭に、2章ではこれまでの投票行動についての研究をまとめていきます。その前に、以下で日本における投票行動の特徴を見ておきましょう。



1-3:現代日本における投票行動の特徴

政治学者の山田真裕は、以下の書物で「International IDEA(民主制を世界的に支援するための国際政府間組織)」の2015年のデータを利用して、民主主義体制をとる37カ国との比較しています。そこから、日本における政治参加の特徴を整理しました。

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このデータによれば、日本の2014年衆院選の投票率(52.66%)は37カ国中30位です。

山田は、衆院選は日本における最重要選挙であり、多くの場合他の選挙よりも高い投票率を示すものであることから、日本人の投票率は相対的に低いと結論づけています。

また、1990年衆院選以来、70%を超えていないことからも、日本人の投票率が国際的にみて高いとはいえないと述べています2山田真裕『政治参加と民主政治』(東京大学出版会)43頁

加えて、山田は同じデータからG7諸国における投票率の推移を整理しています3山田 前掲書 45頁

議院内閣制の5カ国の比較

  • 日本の投票率の平均値はカナダについで低く、最小値については日本が最低である
  • そのため、長期的にみても日本人はあまり投票に行っていない

事実、国政選挙における投票率は衆議院・参議院ともに50~60%で推移しており、昭和に比べれば減少傾向にあります4総務省「国政選挙の投票率の推移について」最終閲覧日2020年8月15日

日本人の投票率を年代別でみれば、国政選挙の投票率は60代まで年代が上がるごとに上昇することがわかっています5総務省「国政選挙における年代別投票率について」総務省|国政選挙の年代別投票率の推移について 最終閲覧日2020年8月18日

これは、一般的に「政治的社会化」として知られている現象として説明されることが多いです。つまり、年齢を重ねて職業・家庭・住居をもつことで、身の回りの政治的な問題に関心を持つようになる人が多いということを表しています6山田 前掲書 58頁

厳密にいえば、政治的社会化は人間が家庭や学校、職場、メディアなどを通じて政治的な価値観を内面化していくことを指しますが、多くの場合、これは加齢によって起こっています。そして、日本人もその例外ではないということです。

1章のまとめ
  • 投票行動とは、選挙において有権者が賛否の意見や態度を表明する行動のことで、人びとが政治に参加する方法の1つである
  • 長期的にみても日本人はあまり投票に行っていないことが提示されている

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2章:投票行動に関する研究

投票行動については、多くの学問分野において膨大な研究が蓄積されています。そのため、ここでは「社会学モデル」「心理学モデル」「経済学モデル」という3つの代表的な考え方を紹介します。

2-1:社会学モデル

社会学における投票行動の研究では、有権者のもつ社会的属性が投票行動の要因になるという考え方をします。

この考え方の源流は1920年代のヨーロッパにおける政治社会学にみられますが、大きなタームポイントとなったのは1940年にアメリカの社会学者ラザースフェルドらによってオハイオ州エリー郡で行われた「エリー調査」でした7伊藤ほか『政治過程論』(有斐閣)112頁

エリー調査の概要

  • 無作為抽出法(ある集団からランダムに対象者を選ぶ調査法)とパネル調査法(同じ調査対象者に繰り返し調査を行う方法)という方法論が確立された
  • この調査では、高い社会経済的地位・プロテスタント系・農村や郊外居住者といった属性を持つ人々は共和党に投票すること
  • カトリック系・都市中心部居住者といった属性を持つ人々が民主党に投票する傾向があることが明らかになった

この結果から、社会経済的地位・宗教・居住地域などによって有権者の投票行動が異なることが明らかになり、有権者の社会的属性によって有権者の投票行動を説明できるとする、投票行動の「社会学モデル」が確立されたのです。

日本においては、この分野の第一人者である三宅一郎が1967年の研究で社会学モデルを導入しています(たとえば、三宅ほか『異なるレベルの選挙における投票行動の研究』創文社)。

具体的には、

自民党支持者には経営者や商店主、農林漁業従事者など、自分の手で自分の仕事をコントロールしているという意識を持った人々が多いこと

を明らかにしました。

しかし、ここまで見てきた社会学モデルには、後述の心理学モデルを確立したミシガン大学の研究者たちによって、主に2つの批判がなされました(たとえば、ANGUS CAMPBELL, PHILIP E. CONVERSE, WARREN E. MILLER, AND DONALD E. STOKES The American Voter The University Chicago Press)。

  1. 有権者の社会的属性が大きく変わらなくても、選挙結果が大きく異なるケースがある
  2. どのようなタイプの人々がどの政党に投票しやすいかという「傾向」は明らかにできても、なぜその政党に投票するのかという「理由」は説明できていない

このような批判的見解を乗り越えるために(特に②の指摘)、投票行動研究に心理学的要因が導入されるようになりました。これが次に紹介する「心理学モデル」です。



2-2:心理学モデル

ミシガン大学の研究者たちによって確立された投票行動研究は、「心理学モデル」または「ミシガン・モデル」と呼ばれます。

ミシガン大学の研究者たちは、1956年のアメリカ大統領選挙の際の世論調査データの分析や1948~1956年の大統領選挙時にランダムに抽出した有権者たちへの聞き取り調査を実施します8CAMPBELL et al.,前掲書 10頁

そして、これらのデータの分析によって、社会的属性と投票行動の間に、次の3つの心理学的要因が存在していると主張しました。

  1. 政党帰属意識・・・ある政党への忠誠心のようなもの
  2. 候補者イメージ・・・文字通り有権者が抱く候補者の印象のこと
  3. 争点態度・・・政策争点に関する有権者の立場

ミシガン・モデルでは政党帰属意識が投票行動へ最も強く、長期的に影響を与えるとされました。一方で、②と③の要因は短期的な要因とされました。

このようにミシガン・モデルの確立によって、以下のように投票行動のさまざまなケースを説明できるようになったといえます。

  • 有権者は社会的属性に基づいて長期的に政党帰属意識を育み、それに基づいて投票することもある
  • 候補者イメージや争点態度といった短期的な要因によって別の政党・候補者に投票することもある



2-3:経済学モデル

ミシガン大学の調査データの分析では、政党帰属意識が投票行動の最も大きな規定要因だと主張したことから、有権者が個別の政策争点についての判断力をもたず、合理的判断に基づく投票ができていないという認識が広がりました9伊藤ほか,前掲書122頁

こういった認識への反論として、合理的な有権者像を前提とした経済学モデルでの投票行動分析が広がっていくことになります。

その代表的なものとして、ライカーとオーデシュクが1968年の論文「A theory of the calculus of voting」で示した、以下のモデルが挙げられます10(Riker and Ordeshook “A theory of the calculus of voting” American Political Science Review (62)28頁,ただし変数説明の日本語訳は荒井紀一郎『参加のメカニズム』木鐸社に準拠)

R=PB-C+D

  • R=有権者個人が投票によって得られる効用
  • B=有権者が最も好む投票者が当選した時に得られる利得と、最も好まない候補者が当選した時の利得の差
  • P=投票によってBを得る有権者個人の主観的確率
  • C=投票に際して生じる有権者のコスト
  • D=有権者としての義務を果たすことによる効用

この式に従うと、有権者はR>0で投票し、R<0で棄権することがわかります。そのため、簡単にいえば、このモデルでは、有権者は投票による利益とコストを天秤にかけ、利益が上回れば投票し、コストが上回れば棄権することになります。

このような経済学モデルにおける有権者は、投票行動に関する判断を合理的にこなせる存在とされたため、「合理的選択モデル」とも呼ばれました。

一方、政治学者の荒井紀一郎はこの合理的選択モデルの問題点を、以下のように指摘しています11荒井 前掲書 53〜56頁

  • そもそも、投票によって個人の1票が選挙結果に影響を及ぼす確率はとても低いため、多くの有権者にとってはコストの方が大きくなり、そのほとんどが棄権するという予測がなされてしまう
  • しかし、実際の国政選挙の投票率は50%以上を維持している
  • この現象を説明するためには、上記の式における「D」、つまり投票を義務として捉え、これを果たすことによる有権者の効用を大きく見積もらなければならない
  • しかし、合理的選択モデルが前提としている「合理的な有権者」が「義務を果たす」という規範的なことによって効用を得るというのは矛盾している

このように、それぞれのモデルが説明しようと試みた現象は、有権者の属性・意識・合理性など、さまざまな変数が絡み合って決まっています。

そのため、どのモデルが一番適確に投票行動を説明してるというよりは、どの社会的現象がどのモデルが提示された状況に近いのか?と考えるのが良いのかもしれません。

2章のまとめ
  • 社会学における投票行動の研究では、有権者のもつ社会的属性が投票行動の要因になるという考え方をする
  • ミシガン・モデルでは、社会的属性と投票行動の間に、次の3つの心理学的要因が存在していると考えられた
  • 経済学モデルにおける有権者は、投票行動に関する判断を合理的にこなせる存在とされた

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3章:投票行動に関するおすすめ本

投票行動について理解を深めることはできましたか?

この記事で紹介した投票行動はあくまで概要です。投票行動をしっかり学ぶために、これから紹介する本をあなた自身で読んでみることが重要です。

おすすめ書籍

飯田健・松林哲也・大村華子『政治行動論―有権者は政治を変えられるのか』(有斐閣)

有斐閣から出版されている『政治行動論―有権者は政治を変えられるのか』です。この本は有斐閣の初学者向けのシリーズ「有斐閣ストゥディア」の1冊で、投票行動を含めた政治行動について、平易に紹介しています。

オススメ度★★★ 伊藤光利・田中愛治・真渕勝『政治過程論』(有斐閣)

こちらも有斐閣から出版されている『政治過程論』です。この本では個人や組織、制度といった視点から、政治のさまざまな側面についての研究を紹介しています。

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オススメ度★★ 加藤秀治郎・岩渕美克『政治社会学』(一藝社)

社会学における政治に関する研究について、コンパクトにまとめられています。巻末にはサルトーリとポパーの代表的な論文の邦訳も掲載されており、教科書ながら、この分野における古典にも触れることができます。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 投票行動とは、選挙において有権者が賛否の意見や態度を表明する行動のことで、人びとが政治に参加する方法の1つである
  • 投票行動に関しては、「社会学モデル」「心理学モデル」「経済学モデル」という3つの代表的な考え方がある

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