PM理論とは、集団機能をPerformance(P機能)と、Maintenance(M機能)の2つの機能次元に大別することで、優れたリーダーシップの行動を見出そうとする理論です。日本の社会心理学者である三隅二不二によって提唱されました。
優れたリーダーシップをリーダーとの特性や素質から見出そうとする伝統的なリーダーシップ論が限界を迎え、新たなリーダーシップ研究の開拓が求められていたなかで、研究がすすめられたのがリーダーの特性ではなく「行動」に着目したリーダーシップ論でした。
この記事では、
- PM理論の歴史や特徴
- PM理論に関連する議論
などについて解説します。
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1章:PM理論とは
まず、1章ではPM理論を概説します。2章ではPM理論を深掘りしますので、用途に沿って読み進めてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1:PM理論の歴史
ここでは、PM理論が誕生するまでの歴史を簡単に紹介していきます。
1-1-1:特性理論の限界
人類の歴史のなかには、常に時代をリードし、人々を先導してきた数多くのリーダーが存在していました。そうした優れたリーダーに共通する特徴を、人物の資質や特性に見出そうとしたのが、リーダーシップ研究のもっとも初期の理論にあたる特性理論でした。
※特性理論に関してより詳しくはこちらの記事をご覧ください。→【特性理論とは】リーダーシップの特徴をわかりやすく解説
しかし、特性理論では、根源的なリーダーシップの発生を説明したり、その人がどうすれば優れたリーダーになれるかを予想するのに不十分であることが判明し、リーダーシップ研究では新たな手法の開拓が求められるようになりました。
そこで登場したのが、リーダーの属人的な資質や個性に着目するのではなく、リーダーのとる行動に優れたリーダーシップを見出そうとする行動理論でした。
1-1-2:行動理論の誕生
行動理論において、もっとも基礎にあたる研究としてアメリカの心理学者レヴィンらによるリーダーシップ研究(通称:アイオワ実験)をあげることができます。
実験概要
- リーダーシップの行動とは、「専制型リーダーシップ」「民主型リーダーシップ」「自由放任型リーダーシップ」の3つのスタイルに分類することができる
- そのなかでも「民主型リーダーシップ」こそがもっとも長期的に生産性を向上させるリーダーシップであるという結論が得られた
1-1-3:アイオワ実験への批判、PM理論の構築へ
行動理論の礎を築いたアイオワ実験でしたが、その指導類型にあたる専制型や民主型にはさまざまな意味が含まれており、定義が曖昧であるとの批判が存在しました。
- たとえば、専制型リーダーシップであれば、その価値観の重きは秩序に置かれ、自由や創意工夫は軽視されるものとして認識されていた
- しかし、これはあくまで世間一般的なイメージを反映したものに過ぎず、客観的な用語の裏付けがないという指摘がある
そこで、リーダーシップの行動様式の概念化を専制型や民主型のような曖昧な指導類型でおこなうのではなく、より客観的な判断が可能である集団機能の観点から分析したのがバウワーズとシーショア(1966)です。
両氏は集団機能には次の4つの主要な機能が存在すると主張しました2三隅二不二(1986)『リーダーシップの科学 指導力の科学的診断法』講談社 62頁。
- 指示・・・他者に、人間的価値と尊厳性、人間尊重の感情を呼び起こさせる行動
- 相互作用促進・・・集団成員相互に、親密なお互いが満足した人間関係を発達させる行動
- 目標協調・・・集団目標への到達、すぐれた業績遂行への励ましをする行動
- 職務推進・・・仕事の手続きを決め、調整し、計画をたて、また道具、材料、専門知識を供給することによって目標達成を促進する行動
そしてアメリカの社会学者ベールスは、この集団機能をより発展させ、①と②の機能の側面を情動中心、③と④の機能を仕事中心と整理していくことで、曖昧さを排除した、より科学的な理論の構築を目指しました。
この考え方は後のPM理論にも引き継がれることになります。しかし、ベールスは情動中心のリーダーシップと仕事中心のリーダーシップは相反する傾向にあると主張したのに対して、三隅はこの2つのリーダーシップは共存可能であると考えました。
これは従来の行動理論ではあまり考慮されていなかった部分であり、三隅のPM理論の特徴的な主張のひとつとなりました。
1-2:PM理論とは
PM理論では、集団で認められる機能を以下のように区別して考えることで、リーダーの行動が集団にどのような影響を与えるのかが検証されました。
- P(Performance)機能・・・集団の目標達成や課題解決に関する機能
- M(Maintenance)機能・・・集団の維持を目的とする機能
具体的に、P機能には、会議などで議題について話し合いを進め、問題を討議する過程、また民間企業で生産目標を目指して作業者が仕事を進める過程、学校のクラスで教師の指導のもとに生徒たちが学習を進める過程などが該当します。
一方でM機能には、人間関係に生じた緊張関係や敵対関係を解消する過程や、集団の中で和やかな雰囲気を醸成するために、冗談やユーモアに富んだ話を進める過程などが該当します3三隅二不二(1986)『リーダーシップの科学 指導力の科学的診断法』講談社 62頁。
そして、PM理論は次の図1のようにまとめることができます。
図1 PM理論4三隅二不二(1986)『リーダーシップの科学 指導力の科学的診断法』講談社 71頁
大文字小文字は、リーダーが持つそれぞれの機能の大きさを表しており、Pmであれば、P機能は高い水準にあるが、M機能は比較的低い水準にあることを示しています。
P機能とM機能の大きさは、それぞれの機能の大きさの測定を目的としたリーダーの部下に対する質問への集計結果をもとに算出され、リーダーがどの領域に属するかが判定されます。
また、先にも説明したようにP機能とM機能は互いに相反しておらず、むしろ相補関係にあると考えられています。そのため、三隅はPMのリーダーシップこそが最善のリーダーシップであると考え、PM理論の実証実験を進めていくことになります。
1-3:PM理論の実証
PM理論の実証にあたっては、実際の企業でP型、M型、そしてPM型のリーダーシップを設定して、それら3種の指導様式のいずれが、作業の成績向上にもっとも有効であり、またどれが有効でないかが検証されました。
実験の結果は図2のようになり、PM型のリーダーシップが最上のリーダーシップであることが実証されました。三隅はP型のリーダーシップとM型のリーダーシップのそれぞれの働きを次のように分析しています5三隅二不二(1986)『リーダーシップの科学 指導力の科学的診断法』講談社 76-77頁
図2 リーダーシップのタイプによる実験集団の生産性向上6三隅二不二(1986)『リーダーシップの科学 指導力の科学的診断法』講談社 77頁
- P行動は生産中心的なリーダーシップの働きであるが、Pのみでは、生産向上には限界がある
- 人間は、働け、働け、と外部から強制的な圧力が加わると、その外部の圧力に抵抗する力が内部に生じると考えられる
- こうした心的抵抗のため、あまりに生産中心的な監督を強化されると、生産意欲が阻害されると推測される
- M行動は、それ自身の単独の機能としては生産を上げる力は弱い
- しかし、P行動に対して触媒的効果を発揮するときにもっとも生産をあげ、同時に部下がもっとも満足して働けるような状況が生まれると推測される
三隅は、「P要素に対して、M要素が適時に、かつ適度に相乗すれば、この心理的抵抗力がこのMの触媒効果によって、いちじるしく減滅されるのではなかろうか」7三隅二不二(1986)『リーダーシップの科学 指導力の科学的診断法』講談社 77頁と述べたうえで、P要素、M要素のどちらかを重視するリーダーシップは生産性向上にあまり寄与しないことを指摘しています。
また三隅は、PM機能と生産性向上の関係のみならず、PM機能と部下の仕事満足度の関係についても調査をおこなっています。
調査にあたっては、特定の調査項目に対していくつかの質問を用意することで、リーダーシップのPM機能と部下の満足度がどのような関係になっているのかが調査されました。
図3 PM4類型と会社満足度の関係8三隅二不二(1986)『リーダーシップの科学 指導力の科学的診断法』講談社 104頁
調査の結果、PM機能と部下の満足度の関係性は、PM型のリーダーシップの時に部下の満足度は最大になることが明らかになり、次いでM型のリーダーシップ、P型のリーダーシップが部下の満足度にプラスの影響を与えることがわかりました。
この傾向は、部下の会社満足度のみならず、給与満足度やチームワーク、コミュニケーションや精神衛生といった項目でも同様であり、調査項目に関わらず、PM型のリーダーシップが部下の満足度をもっとも高めるということが実証されました。
三隅の調査をより詳しくはこちらの書物を参照ください。
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- PM理論とは、集団機能をPerformance(P機能)と、Maintenance(M機能)の2つの機能次元に大別することで、優れたリーダーシップの行動を見出そうとする理論である
- P要素、M要素のどちらかを重視するリーダーシップは生産性向上にあまり寄与しない
2章:PM理論とリーダーシップの訓練
さて、2章ではPM理論を前提としたリーダーシップ訓練法を紹介します。
2-1:マネジリアル・グリット
三隅は、PM理論に基づくリーダーシップの訓練方法のひとつとして、アメリカのブレークとムートンが提唱した「マネジリアル・グリット」の活用を推奨しています。
マネジリアル・グリットでは、「業務への関心」を横軸に、「人間への関心」を縦軸に、それぞれ9段階の尺度から81個の管理スタイルを設定します(図4)。
図4 マネジリアル・グリット9三隅二不二(1972)『現代経営学全集 第7巻 リーダーシップ』ダイヤモンド社 234頁
そして、最も基本的なものとして、次の5つのスタイルを提示しています。
- 1-1型(不毛のマネジメント)・・・業績、人間ともに関心度最低。仕事に対する努力を最小限とする
- 1-9型(カントリークラブマネジメント)・・・業績に対する関心は最低だが、人間に対して最高の関心を示す。仕事においては良好な人間関係の構築を最優先とする
- 5-5型(中道)・・・両面とも中間地の関心を示す。仕事においては業績と人間関係をバランスよく配慮する
- 9-1型(タスクマネジメント)・・・人間に対する関心は最低だが、業績に対しては最高の関心を示す。仕事においては効率と成果を最優先する
- 9-9型(チームマネジメント)・・・業績、人間ともに関心度最高。人々の参画によって仕事が達成できる、組織目的への共通の理解のもとに、自立的で尊敬と信頼の関係をつくろうとする
三隅はグリットの「業績」と「人間」、PMの「目標達成(P機能)」と「集団維持(M機能)の両軸の概念はほぼ対応するものととして、マネジリアル・グリットとPM理論が類似したものであることを認めています10三隅二不二(1986)『リーダーシップの科学 指導力の科学的診断法』講談社 244頁。
また双方とも、高-高に位置するリーダーシップスタイル(PM理論であればPM型、グリットであればチームマネジメント型)がもっとも集団にプラスの効果を与えるという認識も一致しています。
一方で違いについては、PM理論がP要素とM要素をそれぞれ部下の評定によって測定されるものであるのに対して、マネジリアル・グリットはリーダーの考え方(仮説)によって自己評価されます。
2-2:グリット方式
またマネジリアル・グリットでは、リーダーシップを訓練するための具体的かつ効果的な手法が提唱されています。グリット方式と呼ばれるその手法では、次の6つのステップに基づいてリーダーの訓練が実施されます。
図5 グリット方式による組織づくりの6段階11三隅二不二(1972)『現代経営学全集 第7巻 リーダーシップ』ダイヤモンド社 241頁
- ①グリッドセミナー・・・学術的な行動科学の学習である。特に、現実の職場と学術的な理論とを区別して考えるための導入として用いられる
- ②チームワークの改善・・・職場のチームといった現実の手段における実態を分析し、改善を図る活動である
- ③部門間活動の改善・・・職場で起こっている葛藤に対する問題解決を、教育訓練の方法によって図ろうとする活動である
- ④理想的戦略モデルの展開および⑤計画と実施・・・ケーススタディとなる教材を用いて、既存の見方や先入観にとらわれないビジネスロジックを養成し、計画と実践に結び付ける
- ⑥システマティックなクリティーク・・・組織の自己診断表が用意されており、これを使って組織開発の成果をチェックする
グリット方式では、①~③を組織内のコミュニケーションの改善と位置付けており、④~⑥を経営の科学に基づく組織開発プロセスと位置付けています。
そして、この6つのステップを長期間にわたって組織で取り組むことによって、受講者のグリットは高-高へと改善していき、組織は高い生産性を実現することができるとブレークとムートンは主張しています。
- PM理論に基づくリーダーシップの訓練方法のひとつとして、アメリカのブレークとムートンが提唱した「マネジリアル・グリット」がある
- グリットの「業績」と「人間」、PMの「目標達成(P機能)」と「集団維持(M機能)の両軸の概念はほぼ対応する
3章:PM理論について学べるおすすめ本
PM理論を理解することはできました?PM理論に少しでも関心をもった方のためにいくつか本を紹介します。
三隅二不二『リーダーシップの科学 指導力の科学的診断法』(講談社)
PM理論の専門的な研究書にあたる『リーダーシップ行動の科学(1978年、有斐閣)』をわかりやすく解説した解説本です。PM理論がわかりやすく解説されており、他のリーダーシップ論を知らない方でも読みやすい1冊です。
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三隅二不二『リーダーシップ』現代経営学全集 第7巻(ダイヤモンド社)
リーダーシップの教科書としてはかなり古いですが、1970年代以前のリーダーシップ論の要点や推移がわかりやすくまとめられています。PM理論以前のリーダーシップ論の解説も多く、リーダーシップ研究を広く知りたい方にもおすすめです。
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一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- PM理論とは、集団機能をPerformance(P機能)と、Maintenance(M機能)の2つの機能次元に大別することで、優れたリーダーシップの行動を見出そうとする理論である
- P要素、M要素のどちらかを重視するリーダーシップは生産性向上にあまり寄与しない
- PM理論に基づくリーダーシップの訓練方法のひとつとして、アメリカのブレークとムートンが提唱した「マネジリアル・グリット」がある
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