経営学

【リーダーシップ論とは】意味・歴史・有名な事例をわかりやすく解説

リーダーシップ論とは

リーダーシップ論とは、組織やチームがその目的に応じて、優れた成果を達成した時に、誰をリーダーに置いたのかに注目するのではなく、そのリーダーがどのようにして成果を達成できたいのかに注目し、そこから成功のポイントを導くことを目指す理論です。

ある企業内でリーダーシップをとることは決して簡単なことではありません。そのため、経営学では長らくリーダーシップに関する研究がおこなわれてきました。

どのようなアプローチもまだ理論の確立までは至っていませんが、実践で活かされることもあり、しっかり学ぶ必要があります。

そこで、この記事では、

  • リーダーシップ論の意味
  • リーダーシップ論の歴史
  • リーダーシップ論の有名な事例

をそれぞれ解説していきます。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:リーダーシップ論とは

まず、1章ではリーダーシップ論を「意味」「研究アプローチ」から概観します。2章ではリーダーシップ論の歴史を、3章ではリーダーシップ論の有名な歴史を解説しますので、関心に沿って読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1: リーダーシップ論の意味

まず、冒頭の確認となりますが、

リーダーシップ論とは、組織やチームがその目的に応じて、優れた成果を達成した時に、誰をリーダーに置いたのかに注目するのではなく、そのリーダーがどのようにして成果を達成できたいのかに注目し、そこから成功のポイントを導くことを目指す理論

です。

少し堅くいえば、リーダーシップとは、「組織あるいは集団において、目標達成に向けてある個人が他者に影響を及ぼすプロセスである」と定義されています。

「リーダー」と「リーダーシップ」はよく意味を混合されて使われますが、両者には以下のような違いがあります。

  • リーダー・・・組織や集団を運営していく上での役割や機能
  • リーダーシップ・・・組織や集団が目標達成をしていく上でのプロセスに焦点を当てたもの

このようにみると、リーダーシップ論が上述のように定義される理由がわかると思います。



1-2: リーダーシップ論の研究アプローチ

リーダーというのがあくまで一組織や集団の役割や機能に過ぎない限り、社会にどれほどの数のリーダーがいるかは想像も尽きません。一国の国家元首をリーダーと呼ぶこともあれば、趣味的なスポーツクラブのキャプテンもリーダーと呼ぶことができるからです。

つまり、リーダーには組織や集団の規模、資格がありません。ただ、共通の目的や目標を持った組織や集団であれば自然とリーダーは生まれます。

リーダーシップ論ではこうして生まれたあらゆるリーダーが、その組織や集団の存在理由である目的や目標の達成に向けて、どのようなスタンスや行動をとることが、より効果を生むのかを考えます。

研究アプローチの観点からいえば、リーダーシップ論では研究対象を以下のように2つに分けて、それぞれが持つ性質や2者間の影響を考えます。

  • リーダー・・・組織やチームにおいて影響を及ぼす側
  • フォロワー・・・組織やチームにおいてリーダーの影響を受ける側

どんな優れたリーダーであっても、フォロワーと呼ばれるメンバーが存在しなければ組織やチームで大きな成果を出すことはできません。

2章以降では、この「リーダー」と「フォロワー」の性質と関係性が時代ごとにどのように捉えられ、なにが明らかにされていったのかを説明していきます。

1章のまとめ
  • リーダーシップ論とは、リーダーがどのようにして成果を達成できたいのかに注目し、そこから成功のポイントを導くことを目指す理論である
  • 「リーダー」と「リーダーシップ」はよく意味を混合されて使われるが、両者には違いがある
  • リーダーシップ論の研究対象は、リーダーとフォロワーになる



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2章:リーダーシップ論の歴史

さっそく、リーダーシップ論のこれまでの歴史と変遷を説明します。

2-1: 特性論

リーダーシップ論の最も初期な理論は「特性論」です。

簡潔にいえば、特性論とは、

個人が生まれながらにして持つ個性や素質に着目し、リーダーに向いている人の共通点を調べ上げるというもの

です。

特性論では身体的特徴から性格的特徴まで測定可能な項目を徹底的に調べ上げ、優れたリーダーになるための条件を探られました。

第二次世界大戦後、リーダーシップの研究が世界中で本格的にはじまるまでは、この「特性論」がリーダーシップの最も基礎的なアプローチでした。

ただ、結論から言ってしまえば、この研究は失敗に終わりました。あらゆる研究結果を分析しても、個性や素質だけでは優れたリーダーである共通点を見出すことができなかったからです。



2-2: 行動論

そこで次に注目されたのは、「行動論」です。

行動論では、

  • 優れたリーダーの素質ではなく、行動に注目するアプローチが取られた
  • 優れたリーダーの要因が特性でなく行動であれば、フォロワーたちの目に見え、リーダーたちも訓練や経験によって身につけることができる

と考えられました。

世界中で研究が実施され、アメリカではアイオア大学、オハイオ州立大学、ミシガン大学、日本では九州大学で行動アプローチの研究がされています。その結果、研究方法に多少の違いはありましたが、すべての研究で以下の同様の結論が導かれました。

  • 課題の達成に関連した行動・・・目標を立てる、納期を守らせる、分業させるなど
  • 人としてフォロワーへの配慮に関連した行動・・・メンバーの貢献を称える配慮をする、偉ぶることなく友人のような存在として振る舞う、メンバーの個人的な相談に乗るなど

上記の2つの行動を評価し、どちらの項目においても高い評価を得たリーダーに高い業績がみられたのです。

つまり、仕事と人間の両方に高い関心を示すのがもっと有効なリーダーシップ・スタイルであると明らかになったのです。

2-3: コンティジェンシー論(条件適合理論)

行動論がリーダーシップ論の中心となったのち、新たに生まれたのが「コンティジェンシー理論(条件適合理論)」です。

コンティジェンシー理論では、

メンバーの課題がルーティンなのか不確実なのか、あるいは、フォロワーのスキルが成熟しているのか未熟なのかといった条件の違いによって、リーダーの取るべき行動は変わってくる

と考えられました。

代表的な研究をいえば、

  • フィードラーの状況好意性理論
  • ハウスのパス=ゴール理論
  • ハーシーとブランチャードのSL理論

があります。

どれもフォロワーが置かれる環境や状況を分析することで、リーダーの最適な行動も変化するという結論を導くものでした。

コンティジェンシー理論では、行動論を踏まえ、フォロワーの置かれる環境や状況という新たな要因を加えたことで、リーダーシップのパターンをより細かく分類、分析することで、リーダーシップの研究をより深化させました。

しかし、実践的にも役立つ有効なモデルを構築するまでには至りませんでした。その理由として、組織や集団が置かれる環境は千差万別であり、すべての状況を考慮することができないことがもっとも大きな原因でした。



2-4: 現在のリーダーシップ研究

特性論、行動論、コンティジェンシー理論を経て、現在でもなお、世界中で様々な観点からリーダーシップの研究がおこなわれています。

ここでは、そうした研究の中でも「フォロワー・アプローチ」「自己調整アプローチ」を紹介します。

2-4-1: フォロワー・アプローチ

フォロワー・アプローチとは、

行動論・コンティジェンシー理論では無個性で受動的存在であると考えられていたフォロワーの心理的な側面に着目し、能動的な存在としてリーダーや他のフォロワーとの関わりを分析する方法

です。

組織や集団である限り、リーダーがどれだけ献身的に組織に貢献しても、メンバーであるフォロワーの協力を得られない限り、高い成果を出すことはできません。

そのため、フォロワー・アプローチでは、

  • リーダー行動や言動に対するフォロワーの受け止め方を様々な角度で分析
  • リーダーのどのような行為や言動が、フォロワーにどのような影響を与えるのかを検討
  • その結果、フォロワーはどのような行動をするのか明らかにする

といったアプローチをとります。

この研究から、フォロワーには次の特性があることが明らかになってきています2小野善生(2016)『フォロワーが語るリーダーシップ』有斐閣 p350より一部改編

  • フォロワーは、価値観、目標、将来の可能性のようなフォロワーの自己概念に働きかけてくれるリーダーシップに対して、その努力を引き出す傾向がある
  • フォロワーのリーダーに対する情緒的・機能的な信頼を大きいと、リーダーの意思決定はフォロワーに、より受容されやすい傾向がある

つまり、優れたリーダーはフォロワーの内面に効果的に働きかけることによって、フォロワーからの信頼を得ることができ、その結果、組織や集団内における意思決定が容易になることで、大きな成果を出せていると考えられました。



2-4-2: 自己調整アプローチ

自己調整アプローチでは、

実在する優れたリーダーたちがフォロワーたちとどのような経験をし、なにを成し遂げたかという現実に迫り、そうしたストーリーから成功の原理・原則を示そうとする方法

です。

優れたリーダーの歴史には成功もあれば、必ず失敗もあります。そうしたエピソードを本人または周辺人物よりヒアリングし、客観的に分析することで、より実践的で優れたリーダーシップのエッセンスを抽出することができます。

代表的な研究では、ジェームズ・M・クーゼスとバリー・Z・ボズナーの著書『リーダーシップチャレンジ』で、「模範的リーダーシップの5つの実践と10の原則」を示し、より実践的かつ具体的なリーダーシップの行動をまとめました3ジェームズ・M・クーゼス、バリー・Z・ボズナー『リーダーシップチャレンジ』(海と月社 39頁より抜粋)

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模範的リーダーシップの5つの原則と10の原則

①模範となる

  • 自分の言葉で語り、共通の理念を確認することで、価値観を明らかにする
  • 共通の価値観に従って行動することで、手本を示す

②共通のビジョンを呼び起こす

  • 心躍るような遂行な可能性を想像し、未来を描く
  • 共有の夢に訴えて、人々を引き入れる

③プロセスに挑戦する

  • 自発的に行動し、革新的な改善策を外部に求めることで、チャンスを模索する
  • 小さな勝利を積み重ね、経験から学ぶことで、実践しながらリスクをとる

④人々を行動にかりたてる

  • 信頼を築き、絆を強めることで協働を育む
  • 意思決定の権限を与えることで、人々の能力を高める

⑤心から励ます

  • 卓越した成果を誉め、貢献を認める
  • 共同体精神をつくりだし、その価値と勝利を讃える

ここでは、リーダーシップとは特定の個性や行動ではなく、リーダー自身の心理的なコントロール(自己調整)に基づき、具体的アクションを起こすことによって、優れたリーダーシップを発揮できる可能性を示しました。

どちらのアプローチもまだ理論の確立までは至っていませんが、現場で活用できるより実践的な方法論としてとても参考になるものです。

2章のまとめ
  • 特性論とは、個人が生まれながらにして持つ個性や素質に着目し、リーダーに向いている人の共通点を調べ上げるというもの
  • 行動論とは、優れたリーダーの素質ではなく、行動に注目するアプローチが取るもの
  • コンティジェンシー理論では、条件の違いによって、リーダーの取るべき行動は変わってくることを示したもの
  • 現代では「フォロワー・アプローチ」と「自己調整アプローチ」がある



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3章:リーダーシップ論の有名な事例

3章では、松下電器会社(現・パナソニック株式会社)の創業者・松下幸之助を事例にし、優れたリーダーシップの在り方を考えていきます。

3-1: 松下幸之助のプロフィールと経営理念

まず、松下幸之助のプロフィールを簡潔に紹介します4『松下幸之助.com』より一部抜粋(https://konosuke-matsushita.com/biography/index.php#profile, 最終閲覧日2020年3月23日)

  • パナソニック(旧松下電器産業)グループ創業者
  • 明治27(1894)年、和歌山県に生まれる
  • 9歳で単身大阪に出て、火鉢店、自転車店に奉公ののち、大阪電灯(現関西電力)に勤務
  • 大正7(1918)年、23歳で松下電気器具製作所(昭和10年、株式会社組織に改め松下電器産業に改称)を創業
  • 昭和21(1946)年には、「Peace and Happiness through Prosperity=繁栄によって平和と幸福を」のスローガンを掲げてPHP研究所を創設
  • 昭和54(1979)年、21世紀を担う指導者の育成を目的に、松下政経塾を設立
  • 平成元(1989)年に94歳で没

松下幸之助は、わずか1代で自らが創業した松下電器会社(現・パナソニック株式会社)を世界的な大企業に育て上げ、「経営の神様」とまで言われる人物です。また、その経営哲学は常に時代の1歩先を行くものであり、いまでも経営者の手本といわれる存在となっています。

松下幸之助の考えを代表するのが、以下のような松下電器の掲げた経営理念でした5(『パナソニック株式会社ホームページ』より抜粋(https://www.panasonic.com/jp/corporate/jobs/philosophy.html, 最終閲覧日2020年3月23日))

松下電器の経営理念

綱領

産業人たるの本分に徹し社会生活の改善と向上を図り
世界文化の進展に寄与せんことを期す

信条

向上発展は各員の和親協力を得るに非ざれば得難し
各員至誠を旨とし一致団結社務に服すること

私たちの遵奉すべき精神

産業報国の精神、公明正大の精神、和親一致の精神、力闘向上の精神、
礼節謙譲の精神、順応同化の精神、感謝報恩の精神

3-2: 経営理念の意味

上述した経営理念の意味を、それぞれみていきましょう。

3-2-1: 経営理念

松下幸之助は、創業時に松下電器の「経営理念(綱領)」として、人々の社会生活の改善に加えて、世界文化の進展という非常に壮大なビジョンを明示しました。

いまとなってはグローバルな視点での経営理念は珍しいものではないですが、戦前である当時の状況を考えると、松下幸之助の目指したビジョンがどれだけ偉大なものであったかがわかります。

3-2-2: 信条

次に、「信条」では企業の発展のために従業員の協力の大事さを強調しました。「信条」は、「経営理念(綱領)」で掲げた組織の目的を実現させるための企業のスタンスを表しているものです。

ここでも、松下幸之助は創業当初から自らの壮大なビジョンを達成するためには、スタッフ一人ひとりの努力と協力が不可欠であることを知っていました。

3-2-2: 私たちの遵奉すべき精神

最後に、「私たちの遵奉すべき精神」では、松下電器に勤める全スタッフが働くうえで大事にすべき価値観と行動精神を示しました。

松下幸之助ほど優れたリーダーであっても、全スタッフに対して業務指示をすることなどできません。そこで、彼は組織の明確な価値観を示すことで、その価値観に沿った形でスタッフが自発的に行動することを促しました。

この経営理念は創業から100年経ったいまなお、当時の言葉でパナソニック株式会社に掲げられています。これは、優れたリーダーシップは時代によって変わるものではなく、普遍的に存在している可能性を示唆するものかもしれません。

このように経営理念ひとつをとっても、松下幸之助が、2章で述べた優れたリーダーシップの条件をいかに満たしていたかがわかります。そして、なにより驚くべきことはこの経営理念が定められたとき、日本国内はもちろんのこと、世界中を見てもリーダーシップの研究はほとんどおこなわれていなかったことです。

まさに松下幸之助という稀代の経営者は、常に世界のリーダーシップ研究の先を歩んでいた人物であったといえるでしょう。

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4章:リーダーシップ論について学べる本

どうでしょう?リーダーシップ論について理解を深めることはできましたか?

リーダーシップ論の研究は現在進行形ですので、これから紹介する本を参考にあなたの学びを深めていってください。(参考文献も含む)

おすすめ書籍

金井壽宏(2005)『リーダーシップ入門』(日本経済新聞社)

日本のリーダーシップの第一人者とも言える方であり、リーダーシップの歴史から理論まで初めての方でも読みやすい言葉で書かれています。

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鈴木隆太、服部泰宏(2019)『組織行動 — 組織の中の人間行動を探る』(有斐閣)

リーダーシップ論を中心に組織行動学の基礎が生徒と先生の対話形式が書かれており、理論を体系的に学ぶとができます。これから学ぶ方にもおすすめできる一冊です。

その他参考文献

小野善生(2016)『フォロワーが語るリーダーシップ』(有斐閣)

日野健太(2010)『リーダーシップとフォロワー・アプローチ』(文真堂)

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ジェームズ・M・クーゼス、バリー・Z・ボズナー(2014)『リーダーシップチャレンジ』(海と月社)

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松下幸之助(2019)『リーダーになる人に知っておいてほしいこと』(PHP研究所)

参考サイト

  • 『パナソニック株式会社ホームページ』・・・https://www.panasonic.com/jp/home.html
  • 『松下幸之助.com』・・・https://konosuke-matsushita.com/
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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • リーダーシップ論とは、リーダーがどのようにして成果を達成できたいのかに注目し、そこから成功のポイントを導くことを目指す理論である
  • リーダーシップ論の研究対象は、リーダーとフォロワーになる
  • リーダーシップ論は、特性論、行動論、コンティジェンシー理論、フォロワー・アプローチ、自己調整アプローチなどがある

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