財界とは、大資本を中心とした実業家・金融業者の社会・経済界であり、総資本の立場で社会・経済をリードするパワーエリートの集団のことを指します1宮本又郎「財界・財界人はなぜ必要だったのか?」『企業家研究』(10)24-31頁。
財界自体は、あくまで経済利益を目的とする企業の集まりを指したものに過ぎませんが、その存在はサロンのような交流や意見交換の機能を超えて、社会や経済さらには政治にまで影響力をもたらす集団として認識されています。
この記事では、
- 財界の活動・政治との関係
- 財界の歴史
などをそれぞれ解説していきます。
好きな箇所から読み進めてください。
このサイトは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。
ぜひブックマーク&フォローしてこれからもご覧ください。→Twitterのフォローはこちら
1章:財界とは
まず、1章では財界を概説します。2章では財界の歴史を解説しますので、用途に沿って読み進めてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注2ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1:財界の意味
冒頭にて財界とは、総資本の立場で社会・経済をリードするパワーエリートの集団であると述べましたが、これはあくまで一般的な認識を定義として用いているだけです。そのため、財界に位置付けられるための条件や基準が公に存在しているわけではないです。
また財界と言うと、いくつもの団体が乱立して存在しているような印象も受けますが、日本国内のマスメディアが用いる財界という言葉は、以下の3つの団体のうちいずれか、または複数を指していることがほとんどです。
- 日本経済団体連合会
- 経済同友会
- 日本商工会議所
この3つの団体の総称的な呼び方が「財界」であると認識するのが良いでしょう(この記事でも、以降の「財界」とは上記の3団体を指すこととします)。
財界についての詳しい説明に入る前に、まずは上記の3団体について簡単に確認しましょう。図1は財界の主要3団体を一覧でまとめた表です。
図1「財界の主要3団体」3日本経済団体連合会 公式ホームページ、経済同友会 公式ホームページ、日本商工会議所 公式ホームページ。上記を参考に、筆者作成
各団体をそれぞれ解説していきます。
1-1-1: 日本経済団体連合会(通称、経団連)
主要3団体のなかでも、もっとも大きな規模と影響力をもつと言われているのが「日本経済団体連合会」(以下、経団連)です。
経団連とは、
- 日本の代表的な企業1,444社
- 製造業やサービス業等の主要な業種別全国団体109団体
- 地方別経済団体47団体
などから構成されている団体です。
その活動としては、経済界が直面する内外の広範な重要課題について、経済界の意見を取りまとめ、その実現を目指すと同時に、政治、行政、労働組合、市民を含む幅広い関係者との対話を進めることであると宣言しています4日本経済団体連合会公式ホームページ「経団連とは」https://www.keidanren.or.jp/profile/pro001.html(最終閲覧日2020年9月1日)。
経団連は、主要3団体のなかでも特に際立った規模と影響力の大きさから「財界総理」または「財界総本山」とも呼ばれる団体であり、その発言や動向は常に注目されています。
1-1-2: 経済同友会
次に、経済同友会とは、
- 大企業の代表取締役を中心に1539名(2019年時点)の会員を有する団体
- 経団連に次ぐ影響力をもっている団体
として知られています。
経済同友会は、一企業や特定業種の利害を超えた幅広い先見的な視野から、変転きわまりない国内外の諸問題について考え、議論し政策提言を行うことを宣言しています5経済同友会公式ホームページ「組織概要」 https://www.doyukai.or.jp/about/org.html(最終閲覧日2020年9月1日)。
経団連とは異なり、企業として加盟するというより、企業を経営する経営者が個人名義で会員となって参加している点に大きな特徴があります。
1-1-3: 日本商工会議所
最後に、日本商工会議所とは、
3団体のなかでは唯一「商工会議所法」という法律を根拠にして運営されている団体
です。
全国で515の商工会議所をもち、その加盟者も地域の中小企業がほとんどであり、他の2団体とは異なり、各商工会議所がその地域に根付いた活動をおこなっていることに大きな特徴があります6日本商工会議所公式ホームページ「日商の概要」 https://www.jcci.or.jp/about/jcci/index.html(最終閲覧日2020年9月1日)。
商工会議所は、その活動として、地域の諸問題を解決するため、地域経済社会の代弁者として政策提言・要望活動等を積極的に展開し、その実現を図ることを宣言しており7日本商工会議所「商工会議所とは 2-商工会議所の組織体制」 https://www.jcci.or.jp/aboutcci.pdf、特に中小企業や地域零細企業の代弁者としての活動を中心的におこなっています。
1-2:財界の活動
財界では、それぞれの団体が各団体の設立趣意書に基づき、さまざまな活動をおこなっていますが、すべての団体が共通して重視しているのが「政策提言」です。
政策提言とは、
「他者、特に政策決定者に対し、ある課題への取り組みやその関連政策、思考、事業実施方法や変化を支持するよう推進し、はたらきかけ、提言活動を行うこと」8IPPF公式ホームページ「ホーム 政策提言活動」 https://www.ippf.org/jp/node/3155(最終閲覧日2020年9月1日)
を意味します。
特に、財界においては、所属している企業に直接関わる企業経営に関する問題や課題を中心に、人々の暮らしから国際問題に至るまでの総合的な提言をおこなっています。
たとえば、日本商工会議所が日本政府に提出した「2021年度中小企業・地域活性化施策に関する意見・要望」では、以下のような提言をおこなっています9日本商工会議所公式ホームページ「「2021年度中小企業・地域活性化施策に関する意見・要望」を提出」 https://www.jcci.or.jp/news/2020/0831153058.html(最終閲覧日2020年9月1日)。
- コロナショック影響の長期化を踏まえた中小企業の事業継続支援とコロナ禍の先を見据えた地方創生の推進
- 中小企業の生産性向上
- 地域活性化
- 大規模自然災害からの復旧・復興
- 東日本大震災からの確実な復興・創生
また、経団連はその影響力を生かし、政策の提言だけにとどまらず、政府に設置された合議制の機関である経済財政諮問会議や未来投資会議といった政府主催の会議の参加者にも、有識者や経営者を輩出しており、経済連の政策提言の実現性をより高めています。
1-3:財界と政治の関係
財界の主たる活動が政府に対しての「政策提言」にあることを考えても、財界と政治は切っても切り離せない関係にあると言えます。
しかし、財界はあくまで営利目的の民間企業の集合体であり、日本の民主主義において、財界が直接的に自らの提言や主張を政治に反映することはできません。(→民主主義という制度についてはこちらの記事)
そこで財界は、自らの提言や主張を代弁してもらえるような政治家との関係性を強めることで、政治に対して間接的に影響力を発揮してきました。
財界が、政治に対して繋がりを強める最も代表的な行為が「政治献金」です。
政治献金とは、政治家が政治活動のための必要資金を支援者が寄付という形で提供する行為です。政治献金には大きく分けて企業が行う「企業・団体献金」と個人が行う「個人献金」が存在します。図2は政治資金の収入/支出項目をグラフにまとめたものです。
図2「政治資金の収入/支出項目」10ラポール・ジャパン「日本の政治資金2015」https://rapportjapan.info/whitepaper/index.html
2015年のデータによると、政治資金収入のうち約4分の1は寄付、つまりは政治献金によって得られたものでした。金額にすると580億円近い政治献金が政治家の1年間の活動費として使われた計算となります。
この寄付金という形での政治献金が財界と政治の間で、いわゆる「政治とカネ」と呼ばれるさまざまな問題や議論を生み出してきました。
実際、2020年現在で上記の3団体から特定の政治家や政党に対する直接的な政治献金は自粛されており、あくまで団体に属する企業の自由意思による企業献金あるいは個人献金という形が採用されています。
- 財界とは、大資本を中心とした実業家・金融業者の社会・経済界であり、総資本の立場で社会・経済をリードするパワーエリートの集団のことを指す
- 日本経済団体連合会、経済同友会、日本商工会議所が財界の主要団体である
- 財界は、所属している企業に直接関わる企業経営に関する問題や課題を中心に、人々の暮らしから国際問題に至るまでの総合的な提言をおこなっている
2章:財界の歴史
さて、2章では財界の歴史を詳しく解説していきます。
2-1:財界の成り立ち
財界がいつから存在していたのかを考えるためには、期間を戦前と戦後に分ける必要があります。
戦前において、財界はいまのように政治的な影響力が強かったわけではないです。あくまで所属する企業間の利害関係を調整したり、会員相互の親睦や知識交流を深めたりする機能を持つ団体に過ぎませんでした。
1922年、日本工業倶楽部から派生した日本経済連盟会が結成されると、その設立趣意書では次のような宣言がされました11川北隆雄『財界の正体』講談社 23頁。
一国の経済力を集中団結し、各方面の意見を綜合統一するに足るへき一大実業団の出現にまたさる可からす
この宣言からは、いまの財界の性質を含む活動を有するものであったことが理解できます。
しかし、戦前においては三菱や三井といった財閥企業の政治への影響力が大きく、日本経済連盟会は機能を存分に発揮することはできなったとされています。(→日本の財閥に関してはこちらの記事)
戦後、財界が機能するようになったのは財閥が解体され、政治家を支える金銭的な屋台骨が無くなったからに他なりません。
2-2:財界と政治
戦後まもなく財界が団体の再編を進めた結果、「経済団体連合会」(旧・経団連)、「日本経営者団体連盟」(旧・日経連)「経済同友会」「日本商工会議所」の中央財界四団体制が確立します。
そして、戦後に解体された財閥の穴を埋めるように、財界は政治との距離を急速に近づき、政治家との関係性を保ったうえで、現在まで日本経済に大きな影響力を発揮してきました。もっとも、その距離や関係性もその時々の世論や経済情勢などに影響を受け、常に一定ではありませんでした。
川北隆雄の『財界の正体』(講談社)では、企業と政治の関係性を次の4つの時期で紹介されています。
第一期
- 終戦(1945年)から経済再建懇親会設立(1955年)までの10年間で、財力を持つ経営者個人が政治家を選別し、個人献金をしていた時代
- 第一期では、後の首相となる吉田茂や池田隼人が個人の経営者や有力者から莫大な政治資金の援助を受けていた
第二期
- 経済再建懇談会設立から「55年体制」の終了(1993年)までの約40年間
- 第二期では、旧経団連が有力企業や有力者をまとめあげ、経済再建懇親会(後の国民政治協会)12自由民主党の政治資金団体を通じて自民党に多額の献金をした
- この40年は財界と政治の距離がもっとも近い時期であったと考えられている
※55年体制に関して詳しくはこちらの記事→【55年体制とは】政治の特徴と現代までの歴史を詳しく解説
第三期
- 「55年体制」終了後から旧・経団連と旧・日経連が統合する(2002年)までの約10年間
- 自民党内での政治汚職が続き、1993年の衆院選で自民党が敗れ、非自民八党会派による細川内閣が成立した。翌年に旧・経団連が政治献金斡旋の廃止を決めたことで、財界と政治の蜜月は急速に解消された
第四期
- 旧・経団連と旧・日経連が統合し、日本経団連が発足したのを機に、2004年から日本経団連が独自の政策評価を基に企業献金・団体献金を再開するようになった
- 第四期では、日本経団連が世論や改正された政治献金に関する規制法を鑑み、独自の献金システムを作り上げ、国政への関与を強めるようになった
2009年の衆院選で自民党が民主党に敗れたことで、この献金システムは一時的に廃止されましたが、その後復活し、いまでも経団連による政策評価によるおこなわれています。
2-3:「政治とカネ」のスキャンダル
「政治とカネ」にまつわる数々のスキャンダルは、その時々でマスメディアによってセンセーショナルに報道され、時には政局を大きく動かす出来事として常に注目されてきました。
代表的なスキャンダルだけでも、日通汚職事件やロッキード事件、リクルート事件などが挙げられます。そして、その裏には企業献金あるいは個人献金という寄付行為を隠蓑にした賄賂性13大辞泉によると、賄賂とは「自分の利益になるようとりはからってもらうなど、不正な目的で贈る金品」を指しており、特に公務員に対する収賄には刑法によって重い罪が課せられます。が存在していました。
本来、適正に処理された政治献金には、刑法における贈収賄罪は適用されません。では、適正な政治献金と賄賂の境目はどこにあるのかというと、実は明確な基準は存在していないと言われています。
政治献金と賄賂の曖昧さ
- 実際、贈収賄事件で収賄容疑をかけられた政治家が、しばしば「あれは単なる政治献金だった」と言い逃れようとすることは多い
- 賄賂側(賄賂を贈る側)が逮捕、起訴されたにも関わらず、収賄側(賄賂を受け取る側)は逮捕されなかったというケースも少なくない14川北隆雄『財界の正体』講談社 90頁
もちろん、政府側も「政治とカネ」に関する不透明さを放置してきたわけではありません。
1948年に制定され、現在まで複数回の改正がなされている政治資金規制法では、政治家や政治団体が取り扱う政治資金についてのルールを定めており、違反者には罰則も設けられています。
また、1994年には政党交付金制度が制定され、政治献金に頼らない自立した政治のあり方が模索されました。
政党交付金制度の概要
- クリーンな政治を実現するための画期的な制度として一定の評価を得たが、その財源は結局のところ国税であった
- その結果、総額500億円以上にもわたる企業献金のすべてを賄うほどの制度にはならなかった
そして、この「政治とカネ」に関する嫌疑の目は財界にも常に向けられています。そもそも営利目的の民間企業で構成される財界の存在理由自体が、各団体の経済的利益である限り、財界から政界に流れる巨額の資金に完全なる透明性を担保するのは非常に難しいことです。
1-3でも述べたように、上記の3団体から特定の政治家や政党に対する直接的な政治献金は自粛されていています。その結果、あくまで団体に属する企業の自由意思による企業献金あるいは個人献金という形が採用されています。
しかし、財界の政治に対する立ち振る舞いの難しさは残ります。財界と「政治とカネ」については、これからもさまざまな立場で議論されていく問題でしょう。
- 戦前において、財界はいまのように政治的な影響力が強かったわけではない
- 企業と政治の関係性を、4つの時期に分かることができる
- 財界から政界に流れる巨額の資金に完全なる透明性を担保するのは非常に難しい
3章:財界について学べるおすすめ本
財界について理解を深めることはできましたか?
この記事で紹介した財界はあくまで概要です。財界をしっかり学ぶために、これから紹介する本をあなた自身で読んでみることが重要です。
オススメ度★★★ 川北隆雄『財界の正体』(講談社現代新書)
実態の見えにくい財界という存在をジャーナリスト出身の著者が深く切り込んだ1冊です。財界の全体像から、今度の役割や展望までが簡潔にまとめられています。
(2024/11/21 15:13:44時点 Amazon調べ-詳細)
オススメ度★★★ 読売新聞経済部『検証 財界-中西経団連は日本型システムを変えられるか』(中央公論新社)
読売新聞に長期連載された企画が書籍された1冊です。経団連編、財閥編、就活編、春闘編、株主総会編、中小・地方編、業界団体編など、多角的な視点から財界の現在を探っています。
一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
最初の1冊は無料でもらえますので、まずは1度試してみてください。
また、書籍を電子版で読むこともオススメします。
Amazonプライムは、1ヶ月無料で利用することができますので非常に有益です。学生なら6ヶ月無料です。
数百冊の書物に加えて、
- 「映画見放題」
- 「お急ぎ便の送料無料」
- 「書籍のポイント還元最大10%(学生の場合)」
などの特典もあります。学術的感性は読書や映画鑑賞などの幅広い経験から鍛えられますので、ぜひお試しください。
まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- 財界とは、大資本を中心とした実業家・金融業者の社会・経済界であり、総資本の立場で社会・経済をリードするパワーエリートの集団のことを指す
- 日本経済団体連合会、経済同友会、日本商工会議所が財界の主要団体である
- 財界から政界に流れる巨額の資金に完全なる透明性を担保するのは非常に難しい
このサイトは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。
ぜひブックマーク&フォローしてこれからもご覧ください。→Twitterのフォローはこちら