政治史

【構造調整計画とは】意味・特徴・問題点をわかりやすく解説

構造調整計画とは

構造調整計画(Structural adjustment program)とは、世界銀行と国際通貨基金(IMF)が援助国政府の政策決定に介入することを条件に、実施する開発援助のことです。開発途上国の債務問題を解決し、開発を促進することが目的とされています。

現在の開発途上国支援のあり方へを方向づけた出来事に、世界銀行とIMFによる構造調整計画があります。

国際機関による援助がこれまでどのように行われ、その方法がどのような問題点をはらんでいたかを知ることは、今後の途上国開発を考えていくための重要な教訓となります。

この記事では、

  • 構造調整計画のあり方・特徴
  • 構造調整計画の具体例・問題点

をそれぞれ解説していきます。

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1章:構造調整計画とは

1章では、構造調整計画を行った世界銀行とIMFの援助の実施方法、構造調整計画の意味と内容について解説します。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:IMF・世銀からの援助のあり方

世界銀行とは、国連の専門機関の一つであり、開発途上国の経済発展のために融資や技術援助を行う機関です(→世界銀行の歴史やこれまでの取り組みに関してはこちら)。世界銀行の援助には、大きく「資金援助」「技術協力」があります。

  • 資金援助・・・低金利での貸し付けや無利子での融資、無償での贈与などによって資金を提供している。その資金を活用して、教育や保健、行政、インフラ、農業等に対して投資支援を行っている
  • 技術協力・・・専門家による制作助言や研究、分析などの支援を途上国に提供するもの

一方で、IMF(国際通貨基金)も世界銀行と同時期に設立された国際機関の一つで、国際貿易の促進や雇用・国民所得の増大、為替の安定に寄与することを目的としています。

主な取り組みとしては、加盟国の為替政策の監視、国際収支が悪化した国に対する融資などを行っています。

1944年、この両組織が設立された背景には、第二次世界大戦前後の経済の混乱がありました。この状況を立て直すために、開発途上国の開発を促進し、通貨価値の安定や貿易を活性化する必要がありました。
→開発途上国について詳しくはこちら

そこで途上国の課題を解決するために世界銀行が、通貨や貿易に関する課題に取り組むためにIMFが設立されたのです。そのため、世界銀行もIMFも、融資、つまり資金を貸し付けることがその役割の中心にあります。

持続的な支援を行っていくためには、融資と同時に融資した資金の回収も行っていかなければなりません。しかし1980年代になると、中米やアフリカ諸国を中心に、多くの開発途上国がその債務の返済に苦しめられるようになります。

債務の返済の背景

  • 多くの国で植民地時代から続く一次産品の輸出収益に依存したモノカルチャー経済があった
  • モノカルチャーとは、先進国が求める作物だけを集中的に栽培するプランテーション農業のことである
  • 国家の主導によるモノカルチャー経済の運営が一次産品の国際価格の下落とともに破綻したことが、債務問題が発生した大きな要因の一つであった

世界銀行・IMFは、このような安定性に欠く経済に依存し、市場原理からかけ離れた政府介入型の制度を問題視し、その解決に動き始めます。



1-2:構造調整計画の意味と内容

開発途上国の債務問題を解決するため、世界銀行とIMFは新たな貸出条件(コンディショナリティ)の仕組みとして、「構造調整計画(SAP:Structual Adjustment Program)」を導入しました。

構造調整計画はいわば新たな融資の仕組みで、融資を実施する国の財政政策を世界銀行とIMFが介入し決定していくことを条件に貸出しを行っていくものです。

構造調整計画によって介入された政策は、次のような方針によって定められました。

  1. 為替レートの自由化
  2. 金利の自由化
  3. 貿易の自由化
  4. 外貨の自由化
  5. 民営化
  6. 規制緩和
  7. 公共支出改革
  8. 税制改革
  9. 財政の自律
  10. 私的所有権の保証

この方針によって、構造調整計画が導入された国は、財政赤字を縮小するための政策(緊縮政策)が推し進められることになります。つまり、公的な規制が抑えられることで、民間が活躍する機会が増加し、市場主導の経済成長が促されることを期待したものでした。

このように構造調整計画の特徴として、世界銀行とIMFがその国の政策に大きく介入することを貸出の条件とする融資の仕組みだったといえます。

この経緯で作られたワシントンを中心とした共通認識を「ワシントン・コンセンサス」と言います。詳しくは以下の記事で解説しています。

【ワシントン・コンセンサスとは】成立の背景から批判までわかりやすく解説

1-3:構造調整計画の実例

続いて、構造調整計画において世界銀行・IMFが求めた具体的な政策やコンディショナリティについて紹介していきます。

ここでは、ベネズエラで実行された構造調整政策を例に見ていきましょう。ベネズエラでは、1970年代末から1980年代に経済危機が襲い、それに伴って急激に債務が累積したことで、構造調整政策を実施することになります。

ベネズエラの構造調整計画は、「財政赤字の改善」「経済の自由化」「対外不均衡の改善」の三つを目標に掲げ、次のような政策が実行されました。

1-3-1: 財政の再建

財政再建のために要の政策となったのが、税制改革でした。石油の貿易の中心であるベネズエラでは、石油価格の変動によって財政収入が大きく影響を受けていました。

そのため、安定的な財政基盤の構築のために法人資産税などの新たな税制が導入され、税徴収による収支の安定化を図りました。他にも公共料金の大幅な引き上げ、各種補助金の撤廃、さらには銀行、航空会社、電話などの国営企業の民営化などが行われました。

1-3-2: 経済の自由化

1980年代に財政赤字によるインフレが大きな問題になっていたベネズエラでは、そのインフレを抑えるためにさまざまな商品の価格統制を行っていました。しかし、そのせいで消費が落ち込んでしまうという問題を抱えてしまいました。

構造調整計画ではこの政府による価格統制を廃止し、価格の自由化を行うこと消費の活性化を促しました。また、金利の自由化を行うことで金融改革を行ったり、関税の引き下げや輸入ライセンス制度を撤廃したりすることで貿易を自由化し、経済の立て直しを図りました。

1-3-3: 国際収支の改善

諸外国との取引における収支、すなわち国際収支の改善も大きな課題の一つでした。それまでベネズエラでは、為替レートを複数適用し、輸出入するものによって使い分ける複数為替相場制度を用いて国際収支を安定させようとしていました。

しかし、それによって多くの資金が国外に流出する事態(キャピタル・フライト)になったため、為替のレートを一つに定める単一為替相場制度が導入されました。

また、外国資本の自由化を行ったことで、資本収支の改善と外資による経済活動の活発化を目指しました。

1-3-4: 社会プログラムの策定

経済などの政策だけでなく、国民、とくに低所得者層の生活を守るための政策も行われました。

失業保険の拡充や妊婦・乳幼児を持つ母親に対する食糧支援、医療の無償提供などの他、構造調整導入直後は、最低賃金の引き上げや解雇の禁止、中小企業への支援などが実施されました。

構造調整計画は主に国際機関による援助における仕組みですが、その背景には新自由主義があるとも指摘されます。詳しくは下記の記事をご覧ください。

【新自由主義とは】定義・問題点・生まれた背景をわかりやすく解説

以上は、ベネズエラの例でしたが、他の国に対しても同じように、世界銀行とIMFによる構造調整政策は国家の政策に大きく踏み込んだものでした。

1章のまとめ
  • 構造調整計画とは、世界銀行と国際通貨基金(IMF)が援助国政府の政策決定に介入することを条件に、実施する開発援助のことである
  • 構造調整計画を通して、公的な規制が抑えられることで、民間が活躍する機会が増加し、市場主導の経済成長が促されることを期待された

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2章:構造調整計画の問題点

さて、2章では、構造調整計画(SAP)の問題点についてどのような議論がされているかを解説していきます。

世界銀行とIMFによる構造調整計画によって、経済状況が大きく改善された国があった一方で、むしろ大きく悪化してしまった国もありました。

たとえば、長坂(2007)は、構造調整計画の問題点として、以下のように述べています2長坂寿久(2007)「IMF・世銀と途上国の債務問題 ――NGOの視点から」『国際貿易と投資』国際貿易投資研究所(編)第69巻,128頁

債務返済を中心とした予算を組まねばならないため、予算の多くを債務返済に向けねばならない国が増えていった。また、マクロ経済指標の向上を目指す政策がとられたため、教育や医療などの社会セクターへの投資が進まず、さらに自然災害、エイズが襲い、絶対的貧困がさらに深刻化することになった

構造調整計画は、前述の通り、世界銀行やIMFの政策への介入を条件に資金の融資を行うものです。したがって、経済が計画通りに発展していかなければ、さらなる融資が続き、その返済に苦しめられる続けることになります。

とくに、開発途上国の産業の中心である農業については、経済成長のために外貨獲得を目的としたモノカルチャー経済化が推進されていきました。その際に、起きた問題は以下のとおりです。

  • 問題は多くの開発途上国がこの政策により、同じ作物の生産を行うようになったことで国際価格が低下したことである
  • この問題により、経済発展が思うように進まず、債務の返済に追われるようになり、ついには国内の医療や教育などの社会セクターへの支出が削減されていくことになった
  • 社会サービスが低下することで就学率の低下やHIV/エイズやマラリアなどの感染症が蔓延していった
  • さらには、モノカルチャー経済によってアンバランスな農作物の生産が行われ、自国での自給自足は困難になってしまった

こうして、開発途上国の人々の生活は絶対的貧困状態へと陥っていっていきました。また、長坂(2007)は、次のようにも述べています3長坂寿久(2007)「IMF・世銀と途上国の債務問題 ――NGOの視点から」『国際貿易と投資』国際貿易投資研究所(編)第69巻,130頁

SAPという政策は、先進国や特定の中所得国や中国などにおいてはある程度機能可能な政策でありうるかもしれないが、開発の初期条件の異なる、あるいは社会基盤が未整備な途上国にそのまま適用するには無理があるのだ。

実際、アジアや中南米の国々では、構造調整計画(SAP)によって大きく経済発展や工業化に成功した国が多かったです。一方で、アフリカ地域においては、大きな成果が得られなかった国がいくつも見られました。

このアジア・太平洋地域とアフリカ地域の違いについて、嶋田(2001)は次のように言及しています4嶋田晴行(2001)「1990年代の構造調整をめぐる議論から見た世銀の援助」『国際協力研究』第17巻,第1号,42頁

両地域の差は、マクロ経済と政治の安定、豊富で優秀な人的資源といった初期条件の違いに起因し、そうした条件を整えられる政府のオーナーシップの欠如と脆弱なガバナンスこそが究極的な問題であり、それらは直接的には「世銀はコントロールできない条件」である

このように、もともと国家としての歴史や成熟度が異なる国に対して、構造調整計画という画一的な方法によって対処しようとした点が問題であると主張しています。

とはいえど、アジアで構造調整計画(SAP)が成功しなかった国も当然存在します。たとえば、三浦(2009)は、フィリピンで実施された構造調整政策の一つであった公営企業の民営化に関して、次のように指摘しています5三浦敦(2009)「構造調整プログラムの社会的側面~フィリピンとセネガルの比較~」『埼玉大学紀要』第45巻(1)177頁

民営化は結局、一般の人々には利益をもたらさず、逆に一般の人々の利益を吸い上げる役割を果たすことになり、貧困問題をかえって悪化させるものであった。

フィリピンでは、構造調整政策の一環として電力と水道の民営化を行いました。しかしながら、民営化を進める上で多額の賄賂が横行したり、当初低価格を売りにしていた電力・水道料金も経営の悪化に伴い、料金が急激に吊り上がったりするなどの問題が起こりました。

結果的に、賄賂によって一部の富裕層や権力者のみに利益をもたらし、民営化された企業の増え続ける赤字は税金で対処されるなど、市民の生活をさらに圧迫させることになりました。

このように、世界銀行とIMFによる構造調整計画は、各国が期待したほどの成果を得ることができませんでした。また、1990年代になると各国の「援助疲れ」によるODA拠出額の減少、さらには東西冷戦も終焉したことで、構造調整計画による支援が縮小されていきます。

その後、支援のあり方は、支援の対象を途上国の優先すべき分野に絞り、ドナー国と途上国政府とが協調して取り組んでいけるようなパートナーシップとオーナーシップを強調した支援へと変わっていきます。

さらに近年では、現地の人々が積極的に開発に関わっていく「参加型開発」を軸に、途上国の開発が進められています。

2章のまとめ
  • 構造調整計画によって、経済状況が大きく改善された国があった一方で、むしろ大きく悪化してしまった国もあった
  • もともと国家としての歴史や成熟度が異なる国に対して、構造調整計画という画一的な方法によって対処しようとした点が問題である

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3章:構造調整計画に関するオススメ本

構造調整計画について理解できましたか?

さらに深く知りたいという方は、以下のような本をご覧ください。

オススメ書籍

オススメ度★★★ 井出穣治・児玉十代子『IMFと世界銀行の最前線―日本人職員がみた国際金融と開発援助の現場』(日本評論社)

世界銀行で実際に職員として勤務した筆者ら語る、国際機関が行う開発援助の現状を知ることができる一冊です。

オススメ度★★★ 佐藤隆広『経済開発論―インドの構造調整計画とグローバリゼーション』(世界思想社)

世界銀行とIMFが実施した構造調整計画によって経済を急成長させたインドの例をもとに、構造調整計画の効果と課題を解説した一冊です。構造調整計画についてより詳しく知りたい方におすすめです。

オススメ度★★ ウィリアム・イースタリー『傲慢な援助』(東洋経済新報社)

これまでさまざまな形で行われてきた開発援助の歴史をもとに、これからの途上国の開発援助のあり方について問う一冊です。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 構造調整計画とは、世界銀行と国際通貨基金(IMF)が援助国政府の政策決定に介入することを条件に、実施する開発援助のことである
  • 構造調整計画を通して、公的な規制が抑えられることで、民間が活躍する機会が増加し、市場主導の経済成長が促されることを期待された
  • もともと国家としての歴史や成熟度が異なる国に対して、構造調整計画という画一的な方法によって対処しようとした点が問題である

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<参考文献>

坂口安紀(1994)「ベネズエラの構造調整政策」『ラテンアメリカレポート』第11巻(2),39-50頁