ウェイソン選択課題(Wason selection task)とは、心理学者のウェイソンが開発した論理問題の1つです。
ウェイソン選択課題をとおして人間の認知についてを学ぶことができます。そのため、多少難しいかもしれませんが、しっかりと理解する必要があります。
そこで、この記事では、
- ウェイソン選択課題の意味・例
- ウェイソン選択課題の学術的な議論
をそれぞれ解説していきます。
好きな箇所から読み進めてください。
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1章:ウェイソン選択課題とは
1章では、ウェイソン選択課題を概説します。ウェイソン選択課題の心理学的な実験に関心のある方は、2章から読んでみてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1:ウェイソン選択課題の意味
冒頭の確認となりますが、ウェイソン選択課題とは、
心理学者のウェイソンが開発した論理問題の1つ
です。
この課題は4枚のカードを使用することから、別名「4枚カード問題」とも呼ばれています。
心理学の研究において、この課題は私たちが物事をどのように推論しているのかを確かめるために使用されます。
この課題についての詳細な説明をする前に、まずは実際にウェイソン選択課題を行ってみましょう。以下が問題です。
図1のような、4枚のカードがあります。このカードは一方の面にはアルファベットの文字が書かれていて、もう一方の面には数字が書かれています。
この時、「もし、あるカードに母音(A・I・U・E・O)が書かれているならば、別の面には偶数が書かれている」というルールが成立しているかを確かめるときに、どのカードを裏返す必要があるでしょうか。めくる必要のあるカードをこたえてください。
図1 ウェイソン選択課題
正解は、Eと7のカードです。
その理由を説明するために、まずは、カードにラベルを付けていきたいと思います。「もし、あるカードに母音(A・I・U・E・O)が書かれているならば、別の面には偶数が書かれている」というルールを単純にすると、「もし母音ならば偶数」ということが出来ます。
そこで、母音をp、偶数をqと呼ぶことにします。そして、母音や偶数ではないような状態を○○ではないという意味の記号を付けて、母音ではないことをp(_)と偶数ではないということをq(_)と呼びたいと思います。
さて、今回確かめたいのは、「もしpならばq」が正しいかということです。カードがpの場合から順番にみていきましょう。
カードがpの場合
もし、そのカードがpの時には、裏がqではない場合にはこのルールに違反したことになりますから、pのカード、すなわち母音のカードは裏返して確かめる必要がある
次は、qのカードの場合を考えてみましょう。
qのカードの場合
- qのカードの裏は、pであってもp(_)であってもこのルールは成立する
- なぜなら、qの裏がp(_)のカードがあったとしても、このルールには違反しないからである
- よって、qのカードは裏返す必要がない
続いて、p(_)のカードについて考えます。
p(_)の場合
- 重要なのはpの裏にqがあることである
- そのため、p(_)の裏に何が書かれていようとこのルールには関係ない
- よって、p(_)も裏返す必要はない
最後に、q(_)です。
q(_)の場合
- もし、q(_)の裏にpが書かれていたとすると、ルールに違反することになる
- それは、pの裏にはqが書かれていなくてはいけないからである
- そのため、このq(_)は裏返して確かめる必要がある
以上の理由から、めくるべきであるカードはpとq(_)、つまり、母音と偶数ではないカードである、Eと7が正しくなるというわけです。
この話は、論理学でいうところの待遇や裏といった概念を使うとより簡潔に理解できますが、今回はあえてその話をせずに1枚ずつ説明しました。
1-2:ウェイソン選択課題と確証バイアス
ウェイソン選択課題は、非常に正答率が低いことが知られています。ジョンソン・レアードとワトソンによると、正答率は以下のとおりです。
- pとqを選択した参加者・・・46%
- pのみを選択した参加者・・・33%
- pとqそしてq(_)を選択した参加者・・・7%
- pとq(_)を選択した参加者・・・4%
- その他の組み合わせを選んだ参加者・・・10%
つまり、約80%の参加者がqすなわち、偶数のカードである4もめくる必要があるというように誤って判断したことになります。
このような低い正答率は、単純にこの問題が難しいからではなく、人間の推論の癖によって生じるものだと、ウェイソンは説明しています。
その推論の癖は確証バイアスと呼ばれています。確証バイアスとは、人が仮説を検証する際の判断の偏りの1つで、仮説を反証するような証拠を探さず、仮説を支持するような証拠を探そうとする傾向のことです。
※確証バイアスに関しては、次の記事で詳しい説明をしています。→【確証バイアスとは】意味・例を心理学的実験からわかりやすく解説
ウェイソン選択課題では、pやqを裏返すことで、仮説を支持する証拠が得られます。そのため、pに加えてqが選ばれやすいというわけです。
ちなみに、これまで説明してきた認知心理学に関しては、次の教科書がおすすめです。
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- ウェイソン選択課題とは、心理学者のウェイソンが開発した論理問題の1つである
- 低い正答率は、問題が難しいからではなく、人間の推論の癖によって生じると考えられている
2章:ウェイソン選択課題の心理学的実験
非常に正答率の低いウェイソン選択課題ですが、少し条件を変えてやるだけでは非常に正答率が高くなることが知られています。2章ではウェイソン選択課題を深掘りしていきます。
2-1:ウェイソン選択課題の正答率と内容の関係
心理学においては、ウェイソン選択課題が解きやすくなる要因を調べることで私たちの推論がどのような特性を持っているのかが検討されてきました。次の問題を考えてみてください。
- 図2のカードは4人の人物についての情報が記載されたものです。一方の面には、飲んでいる飲料の名前が、もう一方の面にはその人の年齢が記載されています。
- 「もし、ある人がビールを飲んでいるならば、20歳以上でなくてはならない」というルールが守られていることを調べなければいけない場合、あなたはどのカードをめくりますか。」
図2 飲酒問題
いかがでしたか?答えを聞いた後でも、すぐにビールと16歳のカードをめくる必要があると判断できたのではないでしょうか?
実際に、この課題を使用したグリッグスとコックスでは、正答率が73%まで上昇しました2Griggs, R. A., & Cox, J. R. (1982). The elusive thematic‐materials effect in Wason’s selection task. British journal of psychology, 73(3), 407-420.。このような、課題の内容によって正答率が大きく変化することを主題内容効果と呼びます。
2-2:実用論的スキーマ
ではなぜ、この課題では正答率が上がるのでしょうか?この正答率の上昇を説明するのが、実用論的スキーマ(pragmatic reasoning schema)です。
実用論的スキーマとは、
私たちが日常的な経験から獲得した、原因と結果の関係についての思考の枠組みのこと
です。
かみ砕いて説明すると、こういうときにはこういうことを考えるといった思考の枠組みのことです。このスキーマから、上述の実験を説明すると、以下のようになります。
- 私たちはこのような思考の枠組みとして、「ある行為が許されるためには、ある前提条件が満たされなければならない」という枠組みを持っていると説明される
- このような枠組み(スキーマ)は、許可スキーマと呼ばれ、許可をするという判断をするときに利用される
- 飲酒問題のようななじみのある社会規範や道徳的なルールを扱った課題の場合にはこの枠組みが当てはまり、満たされていない条件であるq(_)を検証する必要があると考えやすくなるために正答率が上がると説明される
この実用論的スキーマの「許可」という構造に着目した考え方に対して異を唱えたのがコスミデスです3Cosmides, L. (1989). The logic of social exchange: Has natural selection shaped how humans reason? Studies with the Wason selection task. Cognition, 31(3), 187-276.。
2-3:コスミデスの実験課題
コスミデスは、重要なのは許可という構造ではなく、ずるをして利益を得ようとしている裏切り者の検出に私たちが長けているため、このような成績の変化が生じるのだと説明しました。
- 私たちは、進化の過程の中で集団生活を営むことで進化してきた
- そのような集団生活の中では、利益を得るためには対価を得なければならないという原則があり、これを守らない裏切り者の存在は集団にとっても個人にとっても脅威となるものであった
- そのため、進化の過程の中で裏切り者を検出するような機能が生得的に人間の認知システムに組み込まれているというのがコスミデスの考え方であった
このことを確かめるために、コスミデスは許可スキーマが使えないような場面においても成績の向上が見られることを検討するために、許可の文脈ではあるが、対価に対して利益を得るという文脈に「なっていない」4枚カード課題と、対価に対して利益を得るという文脈になっている4枚カード課題を行いました。
もし、対価に対して利益を得るという文脈になっていない課題で正答率が高くならなければ、許可よりも利益をずるをして得ようとしている裏切り者の検出という視点が重要であるということになります。問題は以下の通りです。
対価に対して利益を得るという文脈になっていない問題
図3の四枚のカードは一方の面にはある部族の男の特徴を、もう一方の面にはその男が食べているものを示しています。ある部族では顔の刺青は結婚している証拠です。キャッサバはおいしく栄養のある食べ物であるが、モロナッツはありふれた食べ物です。
「顔に入れ墨があるならば、キャッサバを食べていなければならない」というルールがあります。このルールに違反していないかを調べるためにどのカードを裏返せばよいでしょうか」
対価に対して利益を得るという文脈になっている問題
「図3の四枚のカードは一方の面にはある部族の男の特徴を、もう一方の面にはその男が食べているものを示しています。ある部族では顔の刺青は結婚している証拠です。キャッサバはおいしく栄養のある食べ物であるが、モロナッツはありふれた食べ物です。
「もし、ある男がキャッサバを食べているのであれば、顔に刺青をしていなければならない」というルールがあります。このルールに違反していないかを調べるためにどのカードを裏返せばよいでしょうか」
図3 コスミデスの4枚カード課題
この問題では、顔の刺青を対価として、キャッサバを食べることを利益としています。
- 後者の問題では、キャッサバという利益を得るためには顔の刺青という対価を払わなければならないというルールの裏切り者を探す構造になっている
- 前者では、利益(キャッサバ)は対価(刺青)を払わなくても食べることが出来るので、裏切り者を探すというような構造になっていない
実験の結果、前者の問題では、主題内容効果は見られませんでした。このことは、私たちが持つ裏切り者を探すことに長けているために、飲酒問題において、主題内容効果が起こるという説明を支持するものでした。
このコスミデスの考え方は、進化の過程のなかで、裏切り者を探すという能力を獲得したというもので、私たちが生得的なものとしての推論能力を持つというものでした。
一方、このコスミデスの考え方については、その後さまざまな追試が行われ、反論も多くあります。たとえば、高野・大久保・石川・藤井4高野陽太郎, 大久保街亜, 石川淳, & 藤井大毅. (2001). 推論能力は遺伝するか?. 認知科学, 8(3), 287-300.は、以下のような反論を提示しています。
コスミデスへの批判
- コスミデスの実験に対する追試を行い、裏切り者の検出よりも、実用論的スキーマによる説明のほうが妥当であるという結果を示している
- そして、このような推論能力は遺伝に基づく先天的な要因と、私たちのもつ高度な情報処理能力によって獲得される後天的要因が複雑に相互作用するプロセスの中から生じるのであって、遺伝によって獲得されるというような結論には慎重になる必要があると述べている
このように、非常に単純な論理パズルのようなウェイソン選択課題は、心理学において人間の推論の特性を調べるためのツールとして今もなお使用されているのです。
- 課題の内容によって正答率が大きく変化することを主題内容効果と呼ぶ
- コスミデスは、ずるをして利益を得ようとしている裏切り者の検出に私たちが長けているため、このような成績の変化が生じると説明した
3章:ウェイソン選択課題を学ぶ本・論文
ウェイソン選択課題を理解することはできましたか?最後に、あなたの学びを深めるためのおすすめ書物を紹介します。
箱田裕司・都築誉史・川畑秀明・萩原滋『認知心理学』(有斐閣)
認知心理学の教科書です。心理学についての概論書より範囲が狭くなって詳しくなっています。ウェイソン選択課題から、その先どのような経緯で議論が行われたのかが非常に整理されて記載されています。
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鈴木宏昭『認知バイアス 心に潜むふしぎな働き』(講談社)
さまざまな認知バイアスについて実験的検討を交えながら記載された新書です。一般向けなので、高校生でも容易に理解できる内容になっています。身近な出来事との関連も交えながら説明されていますので、楽しく読み切れる一冊です。
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カーネマン. D『ファスト&スロー(上・下):あなたの意志はどのように決まるか?』(早川書房)
ノーベル経済学賞を受賞したD.カーネマンが執筆した人間が陥りやすいさまざまなバイアスについて、2つの思考という観点から議論した一般書です。バイアス研究一般に関する知見を網羅的に学べる良書です。確証バイアスに関する知見も記載されています。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- ウェイソン選択課題とは、心理学者のウェイソンが開発した論理問題の1つである
- 低い正答率は、問題が難しいからではなく、人間の推論の癖によって生じると考えられている
- コスミデスは、ずるをして利益を得ようとしている裏切り者の検出に私たちが長けているため、このような成績の変化が生じると説明した
このサイトは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。
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参考文献
- Cosmides, L. (1989). The logic of social exchange: Has natural selection shaped how humans reason? Studies with the Wason selection task. Cognition, 31(3), 187-276.
- Griggs, R. A., & Cox, J. R. (1982). The elusive thematic‐materials effect in Wason’s selection task. British journal of psychology, 73(3), 407-420.
- 箱田 裕司・都築 誉史・川畑 秀明・萩原 滋(2016) 認知心理学 有斐閣.
- 高野陽太郎, 大久保街亜, 石川淳, & 藤井大毅. (2001). 推論能力は遺伝するか?. 認知科学, 8(3), 287-300.
- Kahneman, D. (2011). Thinking, fast and slow. New York: Farrar, Strauss, Giroux.(カーネマン,D.友野典男(解説)・村井章子(訳) (2012).ファスト&スロー(上・下):あなたの意志はどのように決まるか? 早川書房)
- 鈴木 宏昭. (2020). 認知バイアス 心に潜むふしぎな働き 講談社.
- Wason, P. C. (1966). Reasoning. In B. Foss (Ed.), New horizons in psychology. Penguin. pp. 135-151.