心理学

【リスキーシフトとは】意味・具体例・要因をわかりやすく解説

リスキーシフトとは

リスキーシフト(risky shift)とは、普段は慎重に判断をし、節度ある行動がとれる人が、集団で判断することで、より危険でリスクの高い決断を容易にすることです。

あなたは「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という言葉は聞いたことがありますか?この言葉はまさにリスキーシフトを示すものです。

この例以外にも、世の中にはリスキーシフトの危険な罠が実は多く潜んでいます。そのため、リスキーシフトを理解しないでいると、危険な罠にひっかかる可能性があります。

そこで、この記事では、

  • リスキーシフトの意味
  • リスキーシフトとコーシャスシフトの違い
  • リスキーシフトの具体例

をそれぞれ解説していきます。

あなたの関心のある箇所から読み進めてください。

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1章:リスキーシフトとは

1章ではリスキーシフトを概観します。リスキーシフトの原因は2章で詳しく解説しますので、あなたの関心に合わせて読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:リスキーシフトの意味

まず、冒頭の確認ですが、

リスキーシフトとは普段は慎重に判断をし、節度ある行動がとれる人が、集団で判断することで、より危険でリスクの高い決断を容易にすること

です。

たとえば、赤信号の例で、もしあなたが渡っていたら、それは「リスキーシフトした結果」として説明されます。

1-1-1: 社会心理学者のストーナー

そもそも、「リスキーシフト」とはアメリカの社会心理学者であるストーナー(J.F.S.Storner)が1961年に提唱した社会心理学の用語です2釘原直樹『グループ・ダイナミックス-集団と群集の心理学』(有斐閣)

ストーナーは「リスキーシフト」は「コーシャスシフト」という言葉とセットで用い、「集団極性化現象」を研究しました(コーシャスシフトに関しては後述)。

少し難しい言葉ですが、集団になることで極端な方向へ向かいやすくなる現象、と理解しておけば間違いありません。

1-1-2: ストーナーの実験

さて、リスキーシフトはストーナーがマサチューセッツ工科大学の修士時代に取り組んだ研究テーマです。

一般的に、集団で話し合いをする際、みんなの意見の折衷案あたりで話がまとまると考えられています。しかし、実際にストーナーが実験したところ、そうではないことが明らかになりました。

ストーナーの実験

  • 大学生6人1組で12個の多様な課題について話し合ってもらう
  • 課題は大学の進路選択や転職、リスクの高い手術を受けるかどうか、結婚など人生の中で起こりうる決断場面を想定したもの
  • それぞれの課題に、10%~100%の成功確率の選択肢を6つずつ用意した
  • 実験は①それぞれ個別に12個の課題について自分自身の答えを考えてもらう、②6人で話し合い、必ず全員一致の回答を出してもらうという流れでおこなわれた

たとえば、大学進学に関して次のような課題がありました。

  • 課題…あなたは大学を同時には受験できないものとして、どの大学を受験しますか?
  • 選択肢…「a.合格率100%の大学」「b.合格率90%の大学」「c.合格率70%の大学」「d.合格率50%の大学」「e.合格率30%の大学」「f.合格率10%の大学」
  • 学生のタスク…まず個別の回答を提出し、その後に6人の話し合いから一つの回答を導き出していく

このような課題を12個おこなった後、ストーナーはそれぞれの回答を数値化し、個別の回答と集団の回答の差を分析しました。

そこで明らかになったのは、

  • 集団での回答が個別の回答に比べて、よりリスキーな選択をしていたこと
  • 上記の例であれば、個別回答では安全圏の大学であるa~cあたりを選択していたにも関わらず、集団になったらd~fのチャレンジ圏の大学を選択したこと

でした。

しかし、ここで「集団で討議していて、必ずしもリスキーシフトするとは限らない!」と思う方もいるかもしれません。

この点に目をつけたのがウォラック(M.A.Wallach)やコーガン(N.Kogan)という学者です。ウォラックやコーガンは、集団討議をする実験群と、個別に回答するだけの統制群に分けて、回答に変化があるかを実験しました。また集団討議をする際に、集団内でお互いの人物評価もするように付け加えました。

そして、ウォラックやコーガンの実験では、

  • 集団内にもともとリスキーな選択をしやすい人がいると、集団がリスキーシフトを起こしやすいことを発見した
  • またリスキーな選択をしやすい人は、集団を引っ張る力も強く、人気もあること

が明らかになりました。

つまり、リスキーシフトは集団だから起こるのではなく、集団の構成員によって起こりやすくなることがわかったのです。



1-2:リスキーシフトとコーシャスシフトの違い

ところで先ほど述べたように、集団極性現象には「リスキーシフト」と「コーシャスシフト」があります。

結論からいえば、リスキーシフトがより危険でハイリスクな選択だとすると、コーシャスシフトはローリスクな選択を意味します。つまり、両者とも集団討議によって極端な判断となることを示していますが、討議の傾く方向が真逆なのです。

定義的にいえば、

コーシャスシフトは討議を進めていく中でリスクを回避しようとする傾向が強まり、個別回答よりもさらに慎重な判断となっていく現象

といえます。

たとえば、現状に不都合があり、変革を求めて集団討議をする場合があると思います。しかし話し合ってみたけれど、変革するリスクを嫌って結局「現状維持のまましか仕方がない」というような消極的判断となった場合はコーシャスシフトしたことになります。

1-3:リスキーシフトの具体例

さて、リスキーシフトは日常場面でも割とよく見かけますし、また歴史の大きな動きがある時も起こっています。ここでは「戦争」「ネット炎上」の具体例から解説します。

1-3-1: 戦争

しばしば、戦争はリスキーシフトが働いた結果起こります。

たとえば、「国を守ることが大事、だからハイリスクだけれども戦争をしかけよう!」という強い意見を持った人が集団の中にいる場合を想定してみてください。

そのような場においてリスキーシフトが働いた場合、少しずつ集団討議が極端な議論に向かい、実際に戦争をしかけることに帰着しまう可能性があるのです。

1-3-2: ネット炎上

近年、ネット上でのリスキーシフトが頻繁にみられます。

たとえば、ある事件についての意見をネット上で集団討議すると、より過激な意見に集約していく場合です。違う意見を出すと、排除しようとさらに過激な反発が来たり、誹謗中傷が入ったりすることを目にしたことがある方もいるのではないでしょうか。

少し極端で過激すぎる意見だと思っていても、集団になることでどんどんリスキーな意見に傾いていく環境がネットにはあります。

そのため、リスキーシフトは日常の生活のなかで起きる現象だということがわかると思います。

いったん、これまでの内容をまとめます。

1章のまとめ
  • リスキーシフトとは普段は慎重に判断をし、節度ある行動がとれる人が、集団で判断することで、より危険でリスクの高い決断を容易にしてしまうようになることを指す
  • リスキーシフトは集団だから起こるのではなく、集団の構成員によって起こりやすくなる
  • リスキーシフトは日常の生活のなかで起きる現象である
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2章:リスキーシフトの要因

では一体、どうして集団になると、自分の判断よりも危険な判断を容易にしてしまうのでしょうか?

結論からいえば、その要因は「責任の所在があいまいになること」「集団のメンバー構成」に求めることができます。それぞれ解説していきます。

2-1: 責任の所在があいまいになること

まず、一つ目の「責任の所在があいまいになること」とは、個人と集団では責任の重さが違うこと、と考えてください。

当然ですが、個別に回答を出すとき、責任は個人にあります。たとえば、大学進学の選択の際、ハイリスクな選択をして失敗した時に、その失敗は自分で背負わなければなりません。

そして個別に回答するときは、たいてい失敗した場合まで想定して選択をしています。つまり、個人がその結果まで受け止める覚悟で選択をしているわけです。

ところが、集団になるとどうでしょう?

集団で決断した場合、

  • 個人は「自分が全責任を取る」という気持ちで決断しない傾向にある
  • むしろ、「何かあっても誰かがなんとかしてくれる」という気持ちになりがち
  • そのため、個人に決断するときほど、慎重にならずともよくなる
  • その結果、集団討議は極端な議論に陥りがちになる

という傾向があります。

つまり、集団で討議をする際は責任の所在が個人のときよりあいまいになるのです。これがリスキーシフトを引き起こす原因の一つです。



2-2: 集団のメンバー構成

ここで注意して欲しい点は、すべての集団討議が極端な議論に陥るわけではないことです。これまで解説したように、極端な議論に陥るのは「集団のメンバー構成」による要因が強いです。

上述したウォラックやコーガンの研究によれば、

  • リーダー性とリスキーな判断のしやすさは正の相関がある
  • つまり、リスキーな判断をしやすい人が集団においてリーダーシップをとる場合が多い

ことがわかっています。

そのため、ある集団が「リスキーな判断をしがちな人(潜在的なリーダー)」と「あまり意見を持たない人」で構成されていた場合、その集団はリスキーシフトに大きく傾く可能性があります。

しかし一方で、「慎重な判断をしつつ意見を言える人」があの集団に多くいた場合はどうでしょう?当然、この場合はコーシャスシフトに傾きます。

そういった意味で、「集団のメンバー構成」はシーソーのようなものと考えるとわかりやすいです。

シーソーの比喩

  • 集団の構成を「右がリスキーな判断をしがちな人」「左が慎重な判断をしがちな人」「真ん中に意見を明確に出さない人」と考える
  • そのバランスによって、集団の意見がどちらに傾くか、または均衡を保った意見となるのかが決まる

以上のように、集団討議における極端な議論は「責任の所在があいまいになること」と「集団のメンバー構成」が要因としてあります。

リスキーシフトやコーシャスシフトが起きる要因は他に考えることができますが(たとえば、年上の上司が集団を仕切るときを想定してみてください)、基本的な要因として上述の内容をおさえておく必要があります。

2章のまとめ
  • 集団で討議をする際は責任の所在が個人のときよりあいまいになりがち
  • 「集団のメンバー構成」はシーソーのようなもの
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3章:リスキーシフト等の集団思考が学べるおすすめ本

リスキーシフトに関して理解を深めることはできましたか?集団思考はとても奥が深いですので、これから紹介する書物を参考にどんどん学びを深めていってください。

オススメ書籍

ギュスターヴ・ル・ボン『群集心理』(講談社学術文庫)

フランス革命を心理学的側面から解明した名著です。人が群集となった時に、どのような心理状態となっていくのかが書かれています。100年以上も昔の話ですが、現代のいじめやネット炎上といった問題に通じる部分も多いです。

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釘原直樹『グループ・ダイナミックス-集団と群集の心理学』(有斐閣)

具体的な研究例や実際にあった事件をもとにして、集団思考について詳しく紹介している集団心理学の入門書ともいえる本です。様々な論文をもとに書かれているため、集団思考についてより深く学びたい時におすすめの本です。

黒川清『規制の虜-グループシンクが日本を滅ぼす』(講談社)

2011年の福島原発事故の事例をもとにして、いかに現代日本社会で集団思考が起きたのかを示しています。日本社会における事例をして読むと面白いかもしれません。

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まとめ

この記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • リスキーシフトとは普段は慎重に判断をし、節度ある行動がとれる人が、集団で判断することで、より危険でリスクの高い決断を容易にしてしまうようになることを指す
  • リスキーシフトは集団だから起こるのではなく、集団の構成員によって起こりやすくなる
  • 基本的な要因は「責任の所在があいまいになること」と「集団のメンバー構成」である

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