心理学

【プライミング効果とは】具体例・心理学的な実験からわかりやすく解説

プライミング効果とは

プライミング効果(Priming effect)とは、事前の刺激によってその後の処理が促進(もしくは抑制される)効果のことです。

プライミング効果は広い意味をもつため、方法や性質によってさまざまな種類があります。しかし、プライミング効果は心理学におけるさまざまな実験の基礎となってるため、しっかり理解する必要があります。

そこで、この記事では、

  • プライミング効果の意味・例
  • プライミング効果の心理学的実験

をそれぞれ解説していきます。

好きな所から読み進めてください。

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1章:プライミング効果とは

1章では、プライミング効果を概説します。プライミング効果の心理学的実験に関心のある方は、2章から読んでみてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:プライミング効果の意味

冒頭の確認となりますが、プライミング効果とは、

事前の刺激によってその後の処理が促進(もしくは抑制される)効果のこと

です。

いきなり「事前の刺激」や「その後の処理」などといわれてもよくわからないでしょうから、1つ例を出してみたいと思います。いまから挙げる単語を記憶してください。

「リンゴ」「グレープフルーツ」「ブドウ」「サクランボ」「レモン」

どうでしょうか、記憶できていますか?それでは、その記憶の内容を思い出してもらう前に別の課題をやってもらいたいと思います。

課題は非常に簡単で、今から穴抜けの単語をいくつか提示しますから、穴を埋めて単語を完成させてください。深く考えず、一番初めに思いついものをこたえてください。どこかにメモを取っておくと後の解説の時にわかりやすいと思います。

「ミ_ン」「カブト_シ」「ダン_ムシ」「イ_ゴ」

さて、単語の穴埋めはできましたでしょうか?必ず穴埋めをしてから以下の文章を読んでください。

ここまで読んでいただいたら、もう最初に記憶していただいたフルーツのことは忘れていただいて構いません。この穴埋め課題、おそらくあなたは一番目の 「ミ_ン」にたいして、「ミカン」と答えいたのではないでしょうか?

もしかしたら当たっていないかもしれませんが、このような状況に追い込まれると多くの人が「ミ_ン」にたいして、「ミカン」と答えることが知られています。他にも「ミシン」や「ミリン」などさまざまな候補があるにもかかわらずです。

このような、「ミ_ン」を「ミカン」と回答してしまったこと自体がプライミング効果にあたります。

さて、なぜこのような予測を立てたかということを説明しながらプライミング効果の説明をします。

  • 今回の例では、事前に記憶してもらった「リンゴ」「グレープフルーツ」「ブドウ」「サクランボ」「レモン」といった単語が事前の刺激に当たる
  • このような先行して提示した刺激をプライム刺激と呼ぶ
  • そして、続いて行ってもらった「ミ_ン」「カブト_シ」「ダン_ムシ」「イ_ゴ」の穴埋め課題がその後の処理に当たる

つまり、あなたにやってもらったフルーツの名前記憶課題で提示された単語がプライム刺激として、「ミ_ン」「カブト_シ」「ダン_ムシ」「イ_ゴ」の穴埋め課題の処理に影響を与える構成になっていたというわけです。

さまざまな種類のプライミング効果に関しては、有斐閣が出版する解説本が詳しいです。

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1-2:ネットワークモデルと活性化拡散モデル

ではなぜ、「リンゴ」「グレープフルーツ」「ブドウ」「サクランボ」「レモン」といった単語を記憶することが、「ミ_ン」を「ミカン」と答えることにつながるのでしょうか?

このことを説明するためには、まず単語などの概念をどのようにとらえているかについて理解する必要があります。「犬」という特定の概念について考えてみましょう。

私たちは犬という概念について「犬とは四足歩行の哺乳類で、肉食である。嗅覚が鋭く、狩猟などにも使われていた」といったようなさまざまな知識を有しています。このような知識はその概念固有の知識です。

一方で、私たちは概念同士の関係についての知識も持っています。図1を見てください。

活性化拡散モデルの例図1 活性化拡散モデル

この図はそのような概念同士の関係を図示したものだと考えてください。それぞれの「犬」や「ペット」と記述された丸は各概念を表しています。そして、「犬」と「ペット」結ぶ線はそれらの概念が関連していることを示しています。

実際に、日本では「ペット」というと多くの人が「犬」を思い浮かべるかもしれません。このように記憶において概念と概念がネットワークのようにリンクでつながっているという考え方を「ネットワークモデル」といいます。

ネットワークモデルの概要

  • 各概念はノードと呼ばれており、概念と概念の間の関係はリンクで表現される
  • リンクの長さによって意味の遠さが表現される
  • たとえば、「犬」と「ワンと鳴く」というものの間には短いリンクが張られているのに対し、「犬」と「猫」の間には長いリンクが張られている
  • このようにこのモデルでは各概念がその意味の近さに基づくリンクで紐づいているというように考えている

このネットワークモデルの考え方をさらに発展させたのが活性拡散モデルです。このモデルの重要な点は、検索(記憶に保存した情報を思い出す機能のこと)に関する説明です。

活性拡散モデルの概要

  • このモデルでは、活性化した概念がより思い出しやすいと説明される
  • たとえば、ある単語を呈示されるとまずその単語の概念が活性化する
  • つまり、「犬」が提示されると図1でいう犬のノードが活性化する
  • すると、その活性はリンクを伝って、近くの概念を活性化させる

たとえば、「犬」が提示されると、「ワンと鳴く」や「四足歩行」といった比較的近いものは強く活性化され、「猫」や「動物」といった比較的遠くに位置しているものは弱く活性化されます。

活性化した知識はより思い出しやすくなるので、犬に関して思いつきやすいものを言ってくださいといわれたときには、「ワンと鳴く」や「四足歩行」といった概念が「猫」や「動物」といった概念よりも早く想起されます。

つまり、活性の拡散によって、私たちは犬という概念の意味を考えるときにそれに関連するさまざまな知識にアクセスできるようになるというわけです。

さて、この活性拡散モデルの考え方をもとに、最初に行った課題について振り返ってみましょう。

  • まず、初めに「リンゴ」「グレープフルーツ」「ブドウ」「サクランボ」「レモン」という単語が提示された
  • これらの単語は、フルーツなので、ほかのフルーツについての概念に活性を広げる
  • また、「グレープフルーツ」や「レモン」は柑橘類に関連する概念にも活性を広げる
  • つまり、フルーツであり柑橘類である「ミカン」という概念が活性化し想起しやすい状況になっていた
  • その結果、その後の穴埋め課題において、「ミシン」や「ミリン」よりも先に「ミカン」という単語が想起された

このようなプライミングは、単語の意味にもとづく活性によって生じるため「意味的プライミング」と呼ばれます。

ここで取り上げたプライミング効果はあくまでも1つの例です。プライミング効果は事前の刺激がその後の処理を促進(抑制)するような効果全般を指しているので非常に広い概念ですが、実際に体験してみてイメージがわいたのではないでしょうか?

最後に、みなさん最後にの「イ_ゴ」なんて答えましたか?私には「ミカン」のようにここで何と答えたのかを予測することはできません。なぜなら、「カブト_シ」「ダン_ムシ」が別のプライム刺激となって、フルーツの「イチゴ」ではなく、虫である「イナゴ」が活性化していた可能性があるからです。

自分の回答を見返してみると、どのようなプライム刺激によって影響を受けたのか分かるかもしれません(もちろん、「イチゴ」や「イナゴ」以外の回答をした人もいるでしょうけど)。



1-3:プライミング効果の例

ここまでは、単語のような単純な刺激において生じるプライミング効果を取り上げて、プライミング効果がどのようなものかを説明してきました。ここでは日常の中でも生じるプライミング効果の例を1つ紹介したいと思います。

このプライミング効果が利用されている顕著な例がテレビCMです。テレビCMでは多くの場合、売り込みたい商品とある特定のイメージ(多くの場合は快適なもの)が一緒になって紹介されていると思います。

たとえば、清涼飲料水であれば爽やかなイメージが、家を売り込むCMであれば、あったかいイメージがセットになっていることが多いと思います。これは、売り込みたい商品とそのイメージの間のリンクを強化することが目的です。

これにより、スーパーなどで商品を見たときにそのイメージが想起されやすくなります。つまり、CMがプライム刺激となって、その後の商品の評価に影響を与えるわけです。

1章のまとめ
  • プライミング効果とは、事前の刺激によってその後の処理が促進(もしくは抑制される)効果のことである
  • 活性の拡散によって、私たちは犬という概念の意味を考えるときにそれに関連するさまざまな知識にアクセスできるようになる

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2章:プライミング効果の心理学的実験

さて、2章では直接プライミングの実験について紹介します。

2-1:直接プライミングと間接プライミング

プライミング効果は、事前の刺激によってその後の処理が促進(もしくは抑制される)効果のことという定義からもわかるように、非常に広い範囲の現象を説明します。そのため、そのプライミングの方法や性質によって、さまざまな種類があります。

  • たとえば、1-1で行っていただいたプライミングの実例では、プライム刺激(「リンゴ」「グレープフルーツ」「ブドウ」「サクランボ」「レモン」)は、その後の処理に使用される刺激(「ミカン」)とは異なるものが使用されていた
  • このように、プライム刺激とその後の処理に使用される刺激(「以降後続刺激」と呼びます。)が異なっているプライミング全般を「間接プライミング」と呼ぶ
  • 対して、プライム刺激と後続刺激が一致しているようなプライミングを「直接プライミング」と呼ぶ

1章では間接プライミングの例を紹介いたしましたので、ここでは直接プライミングの実験例を紹介したいと思います。ここで紹介するのは、単語完成課題という実験課題です。

実験概要

  • この課題では、プライム刺激として特定の単語が提示(たとえば、「マスカット」)される
  • その後、参加者はその単語と他の単語の穴埋め課題を行うことを求められる
  • たとえば、「マ_カッ_」のようなものを埋めて単語を完成させるというもので、この穴埋めが後続刺激にあたる
  • もしプライミングの効果があるのであれば、プライム刺激として提示された単語と同じ後続刺激の場合には、そうでない後続刺激よりもより早く単語を完成させられるはずである

実際に、このような課題を行うと、 事前に提示した単語と一致するときには単語の完成までの時間が早くなることが知られています。

これに類似した課題として、語彙決定課題という課題も直接プライミングを利用した課題の1つです。

  • 語彙決定課題でも、単語完成課題と同様にプライム刺激として単語が提示される
  • 実験参加者は、その後画面に表示された単語が実際にある単語かどうかを判断するという課題を行う
  • 実験の結果、プライム刺激として提示された単語は素早く同定されることが知られている

また、このようなプライム刺激と後続刺激の関係の違いだけではなく、プライム刺激の種類によってもさまざまな種類に分けられます。

たとえば、ある特定の感情を想起させる文章を読ませた後で、後続の課題を行わせる方法があります。このようなプライミングは感情プライミングと呼ばれ、後続の課題において特定の感情を想起させたいときなどに使用されます。

このように、プライミング効果は心理学におけるさまざまな実験の基礎となってるのです。

2章のまとめ
  • プライミング効果は広い意味をもつため、方法や性質によってさまざまな種類がある
  • プライミング効果は心理学におけるさまざまな実験の基礎となってる

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3章:プライミング効果を学ぶ本・論文

プライミング効果を理解することはできましたか?最後に、あなたの学びを深めるためのおすすめ書物を紹介します。

おすすめ書籍

箱田裕司・都築誉史・川畑秀明・萩原滋『認知心理学』(有斐閣)

認知心理学の教科書です。心理学についての概論書より範囲が狭くなって詳しくなっています。直接プライミングや間接プライミングについてや、いくつかのプライミング課題についての記述があります。活性拡散モデルについても詳しいです。

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太田信夫・多鹿秀継『記憶研究の最前線』(北大路書房)

プライミングは記憶の仕組みと密接に関連しています。この本では、記憶研究に関するトピックごとに非常に詳細な解説が行われています。少し難しめの専門書ですので、認知心理学の教科書を読みこなして、論文もある程度読める方にお勧めです。

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下條信輔『サブリミナル・マインド 潜在的人間観のゆくえ』(中公新書)

私たちが気づかない無意識のうちに影響を受けている影響についての非常に読みやすい新書です。CMが私たちに及ぼす影響などを実例や実験例を交えながら解説しています。読み物としても非常に面白い一冊です。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • プライミング効果とは、事前の刺激によってその後の処理が促進(もしくは抑制される)効果のことである
  • 活性の拡散によって、私たちは犬という概念の意味を考えるときにそれに関連するさまざまな知識にアクセスできるようになる
  • プライミング効果は広い意味をもつため、方法や性質によってさまざまな種類がある

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