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心理学

【プロスペクト理論とは】心理学的な実験からわかりやすく解説

プロスペクト理論とは

プロスペクト理論(Prospect theory)とは、利得または損失がある一定の確率で生じるという不確実な状況における人間の意思決定の性質を記述したモデルのことです。

ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンが提唱したプロスペクト理論は、私たちの意思決定を理解する上で重要な理論の一つです。

この記事では、

  • プロスペクト理論の意味・例
  • プロスペクト理論の学術的な議論

をそれぞれ解説していきます。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:プロスペクト理論とは

1章では、プロスペクト理論を概説します。プロスペクト理論の心理学的な実験に関心のある方は、2章から読んでみてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:プロスペクト理論の意味

冒頭の確認となりますが、プロスペクト理論とは、

利得または損失がある一定の確率で生じるという不確実な状況における人間の意思決定の性質を記述したモデルのこと

です。

このプロスペクト理論はノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによって提唱されました2Kahneman, D., & Tversky, A. (2013). Prospect theory: An analysis of decision under risk. In Handbook of the fundamentals of financial decision making: Part I (pp. 99-127).

この理論は私たちが利得や損失に対してどのような意思決定を行うのかを教えてくれます。プロスペクト理論を理解するためにはまず期待効用理論について理解する必要があります。

1-1-1:期待効用理論とは

期待効用理論とは、

人間が合理的な判断を行うという仮定の下で提唱された意思決定のモデル

です。

この理論では、私たちはある不確実性の伴う状況下である意思決定を行う際に、効用の期待値の大きい選択をすると仮定されます。

効用の期待値について詳しく説明したいと思います。

  • 効用とは、得られる利益のようなもの
  • たとえば、100万円もらえるか、50万円もらえるかといったときには私たちは迷わず、100万円をもらうであろうと想定される
  • これは、100万円のほうが50万円よりも大きい、つまり効用が大きいためである

しかし、意思決定の場面というのはこのような確実な選択ばかりではありません。25%の確率で100万円を受け取れるくじを引くか、90%の確率で50万円をうけとれるくじを引くかどちらにするかといったような不確実性の介在する場面も存在します。

このような場面で役に立つのが、期待値という考え方です。

  • 期待値とは、簡単に言ってしまえば、確率を考慮に入れた平均値のことである
  • 「25%の確率で100万円を受け取れるくじ」の期待値は「100万円×0.25=25万円」となる
  • 同様に、「90%の確率で50万円をうけとれるくじ」は「50万円×0.9=45万円」となる

つまり、後者のほうが期待値が高いので後者を私たちが選択するだろうということをこの期待効用理論では説明してくれているわけです。

1-1-2:期待効用理論で説明できない場面

しかし、この期待効用理論では人間の意思決定が説明できないような場面があります。それが次のような場面です。あなたは先ほどと同様に、以下の2つのくじのどちらかを選ぶ権利を持っています。どちらかを選んでください。

  1. 100%の確率で40万円を受け取れるくじ
  2. 80%の確率で50万円をもらえるが、20%の確率で外れるくじ

おそらく、多くの方は①を選んだのではないでしょうか?先ほどの期待効用理論に基づくと、1のくじの期待値(40万円×1.0)も2のくじの期待値(50万円×0.8+0万円×0.2)もどちらの期待値は同じです。

そのため、多くの人が1の選択肢を選ぶ理由を期待効用理論は説明しません。同様に次の問題を、回答してみてください。

  1. 100%の確率で40万円の罰金を被るくじ
  2. 80%の確率で50万円の罰金だが、20%の確率で罰金を受けないくじ

今度は、④の選択肢を選んだのではないでしょうか?くじの構造は先ほどと同じで、③も④も期待値としては同じでどちらも-40万円です。しかし、こちらのバージョンでは多くの人が④を選択することが知られています。

これらのくじの例は、私たちが利得や損失を含む不確実な判断をする際には、損失を回避する傾向にあることを示しています。この傾向のことを「損失回避性」と呼びます。

損失回避性

  • 1つめのくじでは、②の選択肢は、お金を得ることが出来ない可能性を含む。確実に40万円をもらえる選択肢があるにもかかわらず、お金がもらえないというのは損失となる
  • 2つ目の選択肢において、③の選択肢は確実な損失を生むが、④の選択肢は20%で損失を回避できる可能性が残っている。そのため、③より④が好まれた

このことをはじめとする、利益に対する選択の仕方と損失に対する選択の仕方が異なるという点も期待効用理論では説明することが出来ない点でした。



1-2:価値関数と確率荷重関数

プロスペクト理論はこのような利得と損失に対する意思決定の違いを2つの観点から、説明してくれます。その1つが「価値関数」でもう1つが「確率荷重関数」と呼ばれるものです。

  • 価値関数・・・利得や損失がどの程度得られるかという大きさのこと
  • 確率荷重関数・・・それぞれの利得や損失に対してどの程度価値を感じるかというもの

それぞれ「関数」というくらいなので、それぞれ数式として定義されているのですが、ここではその説明は省略します。プロスペクト理論ではこれら2つの関数に基づいて図1のような関係が示されています。

プロスペクト理論の価値関数のグラフ図1 プロスペクト理論の価値関数のグラフ(注:手書きのため、正確なプロスペクト理論のグラフではありません。)

縦軸は主観的な価値の大きさを、横軸は客観的な利得や損失を表しています。このグラフの特徴は、利益が得られるときと、損失が生じるときとではその傾きが異なることです。図2をご覧ください。

利得と損失に対する主観的価値の違い図2 利得と損失に対する主観的価値の違い(注:手書きのため、正確なプロスペクト理論のグラフではありません。)

図2における、赤と青の線はそれぞれx軸から同じ距離にあります。わかりやすく言えば、利得40万円が赤い線、損失40万円が青い線です。

主観的な価値が上に行くほど価値が高い、下に行くほど価値が低いので、このモデルでは利得と損失が客観的に同じであっても、損失のほうが大きく見積もられることがわかります。

このプロスペクト理論のグラフにおいて重要な特徴は、以下の2点です。

  1. 横軸が得られるとみの総和ではなく、利得と損失という軸になっている点
  2. 利得に比べて損失のほう傾きが大きい点(損失回避性)

これにより、プロスペクト理論は期待効用だけでは説明が出来なかった、人間の不合理な意思決定を説明するものなのです。

ちなみに、ダニエル・カーネマンの議論は次の書物で一般の方に向けてまとめられています。

1-2-1:感応度逓減

プロスペクト理論によって説明される私たちの損失利得判断の性質として重要な要素がもう1つあります。それは、感応度逓減(diminishing sensitivity)です。

グラフを見るとわかりますが、利得も損失もその量が増えれば増えるほど傾きがなだらかになっているのがわかります。これは私たちが利得や損失が小さいときにはその差に敏感だが、大きくなるとその差に対する感度が鈍くなることを意味しています。

たとえば、次の2つの例を考えてみてください。

  • 100万円と200万円のどちらかがもらえるくじを引くといったような状況で100万円を手に入れたとする
  • 対して、1憶円と1億100万円のどちらかがもらえるくじを引くといったような状況で、1憶円を手に入れたする

この場合、100万円のときほどがっかりしていないのではないでしょうか?これのもらえるの部分を罰金されるに言い換えても同じように感じると思います。

このように私たちは、利得や損失に対する感度が大きくなればなるほどその変化量に対する感度が低くなって(逓減して)いきます。この性質のことを感応度逓減といいます。



1-3:プロスペクト理論の例

プロスペクト理論は、私たちの意思決定についてさまざまな示唆を与えます。たとえば、この関数は線形で増加していくものではありません。客観的な価値が上がれば上がるほど(下がれば下がるほど)価値が高い(低い)というわけではないということです。

これは以下の2点を、プロスペクト理論が主張しているといえます。

  • グラフは私たちが確率に応じた判断をしているわけではないということを意味している点
  • 客観的に同じ価値でも利得よりも損失のほうが私たちの意思決定に与える影響が大きいという点

後者の点に関しては、マーケティングの分野でさまざまに利用されています。たとえば、ある空気清浄機を売り込みたいとしましょう。

このプロスペクト理論に基づくのであれば、「空気清浄機によって部屋の空気がきれいになります」というよりも、「空気清浄機がないと、花粉やウイルスによってこんな悪影響があります」といった方が効果があるということです。

このような損失回避性を利用した販売方法のことを恐怖をあおるというニュアンスから、「フィアアピール」といいます。

1-4:プロスペクト理論とフレーミング効果

さて、先ほどの空気清浄機の販売文句についてもう少し考えてみましょう。「99%のウイルスを除菌できます」といって売り込んでいる商品はあっても、「1%のウイルスが除菌できません」といって売り込んでいる製品はないでしょう。

両者はどちらも同じことを言っているにもかかわらず、なぜ後者は用いられないのでしょうか?これは「フレーミング効果」といいます。フレーミング効果とは、同じ内容でも言い方によって着目する箇所が異なったり、意味の伝わり方が異なるという効果のことです。

広告における例

  • 「99%のウイルスを除菌できます」という広告では、私たちの注意は除菌が出来るという利得のほうに目が向く
  • 「1%のウイルスが除菌できません」という広告では、除菌できないという損失のほうに目が向いてしまう

プロスペクト理論に基づくと、人間は損失に対しては強い回避傾向があります。そのため、前者の売り文句が好んで使用されるということです。

1章のまとめ
  • プロスペクト理論とは、利得または損失がある一定の確率で生じるという不確実な状況における人間の意思決定の性質を記述したモデルのことである
  • 客観的に同じ価値でも利得よりも損失のほうが私たちの意思決定に与える影響が大きい

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2章:プロスペクト理論の心理学的実験

さて、2章ではプロスペクト理論の心理学的な実験を紹介していきます。

2-1:フレーミング課題

トヴェルスキーとカーネマンは、このプロスペクト理論を検証するために非常に多くの課題を開発し実験を行ってきました3Kahneman, D., & Tversky, A. (2013). Prospect theory: An analysis of decision under risk. In Handbook of the fundamentals of financial decision making: Part I (pp. 99-127).や箱田裕司・都築誉史・川畑秀明・萩原滋(2016)『認知心理学』有斐閣など

上記で取り上げたフレーミング効果を検証するための課題もその1つです。そこでここでは、そのフレーミング効果を示すために行われた実験を簡単に紹介したいと思います。この実験では2つのパターンの問題が用意されました。

パターン1

  • アメリカで600人の死者が予測される、珍しい伝染病に対する対策を考えています。伝染病に対処するために2つの方策が提案されました。どちらを選びますか
  • 対策Aが採用されれば、200人は助かるだろう
  • 対策Bが採用されれば、確率1/3で全員が助かり、確率2/3で誰も助からないであろう

パターン2

  • アメリカで600人の死者が予測される、珍しい伝染病に対する対策を考えています。伝染病に対処するために2つの方策が提案されました。どちらを選びますか
  • 対策Cが採用されれば、400人は死亡するだろう
  • 対策Dが採用されれば、確率1/3で誰も死亡せず、確率2/3で全員が死ぬであろう

この問題では、対策Aと対策C、対策Bと対策Dは同じことを言っています。しかし 、先ほども説明したように、このような記載がされているとフレーミング効果によってパターン1では利得に、パターン2では損失に対しての判断を行うことになります。

  • パターン1においては、確実に利得を得る対策Aか利得は大きいが損失を含む対策Bを選択するものなので、損失回避によって対策Aが選ばれやすいと予測できる
  • パターン2では、確実な損失のある対策Cと損失を回避できる可能性のある対策Dを比べるという判断になるので、対策Dが選ばれると予測できる

実験の結果、A、 Bの選択に関しては約70%の人がAを選択したにもかかわらず、C、Dの選択に関しては約80%の人がDを選択しました。この結果は、私たちの判断が利得に対してと損失に対してで異なることを示しました。

もちろん、カーネマンはプロスペクト理論を検証するために他にもさまざまな実験を行っています。それらの実験に関心がある方はブックリストにも乗せた『ファスト&スロー』を一読することをお勧めします。

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3章:プロスペクト理論を学ぶ本・論文

プロスペクト理論を理解することはできましたか?最後に、あなたの学びを深めるためのおすすめ書物を紹介します。

おすすめ書籍

カーネマン. D『ファスト&スロー(上・下):あなたの意志はどのように決まるか?』(早川書房)

プロスペクト理論を提唱し、ノーベル経済学賞を受賞したカーネマンが執筆した人間が陥りやすいさまざまなバイアスについて、2つの思考という観点から議論した一般書です。

箱田裕司・都築誉史・川畑秀明・萩原滋『認知心理学』(有斐閣)

認知心理学についての教科書です。「心理学」の概論書を読みこなした方向けです。期待効用理論やフレーミング効果等、他の概念との関係を整理したいという方にはこちらもおすすめです。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • プロスペクト理論とは、利得または損失がある一定の確率で生じるという不確実な状況における人間の意思決定の性質を記述したモデルのことである
  • 客観的に同じ価値でも利得よりも損失のほうが私たちの意思決定に与える影響が大きい
  • カーネマンは、私たちの判断が利得に対してと損失に対してで異なることを示した

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